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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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64:輸送ゴーレム

 革命。


 冬が近づいていた。


 辺境都市クルザード。


 かつて“村”だった場所は、もう別物になっている。


 巨大防壁。


 石畳。


 水路。


 市場。


 鍛冶区画。


 農業区画。


 港湾。


 学校。


 公衆浴場。


 魔導冷蔵庫群。


 そして。


 絶え間なく動き続ける物流。


 朝焼けの街道。


 大量の馬車が並んでいた。


 商人。


 冒険者。


 農民。


 鍛冶師。


 エルフ。


 獣人。


 ドワーフ。


 人が増えた。


 増えすぎた。


 なのに。


 混乱が少ない。


 理由は単純。


 流れがあるからだ。


 人が動く。


 物が動く。


 金が動く。


 食が回る。


 止まらない。


 だから都市は生きる。


 クルザードは街道を眺めていた。


 隣にはヴァレリア。


「もう普通の馬車じゃ追いつけないわね」


「そうだな」


 クルザードは短く答える。


 街道は既に飽和寸前だった。


 保存食。


 干物。


 燻製。


 麦。


 塩。


 薬草。


 味噌。


 酒。


 輸送量が異常。


 しかも。


 全部売れる。


 全部足りない。


 各地が飢えているからだ。


 食料を持つ側が強い。


 その現実を。


 クルザードは理解していた。


「……始めるか」


 低い声。


 ガルドが笑う。


「待ってましただ」


 鍛冶区画。


 巨大格納庫。


 そこには。


 異様な存在が並んでいた。


 鉄。


 石。


 魔石。


 木材。


 複雑な魔法陣。


 巨大な脚部。


 分厚い腕。


 積載用背部フレーム。


 人型。


 だが人ではない。


 輸送ゴーレム。


 完成していた。


 ドロテアが息を呑む。


「……本当に動くの?」


「動く」


 クルザードは静かだった。


 だが。


 目だけが鋭い。


 彼の周囲には大量の魔力が渦巻いている。


 制御。


 循環。


 魔力吸収。


 以前なら暴走していた。


 今は違う。


 扱えている。


 ゆっくり。


 確実に。


 成長していた。


 クルザードは輸送ゴーレムの胸部へ手を置く。


 魔力流入。


 ゴォォ……


 低い駆動音。


 赤い魔石眼が灯る。


 次の瞬間。


 地面が揺れた。


 ズシン。


 巨大な脚部が動く。


「おお……!」


 歓声。


 職人達が声を上げる。


 ゴーレムはゆっくり立ち上がった。


 全高四メートル。


 圧倒的重量。


 なのに。


 動きが滑らかだった。


 風属性補助。


 土属性制御。


 金属骨格。


 魔力循環。


 全部組み合わされている。


 ガルドが胸を張る。


「関節部はワシがやった」


「壊れねぇぞ」


 アランが笑う。


「金属制御も組み込んである」


「衝撃吸収もな」


 マチルダが静かに言う。


「……兵器では?」


「違う」


 クルザードは否定した。


「物流だ」


 その言葉が。


 一番怖かった。


 物流。


 つまり。


 止まらない。


 毎日動く。


 毎日運ぶ。


 毎日支配する。


 戦争より強い。


 ヴァレリアは頭を抱えた。


「商人全部死ぬわよこれ」


「死なない」


「使う側に回る」


「使えない奴が消えるだけだ」


 静かな声。


 でも。


 現実だった。


 既に。


 この都市は合理で動いている。


 無駄が消える。


 役割が残る。


 だから強い。


 輸送ゴーレムは荷台へ向かう。


 巨大な腕が木箱を持ち上げる。


 軽い。


 まるで紙。


 次々積載。


 麦袋。


 干物樽。


 塩樽。


 酒樽。


 燻製肉。


 冷蔵箱。


 全部積む。


 普通の馬車十台分。


 それを一体で運ぶ。


 商人達が青ざめる。


「積載量おかしいだろ……」


「しかも速いぞ……」


「護衛もいらねぇ……」


 ティグリスが笑う。


「盗賊泣くな」


 実際。


 泣くことになる。


 輸送開始。


 巨大門が開く。


 輸送ゴーレム三体。


 護衛部隊。


 エリザベス。


 マティルデ。


 ステファン。


 カタリナ。


 全員精鋭。


 さらに。


 ゴーレム自体が強い。


 普通の魔物程度なら踏み潰せる。


 街道。


 周囲の視線が集まる。


「あれ何だ?」


「魔導兵器か?」


「いや輸送だぞ」


「は?」


 理解できない。


 当然だった。


 この世界の物流は。


 馬。


 人力。


 それが常識。


 だから遅い。


 だから冬で死ぬ。


 だから国家が飢える。


 だが。


 クルザードは違った。


 “運ぶ”を変える。


 それだけで世界が変わる。


 夕方。


 事件は起きた。


 街道南部。


 盗賊団。


 三十人。


 武装。


 騎馬あり。


「止まれぇぇぇ!」


 矢が飛ぶ。


 槍が飛ぶ。


 だが。


 輸送ゴーレムは止まらない。


 矢が刺さらない。


 槍が折れる。


「なっ!?」


 次の瞬間。


 ゴーレムの腕部魔法陣が発光。


 土属性。


 拘束。


 地面隆起。


 盗賊転倒。


 風圧。


 吹き飛ぶ。


 さらに。


 アラン。


 金属操作。


 盗賊の鎧が変形。


 拘束。


 動けない。


 ステファンが踏み込む。


 一瞬。


 終わり。


 盗賊達は倒れていた。


「ば、化け物……」


 エリザベスが冷たく言う。


「物流に喧嘩を売るな」


 怖い。


 本当に。


 輸送が軍事化していた。


 しかも。


 日常として。


 翌日。


 北部集落。


 雪。


 寒風。


 飢え。


 そこへ。


 輸送ゴーレム到着。


 巨大な影。


 村人達が呆然とする。


「何だあれ……」


「巨人……?」


 荷台が開く。


 大量の食料。


 干物。


 燻製。


 味噌。


 麦。


 酢漬け野菜。


 さらに。


 魔導冷蔵箱。


 新鮮肉。


 村人達の目が変わる。


「肉……?」


「冬に……?」


 泣き出す子供。


 老人が震える。


 今まで。


 冬は削るものだった。


 死なないために。


 少しずつ食う。


 耐える。


 消える。


 それが普通。


 でも違う。


 温かい鍋。


 味噌の香り。


 焼きたてパン。


 湯気。


 肉汁。


 笑い声。


 冬なのに。


 満腹。


 その噂は。


 一瞬で広がった。


「辺境都市の飯は本物」


「子供が死なない」


「薬がある」


「風呂がある」


「教育がある」


「税が軽い」


「仕事がある」


 人が流れる。


 止まらない。


 人口爆発。


 都市拡大。


 深夜。


 クルザードは地図を見ていた。


 街道。


 河川。


 港。


 中継地。


 全部線で繋がっている。


 マチルダが横に立つ。


「……国家ね」


「まだ町だ」


「もう違うわ」


 静かな声だった。


「普通の町はここまで回らない」


「人材育成」


「物流」


「食料」


「衛生」


「治安」


「全部連動してる」


 クルザードは答えない。


 ただ。


 地図へ線を引く。


 次の街道。


 次の補給地点。


 次の倉庫。


 止まらない。


 その頃。


 他国。


 貴族会議。


「辺境都市の商品が市場を壊している!」


「輸送速度が異常!」


「保存食価格が崩壊した!」


「商人が向こうへ流れている!」


「街道支配が効かん!」


 さらに。


「盗賊が壊滅してる……」


「輸送隊を襲えない……」


「護衛が強すぎる……」


「何なんだあの町は!」


 答えは単純。


 合理。


 それだけだった。


 クルザードは。


 戦争していない。


 侵略もしていない。


 でも。


 世界が飲まれていく。


 快適だから。


 飢えないから。


 生きられるから。


 人は流れる。


 最後に残るのは。


 “流れを作れる側”だけだった。


 夜明け前。


 輸送ゴーレム達が再び動き出す。


 止まらない。


 眠らない。


 食を運ぶ。


 命を運ぶ。


 技術を運ぶ。


 都市そのものが。


 巨大な生物のように脈動していた。


 そして。


 クルザードは静かに呟く。


「次は海路だな」


 革命は。


 まだ始まったばかりだった。






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