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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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8:アイテムボックス

港町アルフェイドは、朝からひときわ激しい喧騒に包まれていた。


理由は極めて単純だ。先日、ダンジョン《灰喰らい》地下四層において敢行された、あの凶悪な海蝕オーガの電撃的な討伐。その戦利品たる希少な深層素材の数々が、一挙に市場へと流れ込んだからである。


「おい、見ろよ、あの剥ぎ取られた巨大な牙を!」

「紛れもなく四層の主の素材だぞ!」

「外皮も信じられないほど分厚く、頑強だな……!」


市場の至る所で商人たちが目をギラギラと輝かせて群がり、血気盛んな冒険者たちは朝から安い酒を煽りながら、その偉大なる武勇伝を熱っぽく語り合っていた。


その熱狂の中心にいたのは、もちろん前衛を務めたベッティーナたちのパーティだった。


「いやあ、全てはクルの完璧な差配のおかげさ。あの男の判断がなければ、今頃私たちは全員、四層の泥の中で冷たくなっていたよ」

「それにしても、あのクルが放った水魔法は本当に恐ろしかったわね……」

「敵の顔面に寸分の隙間もなく水膜を完璧に貼り付けて、一歩も動かさずに窒息死させるなんて、今思い出しても悪夢のようだよ」


ステファンたちが豪快に笑いながら木椀を掲げる。

当のクルザード本人は、その狂騒から少し離れた市場の片隅で、静かに大型の木箱を黙々と運んでいた。


正確には――運んでいるように、周囲の目をごまかしていた。

実際の内部処理は、全く異なっていた。


「アイテムボックス」の起動。

対象の構造を解析し、一瞬にして質量を虚空へと消し去る収納の力。

それは、どれだけ時間が経過しようとも一切の劣化を許さない絶対的な保存の空間であり、非生物であれば質量を完全に無視して大量に収め、生きた生物であれば時間を凍結して保護状態に置くという、常識を遥かに超越した特異なシステムだった。クルザード自身も、己の肉体に宿るこの能力の全容と本質を、未だ完全には理解しきれていなかった。


ただ、管理の専門家としての頭脳は、一つの確実な結論を導き出していた。


(この世界のいかなる道具よりも、圧倒的に便利で効率が良い)


それだけが、現在の彼にとって最も揺るぎない厳然たる事実だった。


「クレーっ! 燻製肉、用意していた分が全て綺麗に売り切れたわよ!」


金髪のドミニクが、空になった頑強な販売棚を叩きながら、崖の上まで届くような明るく快活な声を張り上げて手を振った。


「そいつは素晴らしいね、ドミニク。随分と早い完売じゃないか」


「早いも何も、もうとっくに昼前よ? 皆、お前の飯の価値を完全に理解し始めているのさ」


クルザードは口元に明るく気さくな笑みを浮かべ、ハキハキとした声で答えた。


彼はそのまま、活気に沸く市場の全体へと静かに視線を走らせる。

完璧な脱水工程を施した極上の燻製肉。

純白の精製海塩を揉み込んだ干し魚。

長期の維持に耐えうる各種の塩漬け。

並べられた彼の加工食材は、どれも信じられないほどの高値で飛ぶように売れ続けていた。


理由は、ただ美味いからという感情的な理由だけではなかった。

「長期間、確実に常温で保存できる」という、この街の物流が最も切望していた絶対的な合理性が備わっているからだ。

これがあれば、過酷な深層への遠征にも腐る心配なく携行できる。栄養状態を最高値に保ったまま戦える。ずさんな保存技術のせいで物資をドブに捨てる大損が一切発生しない。資源の維持が致命的に弱かったこの世界において、その特性はただそれだけで、いかなる財宝をも凌駕する絶対的な「価値」そのものへと昇華していた。


「がははは! 小僧、お前は冒険者なんかより、よっぽどあくどい商売に向いているんじゃねぇか?」


最高腕のドワーフ鍛冶師ガルドが、灰色の髭を揺らしながら愉快そうに笑った。


「いいや、違うよ、ガルド。俺は商売がしたいわけじゃないさ」


「何が違うんだよ。これだけの富を飯一つで生み出しておいてよ」


クルザードは首を振り、空になった燻製棚を冷徹な目で見つめた。

街の需要に対して、自分たちの供給量は未だ圧倒的に不足している。

物資を大規模に保管するための巨大な保存庫。

熱を奪って鮮度を維持するための高度な冷却技術。

そして、それらを迅速に必要な場所へ届けるための、澱みのない完璧な物流の仕組み。

そのすべてが、現在のアルフェイドには決定的に足りていない。


(手に入る資源の絶対量が増えれば増えるほど、今の脆弱な運搬能力では、いずれ必ず全体の流れが中央から完全に回らなくなるな)


集まる人間の数に比例して、物資の移動に費やされる時間と人件費の無駄が、社会の巨大なボトルネックになる。それは、彼の鑑定の計算によって、すでに明確な未来の予測として見えていた。


まさにその思考の最中だった。


「誰か! 誰か早く手を貸してくれ! 助けてくれ!」


市場の最も入り組んだ中央の交差点から、引き裂かれたような悲鳴が響き渡った。

居合わせた全員の視線が一斉にその方向へと向く。


そこでは、大量の物資を積んだ大型の荷車が、無残にも横から派手に横転していた。

荷台から崩れ落ちたのは、数え切れないほどの魚箱。そして、命がけで迷宮から持ち帰られたばかりの、生々しい海産魔物の希少な素材の山だった。


「クソッ、よりによってこの暑くなり始めた昼時に車輪が完全に折れやがった!」

「早く荷台を起こして処理を始めないと、この魚が数時間で全部腐っちまうぞ!」


商人たちが、真っ青な顔をしながら怒鳴り合い、慌てふためいていた。

水分を大量に含んだ生鮮食品は、時間との戦いだ。保存技術が極端に低いこの世界では、一度足が止まれば、それは即座にすべての物資の全滅という破滅的な大損を意味する。だからこそ、この街の物流の効率はいつも底辺のように低いままで停滞していた。


クルザードは躊躇なくその混乱の渦中へと歩み寄り、横転した荷車の木枠へと静かに素手を触れさせた。

彼の瞳の奥で、再び鑑定の文字が整然と明滅する。


『対象:大型運搬用荷車。状態:限界許容量を超える積載過多』

『原因:経年劣化による主軸の車軸破損。さらに左右の重量偏重が直撃』

『環境:このまま放置した場合の物資の腐敗率:八十八%。運搬効率:完全なる最低値』


凄まじい頭痛が走るが、現在の彼は必要な情報だけを正確に脳内で選別し、冷静に状況を支配するための「判断」を下した。


彼は崩れ落ちた木箱の山へ向けて、手のひらを静かにかざした。


収納。

それは、ほんの一瞬の出来事だった。


広場を埋め尽くしていたはずの、何十箱もの巨大な魚箱と、海蝕魔物の膨大な素材の山が、まるで最初から存在していなかったかのように、文字通り一瞬にして跡形もなく虚空へと吸い込まれて消え去った。


「……は?」


横転した荷車の持ち主である商人が、開いた口が塞がらないといった顔で完全に硬直した。

騒がしかった市場の全体が、冷水を浴びせられたかのように、一瞬にして不気味なほどの静寂に包まれる。


「消えた……? おい、今、何が起きたんだ……?」

「いや、待てよ! 質量を完全に無視して物資を消し去る、あの伝説の『アイテムボックス』の能力か!?」


狂乱に近いざわめきが波紋のように一気に広がっていく。しかし、クルザードは周囲の動揺に表情一つ変えず、ハキハキとした明晰な声で商人に告げた。


「今のうちに、その折れた車輪と荷台の歪みを即座に修理するんだ」


「え? え、あ、ああ……」


「荷台の左側の主軸が、湿気と重量の偏りで死にかけている。このまま荷物をただ積み直したところで、次の角を曲がった瞬間に、また同じようにへし折れて全てを台無しにするのが目に見えているからね」


商人は、ただ呆然としながらクルザードの顔を見つめるしかなかった。

「お、お前……見ただだけで、そんな車の細かい歪みまで、正確にすべて分かるのか?」


「見れば分かるさ。構造の不効率は、いつだって目につきやすいからね」


実際は、鑑定のデータが木材の疲労度を完璧に数値化して示していた結果だった。

ドワーフのガルドが、へし折れた車軸の断面を覗き込み、感心したように力強く鼻を鳴らした。


「……小僧の言う通りだな。軸の内部が完全に腐りかけてやがる。よくぞこの一瞬で見抜いたもんだ」


「適切な修理の手順を踏まなければ、移動に費やす全ての時間が無駄になる。それは最も効率が悪いからね」


クルザードは当然の事実を告げるように、気さくなトーンで淡々と答えた。


その瞬間、周囲を取り囲んでいた商人たちの目が、それまでとは完全に一変した。

このアルフェイドにおいて、空間収納の能力を持つ者は極めて珍しい。しかも、荷車数台分の質量を一瞬で、しかも顔色一つ変えずに完全に収めてみせるほどの異常な「容量」を誇る人員など、いかなる大規模な商会であってもお目にかかれる存在ではなかった。


「おい、クル! 頼む、うちの商会の重い物資も、その能力で運んでくれねぇか!」

「次の遠征輸送の護衛人員込みで、お前を最高額の運搬専門職として雇いたい!」

「報酬なら、ギルドの規定の三倍は確実に払う! だからうちの荷を!」


殺到する強欲な商人たちの懇願の声。

ステファンが、その様子を見て堪えきれずに盛大に吹き出した。


「うわぁ、おい見ろよ、クル! 一瞬にして街中の商人たちから猛烈にモテ始めやがったぞ!」


「いいや、違うよ、ステファン。彼らは俺を見ているんじゃないさ。俺という存在を通じた、物流の最適化という合理的な利点を見ているだけだよ」


「いや、お前完全にただの動く巨大物流倉庫扱いされてるって!」


クルザードは押し寄せる群衆を片手で静かに制すると、一瞬のうちに脳内で次なる全体の「振り分け」の計算を完了させ、状況の流れを決定づける明確な「判断」を下した。


物流の速度。輸送にかかる人件費の削減。そして、移動中の食材の完全な保存。

それらすべては、彼が目指す街の変革の歯車として、完璧に繋がっていた。


(運搬にかかる無駄な人員と時間が完全に減れば、その分、より多くの人間が自由に行動できるようになる)


冒険者たちは、迷宮に潜る際に重い荷物持ちを無駄に雇うコストを削減し、全力で戦闘に集中できる。

商人たちは、物資が腐るリスクを完全にゼロに抑え、通常の数倍の速度で長距離の交易を完了させられる。

保存の効率が劇的に向上すれば、街全体の資源の絶対量は爆発的に膨れ上がる。

つまり――彼が一手を動かすだけで、アルフェイドという都市国家全体の「富の流れ」が、根底から劇的に変わるのだ。


「……いいだろう。その運搬の依頼、条件付きですべて引き受けさせてもらうよ」


「本当か!? ありがたい! それで、条件とは一体何だ?」


大手の商会の主が、身を乗り出して尋ねた。市場の全員が、静まり返って彼の言葉を待つ。


「極めて簡単な話さ。手に入った最上の食材と、精製に必要な良質の塩。それらの流通ルートを、最優先で俺の廃屋へと回してほしい」

「あと、市場で少しでも形が崩れたり、腐りかけたりした資源を、無意味に生ゴミとしてドブに捨てるのを今すぐ禁止にする」

「廃棄するくらいなら、そのすべてを俺のところへ持ってきてほしい。俺の手で、最も正しい最高効率の栄養源に再生してみせるからね」


商人たちは、互いに顔を見合わせながら首を傾げた。

「……条件は、本当にそれだけでいいのか? 法外な金貨を要求されるかと思ったが」


「ああ、それだけで十分さ。無駄を無くすことこそ、最大の利益だからね」


ガルドが、その答えを聞くや否や、腹を抱えて迷宮全体に響き渡るような豪快な大笑いを炸裂させた。


「がははは! 小僧、お前は本当に、どこまでも『食』の確保を中心に据えて動く男だな!」


「当然さ、ガルド。食料の安定した確保と管理こそが、すべての強固な集団を維持するための最も重要な基礎だからね」


「頭では分かっちゃいるが、お前のその徹底ぶり、あまりにも極端すぎて見ていて本当に気持ちが良いぜ!」


その日の午後、クルザードは資源の管理者として、初めて正式な“大規模運搬依頼”を遂行した。

港湾に次々と水揚げされる大量の海産素材。

うず高く積まれた塩の袋。

鉱山から運ばれてきた重い鉄鉱石。

それらすべてを、彼は歩きながら片手をかざすだけで、滑らかに、そして一瞬にしてアイテムボックスの空間へとまとめて収納していった。

通常の荷車であれば、優に三台分を軽く超える圧倒的な質量。にもかかわらず、彼の佇まいには、疲労の色一つ浮かんでいなかった。


「おいおい……一体その中身の容量はどうなってんだよ……」

「荷車三台分の鉄と魚を丸ごと飲み込んでおいて、お前、本当に身体の重さを一切感じないのか?」


依頼主の商人が、恐怖すら孕んだ青ざめた顔で尋ねた。


「ああ、全く感じないよ。重さを論理的に排除している空間だからね。感じないものを重いと思う方が、よほど非効率さ」


「意味が分からん……お前、本当にただの荷物持ちなのか……?」


クルザードが荷袋を片手に市場の表通りを堂々と歩くと、周囲にいた大量の人間たちが、驚嘆と畏敬の念を込めて自然と左右へと道を避けていった。彼へと集中する無数の視線の質は、数日前とは完全に激変している。


そして、クルザード自身の頭脳もまた、明確な一歩の重みを確信し始めていた。


(力任せに迷宮の魔物と戦うよりも、この圧倒的な輸送の仕組みを俺の手で完全に掌握する方が、この澱んだ街の構造を遥かに早く、劇的に変えられるな)


夕方。

崖の上の廃屋の前には、昼間の活躍を聞きつけたさらに多くの人々が集まり、いつものように温かい湯気が盛大に立ち上っていた。


今夜の迷宮の飯は、獲れたての一番新鮮な海魚をこれでもかと贅沢に使った、最高峰の「魚鍋」だった。

一切の濁りのない、透き通った魚骨の極上出汁。

ふんだんな海藻。

昨日完成したばかりの、あの塩牙猪の香ばしい燻製脂。

純白の精製塩。

そして、全体の風味を美しくまとめ上げる少量の香草。

石鍋から立ち上る白い湯気と強烈な旨味の香りが、冬の冷たい夕暮れの崖の上を、温かく包み込んでいく。


「……あぁ、やっぱり一日の終わりには、これ以外の選択肢はないわね」


ベッティーナが、熱々のスープを口に含みながら、心底ほっとしたような深い息を吐き出した。

「これ一杯で、肉体の中の全ての細胞が、劇的な速度で生き返るのが分かるわ」


「魚のスープなのに、燻製肉の脂が効いていて、とんでもない満足感ね……本当に美味しいわ」


魔法使いのドロテアも、眠そうな頬をこれまでにないほど緩めて、夢中でスプーンを動かしている。


今夜の廃屋の集まりは、これまでで最も人数が多く、多様性に富んでいた。

ベッティーナ達のパーティだけでなく、ドワーフのガルド、斥候のカタリナ、そして昼間に彼が救った大手の商人たちまでが、当然のように一つの鍋を囲んで並んでいた。


「クルザード殿、昼間の件は本当に命拾いしたよ。感謝の言葉もない」

「荷車三台分の物資を、まさか一人で、一瞬で完璧に届けてのけるなんて、お前一体何者なんだ?」

「おかげで、無駄に雇うはずだった大量の護衛と人手の人件費が、丸ごと綺麗に浮いたぞ……」


商人たちが、信じられないものを見る目で熱っぽく語りかける。

クルザードは木べらを滑らかに動かしながら、口元に気さくな笑みを浮かべて淡々と答えた。


「大げさだよ。俺はただ、そこにあった物理的な無駄を、最も合理的な手順で減らしただけさ」


「いや、お前が平然と言ってのけるその『だけ』という結果こそが、俺たち商人にとっては社会の構造を根底から覆す、とんでもない『革命』なんだがね」


商人の一人が、冗談抜きの真顔でクルザードを見つめて言葉を繋いだ。


「輸送費がこれだけ劇的に減れば、街に出回る物資の物価そのものが一気に下がる」

「輸送の速度がこれだけ跳ね上がれば、食材が移動中に腐るリスクは完全にゼロになる」

「これほどの容量を常温で維持できるなら、これまで不可能だった隣国との命がけの超遠距離交易すらも、安全に、完璧に成立させられるようになるんだぞ」

「……お前、自分が今日、このアルフェイドの歴史において、どれほど凄まじい偉業を成し遂げたか、本当に分かって動いているのか?」


クルザードは大きな木べらを止め、少しの間だけ、揺れる赤い暖炉の火を見つめて思考を巡らせた。

そして、彼はいつもと変わらない、ハキハキとした陽気な声で一言だけ告げた。


「ああ、分かっているさ。すべての淀みを消し去るための、ただの最高効率化の第一歩だよ」


居合わせた全員が、そのあまりにもブレない冷徹な合理主義の姿勢に、一瞬だけ呆気に取られ、次の瞬間、一斉に盛大な大声を上げて吹き出した。ドミニクにいたっては、お腹を抱えて涙を流しながら笑っている。


「はははは! 面白すぎるわ、クル! お前、これほどの革命を起こしておいて、本当にどこまでもズレてる!」


「普通なら、もっと自分の才能を誇って、街の支配者に成り上がる大言壮語を叩くところだぞ、お前は!」


ステファンたちが大笑いしながら彼の肩を叩く。クルザードはそんな周囲の笑声を心地よく聞き流しながら、再び静かに、美しく煮え滾る石鍋の底を見つめていた。


物流の最適化。

完璧な保存。

質量を無視した圧倒的な運搬。

そして、すべての土台たる美味い食。


それらすべての事象は、彼の頭脳の中で、すでに一本の巨大な、世界の変革の流れとして完璧に組み合わさっていた。

人間がこの場所に爆発的な勢いで集まる理由は、極めて単純で揺るぎない。

ここがどこよりも便利で合理的だから。

死のリスクから最も遠く、安全だから。

そして何より、腹一杯の美味い飯が、いつでも温かい状態で手に入るからだ。


ただそれだけの絶対的な「合理の軸」があるだけで、人間の本能の流れは、古い街の権力や不条理を置き去りにして、勝手にこちらへと流れ込んでくる。


冬の冷たい夜空に向けて、燻製小屋と石鍋の放つ豊かな白い煙が、静かに、しかしどこまでも高く昇り続けていく。

港町アルフェイドの古い澱んだ物流の流れは、今、一人の荷物持ちの「判断」によって、崖の上のこの小さな廃屋を中心にして、劇的な速度で美しく変わり始めていた。






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