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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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65:魔導通信

 情報速度。


 雪が降っていた。


 辺境都市クルザード。


 冬。


 なのに。


 都市は止まらない。


 市場は動く。


 鍛冶場は燃える。


 港は稼働する。


 輸送ゴーレムが雪道を踏み潰しながら街道を進む。


 パンの香り。


 味噌鍋の湯気。


 燻製肉。


 魚の干物。


 酒場の笑い声。


 以前なら。


 冬は“耐える季節”だった。


 今は違う。


 冬でも食がある。


 仕事がある。


 風呂がある。


 子供が笑う。


 だから人が来る。


 止まらない。


 その中心。


 領主館。


 巨大な地図の前で。


 クルザードは静かに立っていた。


 各地の物流線。


 港。


 中継拠点。


 農地。


 水路。


 全部繋がっている。


 しかし。


 問題があった。


「遅いな」


 低い声。


 ヴァレリアが頷く。


「輸送速度じゃないわ」


「情報速度よ」


 そこだった。


 食料は届く。


 人も運べる。


 でも。


 情報だけが遅い。


 盗賊発生。


 街道崩落。


 病気。


 魔物群。


 価格変動。


 全部。


 報告が遅れる。


 結果。


 対応が遅れる。


 それは。


 損失だった。


 クルザードは椅子へ座る。


 机には大量の紙。


 物流報告。


 港湾記録。


 税収。


 病人。


 人口増加。


 全部。


 膨大。


 マチルダが静かに言う。


「もう人力では限界ね」


「そうだな」


 クルザードは目を閉じる。


 魔力が流れる。


 脳内。


 情報。


 接続。


 鑑定。


 以前はノイズだった。


 情報が多すぎた。


 頭が割れそうだった。


 でも今は違う。


 整理され始めている。


 必要。


 不要。


 危険。


 優先。


 線になる。


「……情報も運ぶ」


 その一言。


 全員が顔を上げた。


 翌日。


 鍛冶区画地下。


 巨大な空間。


 ガルド。


 アラン。


 ドロテア。


 マチルダ。


 主要メンバーが集まっていた。


 中央。


 巨大な魔石。


 青白く発光している。


 周囲には魔法陣。


 複雑。


 多重。


 異常。


 ドロテアが呟く。


「……本当にやるの?」


「やる」


 クルザードは短い。


「輸送だけじゃ足りない」


「都市は情報で動く」


 静かな声。


 でも。


 全員理解していた。


 この男は。


 もう“村長”ではない。


 国家を作っている。


 アランが腕を組む。


「原理は?」


「共鳴」


 クルザードは魔石へ触れた。


「魔力波長を固定する」


「対になる魔石同士を同期」


「距離超過は中継増幅」


 ガルドが眉をひそめる。


「……つまり?」


「離れて話せる」


 沈黙。


 全員止まる。


 ヴァレリアが真顔になる。


「は?」


 クルザードは平然としていた。


「音を魔力へ変換」


「波長送信」


「再変換」


「簡易通信」


 マチルダが頭を押さえる。


「待って」


「それ国家壊れるわよ」


「壊れるな」


「変わる」


 その返答が一番危険だった。


 実験開始。


 地下室。


 片方の魔石。


 そして。


 数百メートル先。


 別室。


 対となる魔石。


 クルザードは魔力制御を開始する。


 膨大。


 普通なら暴走。


 でも。


 循環している。


 吸収。


 制御。


 固定。


 成長していた。


「……繋げる」


 青白い光。


 魔法陣起動。


 低い振動。


 そして。


 別室。


 マチルダの声が響いた。


『聞こえる?』


 全員凍る。


 ガルドが絶句する。


「……マジか」


 ヴァレリアが青ざめる。


「終わったわねこの世界」


 そう。


 終わる。


 旧時代が。


 通信。


 それは。


 距離を殺す。


 数日後。


 魔導通信試験運用開始。


 都市中央塔。


 港。


 北部農地。


 南部街道。


 中継拠点。


 全部に通信魔石設置。


 情報が飛ぶ。


『北部輸送完了』


『港湾第五倉庫満杯』


『街道南部で雪崩』


『医療班移動要請』


『保存食在庫不足』


 速い。


 異常に速い。


 ヴァレリアが呆然と呟く。


「……商人の価値観全部変わる」


 これまで。


 情報は金だった。


 遅いから。


 独占できた。


 だから儲かった。


 でも。


 今は違う。


 瞬時。


 共有。


 連動。


 つまり。


 市場が生き始める。


 価格変動。


 供給不足。


 全部即時反映。


 さらに。


 盗賊情報。


 魔物発生。


 病気。


 全部共有。


 逃げ場が消える。


 カタリナが笑う。


「斥候泣くなこれ」


「いや」


 クルザードは否定した。


「重要になる」


「情報の精度が価値になる」


 そこが怖かった。


 この男。


 本当に全部繋げていく。


 夜。


 酒場。


 冒険者達が騒いでいた。


「聞いたか!?」


「街道情報が即来るらしいぞ!」


「マジかよ!」


「魔物群情報が半日早い!」


「死なねぇじゃねぇか!」


 さらに。


 商人達。


「市場価格が即分かる」


「在庫不足も分かる」


「損切りできるぞ」


「物流全部変わる……」


 都市全体がざわつく。


 理解し始めていた。


 これは。


 革命だ。


 しかも。


 戦争じゃない。


 便利。


 快適。


 合理。


 それだけで世界を飲み込んでいく。


 その頃。


 他国。


「……辺境都市が何か始めた」


「商人の動きが異常です」


「情報速度が早すぎる」


「何故もう市場価格を知っている?」


「盗賊被害が激減している」


「どうなっている!?」


 混乱。


 当然。


 彼らはまだ。


 “情報が遅い世界”にいる。


 一方。


 クルザード側は違う。


 連動している。


 農地。


 物流。


 港。


 市場。


 医療。


 全部。


 繋がっていた。


 深夜。


 クルザードは通信塔最上階にいた。


 雪。


 夜景。


 光る都市。


 人が動く。


 ゴーレムが運ぶ。


 通信が飛ぶ。


 マチルダが横へ来る。


「……怖いくらい順調ね」


「問題はある」


「何?」


「人が増えすぎる」


 即答だった。


 実際。


 人口増加速度が異常だった。


 獣人。


 エルフ。


 ドワーフ。


 商人。


 職人。


 孤児。


 冒険者。


 全員流れてくる。


 理由は単純。


 生きられるから。


 食えるから。


 学べるから。


 死ににくいから。


 マチルダが静かに言う。


「……もう王都より魅力あるわ」


 クルザードは否定しない。


 ただ。


 遠くを見る。


「まだ足りない」


 その言葉。


 マチルダが苦笑する。


「どこまで行く気?」


「止まらない程度には」


 静かな返答。


 その瞬間。


 通信魔石が光る。


『北部より報告』


『新規移住者二百三十名』


『内訳、農民、職人、子供多数』


 クルザードは短く答える。


「受け入れ」


『了解』


 一瞬。


 もう終わる。


 通信終了。


 マチルダは息を吐く。


「……早すぎる」


「これが情報速度」


 クルザードは通信塔から都市を見下ろす。


 止まらない灯。


 止まらない物流。


 止まらない人。


 そして。


 止まらない情報。


 世界はまだ気づいていない。


 本当に恐ろしいのは。


 剣でも。


 魔法でも。


 軍でもない。


 “流れ”を支配する者だと。


 食料。


 物流。


 教育。


 医療。


 情報。


 全部繋がった時。


 国家は。


 もう簡単には止まらない。


 雪は降り続けていた。


 でも。


 この都市だけは。


 熱を失わなかった。







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