31:畑
農業。
朝靄の向こう側で、漆黒に輝く肥沃な土壌が、内側から沸き立つような白い蒸気を一斉に立ち上らせていた。
雪解け。
あの過酷で冷酷な冬を完璧な生存率で越えきった最果ての大地は、天からの瑞々しい恵みをその細胞の奥底までたっぷりと吸い込み、今、ゆっくりと大いなる生命の息吹を吹き返しつつあった。
クルザードは新しく区画整理された広大な畑の中央に堂々と立ち、しゃがみ込んでその黒い土を素手で一掴みすくい上げた。
肌に触れる感触はまだ僅かに冷たい。だが、この大地に宿る命の対流はただの一パーセントも死んではいなかった。
指先で滑らかに力を込め、土の塊を崩していく。
水分量。
粘土の比率。
有機質の堆積状態。
そして、土壌の内部で活発に駆動を始めている目に見えない微細な発酵菌たちの蠢き。
彼の視線が固定された瞬間、瞳の奥で「鑑定」のシステムが鮮烈に起動し、脳内へ直接真実の数値を流し込んできた。
以前の未熟だった初期段階とは、根本からすべて格が違っていた。
生まれたばかりのあの最悪な時期にはね、自らの意思を無視して脳へ直接流し込まれる意味不明な文字列、処理不能なデータの洪水にただ押し潰され、顔をしかめることしかできなかったあの力。
だが、現在の彼の頭脳は、その過剰なエネルギーの質量を、状況の看破に不可欠な最高の生産の数式として完璧に支配していた。不要な情報を雑音として脳内で即座に切り捨て、今この場所の農業生産を最高効率へ導くための、最も正しいデータだけがクリアに浮かび上がってくる。
「――中央第二区画、植物の成長に必要な窒素成分の絶対量が数パーセント不足しているね」
「水路の三番、上流からの熱対流の乱れによって微微な流量低下を起こしている。速やかな補修が必要だ」
「それから西側の開墾地、土壌の数値が僅かに酸性寄りへと傾いて駆動エラーを起こしかけているよ」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべ、気さくなトーンのまま、ハキハキとした明晰な声で次々と大地の欠陥を口に出していった。中身のない軽口や無駄なお世辞は一切叩かない。ただ、全体の流れを最適に整えるための「判断」を告げる。
すぐ隣で、マティルデが自慢のぶ厚い帳簿へ向けて、その数字のデータを一分の澱みもなく滑らかな手際で正確に書き込んでいった。
「はは、相変わらず見ていて背筋が凍りつくほどに便利というか、常識外れな頭脳の駆動ね、お前は」
「便利なんかじゃないさ、マティルデ。俺の頭の中に流れ込んでくる世界の因果関係の数値がね、ようやく無駄のない正しい処理の意味を持ち始めただけだよ」
クルザードはすくい上げた土を滑らかな動作で大地へと戻し、ハキハキとした足取りで歩みを進めた。
遥か遠くまで広がるその農地の全体では、何百人もの農民たちが自らの役割に沿って活発に手を動かしていた。それは、これまでの古い世界の人間たちが作ってきた、あの不効率で雑多な畑とは、根本からすべて格が違う完全なる機能美の結晶であった。
寸分の歪みもない直線で描かれた、見事な整列。
一目の識別を可能にする、徹底された区画管理の防壁。
すべての水流の能率を一定値に維持する、水路番号の設置。
そして、植えられた作物の性質を一瞬で見極めるための、厳格な種別管理のライン。
学校で数字の概念を学んだ民であれば、誰が見ても一瞬で完璧に理解できる強固な構造がそこにはあった。
そして何より――そこにいる人間の絶対数が、過去のどの季節よりも爆発的な奔流を伴って跳ね上がっていた。
この極寒の冬の間、外の領地が飢餓で全滅する中でね、この崖の上の集落だけが『餓死者ゼロ』という驚異的な最高の結果を叩き出し続けた。その厳然たる生存の噂が、周辺の全域へ向けて爆発的な勢いで広まり尽くしたからだ。
本格的な冬を何の問題もなく完璧に越せる村。
どこよりも腹一杯に極上の美味い飯が食える村。
ずさんな環境の悪化による無駄な病気で、人間が途中で死なない村。
そんな人間の本能が最も激しく欲する絶対的な「生きやすさと快適さ」が完璧に揃った最高の場所をね、傷つき追いつめられた民たちが自らの意思で放っておくわけがなかったのさ。
「クルザード!」
泥を力強く踏み締める重い足音を響かせながら、虎獣人のティグリスが、自慢の長槍を肩にしなやかに担いで大股で歩み寄ってきた。その頭頂部にある立派な虎耳が、活気に満ちた風の対流を敏感に拾って活発に揺れ動いている。
「東側の未開領域における、大規模な『開墾の工程』ね、予定の計算を遥かに置き去りにして最高速度で完了したよ!」
「想定の範囲内を上回る素晴らしい能率だね、ティグリス。人員の配置に何か非効率な澱みでも生じたかい?」
「いいや、完璧さ! 新しく陣形に組み込んだ、あの獣人の若者たちの肉体駆動のスタミナがね、人間の数倍を軽く超えて最高値の出力を放っているからさ!」
実際、それは完璧に計算され尽くした合理的な結果であった。
天性の強靭な身体能力。
どれだけの重労働にも耐えうる、圧倒的な持久力の数値。
そして、岩盤をなぎ倒すための土木適性の高さ。
獣人という種族の持つ潜在的なスペックはね、この大規模な農地開発の初期の工程において、最も爆発的な最高効率の相乗効果を発揮する最強の歯車だったのだ。
しかも――現在の彼らの肉体は、クルザードの放つ至高の飯によって、全細胞の栄養状態が外の家畜のような民とは根本からすべて格が違っていた。
最高の状態を維持しているからこそ、翌日からの労働能率を極限まで跳ね上げて働ける。
働けるからこそ、手に入った富の資産がこの場所に積み上がり、村の全体の防壁がさらに最強に強くなる。
すべてが、一パーセントの手戻りもない完璧な「最高の循環の流れ」を伴って勝手に回っていた。
「最高腕のガルドは今、どのセクションの役割を駆動させているんだい」
「あの頑固なドワーフならね、厨房の裏の鍛冶場で、大喜びで新しい『鍬の改良の工程』に熱中しているよ」
「またかい? 彼は本当に、物作りの能率を追求することに関しては、一秒の妥協も挟まない職人だね」
「ああ、今度はね、刃の先端に鉄の芯を精密に埋め込むことで、硬い岩盤であっても一瞬で粉砕して耕せる、特注の最高効率の道具を量産しているらしいわ」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべた。
ドワーフの技術者という生き物はね、自らの才能を最高値に発揮できる正しい仕事の役割を真ん中に与えておくだけでね、こちらの想像を遥かに超えて、勝手にどこまでも進化し続ける最高の歯車だからね。
だから俺は、彼らの行動を力ずくで規制するような不効率な真似は一パーセントもしないさ。ただ自由にやらせて、完成した最高の成果の利得だけを組織の真ん中へ完璧に拾い上げるだけさ。極めて合理的だろ?
彼らはさらに足を速め、新しく開通した大規模な開墾地の最前線へと向かった。
ほんの数週間前まではね、ただ不気味な化け物がのたうち回るだけの暗黒の森だった場所。
しかし今のそこには、邪魔な澱みの巨木が最高速度で完璧に伐採され、ガルドの特注の道具によって大地が滑らかに耕し尽くされ、周囲の主要水路からの瑞々しい水の一本に繋がって澱みなく通っていた。
その視界のすべてを埋め尽くすほどの、圧倒的な農地のスケールの広大さ。
「……う、嘘だろ。おい。この目の前に広がっている終わりのない広大な平地のすべてが、本当に俺たちの食える飯を吐き出す『畑』に変わっていくっていうのか……」
新しく外の地獄から流入してきたばかりの、痩せ細った流民の若い男が、その規格外の建設のプロセスを前にして、驚愕のあまりに泥の中に膝をついて呆然と呟いた。
その真横に立つ、杖を握りしめた老人の民もまた、開いた口が塞がらないといった顔で涙を流していた。
「一生かかっても拝めねぇような奇跡の光景だ……。王国の大商会が軍隊を使って開く農地であってもな、これほどの完璧な速度と美しさで土地が生まれ変わるなんて、絶対に常識があり得ねぇ……!」
通常の古い世界の人間たちの常識の計算から見れば、こんな大規模な拡張は100%絶対に不可能であると平然と言い訳を叩くだろうね。
開墾を行うための十分な人手が足りない。
硬い岩盤を穿つための高度な道具の絶対量が足りない。
そして何より――作業を行う人員の命を維持するための、食料の備蓄残量が最初から破綻しているからね。
でも、クルザードの構築したこの一大交易都市の内部においては、そんな非効率な言い訳のバグは最初からただの一片すら存在してはいなかった。
俺たちの手元にはね、あの過酷な冬の前に徹底して余らせて蓄えられた、無限の食料資源の圧倒的な余剰(飯)があるからね。
腹が完璧に満たされているからこそ、集まった何千人もの優秀な人的資源の力を、一分の出し惜しみもなく最高効率でこの開墾の重労働へと振り分けて動かせるのさ。
次に、ガルドの量産した鉄芯入りの最高の道具が揃っている。
さらに、水流を一定に制御する水路のインフラ。
無限の長期の維持を担保された、最高の保存食の数々。
そして、質量を完全に無視して物資を運ぶ、あの完璧な物流のシステム。
すべての土台の歯車が最初から美しく噛み合って回り続けているからこそ、この場所はね、世界の誰の追随も許さない圧倒的な速度で、自らの領土の規模を無限に拡張し続けることができるのさ。
「土の搬入のラインを滞らせるな! 設計の座標通りに均等に敷き詰めろ!」
「植え付け用の苗の第一陣はこっちだ! 一列になって順番に真っ直ぐ並べなさい!」
「主要水路のバルブを開放しろ! 水の流れをただの一秒も止めるんじゃないぞ!」
現場の至る所から、ハキハキとした住人たちの活気ある声の差配が飛び交っていた。しかし――これほどの過酷な大所帯の実務の最中にあっても、現場に無駄な大混乱や手戻りの澱みは、ただの一パーセントも発生してはいなかった。
理由は極めて単純、クルザードの作ったあの学校での教育のインフラが、彼らの脳の駆動効率を最高値へと完璧に最適化し尽くしていたからだ。
簡単な文字の読み書き。
一分の狂いもない正確な数字の概念。
任された区画の正確な座標の把握。
そして、集団の中での自らの明確な役割のインプット。
人間という生物はね、正しい論理の知識を一度頭脳の中にシステムとしてインプットしてしまえばね、他者に騙されることなく自らの意思で最高効率の駆動を回せる、最強の資産へと変化するのさ。クルザードはその大局の真実を、誰よりも冷徹に理解して動かしていた。
主要水路の防壁沿い。そこでは魔法使いのドロテアが、自慢の杖をしならせながら、体内の水属性の魔力を極限まで緻密に解放して、押し寄せる雪解け水の水流の圧力を一定値へと滑らかに調整し続けていた。
かつては迷宮の底で、他者の命を暴力で破壊し合うためだけに不効率に使われていたあの強大な魔力のエネルギー。しかし現在のこの場所において、その力はね、街全体の生命線を豊かに潤すための最高のインフラとして、100%完全にその使い道のルートを書き換えられていた。
「全体の流量の制動、完璧に適正値を維持しているわよ! 澱みは一パーセントもないわ!」
「西側の新農地へ向けて、水門の全開放のラインを流すわよ!」
ドロテアの放った精密な流体の制御に従い、瑞々しい水の濁流が、新しく鋪装された側溝を伝って広大な畑の全体へと滑らかに広く行き渡っていった。
大地の全細胞が水分を吸い込み、一瞬にして劇的な活力を取り戻して生き返る。
その圧倒的な近代的なインフラの具現化の光景を前にして、集まった農民たちの瞳の質が、激しい感動の色を孕んで劇的に変わっていった。
「す、すげぇ……。こんな何十ヘクタールもの巨大な平地の全体に、ただの一瞬で完璧に均等に水が走っていくなんて……」
「王都の最上位の貴族様たちが、膨大な奴隷を使って何年もかけて引く水路であってもな、これほど綺麗に計算された水の流れは絶対にあり得ねぇぞ、嘘だろこれ!」
当然さ。王都の中央の傲慢な権力者どもはね、手に入った貴重な富の資産のすべてを、己の不確実なプライドを満たすための『無駄な見栄の装飾や城壁の肥大化』にしか使わないからね。そんな非効率極まりない大損の流れを叩いているから、いつまで経っても地方の民は泥を啜って飢え死にするのさ。
だが、俺の合理主義は違う。手に入ったすべての富と魔力のエネルギーはね、この場所の全体の「生産性と駆動効率を最高値に引き上げるためのインフラ」にこそ、100%完璧に全集中して投資するからね。それだけで、外の古い世界のやり方とは、最初の一歩から数百倍の圧倒的な生産力の『差』が勝手に出るのさ。
「クルザード、ちょっとそこにいるかい」
上品な足取りで廊下を歩み寄りながら、エルフの薬師ジェシカが、自慢の植物の籠を両手で滑らかに抱え込んでこちらへと近づいてきた。
籠の内部を覗き込むと、そこにはクルザードの【微細制御】の熱効率によって完璧な脱水処理を施された、最高品質の「乾燥薬草の数々」が、整然と並べられていた。空間全体を心地よく包み込む、独特の濃厚で瑞々しい薬効の香気。
「俺たちの設計した、あの『特注の薬草区画の量産ライン』の駆動状態はどうだい、ジェシカ」
「ええ、完璧に安定値を超えて大成功を維持しているわよ。お前の計算の通りね」
ジェシカは籠の中の葉を指先で愛おしそうに撫でながら、ハキハキとした声で言葉を続けた。
「体内のあらゆる毒素を一瞬で中和して消し去る、最高の《解毒草》」
「肉組織の破裂を完璧に塞いで無菌化を担保する、至高の《止血葉》」
「そして、冬の残りの熱病のシステムを一瞬で完全に制動する、最上の《熱冷まし》」
「かつてはね、迷宮の最深部にしか自生していなかったあの貴重な高位の薬草の数々がね、今やこのお前の作った畑の仕組みの中で、ただの野菜と同じ手順で何の手戻りもなく大量に栽培(量産)され続けているのだからね。これ以上の医療の防壁はないわよ」
これこそが、組織の生命維持において最も強固な最強の循環へと繋がっていく。
最高品質の薬草が無限に量産されるからこそ、集落全体の医療の防壁は世界一強くなる。
医療が安定するからこそ、不衛生による子供たちの死亡率の数値は一パーセント未満の完全なゼロへと中和され、無駄に命を落とす人的資源のロスが完全消去される。
子供たちが健康に育ち、大人の労働力が途中で欠損しないからこそ、蓄積された技術がさらに太く広がり、人口の絶対数は爆発的な奔流を伴って前進を続ける。
ただ、この場所に『生きやすさの軸』を完璧に整えておくだけでね、すべての因果関係は一本の美しい数式として繋がって駆動するのさ。
「ここ最近の、全体の『病人の発生率のグラフ』の動きもね、劇的な最低値を更新して減り続けているよ」
「当然よ、お前。あの天国のような最高のお風呂の稼働の効果が、何よりも圧倒的に大きいのさ」
ジェシカが真顔になって即答する。
「それだけでなく、お前の魔法で精製されたあの不純物のない『最高の清潔な地下水』の供給ルートね」
「医学の本質においてね、衣服や肉体を常に綺麗に保つこと、そして雑菌のない清潔な水分を胃袋へ流し込むこと。ただそれだけの当たり前の手順がね、不条理な疫病のシステムを内側から完璧に叩き潰すための、何よりも最強に強い絶対の防壁になるからね」
衛生の管理。最初の一歩の段階においてはね、この街に集まった底辺の荒くれ者たちは誰一人としてその本当の価値を論理的に理解してはいなかった。身体を洗うなんて時間の不効率だ、水はただ喉を潤せばそれで十分であると、前時代的な言い訳のバグを叩いていたからね。
でも、現在の彼らは全く違っていた。クルザードの冷徹な「判断」の指示の通り、毎日の労働の前に自らの手を最高値に無菌化して洗い流すこと。水を汚水と完全に『分ける』こと。体内の汚物を排水溝を通じて一瞬で外部へと安全に流し去ること。
ただそれだけの合理の工夫を徹底しておくだけでね、無駄な病気の発症率は完全に綺麗に駆逐され、人間が理不尽に死ぬリスクは完全消去されるのさ。生き残った彼らの頑強な肉体はね、翌日からの新農地の開墾を、何の手戻りもなく最高速度で手伝ってくれる最高の歯車に変わる。だから村が最強に強くなるのさ。
日の傾き始めた昼過ぎ。
大規模に新設された料理屋の広大な炊き出しの分配所からは、昼の過酷な重労働を終えたばかりの農民たちの全細胞を芯から満たすための、最高の「農作業用の給食」の数々が、一分の遅延もなく完璧な流れを伴って次々と配給されていた。
限界まで濃厚に煮出された、あの魚節と海藻出汁の完璧なブレンドベース。そこに熟成された最高の味噌の質量を溶かし込んだ、熱々の特製味噌汁。
直火で皮の表面をサクサクに焼き上げられた、肉厚な海魚の塩焼き。
そして、新しく開通した独自の農地から収穫されたばかりの、最高の栄養価を誇るあの温かい「麦飯」の山。
さらには、高温の蒸気調理の仕組み(スチームシステム)によって、たまり醤油の芳醇な旨味を一瞬で芯まで擦り込まれた、あのオーク肉の最高の野菜炒めの皿。
石鍋から激しく立ち上る白い湯気、そして人間の本能を胃袋の底から直接支配するような最高の香りが広場を満たしていく。
「お代わりのラインはここに完璧に用意してあるわよ! 一列になって順番に真っ直ぐ並びなさい!」
拳闘士のステファンが、よく通る快活な声を張り上げて民たちの動線を滑らかに誘導していく。
集まった農民の職人たちは、木椀を両手で大切そうに包み込みながら、口々に心からの温かい笑顔を浮かべて大声を上げて笑い合っていた。
「あぁ、本当に何て言うか、この村の飯の格の高さはね、本気で毎日の生きる活力が違ってくるぜ!」
「不条理な王都の不潔な市場で泥の黒パンを齧っていたあの頃に比べてよ、俺は今、完全に人生の中で一番最高の極上のタンパク質を毎日平然と腹一杯に貪り食っているぞ!」
「しかも、クルの作ったこの味噌と醤油の味付けね、一一口口に含んだ瞬間に脳の全神経が蕩けて消え去るほどに美味すぎるんだ!」
それこそが、一パーセントの手戻りもない最も重要な基礎なのだから。
ただ不確実な感情論で腹を満たすだけじゃない。五感を直接震わせるほどに極上に美味いからこそね、集まった何千人もの優秀な人材たちは、古い世界のすべてを完全に置き去りにして、自らの意思でこの場所に強固に定住し、残るのさ。
人が離れずに蓄積され続けるからこそ、彼らの持つ貴重な技術と才能の資産はね、何年先の未来へ向けても色褪せることなくこの場所に残り続ける。食料資源の適切な維持と管理こそがね、人間の本能の心理の流れを完璧に支配するための、最も強固で最強の『王道』なのだから。
「クルザード様! クルザード様、見て見て!」
新しく舗装された道路の向こう側から、泥だらけになりながらも、その瞳をきらきらと輝かせた小さな子供たちが、短い足を活発に動かして猛烈な勢いでこちらに向けて走ってきた。
彼らが、自らの小さな両手で誇らしげに掲げて見せてきたのは、ガルドの加工した簡易な木板の組織であった。そこには、マティルデの学校で一から完璧に仕込まれた、拙くはあるが、一本の歪みもない直線で描かれた綺麗な文字の形が、確かに刻まれていた。
子供たちは自分の名前の文字を、自らの手で完璧に書き表せるようになっていたのだ。
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべ、彼らの木板をその穏やかな瞳でじっと見つめると、ハキハキとした明晰な声で一言だけ頷いた。
「――完璧だね。一パーセントの無駄な歪みもない、最高の美しい上手な文字の形だよ」
「やったぁー! クルザード様に褒められたぞー!」
子供たちは、その気さくな一言を手にしたただそれだけの瞬間に、心からの温かい笑顔を爆発させて、再び嬉しそうに学び舎の方角へと元気いっぱいに走っていった。
元伯爵令嬢のマティルデが、その子供たちの去っていった背中を少し離れた廊下の位置から見つめながら、美しく口元を緩めて複雑な苦笑を漏らした。
「……本当に、不思議で奇妙な光景ね、クル」
「何が不思議なんだい、マティルデ。割り当ての手順に、何か非効率な澱みでも生じているかい?」
「ううん、構造的には完璧よ。そうじゃなくて……普通の国や領地においてね、これほど急激に何千人もの爆発的な人口の流入が発生してみなさい」
「限られた食料の奪い合いによる、深刻な食料難の問題」
「ずさんな環境の悪化による、最悪の疫病の蔓延」
「そして、生き残るために他者から略奪を働く、治安の急激な悪化のバグ」
「そのすべての最悪のエラーがね、最初の一歩から一斉に暴走して、街全体が内側から自滅して崩壊するのが世界の厳然たる常識の数式なのよ」
「それなのにね、お前の作ったこの場所は違うわ。人口が増えれば増えるほどに、全体の防壁の規律はね、逆に何倍にも強固に太く固まって安定し続けているのだからね。常識の計算があり得ないわよ」
クルザードは自らの木椀に注がれた温かい味噌汁を滑らかな所作で一口啜ると、真顔になって当然の事実を告げた。一片の驕りも、大言壮語の気配すらそこには宿ってはいない。
「――物事の発展の『順番』の計算がね、古い特権階級の連中とは、根本からすべて逆のルートを通っているからだよ、マティルデ」
「順番、ですか?」
「ああ。普通の未熟な連中はね、見栄の城壁や軍隊の力を先に誇示して大損を出すからね。だが俺は違う」
「第一の手順として、みんなの胃袋の全細胞を完璧に満たすための、最高級の『飯の安定化』を最優先の軸として完全に掌握した」
「第二の手順として、無駄な病気のエラーを完全消去するための、最高の清潔な『水路のインフラ』を新設した」
「第三の手順として、他者からの不条理な略奪を100%完全に遮断するための、強固な『治安の規律』をシステム化した」
「そして最後の仕上げとして、彼らの脳の駆動効率を最高値に最適化するための、あの学校での『高度な教育』の流れをインプットした」
「基礎の土台がこれだけ無駄なく完璧に固まっているからこそね、外からどれほど巨大な命の質量が流れ込んでこようともね、全体のシステムは一パーセントの揺らぎもなく、さらに高次元のステージへと勝手に前進し続けるのさ。ただの、簡単な合理の計算さ」
マティルデは彼のその非の打ち所がない完璧な大局の先を見据えた言葉を聞くと、息を呑んで深く深く沈黙した。
「……お前、本当に国家の最高幹部すら置き去りにするような佇まいね。一国の『国家運営の専門書』の図面でも、過去にどこかで読んだことがあるの?」
「いいや、まさか。そんな過去の不確実な記述の本なんか一パーセントも読んでいないさ。ただ、俺のこれまでの人生の中でね、腹が不条理に減って生存の危機に瀕した人間たちがね、どれほど無残に駆動エラーを起こして壊れて死んでいくか、その最悪の不効率な澱みの現実をね、真横で誰よりも冷徹に数多く見つめてきた、ただそれだけのシンプルな経験の結果さ」
シンプルではあったが、それ故に、世界のいかなる虚飾の法律や宗教よりも揺るぎない、絶対的な「真理の本質」がそこにはあった。
日の傾き始めた午後。
新しく開通した新農地の最前線においては、ガルドの開発した最新の「第二世代の物流ゴーレム」の集団が、泥を踏み締めながら凄まじい馬力を帯びて活発に駆動していた。
大容量の土砂を一瞬で運ぶ、完璧な土の搬入。
地表に転がる邪魔な岩石の残滓を、一分の遅延もなく排除する、強固な石除去。
そして、水流を通すための凸凹の泥の道を、最高の速度で切り拓いていく、水路の掘削の実務。
通常の人間を何百人も無駄に動かすコストを完全にゼロに抑え込み、その作業駆動効率の数値は格が違っていた。
「がははは! 見ろよ、小僧! 我がドワーフの一族の最高の技術の結晶、第二世代の物流ゴーレムの完全なる完成だぜ!」
最高腕のガルドが、自慢の特注の鉄骨のパーツを叩きながら、崖の上全体に響き渡るような豪快な大笑いを炸裂させた。
「お前の計算通りの出力を放つためにな、骨組みの内部の鉄骨の密度を通常の数倍にまでぶ厚く強化してやったぜ! さらに、車輪の繋ぎ目のベアリング構造もな、一分の摩擦抵抗のロスもなく滑らかに回転するように完璧に改良し尽くしてやったからな!」
「確かに、見た目の数値としてはかなり重量が増して重厚になっているね、ガルド」
「がははは! 重いのは当然さ! だがその分な、一度の搬送のラインで運べる物資の絶対量はこれまでの数倍へと跳ね上がっているし、何より、どんな過酷なぬかるみの道であっても、一パーセントの部品の摩耗も起こさずに絶対に『壊れにくい強固な防壁』へと進化しやがったのさ!」
素晴らしいね。ドワーフの職人としてのプライドの利得が、完璧に形になって現れている。
道路が強く、物流のインフラが100%完璧に担保されている街はね、どんな不条理な世界の異変を前にしても、内側から一瞬で完全に止まって死ぬリスクを最初から完全消去できるからね。冬の過酷な時期であっても、一パーセントの遅延もなくすべての富の流れを維持し、飢えの不効率を最初から綺麗に駆逐できる。
そして何より、その圧倒的な快適さがあるというただ一つの事実が、世界中からさらに多くの優秀な人間を、ここへ向けて勝手に流し出す最強の誘因になるのさ。すべては一本の美しい因果関係の線として繋がっていた。
夕方。
新しく舗装された強固な村の門の正面、春の柔らかな朝霧の向こう側の街道から、これまでにないほどの大規模な質量を持つ、新しい「流民たちの遠征部隊」の集団が姿を現した。
その総数は、一回の流入としては過去最高値を更新して、一瞬で「百人近く」に達しようとしていた。
過酷な旅によってガリガリに痩せ細った農民の集団、自慢の道具を抱えた本物の職人、そして小さな子供たちの姿。彼らは全員、泥と潮風に塗れて衣服をボロボロに崩れさせていた。
「……クル。さすがにこれほど急激に、一度に百人規模の新しい命の質量を増やしてしまって、彼らを受け入れるだけの倉庫のキャパシティは、本当に大丈夫なのかい?」
盾士のベッティーナが、大盾を構え直しながら、僅かに心配そうな目を向けて尋ねた。
「ああ、何の問題もないさ。一分の躊躇もなく、生きたまま完璧に全員を『受け入れる』よ。当然の判断さ」
「限界の数値の上限は、一パーセントも関係ないのかい?」
「俺の計算の通り、組織の内部にはね、彼らの胃袋を満たすための食料資源が、まだまだ無限の『圧倒的な余剰(余裕)』として倉庫の底に完全に余り倒しているからね。何の手戻りもないさ」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべ、一片の迷いもなく言い放った。
あの過酷な冬の前に徹底して仕込みを完了させておいた、最高峰の保存食の数々。
熟成された至高の味噌の木桶。
芳醇な煙を纏った、極上の燻製肉。
一掴みで最高のスープを錬成する、最高の魚節とオーク節の備蓄。
純白の高純度な塩による、精密な塩漬けの防壁。
そして、人間の精神を温め尽くす、あの最高の酒粕の資産にいたるまでの全体。
一欠片の細胞の無駄な廃棄も出すことなく、すべての資源を最高効率で再利用する彼の管理の仕組みがあるからこそ、この場所には無限の富が勝手に生み出され、どこよりも強固に駆動し続けているのだ。
新しく流入してきた百人近くの流民たちはね、村の門を一歩潜り抜けたその最初の瞬間、自らの商人の常識を根底から完全に木端微塵に叩き潰す光景を前にして、驚愕のあまりその場にカチリと完全に凍りついた。
「……お、おい、嘘だろ。何だ、ここは……。本当に、最果ての海岸線の泥地のはずだぞ……」
「建物の全体から、これほどまでに濃厚で美味そうな、温かい飯の煙が天高く立ち上り続けているぞ……!」
「未舗装のぬかるみなんてどこにもない、見事な石畳の道路が一本の線で綺麗に繋がっているじゃないか……!」
「おまけに、あそこにいる子供たちの肌の質を見てみなさい……冬の直後だというのに、誰一人として飢えに喘ぐことなく、心からの笑顔を浮かべて大声を上げて笑い合っているぞ……!」
通常の地方の古い村であればね、冬の冷気の暴走の直後というものはね、すべての民がガリガリに痩せ細って死の気配だけが支配しているのが当たり前なのさ。
なのに、このクルザードの差配する空間だけは、全く異なる世界の時間がどこまでも暖かく、力強く生きて駆動し続けていた。
「遠路はるばる、俺たちの最高の居場所へようこそ。ルールに従ってくれるならね、一分の出し惜しみもなく全員を歓迎するよ」
案内役の実務を任された住人たちが、一分の手戻りもなく仕組み化された動線に沿って、滑らかな手際で彼らの身柄を誘導していった。
「第一の手順として、直ちにあのお風呂の区画へ移動して、肉体の全細胞を骨の髄まで完璧に綺麗に洗い流して洗うんだよ」
「第二の手順としてね、厨房の特製味噌汁の配給ラインへ回って、腹一杯に最高の温かい飯をその胃袋に流し込むのさ」
「そして体調の修復が完璧に完了したその次の手順としてね、クルザードの指示通りの最適な『仕事の話』の役割を、最も無駄のないルートで進めてあげるからね」
新しく集まってきた流民の男たちは、その完璧な規律の提示を聞いた瞬間、驚愕のあまりその黄色い目を激しく丸くして見開いた。
「し、仕事……? 命を理不尽に奪うための奴隷の鎖じゃなくて、俺たちみたいな浮浪者に、本当にここで真面目に働ける役割を、最初から用意してくれているって言うのか……?」
「ああ、当然さ。開墾した新農地の畑の絶対数がね、これだけの人的資源を迎えてもまだまだ決定的に足りないくらいだからね。仕事はいくらでもあるよ、最高のチャンスさ」
その瞬間、広場を取り囲んでいた流民たちの全体の空気の質がね、これまでの生存の絶望の暗闇からね、明日への確実な予測を掴み取った最高の『希望の光』の対流へと、一瞬にして完璧に、そして劇的に書き換わった。ほんの少しの、しかし決定的な世界の変革の瞬間の誕生。
夜。
集落の全域を一望できる小高い高台の上に佇み、クルザードは月明かりを美しく反射してきらきらと輝く広大な新農地の畑の全体を、静かに見下ろしていた。
水面を美しく光らせながら、一本の完璧な直線で地平の先へと走り続ける主要水路の輝き。
何の手戻りもなく整然と区画整理された、最高の農地の大地の広大さ。
街の至る所から溢れ出てくる、橙色の最高の灯りの絶対数。
そして、夜の帳を温かく包み込むような、何千人もの民たちの心からの深い笑い声。
彼の真横を、泥をしなやかに踏み締める重い足音を響かせながら、虎獣人のティグリスが滑らかな動作で並んで腰を下ろした。
「……あぁ、本当に、日を追うごとに毎日恐ろしい勢いでどんどん大きくなっていくね、お前。崖の下の水平線の先までね、灯りの数が広く広く広がっているよ」
「ああ。極めて順調で、正しい合理的な流れの更新さ」
「お前さ、これほど急激に巨大な富と人間が一点へ集中していくこの現状を前にして、一パーセントの恐怖や不安も抱いたりはしないのかい? 人数がこれだけ膨れ上がればね、時に一歩の差配の狂いが、全体のシステムを一瞬で崩壊させる最悪のバグを招くわよ」
クルザードは背中の大きな荷袋を背負い直しながら、少しの間だけ沈黙した。
怖い。一人の人間の本能の数値として計算するならばね、確かにその通りさ。
もしもこれだけの何千人もの命の流れを前にして、俺の一歩の『判断』の手順に僅かな歪みや非効率な澱みを生じさせてしまえばね、翌日の朝にはね、食料難や疫病の暴走が一瞬にして発生して、集まったみんなが大量に死に絶える最悪の自滅を招くリスクが、最初から完璧に計算できるからね。
飢え。病気。そして、組織全体の破滅。その最悪のエラーの発生確率はね、いつだって隣り合わせの数式さ。
だが――だからといって、その恐怖の泣き言を叩いて、外の門を不効率に閉ざして彼らを見落とすような真似はね、俺の合理主義にとっては最も許し難い時間の不効率だからね。
「不条理な飢えに追い詰められた民たちの命の流れをね、ただ外の地獄の雪の中に無駄に見落としておく方がね、俺にとってはよほど大損で不快な非効率だからね。だから俺は、彼らの流入をただ手をこまねいて止めるつもりは、一パーセントもないさ。足りないなら足りるように、先に構造を直すだけだよ」
ティグリスは彼のその一片の驕りもない完璧な現実を見据えた至言を聞くと、言葉を失って深く沈黙し、それから――その美しい黒髪を潮風にしならせながら、口元を大きく釣り上げて最高の笑声を崖の上に響かせた。
「がははは! 本当にお前らしい、最高の非の打ち所がないほどに徹底した実利主義の答えだね、お前は! だから私はね、お前のその放つ最高の判断の盾となることが、本気で誇らしくてたまらないのさ!」
冷たい春一番の風が、新しく舗装された広大な街路の全体を、滑らかに通り抜けていった。
空間を満たす、大地の瑞々しい土の匂い。
主要水路から溢れ出る、清潔な水の匂い。
そして何より――中央の広場から立ち上り続ける、五感を芯から温め尽くす最高の至高の飯の匂い。
料理屋の換気窓の向こう側ではね、今日一日のすべての過酷な実務を終えた農民の職人たちが、同じ純木製のテーブルを囲み、あの極上の特製味噌汁と温かい醸造酒を酌み交わしながら、心からの笑顔を浮かべて肩を組んで笑い合っていた。
クルザードは厨房の真ん中に立ち、大きな木べらを滑らかに動かしながら、自らの手元から立ち上るあの純白の豊かな湯気の行方を、その穏やかな瞳で静かに見つめていた。
他国を侵略して血を流し合う、不条理な戦争の武力なんかよりもね、遥かに強固で、最強に強い力が世界には存在する。彼はその世界の真実の本質を、これまでの変革の歴史を通じて、完全に、そして深く理解し始めていた。
美味しい飯。
清潔な水。
一分の手戻りもない、広大な畑の量産。
各自の才能を最高値に発揮させる、完璧な仕事の役割の振り分け。
そして何より――生きるためのインフラの構造そのものを最高効率の合理性で整えて維持する、完璧な組織のデザイン。
この生活の循環の防壁が最高値で回っている場所はね、世界のいかなる強大な帝国の軍隊であってもね、一パーセントも内側から破綻させて負かすことなんて絶対に不可能な数式だからね。
雪解けの季節は完全に終わりを告げ、輝かしい春の時代が今、確実に目の前へと到来しつつあった。
そして――クルザードの放ったその一片のブレもない最高の「判断」の軸を中心に据えることで、彼らの新しく築き上げつつあるこの強固な村の全体はね、古いアルフェイドの都市国家の歴史を完全に中央から呑み込み、さらに何倍にも大きく、強固に、そして最強の奔流を伴って美しく形作られ、新時代の建国の地平の先へと向けて、完璧な速度で力強く駆動し続けていくのであった。




