表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/105

35:包丁

 解体革命。


 朝。


 鍛冶街は既に熱かった。


 炉の炎。


 赤熱する鉄。


 蒸気。


 金属を叩く轟音。


 新しく増えたドワーフたちが朝から忙しく動いている。


 以前なら武器が主だった。


 今は違う。


 鍬。


 斧。


 釘。


 水車部品。


 鉄鍋。


 生活そのものを作っている。


 その中央で、クルザードは一本の鉄材を見ていた。


 細い。


 長い。


 薄い。


 ガルドが眉を寄せる。


「こんな形で本当に使えんのか?」


「使える」


 クルザードは即答した。


「むしろ、これから必要になる」


 周囲のドワーフたちが集まってくる。


 皆、興味深そうだった。


 最近のクルザードはおかしい。


 いや、以前からおかしかった。


 飯を変え。


 保存を変え。


 農業を変え。


 今度は鉄を変えようとしている。


「名前は?」


 ガルドが聞く。


 クルザードは答えた。


「包丁」


 ドワーフたちが首を傾げる。


「剣じゃねぇのか?」


「戦闘用じゃない」


「料理用だ」


 一瞬、静まった。


「料理ぃ?」


「また飯かよ!」


「お前どんだけ食う気だ!」


 笑いが起きる。


 だがクルザードは真顔だった。


「食は全部に繋がる」


「解体が変われば、肉が変わる」


「肉が変われば、保存が変わる」


「保存が変われば、物流が変わる」


 皆が静かになる。


 もう理解し始めていた。


 この男は思いつきで動かない。


 全部繋がっている。


 クルザードは地面に図を書く。


「今の解体は雑だ」


「骨ごと潰す」


「肉を潰す」


「血抜きも甘い」


「だから臭い」


 ティグリスが頷いた。


「確かに」


「獣人は匂いで分かる」


 ジェシカも腕を組む。


「保存効率も悪いわね」


「傷んでる部分が多い」


 クルザードは鉄材を持ち上げる。


「薄く」


「鋭く」


「重さを抜く」


「切断じゃなく、滑らせて切る」


 ガルドが目を細めた。


「……面白ぇ」


 職人の顔になっていた。


 理解した瞬間、彼は速い。


「やるぞ」


 炉が燃える。


 鉄を熱する。


 アランが金属魔法で不純物を浮かせる。


 ガルドが叩く。


 ドワーフたちが支える。


 火花。


 轟音。


 熱気。


 村人たちが見学に来ていた。


「また新しいの作ってる」


「最近すごいな」


「鍛冶街、毎日進化してる」


 以前の村では有り得なかった。


 今は違う。


 新しい技術が毎週出てくる。


 人々がそれを見ている。


 理解できなくてもいい。


 “ここは伸びている”


 それだけ分かれば人は集まる。


 昼。


 第一号が完成した。


 長い刃。


 片刃。


 異様に薄い。


 ドワーフたちは半信半疑だった。


「折れそうだぞこれ」


「武器なら欠陥だ」


「武器じゃない」


 クルザードはオーク肉を持ってくる。


 巨大な塊。


 燻製前の肉。


 今までなら鉈で叩き切っていた。


 クルザードは包丁を持つ。


 静かに刃を入れる。


 滑る。


 吸い込まれる。


 音が違った。


 硬い筋を避け。


 脂を分け。


 赤身を崩さない。


 一枚。


 また一枚。


 薄い肉が並んでいく。


 周囲が静まり返った。


「……なんだそれ」


「切れてる……?」


「潰れてねぇ……」


 ティグリスが目を見開く。


 獣人は肉を見る。


 理解が早い。


「匂いが違う」


「血が暴れてない」


 クルザードはさらに続ける。


 骨。


 関節。


 筋。


 全部見えているようだった。


 鑑定。


 以前は情報過多だった。


 今は料理に繋がっている。


 構造が理解できる。


 だから切れる。


「部位を分ける」


「用途を分ける」


「煮込み」


「焼き」


「燻製」


「節」


「全部変える」


 ガルドが呟く。


「……解体革命か」


 その言葉に、クルザードは頷いた。


 午後。


 村の中央広場。


 即席の解体講習会が始まっていた。


 人が集まる。


 冒険者。


 狩人。


 主婦。


 料理人。


 子供までいる。


 クルザードは実演を続ける。


「骨に沿え」


「力で切るな」


「流れで切れ」


 包丁が滑る。


 肉が綺麗に分かれる。


 脂身。


 赤身。


 内臓。


 全部整理されていく。


 ジェシカが感心していた。


「内臓捨てなくて済むわね」


「薬にも使える」


「血も肥料になる」


 マチルダがメモを書き続けている。


「廃棄ゼロ……」


「物流効率上昇……」


「保存効率向上……」


 ヴァレリアは商人の目をしていた。


「これ、売れるわ」


「高級料理になる」


 クルザードは頷く。


「部位価値を分ける」


「全部同じ値段で売る方がおかしい」


 合理。


 徹底的に。


 そしてそれは人を豊かにする。


 解体が変わる。


 保存が伸びる。


 料理が増える。


 食中毒が減る。


 廃棄が減る。


 冬を越えやすくなる。


 全部繋がる。


 夕方。


 新しい料理が並び始める。


 薄切りオーク肉。


 味噌焼き。


 燻製。


 脂身炒め。


 骨スープ。


 内臓煮込み。


 村人たちが驚いていた。


「同じ肉なのに全然違う!」


「柔らかっ!」


「臭くない!」


 ティグリスが無言で食っている。


 速い。


 めちゃくちゃ速い。


 クルザードが笑った。


「どうだ」


「……増やせ」


 皆が笑う。


 ガルドは酒を飲みながら包丁を眺めていた。


「鉄ってのは武器だけじゃねぇんだな」


「生活を変えられる」


「国を変えられる」


 クルザードは答える。


「腹が満たされる方が強い」


 その通りだった。


 飢えた国は崩れる。


 食える国は強い。


 夜。


 鍛冶街。


 ドワーフたちが次々と包丁を打ち始めていた。


「もっと薄くしろ!」


「重心前だ!」


「刃が流れねぇ!」


 既に熱狂している。


 技術者は新技術が好きだ。


 そしてクルザードは、それを理解している。


 だから伸びる。


 彼は人を無理に使わない。


 楽しい方向へ流す。


 合理とは、人を潰すことではない。


 自然に動く流れを作ること。


 その頃。


 村の外では商隊が止まっていた。


「……なんだここ」


「匂いが違う」


「飯の匂いだ」


 旅人たちが門を見る。


 灯り。


 笑い声。


 鍛冶の火。


 湯気。


 煙。


 活気。


 辺境とは思えなかった。


 門番が笑う。


「泊まってくか?」


「飯、美味いぞ」


 旅人たちは顔を見合わせた。


「……入るか」


 また人が増える。


 また物流が伸びる。


 また技術が広がる。


 クルザードは遠くから村を見ていた。


 戦争で支配する気はない。


 快適さで人を集める。


 その方が強い。


 包丁一本。


 それだけで世界は変わる。


 解体が変わる。


 保存が変わる。


 物流が変わる。


 国が変わる。


 そして村は、また一段階強くなっていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ