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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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63/105

63:干物

 海産革命。


 朝。


 海風が町へ流れ込んでいた。


 巨大防壁の南門。


 そこを抜けた先。


 新しく整備された海産区画では、朝から大量の魚が並んでいた。


 銀色。


 青。


 赤。


 深海魚。


 大型魚。


 貝。


 甲殻類。


 全部ある。


 そして。


 その横に。


 奇妙な光景が広がっていた。


 大量の木枠。


 網。


 吊るされた魚。


 乾燥棚。


 巨大な風導管。


 市場へ来た商人達が目を丸くする。


「何だこれ……」


「魚を吊ってる?」


「腐るぞ?」


 クルザードは魚を開いていた。


 包丁が滑る。


 正確。


 速い。


 内臓除去。


 骨処理。


 塩。


 洗浄。


 風魔法。


 全部が流れる。


 まるで工程が最初から頭に入っているようだった。


 ティグリスが魚を見ながら笑う。


「魚干して何になんだ?」


「保存食」


「またそれか」


「まただ」


 クルザードは平然と言った。


「保存できれば勝てる」


 その一言で。


 全員黙る。


 もう理解していた。


 この男。


 戦ってないようで。


 一番危険な場所を攻めている。


 物流。


 保存。


 食料。


 国家の根幹。


 海産区画の奥。


 新設された乾燥施設では、風魔法陣が並んでいた。


 ガルドが腕を組む。


「こりゃまた大掛かりだな」


「湿気を飛ばす」


「腐敗前に乾燥させる」


「保存期間を伸ばす」


 ジェシカが魚を見て頷く。


「菌の繁殖も減る」


「そうだ」


「さらに塩を使う」


「腐りにくい」


 周囲の職人達が感心する。


 塩。


 酢。


 燻製。


 冷蔵。


 そして干物。


 全部繋がっている。


 偶然じゃない。


 物流構造そのものを組み立てている。


 クルザードは巨大な深海魚を指差した。


「これは内陸じゃ食えなかった」


「腐るから」


「でも今は違う」


 風魔法陣起動。


 乾燥。


 塩分固定。


 表面保護。


 さらに。


 魔導冷蔵庫による一時保存。


 全部連動していた。


 ヴァレリアが呟く。


「……海を運べる」


「そうだ」


「内陸へ」


「山へ」


「全部届く」


 その意味。


 商人達は即座に理解した。


 国家物流が変わる。


 昼。


 試食会。


 中央市場。


 大量の炭火。


 焼かれる干物。


 脂。


 香り。


 煙。


 市場全体に香ばしい匂いが広がる。


「うおっ……!」


「何だこの匂い!」


「腹減る!」


 焼き上がる。


 皮が弾ける。


 脂が滴る。


 音が鳴る。


 ジュゥゥゥッ。


 ティグリスが待てずに食う。


「っっっ!?」


「うまぁ!?」


 周囲が笑った。


 クルザードは味噌汁を置く。


 焼きたてパン。


 干物。


 味噌汁。


 漬物。


 湯気が立つ。


 完全に暴力だった。


 冬の朝。


 絶対強い。


 ベッティーナが真顔になる。


「これ毎朝出るなら働ける」


「働け」


「働く」


 全員笑う。


 空気が明るい。


 この町の強さ。


 それは。


 安心感だった。


 腹が満たされる。


 温かい。


 仕事がある。


 死ににくい。


 だから人が来る。


 市場では既に争奪戦が始まっていた。


「干物全部くれ!」


「いや俺が先だ!」


「商会契約したい!」


 ヴァレリアが頭を抱える。


「足りない!」


「全然足りない!」


 クルザードは冷静だった。


「だから増やす」


「漁港も拡張」


「加工場も増設」


「教育もする」


 マチルダが地図を広げる。


「漁師区画拡張」


「乾燥施設追加」


「海沿い居住区必要ね」


 話が速い。


 全員が理解している。


 この町。


 もう村感覚じゃない。


 国家規模で動いている。


 午後。


 南港。


 新しい漁船が並ぶ。


 木材。


 金属補強。


 風魔法帆。


 さらに。


 冷却箱。


 魔導冷蔵。


 全部搭載。


 ガルドが笑う。


「船までおかしくなってきたな」


「効率化しただけだ」


「その効率化が怖ぇんだよ」


 漁師達も変わり始めていた。


「前より魚が売れる!」


「保存できる!」


「無駄が減った!」


「家族食わせられる!」


 それが一番大きかった。


 生活が安定する。


 すると。


 人口が増える。


 子供が育つ。


 教育が回る。


 職人が増える。


 全部繋がる。


 夕方。


 食堂。


 新メニュー。


 干物定食。


 深海魚干物。


 蟹出汁味噌汁。


 炊き込み飯。


 漬物。


 さらに。


 酒。


 完璧だった。


 市場の外まで行列。


「この町おかしい!」


「辺境なのに飯強すぎる!」


「宿が足りねぇ!」


「移住したい!」


 獣人。


 エルフ。


 ドワーフ。


 人間。


 全部混ざる。


 食堂の熱気がすごい。


 ティグリスが酒を飲みながら笑う。


「本当に人増えたな」


「まだ増える」


「どこまで行く気だ?」


「止まる理由がない」


 クルザードは普通に言った。


 それが怖い。


 本当に。


 自然に拡張している。


 無理がない。


 無駄がない。


 だから強い。


 夜。


 物流会議。


 地図。


 海路。


 街道。


 宿場。


 全部線で繋がっている。


 ヴァレリアが報告する。


「内陸国家から大量注文」


「保存魚が欲しいって」


「当然だな」


「軍も欲しがる」


「冬越えできるもの」


 クルザードは地図を見る。


 海。


 内陸。


 街道。


 全部繋がっていく。


「干物は軽い」


「栄養ある」


「長持ちする」


「運びやすい」


「つまり物流向き」


 マチルダが笑う。


「あなた、本当に戦争嫌いよね」


「嫌いじゃない」


「コストが高いだけだ」


 全員苦笑した。


 本当に合理だけで動いている。


 でも。


 その合理が。


 一番人を救っていた。


 外。


 夜の市場。


 灯り。


 湯気。


 香り。


 笑い声。


 子供達が走る。


 商人が笑う。


 職人が働く。


 魚が焼ける。


 人が食う。


 誰かが酒を飲む。


 誰かが明日を話す。


 この町は。


 もう“辺境”ではなかった。


 海を制する者。


 保存を制する者。


 物流を制する者。


 その全部を。


 静かに。


 クルザードは掴み始めていた。


 そして。


 遠方国家では。


 さらに深刻な問題が起き始めていた。


「魚価格が崩壊してる」


「保存技術差が大きすぎる」


「辺境都市の商品が強すぎる」


「商人が流出してる!」


「人材もだ!」


 焦る貴族達。


 混乱する商会。


 止まらない移住。


 止まらない物流。


 止まらない食。


 理由は単純だった。


 この町は。


 “暮らしたくなる”。


 それだけで。


 国家を食い始めていた。







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