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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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26/47

26:冬前

備蓄。


空気が、根本から劇的に変わっていた。


最果ての港町アルフェイドを縦横無尽に吹き抜ける海風は、肌を刺すようにどこまでも冷たい。海から流れ込む高濃度の湿気も、北の山脈から静かに降りてくる冷気も、明らかに過酷な「本物の冬」の到来を告げる死の匂いを色濃く帯びていた。


この世界のすべての人々が、骨の髄まで理解していた。

冬が来る。

それは、いかなる理屈も通用しない、理不尽に餓死する季節。

寒さによってすべての産業の歯車が止まり、人間が無残に死んでいく季節。

だから本来であれば、冬を目前に控えたこの時期の街というものは、底の知れない暗黒の絶望に包まれるのが当然の数式であった。手元に資源のない民たちは生き残るために血眼になって食料を奪い合い、悪徳な商会の手によって物資の価格は不当に吊り上げられて跳ね上がり、生きるための盗みや流血の不効率が街の至る所で乱発する。

寒さによって子供たちの命が簡単に減っていく。

ずさんな衛生環境のせいで無駄な病人の数だけが爆発的に増えていく。

それこそが、これまでの澱みきった世界の、あまりにも残酷な「普通」の光景であった。


だが――現在のこの街の駆動効率は、古い世界の常識を根底から完全にへし折って、全く異なる高次元のステージへと突入していた。


「次だ! 熟成が完了した味噌樽の第三陣、北側の第一倉庫へ向けて搬入のラインを流せ!」


「最高の魚節の箱は、湿気を完全に遮断した西側の専用区画へ集積だ!」


「オーク節の追加生産ラインが、厨房の裏から出来上がったぞ! 一分の遅延もなく倉庫へ回せ!」


朝一番の霧の向こう側から、ハキハキとした明晰な声の差配が響き渡り、大規模に拡張された道路の上では、信じられないほどの物流量を誇る大型荷車の列がただの一秒も止まることなく活発に動き続けていた。

地脈を組み替えて美しく築き上げられた、石造りの巨大倉庫群。

風の流れを最適に制御した、乾燥庫の数々。

そして、熱量を完璧にシャットアウトした、強固な地下保存庫にいたるまでの全体が、一分の手戻りもなく最高効率の循環を伴って完全に稼働し尽くしていた。


流入する人間の絶対数もまた、分単位で爆発的な勢いで跳ね上がり続けていた。

迫害の歴史を乗り越えて集まった獣人の一族。

世界の調和を象徴する、知性溢れるエルフたち。

高度な技術の量産体制を支える、頑強なドワーフの職人集団。

王国の不条理な重税から命からがら逃れてきた、地方の貧しい農民たち。

美味い飯による生存率の向上を確信した、腕利きの元冒険者たち。

さらには、クルザードの合理主義によって完璧に更生され、今や最強の労働力として機能している、あの元盗賊崩れの男たちにいたるまで。


立場も種族も全く異なる何千人もの命がこの狭い敷地に密集していながら、街の規律はただの一パーセントも乱れてはいなかった。それどころか、いかなる巨大な帝国の軍隊よりも遥かに強固に、そして美しく統制され尽くしていた。

理由は、これ以上ないほどに単純明快であった。

各自の才能を最高値に発揮して確実に対価を得られる、完璧な仕事の振り分けがある。

全細胞の胃袋を満たす、極上の温かい飯がいつでもそこにある。

そして、集まったすべての人間が、組織を回すための重要なパーツとして、明確な役割を与えられているからだ。


クルザードは、中央の巨大倉庫の正面に堂々と立ち、手元のぶ厚い帳簿の数値を冷徹な目で見つめていた。

彼のすぐ真横には、授業を終えたばかりのマティルデが立ち、その背後からは大商人のヴァレリアが、一人の管理者の目で数字の並びを覗き込んでいた。


「クル、現在の小麦の備蓄残量を再計算しましたが、事前の予測値を大幅に超えて予定より遥かに多いです」


「農地から回収された干し芋の絶対量もね、想定の数値を完全に書き換えて増えているわよ」


「俺たちの最大の強みである、あの至高の魚節の量産ペースにいたっては、事前の計算の一・四倍の質量を記録しているよ」


クルザードは帳簿の数字から視線を外すことなく、口元に明るく快活な笑みを浮かべ、気さくなトーンのまま深く静かに頷いた。


「素晴らしいね。これだけの資源の絶対量があれば、集まったみんなで何の問題もなく最高効率で極寒の冬を越せるさ。完璧な黒字の流れだよ」


「ええ、それどころか、このままの流れを維持すれば、全ての物資が大幅に『余る』計算になりますね」


マティルデが、その手元の帳簿に刻まれた信じられない確定値を前にして、驚愕のあまりその美しい目を見開いた。

「余るって……お前、本当に正気なの? これほどの爆発的な勢いで増え続けている、何千人もの人口をすべて抱え込んでおきながら、資源が余るなんて常識があり得ないわ」


「余らせるさ。一パーセントの不足の歪みも出さずにね」

クルザードは当然の事実を告げるように、ハキハキと言い放った。

この世界の人間たちが長年縛られてきた、冬期は致命的な食料不足に陥って人が死ぬという最悪の悪循環。資源の管理者としての彼の合理主義的な頭脳は、そんな前時代的な世界の常識の数式を、最初の一歩から完全に疑い、へし折っていた。


手に入る資源の絶対量が足りないというのなら、正しい加工の手順を踏んでその生産量を極限まで「増やす」だけさ。

時間と共に物資が腐って大損を出すというのなら、不純物を完全に排除したあの純白の塩や味噌を用いて、何年でも品質を維持する高度な「保存のライン」を構築するだけさ。

道路が悪くて物資を遠くまで安全に運べないというのなら、アイテムボックスの空間輸送を駆動させ、街のインフラの構造そのものを最高効率へと「整える」だけさ。

感情論の泣き言を叩く時間があるなら、論理的な計算の工夫を凝らして無駄を無くす。彼の真ん中にあるのは、ただそれだけの徹底した合理主義だけであった。


「でも、どうして……一体どんな魔法の手順を踏めば、これほど短期間のうちに、これほど完璧な生存の防壁が勝手に組み上がるのかしら」

マティルデが、感動を通り越して畏敬の念すら孕んだ声で小さく呟いた。


クルザードは大きな木べらを手に持ち直すと、目の前に整然と積まれている、巨大な倉庫の内部の質量へとその明るい瞳を向けた。

圧倒的な熟成の純度を誇る、巨大な味噌樽の数々。

不純物を極限まで削ぎ落とした、あの純白の塩の山。

一掴みで至高の出汁の液体を錬成する、最高の魚節。

戦士たちの肉体の駆動エネルギーを極限まで濃縮した、オーク節。

長期の維持に耐えうる、最高の干し魚や燻製肉の山。

ビタミンを完全に維持したまま乾燥された、大量の野菜の備蓄。

そして、人間の精神の緊張を一瞬で解きほぐす、最高峰の新酒の樽。

そのすべての厳選された資源が、一分の狂いもなく完璧なバランスで、そこには美しく積まれ尽くしていた。


「簡単な話さ、マティルデ。俺の作ったこの強固な『保存食のシステム』の価値が、他よりも圧倒的に強かったからだよ」

「それだけでなく、あの排水を完璧に処理する水路の整備」

「肉体の疲労組織を200%完全に修復する、あのお風呂の稼働」

「そして何より――現場の民の脳細胞を最適化するための、あの学校での教育のインフラ」

「この4つの歯車がね、一分の手戻りもなく一本の流れで完璧に噛み合って回り続けているからだよ。ただそれだけのシンプルな因果関係さ」


ヴァレリアが、その非の打ち所がない完璧な大局の先を見据えた言葉を聞くや否や、口元を不敵にニヤリと釣り上げて素晴らしい笑みを浮かべた。

「ははは! また始まったわね、お前のその、世界のすべての事象を一本の線で完璧に繋げて回してしまう病気が!」


「当然さ、ヴァレリア。組織を回すためのインフラというものはね、単体でバラバラに機能させておいては、必ずどこかで非効率な澱みを生み出して大損を出すからね」

クルザードは口元に不敵な笑みを浮かべたまま、ハキハキと言い放った。


「高度な排水水路があるからこそ、街の全域が最高値に無菌化され、ずさんな不衛生による無駄な病気の発症率が完全にゼロに抑え込まれる」

「病気が減るからこそ、集まったすべての民が、健康な状態のまま毎日の労働の役割を最高速度でこなして働ける」

「学校の教育によって正しい算術の計算の手際をマスターするからこそ、現場の荷運び人たちが荷札の文字を一瞬で正確に識別できるようになり、物流の駆動能率が数百倍の速度へと跳ね上がる」

「高度な保存食の量産体制があるからこそ、極寒の冬の時期であっても、一人の人的資源をも飢えによって失うことなく、安全に春の季節へと流れを繋ぐことができる」

「つまり、人が死なさずに蓄積され続けるからこそ、彼らの持つ貴重な技術と才能がその場所に何倍にも膨れ上がって残るのさ。そうして、街という巨大な歯車は勝手に大きく育っていくのさ。全部が繋がっている、これが真に強固な建国の数式さ」


彼の一片の揺らぎもないその冷徹なまでの確信の光は、ただの一パーセントも、古い世界の不条理な構造を認めてはいなかった。


日の傾き始めた昼過ぎ。

中央の広場の真ん中では、冬の冷たい朝霧を完璧に押し返すような巨大な石鍋が灯され、いつものように温かい湯気が盛大に空へと昇り続けていた。

そこで美しく煮え滾るのは、今日のために仕込まれた、最高峰の「至高の味噌鍋」であった。

極限まで濃厚に煮出された、あの魚節と海藻出汁の完璧なブレンドベース。

じっくりと火を通された魔物の極上肉から溢れ出る、濃厚な肉汁の甘み。

石鍋から激しく立ち上る白い湯気、そして人間の本能を胃袋の底から直接震わせるような最高の旨味の香りが、凍れ返る広場の全体を温かく支配していた。寒さの中で凍えかけていた民たちが、その椀を口にした瞬間に、一瞬にして全細胞に健康的な赤みをまとわせ、心からの笑顔を浮かべて大声を上げて笑い合っていた。


最前線に立つ虎獣人のティグリスが、高温の蒸気調理によって驚くほどフワフワに柔らかく仕上げられたオークの巨大肉を口いっぱいに頬張りながら、その黄色い瞳を嬉しそうに細めて笑った。

「がははは! おい、クル。この極寒の冬の時期というものはね、本来ならもっと肌が引き裂かれそうに過酷で、生存の危機に怯える最悪な日々だったはずなんだがね。お前のいるこの場所だと、どうしてこれほどまでに楽で満ち足りた極楽に化けちまうんだい?」


「それは君たちが、俺の提示した最も正しい最高効率の役割の『振り分け』に従って、真面目に手を動かしてくれているからだよ。当然の結果さ」


「いいや、普通はそんな簡単な話じゃないわよ、お前」

エルフの薬師ジェシカが、温かい味噌汁を上品な所作で口へ運びながら、心底呆れたような感嘆の溜息を漏らした。

「普通の国や商会が冬の間に配給する保存食なんてね、水分が完全に抜けて石のように硬くて不快な酸味の強い粗悪品ばかりなのさ。栄養のバランスも致命的に偏るから、春を迎える前にはね、民の全細胞が免疫低下を起こして慢性的な熱病を発症するのが常識の数式よ」

「でもね、お前の作ったこの飯は違うわ。口に入れた瞬間に全神経が喜ぶほどに極上に美味いし、身体の中に必要なすべての栄養素が、最高値の合理性で完璧に計算されて含まれているのだからね。これが何よりも最強の防壁なのさ」


ジェシカの言う通り、それは医療の専門家のデータが示す、厳然たる事実であった。

回復士のデニーゼが手元に抱えていた、最新の集落の健康状態の資料。そこには、これまでのアルフェイドの歴史を根底から完全に塗り替えるほどの、凄まじい奇跡の数値が更新され続けていた。


『医療:冬季における致命的な熱病の発症率:九十二%減少』

『栄養:全人員の深刻な栄養失調の反応:一瞬にして完全にゼロへ中和』

『身体:寒冷環境による凍傷、および創傷部の雑菌感染のバグ:完全消去を計測』

『出産:劣悪な環境による出産後の母親および新生児の死亡率:劇的な最低値を更新』


居合わせたメンバー全員が、その資料に刻まれた圧倒的な数字の質量を前にして、深く感服して静かに頷いた。

不確実な感情論の泣き言ではない。冷徹な数字の現実そのものが、この一介の荷物持ちの「判断」によって、これほど多くの人間の命が確実に救い出され、組織が最高効率で前進を続けている事実を、雄弁に証明していたのだ。

この街は、ただ冬の寒さを凌いで生き残っているのではない。世界中のどの都市をも遥かに置き去りにして、爆発的な勢いで「成長」を続けているのだ。


クルザードは大鍋の熱の流れを静かに見つめながら、ハキハキとした明晰な声で言葉を続けた。

「極寒の冬の時期であってもね、一人の人的資源をも不効率に失うことなく完全に乗り越えられる街はね、それだけで世界で最も強固な最強の存在に変わるからね」


ドワーフのガルドが、自慢の酒を豪快に喉へと流し込みながら、深く頷いた。

「ああ、間違いないぜ、小僧! 冬の間に無駄な餓死や病死が出ねぇとなればな、俺たち職人の一族も、自慢の技術の資産を外へ一パーセントも流出させずに、この場所に100%完全に留めておくことができるからな!」


「その通りさ、ガルド。技術を持った人間がこの場所から決して離れない。つまり、彼らの長年の実地経験と高度な量産体制の仕組みが、一分の手戻りもなくこの場所に蓄積され続けるということさ。国家という名の巨大な国を形成する上でね、実はそこが最も重要で、最大の富の核になるのさ」


クルザードの放つその言葉のスケールは、すでに一介の料理屋の主の次元を完全に置き去りにしていた。


夜。

大規模に拡張された巨大な倉庫群の全体には、クルザードの手によって精製された、魔力を動力源とする最新の「魔導灯ライト」の数々が、整然と並んで夜の暗闇を暖かく押し返していた。

これまでの世界の古い常識であれば、夜という時間はね、暗黒に閉ざされて危険が暴走し、すべての産業の歯車が完全に機能停止する「止まる時間」であった。

しかし――現在のこの場所においては、そんな不効率な澱みは一分の一秒すら存在してはいなかった。


夜間であっても、開通した港からの物資の搬入の流れ(物流)は澱みなく動き続けている。

学校で文字の形を覚えた大人たちによる、一分の狂いもない正確な積荷の仕分け作業が活発に駆動している。

そして、新設された学び舎の内部においては、日中の労働を終えた現場の大人たちのための、熱気溢れる夜間授業の工程が当然のように毎日行われている。

街の全域が、二十四時間、一パーセントの活動のロスもなく完璧な速度で前進を続けていた。


クルザードは、自らの手で開発した地下の大容量の保存庫の内部へと、滑らかな足取りでゆっくりと降りていった。

そこは、周囲を強固な石造りの壁で完璧に囲まれた、広大な地下空洞の空間であった。室内の温度は、人間の本能が寒さを覚えるほどの圧倒的な一定の「低温状態」へと維持され、澄み切った冷気の大気の対流が滑らかに流れていた。

魔法使いのドロテアが、自慢の杖を手に持ちながら、誇らしげにその豊満な胸を大きく張って快活に笑声を上げた。


「どう? クル。私の風属性魔法の精密な混合駆動によって、室内の冷気の循環ラインを常に完璧な一定値へと維持し続けているわよ。熱量のロスは一パーセントもないわ」


「ああ、素晴らしいね、ドロテア。これまでのどの商会の倉庫よりも、遥かに安定した最高効率の駆動状態だよ」


それだけではなかった。

クルザードの放った精密な水属性魔法と氷属性魔法の因果関係の結合、そしてガルドの加工したぶ厚い鉄板の熱遮断の構造。そのすべての歯車を完璧に組み合わせることで、ここは世界で初めて、魔法の力を生活のインフラへと100%応用して作られた、超大型の「簡易冷蔵・冷凍庫」として完全に機能していたのだ。


薬師のジェシカが、保管されている膨大な物資の細胞状態を厳しい目で検査しながら、感嘆の声を漏らした。

「内部に蓄えられたオークの極上肉の細胞劣化の数値、完全に数週間前の水揚げ時と全く同じ最高値を維持しているわ」

「魚の鮮度の維持率もね、一パーセントの生臭さもなく完璧に保たれている。……本当に、何度見てもお前のその魔法の使い方の発想、常識がおかしいわよ」


「俺はただ、宿った魔法のエネルギーをね、毎日の生活と生存を豊かに回すための最も正しいルートへ『判断』して使っているだけだよ」


「普通の国や魔法使いはね、その強大な力をすべて、他国を侵略して血を流し合うための『不条理な戦争の凶器』としてしか使わないのさ。そこがお前と根本からすべて格が違うと言っているのよ」


「他人の命を暴力で破壊し合う戦争なんて行為はね、組織の全体の資源をただただ無駄に浪費するだけの、最も非効率で手戻りの多い最悪の大損だからね。そんなことに魔力を割くよりも、こうしてみんなの美味い飯の鮮度を最高値に維持する工程に注ぎ込む方が、数百倍は未来への投資として価値が高いだろ?」


クルザードは本気だった。口元に気さくな笑みを浮かべながらも、その瞳の奥には、一人の妥協なき資源の管理者としての冷徹な確信の光が宿っていた。

実際、現時点において、彼の放ったこの生活インフラの恩恵を骨の髄まで叩き込まれたここの住人たちの生産性と戦闘駆動効率は、古い王国の前線に立つどの訓練された兵士たちよりも、遥かに有能で最強になり始めていた。

物資の正しい保存の手順を知っている。

澱みのない高度な物流の流れを完全に理解している。

徹底された最高値の衛生環境の意味を分かっている。

そして、文字と数字の概念を学校でインプットして、自らの頭脳で最高効率の計算を回せる。

これほどまでに基礎能力のスペックが跳ね上がった人員が何千人も集まっているのだ。ただそれだけで、この街の絶対的な強さの防壁は、世界中のどの巨大な帝国の城壁よりも強固に駆動し続けていた。


数日の後。

最果ての海岸線には、冬の終わりの意地を見せるかのような、視界のすべてを真っ白に染め上げる猛烈な大雪が吹き荒れた。

あまりの過酷な寒さの質量の前に、街の外の古い街道の各所においては、すでに適切な保存食と温度の管理を怠った大量の凍死者や餓死者が乱発し始めているという、最悪の澱みの噂がカタリナの索敵によってもたらされていた。


でも――クルザードの作ったこの強固な料理屋、そして集落の全体は、そんな世界の地獄を完全に置き去りにして、ただの一秒もその足を止めることはしなかった。


「新しく仕込まれた最高の白い発酵パンが、今窯からふんわりと焼き上がったぞー! 早く持ってけ!」


「大鍋の特製味噌の追加のライン、一分の手戻りもなく厨房から駆動開始だ!」


「出汁の旨味の絶対量が足りん! 倉庫から最高の魚節の削り節をもう一掴み持ってこい!」


「子供たちの配置は最優先だ! 先に一列になって順番に真っ直ぐ並べなさい、クルの鉄のルールだからな!」


至る所から湧き上がる、人間の心からの温かい笑顔と笑い声。厨房の全体から吹き荒れる、濃厚な海藻出汁と味噌の最高の香ばしい湯気の対流。

部屋の全体は、暖腹の熱量によってどこまでも暖かく、活気に満ちあふれていた。

広場の真ん中においては、冬の寒さに追い詰められて逃れてきた無数の新しい流民たちのために、大規模な「炊き出しの分配ライン」が、完璧な流れを伴って美しく新設されていた。

しかも、押し寄せる何百人もの人間に対して、一パーセントの物資の出し惜しみもすることなく、全員が腹一杯に最高の飯にありつくことができていた。倉庫の底に眠る、あの徹底した合理主義によって余らせて蓄えられた、無限の食料資源の「圧倒的な余剰」がそこにはあったからだ。


移住を求めて門前へと殺到する人間の列の流れもまた、雪の嵐の中でもただの一秒も途切れる気配すら見せてはいなかった。


「頼む……! どんな過酷な重労働でも、俺たちの肉体を最高効率で真面目に働かせるから、この街の中に中に入れてくれ……!」


「中にいる俺の子供だけでもいいんだ……! どうか飢えから救って、あの温かい温かい味噌のスープを一口だけでも飲ませてやってくれ……!」


門の前。激しい雪が降り積もる不毛な砂浜の上で、ボロボロの布を肩に羽織った一組の貧しい流民の親子が、寒さと飢えのあまりに肉体をガタガタと小刻みに震わせながら、切実な悲鳴の声を上げて懇願していた。

横でその様子を見ていた虎獣人のティグリスが、自慢の長槍を構え直しながら、その黄色い瞳を僅かに細めてクルザードの姿をじっと見つめた。


「……おい、クル。不条理な飢えに追い詰められた、新しいノイズの集団の登場だよ。どうするんだい、お前は」


「簡単な話さ、ティグリス。一分の躊躇もなく、彼らの全体の身柄を速やかにこの場所の中へと『入れる』よ。当然の判断さ」


「入れるのは良いがね、彼らの肉体の中に潜んでいる不確実な危険の要素への『選別スクリーニング』の手順は、どうするつもりだい?」


「ああ、もちろん徹底して駆動させるよ。俺の目には完全な真実のデータが最初から一本の線として繋がって見えているからね」

クルザードは一歩前へと滑らかな動作で踏み出すと、泥の中に倒れ伏す親子の姿に向けて、その明るい瞳の奥の鑑定のシステムを静かに、しかし最高精度で駆動させた。

入ってくる情報のすべて。脳の奥底へと直接流れ込んでくる、無機質な命の確定値の文字情報。


『対象:目の前の集団。解析:過去に大規模な作物の量産に成功した、一級の【農業経験】のスキルを保有』

『対象:隣接する人員。技能:頑強な防壁を組み立てるための、【木工技術】の才覚を多量に検出』

『対象:後方の個体。過去の履歴:生存のための【窃盗常習】のバグ反応を捕捉。警戒が必要』

『警告:集団の一部に、不衛生な環境による致死性の【感染症(疫病)】の初期駆動を確認。放置は危険』

『状態:全人員の細胞が、極限の【栄養失調】の不効率によって深刻なエラーを起こしかけていると判明』


「……くっ、頭が……」


あまりの急激なデータの過負荷に伴い、こめかみを直接鉄の針で内側から突き刺されるような鋭い頭痛が走り、クルザードは僅かに顔をしかめた。しかし、現在の彼はその痛みをただの駆動のための記号として即座にコントロールすると、ハキハキとした明晰な声で、居合わせたメンバーたちへ向けて一瞬のうちに完璧な役割の「振り分け」の指示を下した。


「よし、方針は決まった。一分の手戻りもなく全体の流れを整えるよ」

「左側の三人はね、体内で感染症の初期エラーが駆動しているから、ジェシカの隔離室へ直接流して、一瞬でも早く無菌化の治療を施すんだ」

「中央の子供たちはね、全細胞が深刻な栄養欠乏を起こしているから、今すぐ厨房の特製味噌汁の配給ラインへ回して、腹一杯に温まってもらうよ」

「そして、その後ろにいる大工の経験を保持している人員はね、明日からの港湾都市の拡張計画に必要な最強の歯車だからね、ガルドのいる西側の建築区画へと最適な人員配置を任せるよ。これが最も手戻りのない最高効率の判断さ」


即断。一片の迷いも、不確実な躊躇もただの一秒すら存在しない、圧倒的な速度の処理。

彼の放った指示の通りに、新しく流入してきた人間の命の流れは、まるで一本の美しい物流のインフラの如き手際で、一分の混乱もなく完璧に各セクションへと滑らかに流されていった。


大商人のヴァレリアが、その一分の無駄もない組織の差配のプロセスを横で見つめながら、心底呆れ果てたような、しかし深い感嘆の笑みを浮かべて小さく呟いた。

「……はは、本当にお前という男はね、新しく集まってきた人間の命の全体までもをね、ただの荷札のついた『最高級の物流物資』と同じ手際で完璧に捌いて回してしまうのね」


「いいや、違うよ、ヴァレリア。俺は人間を物として使い捨てているわけじゃないさ」

クルザードは口元に不敵な笑みを浮かべたまま、ハキハキと言い放った。


「すべての人的資源をね、彼らが最も最高値の価値を発揮できる正しい場所へと一分の澱みもなく配置する、『適材適所』の論理的な計算さ」

「感情論の泣き言だけで門の前に放置しておけばね、彼らの持つ貴重な農業や木工の才能は、明日の朝には寒さの中で無意味に死滅して、組織にとって莫大な『資産の喪失(大損)』に繋がるからね」

「この正しい手順の流れで人員を振り分けておくことこそがね、集まったみんなの命を最も確実に守り抜き、一人も無駄に『死なせない』ための、唯一の確実な最強の王道だからね。これが俺の合理主義さ」


正しかった。一片の非の打ち所もないほどに、彼の放ったその言葉は厳然たる世界の真実そのものであった。

不確実な感情論の綺麗事だけではね、この過酷な浅い冬の混沌の暴走から民の命を守り抜くことなど絶対に不可能だ。

しかし――彼の合理主義は、冷酷な搾取の歪みなどでは決してなかった。

守るべき子供たちの命の配給は最優先として、病に倒れた人員には一瞬で確実な治療の門を開き、肉体が駆動できる者には自らの意思で大喜びで働ける最高の仕事の役割と対価を与える。

その、人間の尊厳を最も最高値に尊重した絶対的な安心の仕組みがあるからこそ、人は古い世界のすべてを捨て去って、自らの意思でこの場所に強固に定住し、命を預けて残るのだ。


夜。

激しい雪の結晶が天から降り注ぐ暗闇の魔の森の向こう側から見れば、最果ての海岸線に建つこの巨大な交易都市の全体はね、まるで一国の不条理な軍隊すら一歩も寄せ付けない、眩い光を放つ最強の「独立した要塞」の如き威容を堂々と誇っていた。


どこまでもどこまでも、暖かく。

一分の暗闇もなく、明るく輝き続け。

五感を芯から震わせるような、最高の至高の飯の香りが四方へと漂い続ける場所。

熟成された味噌。

極限の旨味の魚節とオーク節。

焼き立ての発酵パンと、極上の魔物の肉。

そして、人間の精神を温め尽くす最高の酒。


人間という生物の本能の動きはね、いつだって極めてシンプルで揺るぎない。

生き残るために最も「食える場所」へ。

明日への生存を確実に予測できる、最も「生きやすい場所」へ向けて、勝手にその足を流すものだからだ。

だからこそ――この街の規模は、古い国の歴史をすべて置き去りにして、爆発的な勢いで広く広く膨らみ続け、進化を止めることは二度となかった。


元伯爵令嬢のマティルデは、学校の窓から外に広がるその眩いばかりの光の躍動、そして笑い合う無数の民たちの姿を静かに見つめながら、畏敬の念を込めて深く深く呟いた。

「……あぁ、本当に確実ね、クル。お前の下したあの一帳の図面、ただの繁盛店の規模なんてレベルを完全に置き去りにして、世界の地平の先に『本物の偉大なる国家』を完璧に築き上げようとしているわ」


「ああ、当然さ、マティルデ。俺の計算の通り、そうなるのがこの世界のすべての不効率を駆逐するための最も正しい手順だからね。間違いなくそうなるよ」

クルザードは厨房の真ん中に立ち、大きな木べらを手に持ち直しながら、ハキハキとした明晰な声で確信を告げた。


力任せに他国を侵略して血を流し合う、剣の強さなど最初から一パーセントも必要ない。

美味しい飯の安定的配給。

一分の手戻りもない完璧な物流インフラの開通。

民の脳を最適化する高度な教育のインプット。

何年先の歳月にも耐えうる強固な保存技術の確立。

そして――極寒の冬の冷気を前にしても、一人の人的資源をも失うことのない「冬を越えるための絶対的なシステムの維持」。

このすべての生活の基盤が最高値で回っていることこそがね、世界を内側から劇的に塗り替えていくための、最も強固で最強の『真の国家の土台』そのものなのだから。


虎獣人のティグリスが、お腹いっぱいに極上の肉を頬張りながら、自慢の樽酒を豪快に煽って、崖の上全体に響き渡るような最高の笑声を炸裂させた。

「がははは! だがね、クル! お前のおかげでさ、最近この街の中に集まったすべての民たちがよ、何の生存の恐怖もなく、ごく普通に心からの『幸せそうな笑容』を浮かべて毎日を笑い合っているぜ!」


彼女の放ったその何気ない一言を耳にした瞬間、広大な料理屋の内部の空気の対流が、ほんの一瞬だけ、静かにピタリと動きを止めた。


幸せ。

それは、剥き出しの弱肉強食の搾取と飢餓だけがまかり通っていたこの残酷な世界において、最も手に入れるのが難しく、滅多にお目にかかることのできない非常に稀少な言葉であった。

でも――今の彼らの足元にある現実は、紛れもなく、その奇跡の結晶そのものであった。

毎日、胃袋の全細胞が破裂するほどに美味い飯を腹一杯に食える。

過酷な一日の重労働を終えた後には、あの筋肉疲労を一瞬で消し去る天国のようなお風呂に肩まで浸かれる。

どんな過酷な冬の雪の嵐が来ようとも、肉体が凍える恐怖などただの一パーセントも関係なく。

正しい論理の知識を学校で学び、他者に騙されることなく自らの才能を発揮して真面目に働き、心から安心してみんなと大声を出して笑い合うことができる。

ただそれだけの当たり前の快適さがあるだけで、追いつめられた人間の命は、何の問題もなく完璧に救い出されるのさ。


クルザードは厨房の真ん中に立ち、大きな木べらを滑らかに動かしながら、自らの手元から立ち上り、冬の冷たい夜空に向けて真っ直ぐに真っ直ぐに昇り続けていく、あの純白の豊かな味噌鍋の湯気の行方を、その穏やかな瞳で静かに見つめていた。

そして、彼は口元に世界全体の構造を美しく塗り替えるための、不敵で、そして最高に陽気な微笑みを浮かべながら、小さく、しかしよく通る明晰な声で言葉を紡いだ。


「――当然さ、ティグリス。俺の計算の通り、この世界において、圧倒的な『快適さと生きやすさ』の提供こそがね、人間の本能を芯から束ねるための、何よりも最強に強い絶対の防壁になるからね」


その一片の驕りもない完璧な合理主義の至言の前に、居合わせたメンバー全員が、心からの温かい笑顔を浮かべて深く深く感服して頷き、彼らの絆の歯車は、新時代の幕開けに向けて、さらに完璧な速度で力強く、そして最強の奔流を伴って駆動し続けていった。






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