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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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8:アイテムボックス

 港町アルフェイドは、朝から騒がしかった。


 理由は単純だ。


 ダンジョン《灰喰らい》四層の海蝕オーガ討伐。


 その素材が市場へ流れ込んだからだ。


「おい見ろ、あの牙!」


「四層素材だぞ!」


「皮も分厚ぇ……!」


 市場では商人達が目を輝かせ、冒険者達が酒を飲みながら武勇伝を語っていた。


 その中心にいたのは、もちろんベッティーナ達だった。


「クルのおかげだな」


「いやあの水魔法怖すぎだろ」


「顔に貼り付いて窒息とか悪夢だぞ」


 ステファンが笑う。


 クルザード本人は、その少し離れた場所で木箱を運んでいた。


 正確には。


 運んでいるように見せていた。


 実際は違う。


 アイテムボックス。


 収納。


 保存。


 非生物収納。


 生物保護。


 この能力の本質を、クルザード自身もまだ理解しきれていなかった。


 ただ。


(便利すぎる)


 それだけは分かっている。


「クルー!」


 ドミニクが手を振る。


「燻製売り切れた!」


「早いな」


「もう昼前だぞ?」


 クルザードは市場を見る。


 燻製肉。


 干し魚。


 塩漬け。


 全部売れている。


 理由は単純。


 保存できるからだ。


 遠征に持っていける。


 腐りにくい。


 しかも美味い。


 この世界では、それだけで価値になる。


「お前、商売向いてるんじゃねぇか?」


 ガルドが笑う。


「違う」


「違わねぇよ」


 クルザードは燻製棚を見る。


 まだ不足している。


 保存庫。


 冷却。


 物流。


 全部足りない。


(量が増えたら回らなくなる)


 人が増えるほど、運搬が問題になる。


 それは既に見えていた。


 その時だった。


「誰か助けてくれ!」


 市場奥から悲鳴。


 全員が振り返る。


 荷車が横転していた。


 大量の魚箱。


 さらに。


 海産魔物の素材。


「車輪が折れた!」


「腐るぞ!」


 商人達が慌てている。


 魚は時間との勝負だ。


 この世界では保存が弱い。


 だから物流効率が低い。


 クルザードは近づいた。


『積載過多』

『車軸破損』

『重量偏重』

『運搬効率低』


 頭へ情報が流れる。


 クルザードは木箱へ触れた。


 収納。


 一瞬だった。


 大量の荷物が消える。


「……は?」


 商人が固まる。


 周囲も沈黙。


「消えた……?」


「いや待て」


「アイテムボックスか!?」


 ざわめき。


 クルザードは静かに言った。


「修理しろ」


「え?」


「荷台が歪んでる」


「このまま積み直してもまた折れる」


 商人は呆然とする。


「お、お前……そんな事まで分かるのか?」


「見れば分かる」


 実際は鑑定だ。


 木材強度。


 歪み。


 湿気。


 全部見える。


 ガルドが荷車を見て鼻を鳴らした。


「……本当だな」


「軸が死にかけてる」


「よく見抜いた」


「効率が悪い」


 クルザードは当然みたいに答えた。


 その瞬間。


 周囲の商人達の目が変わった。


 収納能力者は珍しい。


 しかも。


 容量が異常。


「おい、クル!」


「うちの荷も頼めねぇか!?」


「遠征輸送やってくれ!」


「報酬払う!」


 ステファンが吹き出す。


「うわ、一気にモテ始めた」


「違う」


「いや完全に物流扱いだろ」


 クルザードは少し考えた。


 物流。


 輸送。


 保存。


 全部繋がる。


(運搬が減れば、人が動ける)


 冒険者が荷物持ちを減らせる。


 商人の速度が上がる。


 保存効率も上がる。


 つまり。


 街全体の流れが変わる。


「……やる」


「本当か!?」


「条件がある」


 全員が静まる。


「食材を優先で回せ」


「塩も」


「あと腐りかけを捨てるな」


「持ってこい」


 商人達が顔を見合わせる。


「……それだけか?」


「ああ」


 ガルドが大笑いした。


「お前ほんと食中心だな!」


「食料は重要だ」


「分かるが極端なんだよ!」


 その日の午後。


 クルザードは初めて“運搬依頼”を受けた。


 海産素材。


 魚。


 塩。


 鉱石。


 全部まとめて収納。


 荷車三台分。


 それでも余裕だった。


「容量どうなってんだ……」


 商人が青ざめる。


「重くないのか?」


「感じない」


「意味分からん」


 クルザードは市場を歩く。


 人が避ける。


 視線が集まる。


 そして。


 彼は気づき始めていた。


 戦うより。


 運ぶ方が。


 街を変える。


 夕方。


 廃屋前。


 今日は魚鍋だった。


 新鮮な海魚。


 海藻。


 燻製脂。


 塩。


 少量の香草。


 白い湯気が立つ。


 香りが強い。


「……やっぱこれだな」


 ベッティーナが息を吐く。


「生き返る」


「魚なのに満足感やべぇ」


 ドロテアも頬を緩める。


 今日は人数が多い。


 商人まで来ていた。


「本当に助かった」


「荷物全部一人で運ぶとか何なんだお前」


「人件費が浮いたぞ……」


 クルザードは鍋を混ぜる。


「無駄が減っただけだ」


「いやその“だけ”が革命なんだが」


 商人の一人が真顔で言った。


「輸送費が減れば物価が下がる」


「速度が上がれば腐らない」


「遠距離交易もできる」


「……お前、自分が何やったか分かってるか?」


 クルザードは少し考えた。


 そして。


「効率化だ」


 全員が吹き出した。


 ドミニクが腹を抱える。


「ははっ……お前ほんとズレてる!」


「普通そこもっと驚くだろ!」


 クルザードは静かに鍋を見る。


 物流。


 保存。


 運搬。


 食。


 全部繋がる。


 人が集まる理由は単純だ。


 便利だから。


 死ににくいから。


 飯が美味いから。


 それだけで、人は流れる。


 そして今。


 アルフェイドの流れは、少しずつ変わり始めていた。


 港外れの廃屋を中心に。







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