36:冷却庫
氷保存。
朝の空気は、張り詰めたように真っ白く濁っていた。
冬が確実に近づいている。
吐き出す息は薄い霧のようになって大気へと消え去り、新しく石造りへと補強された村の屋根の煙突からは、絶え間なく豊かな白い煙が立ち上っている。
これまでの澱みきった古い世界の常識であれば、この季節の到来はすべての民にとって絶望と不安の始まりに過ぎなかった。
確実に食料が減り、冷気によって無駄な病人が増え、抵抗の手段を持たない子供たちが寒さの不効率によって無残に命を落としていく。この世界における冬とは、ただじっと身を縮めて理不尽に耐え忍ぶだけの残酷な季節だったからだ。
だが、現在のこの場所は根本からすべてが違っていた。
ここには完璧な解体手順によって処理された極上の肉があり、熟成を終えた至高の味噌があり、精神を温め尽くす最高の酒があり、一掴みで天上のスープを錬成する魚節やオーク節があり、何年でも品質を維持する燻製が揃っている。
地質を分析し尽くした畑は広く拡張され、主要水路のインフラも一パーセントの遅延もなく活発に駆動し続けていた。
それでもなお、資源の管理者としてのクルザードの頭脳は、未だ理想の最高効率には程遠いと冷徹に判断していた。中身のない軽口や、一時的な現状維持のぬるま湯に甘んじる気はただの一分の一秒もなかった。
「――現状の社会基盤における、生肉や生魚の固有の『保存期間』の流れがね、未だに不効率に短すぎるよ」
クルザードは広場にうず高く積み上げられたオーク肉の質量を見上げながら、ハキハキとした明晰な声を響かせた。
エルフの薬師ジェシカが、上品に腕を組んで銀髪をしならせながら頷いた。
「ええ、確かにお前の開発したあの燻製や節の量産ラインによってね、長期の維持効率は通常の数百倍にまで劇的に伸びたわ。……けれど、加工を施していない『生の食材』のままだと、どうしても細胞の変質を防ぐ限界値が低すぎるのさ」
「特に、大気の熱量が過剰に上昇する『夏の季節』の到来はね、食材が一瞬で腐敗エラーを起こして機能停止するから、最高に危険なボトルネックね」
最前線に立つ虎獣人のティグリスが、自慢の長槍を泥に突き立てながら、その立派な虎耳を小さく動かした。
「私たち獣人の持つ圧倒的な嗅覚のスペックならね、細胞の結合が崩れて腐り始めた肉のノイズなんてものはね、一秒で正確に見抜いて排除できるけれどさ。……でも、五感の鈍い一般の人間たちはね、その微細な異変に全く気づけないまま、泥のように汚れた有害な肉を平然と胃袋へ流し込んで大損を叩くからね」
回復士のデニーゼもまた、真面目な顔つきでその大局の事実に言葉を繋いだ。
「体内の不純物のせいで、不効率に腹を激しく壊してエラーを起こす民の確定値はね、残念ながら未だに数パーセントは存在しているわ」
「私の聖なる再生魔法の手順を踏めばね、そんな内臓の損傷なんて一瞬で完璧に治療して補修できるけれど……。組織全体の能率を考えるならね、最初からそんな無駄なエラーの発生確率自体を、根底から完全にゼロに抑え込みたいわよね」
クルザードは静かに顔を上げ、どんよりと張り詰めた鈍色の白い雲、そして吹き付ける冷たい風の流れをその明るい陽気な瞳で見つめた。
そして、己の頭脳の中に宿る、最も無駄のない正しい変革の数式を完璧に繋ぎ合わせて言い放った。
「ならば、簡単さ。すべてを論理的な手順で極限まで『冷やす』のさ」
「……はぁ? 冷やすだって?」
最高腕のドワーフ鍛冶師ガルドが、灰色の立派な髭を激しく逆立てながら、怪訝そうにその眉をひそめた。
「おい、小僧。冷やすってのは一体どんな手順の冗談だ。まさかこの最果ての平地の真ん中に、あの極寒の『本物の冬の冷気そのもの』を力ずくで引っ張ってくるとでも言うつもりか?」
「ああ、その通りさ、ガルド。手戻りのない素晴らしい反応速度だね」
クルザードは口元に不敵な笑みを浮かべ、気さくなトーンのままハキハキと言い放った。
「冬という過酷な大気の環境数式をね、石と魔法の防壁によって、ひとつの閉塞空間の中へ完璧に『閉じ込めて維持する』のさ。ただの、合理的な資源の管理の手順さ」
一瞬の出来事として、広場の全体が、あまりにも常識外れな壮大なビジョンの前にカチリと深く静まり返った。意味が分からない。通常の人間であればね、そんな奇天烈な戯言は大言壮語のバグであると鼻で笑って切り捨てるだろうね。
だが――ここに集まったすべての最強の才能たちはね、これまでの変革の歴史を通じて骨の髄まで叩き込まれて知っていたのだ。
この青年が、一片の揺らぎもない真顔のトーンで「意味不明な合理の数式」を平然と弾き出し始めたその瞬間にはね、世界の古い構造が例外なく100%完璧に、最強の現実となって塗り替えられて前進を始めるのだと。
クルザードは落ちていた木枝を滑らかな動作で手に取ると、舖装された石畳の地面の上へ向けて、一分の無駄もない精密な構造の図面を滑らかに描き出した。
「第一の手順として、地表の熱変化の影響を100%完全に遮断するための【地下空間】の開掘」
「第二の手順として、外気の不純物の侵入を完璧に防ぎ止めるための、強固な【石壁】の結合」
「第三の手順として、内部の一定の低温を永久に維持するための、高度な【断熱材】のシステム化」
「そして最後の仕上げとして、空間の全体に冷気の対流を行き渡らせるための、大量の【氷塊】の設置さ」
元伯爵令嬢のマティルデが、その美しい目を鋭く細め、自慢の革手帳のページへ向けて羽ペンを一瞬で走らせた。
「……なるほどね、お前。ただ物資を一箇所に雑に積み上げるだけのこれまでの古い倉庫を置き去りにして……。中に冷たい温度を完璧に固着させるための、全く新しい『超大型の低温維持システム』のデザインね?」
「そうだ。ただの倉庫ではないさ、マティルデ。内部の温度を常に零度近くへと維持し続ける、世界初の最高の【冷却庫】さ」
大商人のヴァレリアが、その言葉の本質を一瞬で看破するなり、一人の商人の冷徹な本能を滾らせて激しく息を呑んだ。
「……ちょっと、待ってよ、お前。もしもそんな、大気全体の熱量を完全に無視して『一定の低温を維持する空間』が本当にこの現実に完成してみなさい」
「肉や魚といった、一瞬で腐敗エラーを起こす高価値な海産資源の全体をね、一パーセントの劣化も許さずに常温のまま数ヶ月以上も完璧に維持できるようになるわ」
「物資の耐久係数がそこまで跳ね上がるということはね、お前の作ったあの空間輸送(物流)のサプライラインと組み合わせることで……世界のすべての富の循環が一瞬にして完全に化けるわよ!」
「当然さ、ヴァレリア。これこそがね、最も確実に最強の主動権を掌握するための、最高効率のインフラ改革さ」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべ、ハキハキと言い放った。
「極上の魔物の肉をね、どんな過酷な遠距離の他国の市場へ向けても、一パーセントの生臭さもなく安全に『運べる』ようになる」
「腐りやすいと言われていた大量の海魚の鮮度もね、夏の季節を目の前にしても100%完全に『腐りにくい』状態のまま維持できる」
「食料の変質に伴う、あの不効率な病気の発症率もね、社会全体から一瞬にして完全に『減る』」
「つまり、これがあれば将来的に、春夏秋冬のすべての季節の移り変わりに関係なく、無限の富と食料の『余剰』をこの場所に独占し続けることができるのさ。すべてはただの、完璧に計算され尽くした合理の流れさ」
並んでいた最強の才能たちの全体が、その一片の感情論も含まれていない冷徹なまでの大局のビジョンを聞くと、畏敬の念を通り越して、背筋が粟立つほどの圧倒的な迫力に圧されて深く沈黙した。
まただ。またしてもこの荷物持ちの男は、ただの一杯の調理の手際を入り口にして、商業、医療、インフラ、物流、そして最終的には「強固な国家の建国」にいたるまでのすべての歯車を、完璧に一本の線に繋げて回してしまったのだ。
「方針は決まった。全体の流れを滞らせないために、今すぐこの場所に、最高の冷却庫の建築工事を最高効率の速度で駆動させるよ」
彼の放ったその一切の迷いのない差配の声に従い、その日のうちに、集落の北側セクションにおける大規模な開掘実務が一分の手戻りもなく開始された。
選ばれたポイントはね、冷却効率の数値を最大値に引き上げるための、冷たい地下水の脈が最も近くに走る最高の地質座標さ。
最高腕のガルドが率いる何十人ものドワーフの巨漢たちが、特注の道具を一斉に振り下ろし、地鳴りのような轟音と共に強固な岩盤の組織を最高速度で粉砕していく。
そこへ、クルザードの土属性魔法と石属性魔法の因果関係の結合を流し込み、地面の構造を一瞬にして削り落として滑らかに整える。
以前の未熟な古い人間たちのやり方であればね、これほど大規模な地下空間を開掘するためにはね、膨大な奴隷と数ヶ月の過酷な時間の手戻りが発生するのが世界の常識の数式だった。
だが、現在のこの場所は違う。ここには、クルザードの宿す底の知れない莫大な魔力の源泉があり。アランの放つ、金属の分子構造を精密に制御する金具の完全固定があり。ドロテアの操る、高温高圧の蒸気による岩盤の急速な破砕の熱量がある。
各自の才能の最大値が最初から最高値に揃っているからこそ、地下の巨大空間の全体は、たったの数日という驚異的な超高速のラインを流れて勝手にその全容を現していった。
一分の歪みもない直線で築き上げられた、強固な石壁の防壁。
熱気の滞留を完全に防ぎ、空気の対流を一定に制御するための、精密な通気孔の配置。
内部に侵入しようとする余分な水分を一瞬で外部へ安全に流し去るための、排水路のインフラ。
そして、中央に新設された、超大型の「氷保管室」のセクション。
マチルダが教壇の合間に現場の真ん中に立ち、彼らの作業の動線に合わせて、手元の設計図面の数値を最高効率へと滑らかに書き換えていった。
「クル、空気の流れの対流ルートを完全に二つに『分ける』わよ!」
「内部の冷たい温度を一パーセントも外へ逃がさないためにね、入り口の防壁の構造はね、完全に二重の密閉式の門でシステム化するわ!」
「これで、熱量の外部へのリーク(損失)は完全にゼロに抑え込まれるわ。完璧な機能美よ!」
「素晴らしいね、マチルダ。一パーセントの無駄な歪みもない、最高の合理的な構造さ」
クルザードは当然の事実を告げるように、ハキハキとした明晰な声で深く頷いた。すべての配置、すべての石材の厚みにいたるまでの全体にね、一分の一秒のロスもなく、完璧に冷やすための意味が最初から計算されて具現化されていた。
日の傾き始めた昼過ぎ。
しかし――地下の巨大空間の建築が完璧に完了したその瞬間に、彼らの前に次なる実務のボトルネックが明確な数値となって立ちはだかった。
「……おいおい、小僧。空間の構造の全体は見事に組み上がったがな、一番肝心な『大量の氷塊の資源』がよ、この春の終わりの時期にはな、周囲のどこを探しても決定的に絶対量が足りねぇぞ」
ガルドが、灰色の立派な髭を揺らしながら困り果てたような声を張り上げた。
「冬の極寒の時期であればな、街道沿いの川からいくらでも強固な氷を切り出して運べたがよ……。今の季節のデータではな、ただの冷たい水しか手に入らねぇ。魔法使いを何十人も雇って冷気を放たせたところでな、この巨大空間の全体を零度にまで冷やし続けるなんて真似、魔力消費のコストが不効率すぎて一瞬で全員の全細胞がガス欠を起こして自滅するぜ」
「いいや、心配いらないよ、ガルド」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべたまま、ハキハキとした足取りで一歩前へと進み、新設された巨大な氷保管室の真ん中へと滑らかに降りていった。
彼は大きな木べらを静かに置き、自らの両手のひらを、中央の巨大な水槽の水面へと向けて真っ直ぐにかざした。
体内に眠る、あの底の知れない莫大な水属性と氷属性の魔力の源泉が一気の奔流となって解放される。
(しまっていこう。俺自身の能力の出力制御はね、世界の基準から見れば未だに完璧に『最適化』している最中の段階だからね。だからこそ、一片の熱量のロスもない、最も正しい最小の手順の手際が必要さ)
これまでの数々の目まぐるしい死闘、そして何よりも、毎日の美味い飯の安定供給による全細胞の修復のプロセス。それらが、彼の体内にある過剰な魔力の繋ぎ目を、完璧な一本の直線へと強固に整え従わせていた。
他者の命を暴力で破壊するための戦争の凶器なんかじゃない。
みんなの毎日の生活の『快適さと生きやすさ』を最高値に維持し、豊かな飯の鮮度を守るという明確な最高の【目的】の軸。それに向かって魔力の対流を一点に収束させているからこそ、彼の宿すエネルギーはね、一パーセントの暴走の歪みも起こすことなく、不気味なまでに静かに、そして強固に安定して駆動するのさ。
次の瞬間、地下空間の全体の空気の質が、劇的な変化を遂げて一気に凍りついた。
パチパチ、と物質の結合が組み替わる心地よい大地の音が響き渡り、彼の手のひらの先から放たれた冷徹な純白の冷気の霧(白霧)が、水槽の全体を一瞬にして完璧に包み込んでいった。
流体の水分子が一分の遅延もなくカチリと硬化し、床の全体、石壁の表面を美しく白い霜の結晶で彩りながら、中央の空間にはね、肉眼で見上げるほどの圧倒的な質量を誇る、透き通った巨大な「永久の氷塊」の全体が、驚異的な速度で完璧に錬成されていった。
周囲で見守っていた何十人ものドワーフの職人たちが、その人間の次元を遥かに置き去りにした圧倒的な魔法の具現化の光景を前にして、驚愕のあまりに一斉に数歩後ろへとガタガタと後退した。
「……お、おい……嘘だろ……。なんだ、今の信じられないほどの冷気の質量は……」
「触れてもいねぇのに、全身の防具の金属が一瞬で凍りつきそうなほどに寒ぇぞ、クソッ!」
クルザードの白い額には、僅かに過酷な魔力駆動に伴う健康的な汗の粒が浮かんでいた。体内の消費エネルギーの絶対数はね、確かに通常の魔法使いの数百倍を軽く超えて膨大であった。
だが――彼の内側に宿るシステムは、ただの一分の一秒も、ガス欠の駆動エラーを起こして立ち止まることはなかった。
発酵パンや新酒の醸造で完全にマスターした、あの【魔力循環】と【魔力吸収】の高度な内部制御の仕組み。それがね、消費された分の熱量を、周囲の大気や地下水の対流から一瞬にして最高速度で回収し、体内へと澱みなくフィードバックし続けていたからね。
使い道が論理的に定まっているからこそ、力は無限の余剰を伴って美しく回り続けるのさ。
完成した、巨大な永久の氷塊。
一切の濁りもなく、陽光を美しく反射してきらきらと輝く、純度100%の透明な輝き。
そこから放たれる心地よい冷気の対流が、通気孔を伝って、新設された冷却庫の内部の全体を一瞬にして完璧な「零度の極楽環境」へと変貌させていった。
薬師のジェシカが、その氷の表面へと恐る恐るその素手を触れさせ、驚きのあまりに美しい銀髪を激しく揺らした。
「……本当に、ただの一一瞬の手際で、これほど巨大な冬の結晶をこの世界に生み出して見せたというのかい、お前は……」
「これほどの低温維持空間があればね、私がいつも調合室で管理に苦しんでいた、あの乾燥前の瑞々しい『高位の生薬草の保存』の工程にいたるまでをね、一パーセントの成分劣化もなく何ヶ月でも完璧に維持できるようになるわよ!」
「ああ、当然さ、ジェシカ。俺の計算に間違いはないよ」
クルザードは滑らかな動作で呼吸の対流を完璧に整えると、大きな木べらを手に持ち直して、ハキハキとしたよく通る声で告げた。
「すべての準備の手順は完璧に完了したよ。さあ、流れを滞らせないために、今すぐ最初の『実地試験の工程』を最高効率の速度で開始しよう」
夕方。
新設された巨大な冷却庫の強固な二重の防壁の向こう側にはね、集落中から集められたあらゆる極上の食材資源の全体が、一分の手戻りもなく整然とカウンターテーブルの上へと運び込まれて並べられていった。
先日仕留めたばかりの、あのオークの上位種の高品質な赤身肉の塊。
水揚げされたばかりの、あの災害級の海蛇の瑞々しい白身の組織。
港から一瞬の遅延もなく運ばれてきた、新鮮な海の魚の数々。
農地から回収されたばかりの、搾りたての家畜の最高の乳のボトル。
そして、実験農地からゴーレムを使って収穫されたばかりの、瑞々しい山の野菜の全体。
それらすべての物資が、零度の空気の流れの中に、美しく仕分けされて配置されていった。
前衛戦士のティグリスが、その冷却庫の内部へと足を踏み入れるなり、自慢の気高き虎耳をぴくぴくと敏感に動かして、その黄色い瞳を驚愕に見開いた。
「……すごいよ、クル! 空間の中にこれほど大量の生肉が積まれているっていうのにね、私のこの圧倒的な嗅覚の防壁にね、嫌な腐敗のノイズの匂いがただの一パーセントも漂ってこないのさ!」
「物質の劣化のスピードそのものがね、この氷の冷気によって完全にその場に『カチリと止まっている』のが肌で理解できるわ!」
ジェシカもまた、保管された肉組織の表面を一分ごとに厳しく検査(土壌分析の応用)しながら、確信に満ちた声を響かせた。
「ええ、完璧に変質が抑制されているわ。生体細胞の腐敗を引き起こす、あの有害な雑菌や目に見えない微細なカビの増殖のプロセスがね、この零度の温度管理の前にああってはね、一パーセントの能率も発揮できずに完全に動きを抑え込まれているわ」
「これ、ただの新商品の開発なんてレベルを遥かに置き去りにして、社会全体の歴史を根底からひっくり返す完全なる『最高の保存革命』そのものよ!」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべたまま、当然の事実を告げるように、深く首を縦に振って深く頷いた。
「ああ。生肉や生魚の保存期間の流れをね、これまでの数百倍の長さへと最大値に跳ね上げるのさ」
「これがあればね、単に過酷な冬の冷気の暴走を前にして一人も死なさずに乗り越える(冬を越える)だけの一時的な防壁の次元をね、最初から遥かに置き去りにできるからね」
「すべての季節においてね、手に入った豊かな富と食料の絶対量を一パーセントもドブに捨てることなく、組織の内部に最強の『余剰』として永久に蓄え続けることができるのさ」
余剰。その言葉の放つ本当の重みと大局の数式をね、クルザードは誰よりも冷徹に看破していた。
これまでの未熟な世界の不条理な社会構造においてね、すべての流民や農民たちが泥を啜って死んでいたのはね、社会の真ん中に毎日の生存の予測を担保するための『絶対的な食料の余剰』が最初から一パーセントも存在していなかったからね。今日食べる飯を仕留めるために全神経をすり減らしているような脆弱な集落ではね、それ以上の高度なインフラを発展させるための歯車は、最初から一秒も回りようがないのさ。
だが――この冷却庫の完成によって、この街の中に完璧な食料の余剰のラインが確立されみろ。
食料資源の維持と管理に何の問題もない余裕があるからこそね、集まった何千人もの新しい人的資源の力を、次の巨大なステージへ向けて全集中して振り分けることができる。
論理的な知識を学校でじっくりと学ぶための、高度な【教育】に時間を割ける。
インフラの量産体制をさらに何倍にも広く拡張するための、最先端の【研究】に才能を集中させられる。
他国との経済の主導権を完全に我が方で独占するための、最強の【商売】の流れを駆動させられる。
そして――いかなる不条理な暴力や略奪をも一撃のもとに完璧に制圧するための、強固な【兵の規律(防衛線)】の最大値を完璧に育て上げることができるのさ。
世界のすべての高度な文明というものはね、ただ力任せの暴力から生まれるんじゃないさ。この完璧に計算され尽くした合理的な『資源の余剰の真ん中』からこそ、新しく形作られて始まるものだからね。これが真に強固な建国の本質さ。
夜。
新設された巨大な木造の料理屋の内部においては、その冷却庫の新技術のポテンシャルを全員の舌で完璧に証明するための、最高峰の「試験料理のイベント」が完璧な流れを伴って美しく開始されていた。
数日間の間、零度の冷却空間の中で一分の細胞劣化もなく完璧に鮮度を維持され続けていた、あの海蛇の高品質な生の白身肉。
それを、クルザードの開発したあの最高の包丁の手際によって、向こう側が透けて見えるほどに極限まで薄く美しく切り出した、至高の薄切り。
そこへ熟成された最高の味噌の質量を滑らかに擦り込んで、直火の表面でササッと香ばしく炙り焼きにした、特製炙り肉の皿。
石鍋から激しく立ち上る白い湯気、そして人間の味覚の防壁を一瞬で粉砕するような最高の香りが広場を満たしていく。集まった何千人もの民たちは、その器を口に含んだ最初の瞬間、驚愕のあまり完全に言葉を失ってその場に硬直した。
「……う、美味ぇ。美味すぎるよ、何なんだよ、これは……! 数日前に獲れたはずの海の大蛇の肉組織がね、口に含んだ瞬間にね、今さっき水揚げされたばかりの一番新鮮な瑞々しい旨味を完全に放ってやがるぞ……!」
「皮の表面のサクサク感に、この溢れ出る極上の脂の甘み! 嫌な生臭さの澱みなんて、本当にただの一パーセントも残っていねぇぞ、嘘だろこれ!」
「こんな奇跡の技術があればよ、大気の熱い夏の大損の季節であってもな、最高の美味い魚や肉を毎日平然と腹一杯に貪り食うことができるじゃないか!」
一気に空気が変わる。食う速度が速い。皆、黙る。夢中。
大商人のヴァレリアが、そのスープの最後の一滴を咀嚼するようにして飲み干すと、最高の利益と時代の変革を確信した素晴らしい笑みを浮かべて口元を不敵にニヤリと釣り上げた。
「ははは! 凄いわね、本当に、お前という男の放つこの快適さの防壁は! これ、ただ市場で売れるなんてもんじゃないわよ!」
「アルフェイドの中央の巨大な市場を牛耳る、あの強欲な大商会の主たちがね、自慢の軍隊を動かしてでもお前のこの冷却庫の権利を100%完全に欲しがって押し寄せてくるわね!」
「さらに、この開通した港湾の設備と組み合わせることでね、世界中の海産資源の物流量の概念そのものがね、明日から完全に中央から終わって塗り替えられるわよ! とんでもない覇権の強さね!」
マチルダもまた、手元の帳簿にそれらの数値を書き込みながら、一人の政治の専門家としての確信を目を輝かせて口にした。
「ええ、完璧にその通りよ、お前。食材の『保存効率の著しい上昇』」
「それによって、俺たちの物資を劣化させずに運べる『輸送距離の爆発的な拡大』」
「輸送が伸びるからこそ、他国との間で主導権を独占できる『交易圏の無限の拡張』」
「ただこの地下に氷の部屋を一つシステム化しておくだけでね、俺たちの作ったこの集落全体の『国力の最大値』がね、一瞬にして天上のものへと劇的に変化するのさ。完璧な黒字の数式よ」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべたまま、自らの木椀を滑らかに傾けて当然の事実を告げた。
「食える範囲の流れがね、世界に向けて太く広く開通すればね、人間の本能の動きはね、自らの意思でそのルートを伝って活発に『動き始める』からね」
「人がこれだけ無駄なく動く場所にはね、彼らの長年の実地経験の資産や高度な『技術が勝手に流れ込んで動く』のさ」
「そして――物と人が世界一綺麗に循環するその『物流の完全なる掌握』こそがね、古い世界の不条理を完全に置き去りにして、世界で最も強固な最強の『国家』を勝手にその姿として作り上げるのさ。ただの、簡単な合理の計算さ」
もう、居合わせた誰も彼の放ったその壮大な建国のビジョンを、一パーセントも否定して笑う者などそこには一人も残されてはいなかった。彼らは全員、この元荷物持ちの青年が平然と見据えている未来の図面がね、これまでの歴史において例外なく完璧な正解として具現化してきたのを、骨の髄まで理解していたからだ。
翌日の早朝。
クルザードの放ったその冷徹な一手の成果はね、誰にも止めることのできない爆発的な波紋となって、アルフェイドの全域へと広く深く共有され、凄まじい噂の奔流となって広まり尽くしていた。
――おい、聞いたか! あの最果ての海岸線の村にはな、仕留めた肉??を一パーセントも腐らせずに何ヶ月も維持できる、奇跡の地下の部屋があるらしいぞ!
――あそこに行けばよ、大気の熱い夏の季節であってもな、泥水のような粗悪品を置き去りにして、毎日腹一杯の新鮮な魚や極上のオーク肉が食えるんだ!
――ずさんな環境のせいで人間が死ぬ病気のエラーなんて、最初からただの一パーセントも発生しねぇらしい! 冬の冷気の暴走を前にしてもな、餓死者の確定値が完全なるゼロを維持し続けている、最強の場所なんだってよ……。
人間の本能の動きは、いつだって極めてシンプルで簡単さ。
その引き寄せられる噂の流れを辿るようにして、古い街道の不条理な暗闇の向こう側からはね、自らの意思でこの場所への流入を求める、無数の新しい人的資源の命の流れが、完璧な流れを伴って美しくここへ向けて流れ込み続けていた。
富の流れの本質を嗅ぎつけた、目の高い大商人たち。
戦術の向上を確信した、熟練の冒険者の集団。
頑強な肉体を誇る、屈強な獣人の一族。
そして、世界の調和を象徴する、知性溢れるエルフの民たちにいたるまでの全体。
彼らは一様に、新しく開通した滑らかな道路を踏み締めながら、この村への本格的な「定住」を熱望して自らの意思で残る選択を選んでいた。
理由は極めて単純明快、この男の作った居場所の全体が、世界のどこよりも圧倒的に生きやすく、快適だから。ただそれだけさ。
武力を使って他者の命を暴力で破壊して支配しているわけじゃない。
恐怖を剥き出しにして、民の理性を不効率に脅迫しているわけでもない。
ただ、この場所に『快適さと生きやすさの軸』を完璧に整えておくだけで、人間は勝てにこちらの手元へと流れてくる。
肉体の疲労を200%完全に癒やし尽くす、最高の風呂がある。
胃袋の全細胞を満たす、最高に美味い大鍋の飯がある。
どんな古傷のエラーであっても、一瞬で元通りに修復される確実な治療がある。
脳細胞を最適化するための、学校での高度な教育がある。
各自の才能を最高値に発揮して対価を得られる、完璧な仕事の役割の振り分けがある。
そして、ずさんな不衛生によって子供たちが理不尽に死に絶えるリスクが、最初から完璧に完全消去されている。
その一つ一つの合理の工夫の積み重ねの真ん中にね、今日完全に完成を遂げたあの冷却庫のシステムがね、すべての機能美の絶対的な『象徴(防壁)』として、堂々と鎮座していたのだ。
深夜。
静寂が戻った料理屋の敷地の中で、クルザードはただ一人、魔導灯の最高の光を手にしながら、地下の冷却庫の空間へと滑らかな足取りで静かに降りていった。
室内を満たす、心地よい冷徹な冷気の対流。
完全なる無音の静寂。
そして、永久の氷塊が放つ、神秘的な純白の輝き。
彼は大きな木べらを置き、新設された強固な石壁の表面へと、その素手を静かに触れさせた。
(……素晴らしいね。だが、一パーセントの満足をして立ち止まる気はないさ。構造の細部にはね、未だに改良の余地(不効率な歪み)が計算できるからね)
もっと魔力の消費コストを最適化するための、高度な【魔導化】の組み込み。
冷気の流れを一分の一秒のロスもなく回し続けるための、完璧な循環ラインの補修。
断熱材の結合強度をさらに何倍にも広く引き上げるための、徹底した改善の工程。
やるべき仕事の役割は、彼の頭脳の中に宿る合理主義の数式の中に、それこそ無限の余剰を伴って溜まり続けていた。
彼が次なる変革のビジョンへと意識を一点に集中させた、まさにその一瞬の流れの真ん中において、世界の真実を映し出す鑑定の無機質なデータが、脳内へと直接クリアな文字の更新として流れ込んできた。
『――個体名:クルザード。物質の低温管理、および流体の制御能率が限界値を突破。システムレベルの上昇を検知――』
『新スキルの獲得を捕捉:【氷属性熟練度上昇】、【温度制御適性獲得】の各コマンドが完全に駆動開始――』
『効果:空間の保存の維持効率に、最高値の【保存効率補正】が自動適用――』
『内部における魔力の駆動能率が跳ね上がり、【魔力循環精度向上】の因果関係を完全に捕捉完了――』
クルザードは痛む頭を押さえながらも、静かに自らの目を閉じ、体内に新しく流れ込んできた最高の流体制御の感覚を確かめた。
少しずつ、一歩ずつではあったが。彼の肉体と能力のスペックはね、間違いなく、そして圧倒的な最高効率の速度で強固に強くなり続けていた。
戦場で力任せに剣を振るうための、そんな前時代的な戦闘の強さなんかじゃないさ。
民の毎日の生活の全体を最高値に支え抜き、一人も無駄に死なせないための、最高の生活を支える力。
そして、すべての不効率な澱みを一瞬で完全に消去して、一国を最も正しいルートへと向けて完璧に動かすための、『真の国家のインフラの力』。そのすべての資産が、彼の両手のひらの中に、一分の手戻りもなく着実な数値として積み上がり続けていたのだ。
地下の階段を滑らかに上り、地上の広場へと戻った時、彼の目の前には、夜の帳を温かく押し返すような、集落の無数の家々から溢れ出る最高の灯りの煌めきが広く広く広がっていた。
至る所から響き渡る、人間の心からの暖かな笑い声。
喉の渇きを潤す、最高の温かい酒。
大鍋から立ち上る、濃厚な海藻出汁の豊かな湯気。
そして、衣服を包み込む、最高の生活の温かい匂い。
夜遅くの実務を終えた農民や職人たちが、同じ純木製のテーブルを囲み、あの特製の味噌鍋の火を囲んで大声を上げて笑い合っている。子供たちが、明日の生存への確実な予測を掴み取って、母親の腕の中で安心して深い眠りに就いている。
ほんの数ヶ月前の、あの死臭と絶望だけがまかり通っていた最悪の辺境の土地にはね、絶対にあり得なかったはずの美しい最高の光景がそこにはあった。
冷却庫。
それはね、ただの冷たい氷の塊を部屋の中に置いたなんて、そんな浅い小手先の味付けの手順なんかでは最初からただの一片すらもないのさ。
それはね、食材の細胞の結合を極限まで硬化させ、時間の不効率な経過を一瞬にして完全に制動する『時間を止める最高の技術』。
物質の劣化の因果関係を100%完全に引き剥がし、腐敗の不条理をこの世界から綺麗に駆逐するための『文明の本質そのものの具現化』だったからね。
立ち上る豊かな白い湯気、そして最高の味噌の香ばしい煙の向こう側で。
最果ての海岸線を暖かく照らし続ける、最高の灯りは、明日への確実な生存の予測と共に、新時代の偉大なる最強の“国家の形”を、今、完璧な速度で力強く、自由な活気の奔流を伴って美しく駆動させ、また一段階、確実に“国”の本質の地平へと向けて近づいていくのであった。




