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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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49:冒険者ギルド

 正式認定。


 朝の空気が変わっていた。


 まだ陽は低い。


 それでも村は既に動いている。


 石畳を物流ゴーレムが歩き、荷車を運ぶ。


 鍛冶場から槌音。


 水路では子供達が洗濯を手伝い、パン工房から焼きたての香りが流れてくる。


 魔導灯が消えたばかりの通りを、見回り隊が交代していく。


 以前の“辺境の村”ではない。


 今のここには流れがある。


 人。


 物。


 金。


 情報。


 全部が止まっていない。


 クルザードは広場を歩きながら、その流れを見ていた。


 ヴァレリアが隣に並ぶ。


「今日、来るわよ」


「分かってる」


「随分落ち着いてるのね」


「予想通りだからな」


 彼女は小さく笑った。


「普通、冒険者ギルド本部の査察官が来るって聞いたら緊張するものよ」


「別に後ろ暗いことしてない」


「後ろ暗くなくても怖いのよ」


 ヴァレリアの言葉は正しかった。


 冒険者ギルド。


 国家を超える巨大組織。


 ダンジョン管理。


 依頼管理。


 魔物情報。


 素材流通。


 戦力認定。


 各都市の経済すら左右する。


 王族ですら無視できない。


 そのギルドが、この村へ正式査察を送ってくる。


 理由は単純だった。


 異常だからだ。


 辺境なのに食料が余っている。


 病人が少ない。


 冬越え成功。


 冒険者定住。


 素材流通量増加。


 盗賊壊滅。


 ダンジョン攻略速度上昇。


 そして。


 最近急増している“移住希望者”。


 ギルドが注目しない方がおかしい。


 ティグリスが肉串を食べながら近づいてくる。


「来たぞ」


 村の入口。


 五人。


 黒外套。


 胸に銀章。


 冒険者ギルド直属査察隊。


 周囲の空気が少し張る。


 見回り隊も自然に位置を変えていた。


 警戒。


 だが威圧しない。


 クルザードはそれを確認し、小さく頷く。


 教育が浸透している。


 感情ではなく役割で動いている。


 以前ならこうはいかなかった。


 中央の男が前へ出た。


 三十代後半。


 灰色の髪。


 鋭い目。


「私は査察官ロドリク」


「冒険者ギルド中央支部より派遣された」


 クルザードが頷く。


「クルザードだ」


「この村の管理をしている」


 ロドリクは一瞬だけ目を細めた。


 若い。


 もっと年上を想像していたのだろう。


 当然だ。


 こんな場所を作る人間としては若すぎる。


「案内を頼みたい」


「構わない」


 広場を歩く。


 ロドリク達は周囲を観察していた。


 道。


 建物。


 人の顔。


 荷物。


 動線。


 全部。


 査察官は戦士ではない。


 観察者だ。


 村の強さを“空気”で読む。


 そして。


 すぐに異常へ気づいた。


「……臭いが少ないな」


 ジェシカが少し笑う。


「衛生改善してるから」


「排泄管理、水路分離、洗浄習慣」


「石鹸も普及済みよ」


 査察官の一人が目を見開く。


「石鹸?」


「この規模の村で?」


 クルザードは説明しない。


 代わりに広場を見る。


 子供達が手を洗っていた。


 自然に。


 習慣として。


 ロドリクが静かに呟く。


「教育されているのか」


「そうだ」


「全員?」


「全員」


 彼は黙った。


 普通はあり得ない。


 教育は金になる。


 労力になる。


 余裕が必要になる。


 つまり。


 “豊かさ”が必要だ。


 その豊かさを、この辺境村は既に持っている。


 次に向かったのは冷却庫だった。


 巨大な石造建築。


 内部から冷気が漏れる。


 査察官達が止まる。


「……なんだこれは」


「魔導冷却庫だ」


「肉と保存食を管理してる」


 中へ入る。


 燻製肉。


 干し肉。


 チーズ。


 酒。


 発酵食品。


 薬草。


 全部が整然と並ぶ。


 腐臭がない。


 湿気も少ない。


 管理されている。


 ロドリクの表情が変わった。


 理解したのだ。


 この村は偶然じゃない。


 設計されている。


 ヴァレリアが笑う。


「冬でも食料余るのよ」


「商人が住み着く理由、分かるでしょ?」


 査察官の一人が呟く。


「都市レベルだ……」


 次は鍛冶場。


 ガルドがアイスアーマーを打っていた。


 青白い装甲。


 軽い。


 硬い。


 査察官が息を呑む。


「魔導装備……?」


「試作品だ」


 クルザードはそれ以上言わない。


 全部は見せない。


 技術は武器だ。


 ギルド相手でも同じ。


 ロドリクは氷鎧を見つめたまま言う。


「どこから技術を得た」


「積み上げただけだ」


「一人で?」


「仲間がいる」


 その瞬間だった。


 村の鐘が鳴る。


 三回。


 警戒音。


 全員が反応した。


 空気が変わる。


 ティグリスが走る。


 カタリナが屋根へ飛ぶ。


 見回り隊が武装。


 物流ゴーレムが道路を開ける。


 ロドリクが目を細める。


「……速い」


 クルザードは既に歩き出していた。


 村外れ。


 門前。


 そこには十数人の武装集団がいた。


 粗悪な装備。


 汚れた外套。


 盗賊。


 周囲の村を襲っていた連中だ。


 頭目が笑う。


「噂通り豊かそうじゃねぇか」


「食料置いてけ」


 村人達は怯えていない。


 それを見て盗賊側が僅かに困惑する。


 普通は違う。


 辺境村は怯える。


 命乞いする。


 だがここは違う。


 静かだ。


 整っている。


 そして。


 次の瞬間。


 終わった。


 カタリナの投擲。


 盗賊の武器を弾く。


 ティグリスが突っ込み、二人吹き飛ばす。


 ベッティーナが盾で押さえる。


 アランの金属魔法。


 鎧が歪み拘束。


 マルセルの斬撃。


 地面だけを裂き、逃走経路を遮断。


 十秒。


 本当にそれだけだった。


 盗賊達は全員地面に転がっていた。


 ロドリク達が絶句する。


「……なんだ今の」


 クルザードは盗賊を見下ろす。


「最近増えてる」


「だから訓練してる」


「訓練?」


 査察官の声が少し裏返った。


 あれを訓練と言うのか。


 兵士より動きがいい。


 連携も速い。


 しかも。


 無駄がない。


 ティグリスが肩を回す。


「弱ぇな」


「飯食ってねぇ動きだ」


 ジェシカが盗賊の怪我を確認している。


 必要以上に殺さない。


 それもまた異常だった。


 戦力が高い集団ほど雑になる。


 ここは違う。


 制御されている。


 ロドリクは理解し始めていた。


 この村の強さは個人ではない。


 構造だ。


 食。


 教育。


 衛生。


 技術。


 物流。


 訓練。


 全部が繋がっている。


 だから崩れない。


 夜。


 歓迎会が開かれた。


 大鍋。


 焼きたてパン。


 燻製肉。


 チーズ。


 果実酒。


 査察官達は最初警戒していた。


 だが。


 一口食べた瞬間、空気が変わる。


「……美味い」


 ロドリクが静かに呟く。


 味噌鍋。


 肉汁。


 野菜の甘味。


 出汁。


 体が温まる。


 疲労が抜ける。


 クルザードはその反応を見ていた。


 食は武器だ。


 人を止める。


 人を呼ぶ。


 人を定住させる。


 豊かさとは結局、安心感なのだ。


 酒が進む。


 村人達が笑う。


 獣人。


 人間。


 ドワーフ。


 エルフ。


 全部混ざっている。


 争いがないわけじゃない。


 問題もある。


 だが。


 流れが前を向いている。


 ロドリクが静かに言った。


「……信じられんな」


「何がだ」


「辺境でここまで完成した場所は見たことがない」


「都市ですら腐ってる場所は多い」


 クルザードは鍋へ視線を落とす。


「食えないと荒れる」


「病気でも荒れる」


「仕事なくても荒れる」


「だから先に潰してるだけだ」


「合理的だな」


「感情論じゃ腹は膨れない」


 ロドリクは少し笑った。


「冒険者ギルドは、この村を正式認定する」


 周囲が静まる。


 彼は続けた。


「辺境準拠ギルド支部」


「ダンジョン管理権一部委任」


「素材流通許可」


「冒険者登録正式化」


 ヴァレリアが目を見開く。


「……本気?」


「本気だ」


「普通あり得ないわよ」


「普通じゃないからな」


 ロドリクは真っ直ぐクルザードを見る。


「この村は既に“拠点”だ」


「冒険者が集まる」


「商人が来る」


「技術がある」


「食料がある」


「安全がある」


「つまり、人が増える」


 その言葉に、クルザードは静かに目を閉じた。


 また一歩。


 前へ進んだ。


 ただの村ではない。


 街になる。


 いずれ。


 国家になる。


 誰かが決めたわけじゃない。


 人が集まり始めた時点で、もう止まらない。


 広場では子供達が笑っていた。


 温かい鍋の湯気が夜空へ上がる。


 魔導灯が村を照らす。


 その光を見ながら、ロドリクが呟く。


「……本当に、とんでもない場所になりそうだな」


 クルザードは静かに答えた。


「もう始まってる」







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