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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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28:魔の森深部

 危険域。


 雪が薄く積もる森は、静かだった。


 静かすぎた。


 鳥の声がない。


 獣の気配も薄い。


 風だけが木々を揺らしている。


 普通なら、美しい冬景色だ。


 でも。


 ここは“魔の森深部”。


 人が消える場所だった。


「空気が違うな」


 ティグリスが低く言う。


 獣人特有の感覚。


 毛が逆立っている。


 クルザードは周囲を見た。


 木が巨大だった。


 根が隆起している。


 魔力濃度が高い。


 雪の下で土そのものが脈打っているようだった。


 鑑定。


 視界に情報が流れ込む。


『高濃度魔力地帯』

『変異植物』

『深層魔獣活動域』

『長期滞在危険』


 以前なら頭痛だけで終わっていた。


 でも今は違う。


 意味が見える。


 繋がる。


 危険を“理解”できる。


「目的を確認する」


 クルザードが全員を見る。


「深部資源調査」


「高位食材確保」


「危険種確認」


「無理はしない」


 即座に全員が頷く。


 もう、このパーティは強い。


 個人技ではない。


 連携が強い。


 マチルダが地図を広げる。


「ここから先、未踏破扱いよ」


「帰還率三割以下」


「つまり死ぬ場所だな」


 ガルドが笑った。


 でも軽口ではない。


 本当に死ぬ。


 だから緊張感があった。


 ティグリスが前に出る。


「索敵する」


 虎耳が動く。


 風。


 雪。


 匂い。


 全部を拾っていた。


「……いるな」


「数は?」


「多い」


 その瞬間。


 木々の奥が揺れた。


 巨大な影。


 赤い眼。


 低い唸り。


 魔狼だった。


 普通の狼じゃない。


 筋肉量が違う。


 魔力圧がある。


 しかも。


 一匹じゃない。


「十五」


 カタリナが即答。


「囲まれてる」


 ベッティーナが前に出る。


 盾を構える。


「陣形!」


 一瞬で動いた。


 前衛。


 後衛。


 回復。


 索敵。


 役割が完全に決まっている。


 魔狼が飛び出した。


 速い。


 雪を裂く。


「風壁!」


 ドロテア。


 空気が圧縮される。


 魔狼が一瞬止まる。


「土槍」


 アラン。


 地面から石槍。


 二体貫通。


 でも止まらない。


「来るぞ!」


 ティグリスが飛ぶ。


 槍。


 横薙ぎ。


 魔狼の首が飛んだ。


 血が雪を染める。


 でも。


 次が来る。


 速い。


 深部の魔物は格が違った。


「マルセル!」


「任せろ!」


 斬撃。


 飛ぶ。


 木ごと切断。


 魔狼が二体崩れる。


 ステファンが踏み込む。


 拳。


 魔力強化。


 骨が砕ける音。


 連携が噛み合っていた。


 クルザードは後方で全体を見ていた。


 視界に情報。


 位置。


 疲労。


 魔力残量。


 全部が流れる。


「右後方、二体回り込む」


「了解!」


 ティグリスが即応。


 速い。


 判断が伝播している。


 これだ。


 クルザードは少しだけ笑った。


 強い主人公じゃない。


 強い流れを作る。


 それが自分の役割だった。


 その時。


 森の奥から圧が来た。


 全員の顔が変わる。


「……でかい」


 ティグリスが唸る。


 木々が倒れた。


 出てきた。


 巨大な黒狼。


 三メートル超。


 魔力が濃い。


『黒牙魔狼・変異種』


『危険度:極高』


『群れ支配個体』


 クルザードの背筋が冷えた。


 強い。


 今までと別格。


 黒狼が吠える。


 空気が震えた。


 魔狼たちが一斉に動く。


「来る!」


 ベッティーナが盾を叩き込む。


 重い。


 押される。


「クソッ……!」


 ティグリスが飛ぶ。


 でも黒狼が速い。


 爪。


 槍を弾く。


 地面が砕ける。


「硬ぇ!」


 マルセルの斬撃も浅い。


 黒狼が笑ったように牙を見せる。


 強い。


 この森の深部。


 ここは本当に危険域だった。


 その時。


 クルザードの視界に流れる。


『火属性適正上昇』

『風循環安定』

『魔力制御率向上』


 理解した。


 今ならできる。


「全員、五秒止めろ」


 一瞬。


 空気が変わる。


「できるのか?」


「できる」


 クルザードの声は静かだった。


 全員が動く。


 ベッティーナ。


 盾。


 土壁。


 風拘束。


 全部重ねる。


「今だ!」


 クルザードが前へ出た。


 魔力循環。


 吸収。


 制御。


 暴れていた魔力が、少しだけ従う。


 火。


 圧縮。


 収束。


「火穿」


 放たれた瞬間。


 空気が裂けた。


 直線。


 赤熱。


 黒狼の肩を貫通。


 爆ぜる。


 森が揺れた。


 全員が息を呑む。


 クルザード自身も驚いていた。


 初めてだった。


 “制御できた”。


 黒狼が絶叫する。


 でも終わらない。


 まだ立つ。


 強い。


 ティグリスが笑った。


「いい顔になったな」


 次の瞬間。


 飛び込む。


 槍。


 喉。


 そこへマルセルの斬撃。


 アランの金属拘束。


 連携。


 完全だった。


 最後。


 クルザードが剣を振る。


 首が落ちた。


 静寂。


 雪が舞う。


 全員が荒く息をしていた。


「……勝ったか」


 ガルドが座り込む。


 デニーゼが回復を回す。


 クルザードは黒狼を見る。


 鑑定。


『高位魔石』

『高品質肉』

『高濃度魔素材』

『魔核』


 価値が高い。


 食料。


 素材。


 薬。


 全部使える。


 危険域は、つまり宝庫だった。


「持ち帰る」


 クルザードが言う。


「全部だ」


 ティグリスが笑う。


「やっぱお前、怖ぇな」


「無駄にしないだけだ」


 その返答に、全員が笑った。


 帰路。


 森はまだ暗かった。


 でも空気は違う。


 勝った。


 それが大きい。


 クルザードは歩きながら考えていた。


 深部は危険。


 でも。


 資源がある。


 食料がある。


 薬がある。


 つまり。


 国家を強くできる。


 安全圏だけでは限界が来る。


 だから踏み込む。


 合理だった。


 街へ戻った時。


 広場は湯気に包まれていた。


 味噌鍋。


 焼き魚。


 パン。


 酒。


 帰還した瞬間、匂いだけで疲労が抜ける。


「飯だ!」


 ステファンが叫ぶ。


 全員が笑った。


 戦って。


 帰って。


 温かい飯を食う。


 それだけで、人はまた前に進める。


 クルザードは鍋を見た。


 湯気。


 香り。


 笑顔。


 そして倉庫。


 道路。


 水路。


 教育。


 全部繋がっている。


 強さは、戦闘だけじゃない。


 生き残れること。


 冬を越せること。


 人が増えること。


 それが本当の強さだった。


 ティグリスが肉を頬張る。


「深部より、この街の方が異常だな」


「そうかもな」


 クルザードは静かに笑った。


 危険域を越えて帰ってきたからこそ分かる。


 この街はもう、“普通”ではなかった。






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