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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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25:読み書き

 教育開始。


 雪解けが始まっていた。


 港町の道路を流れる水は、以前とは違う。


 濁っていない。


 クルザードが整備した側溝。


 石畳。


 水路。


 それが機能し始めていた。


 朝。


 市場はもう動いている。


 焼きたてパンの香り。


 魚節の出汁。


 味噌汁。


 燻製肉。


 酒場からは笑い声。


 港には大型荷車。


 オーク節が積まれ、魚節が積まれ、塩と味噌が運ばれていく。


 人が増えていた。


 明らかに。


 獣人。


 エルフ。


 ドワーフ。


 商人。


 冒険者。


 逃げてきた農民。


 仕事を求める若者。


 全員が同じことを言う。


「ここは生きられる」


 それが理由だった。


 冬を越せる。


 飯がある。


 治療がある。


 仕事がある。


 風呂がある。


 死ににくい。


 その価値は重い。


 だが。


 問題も出始めていた。


「……読めねえ」


 荷運びの男が困った顔をする。


「こっちは北倉庫だ!」


「違う! 南だ!」


「いや読めねえんだよ!」


 積荷が混乱していた。


 味噌と塩が逆へ行く。


 魚節が別商会へ流れかける。


 物流が膨らみ始めたことで、“文字”が壁になっていた。


 クルザードは静かにその様子を見ていた。


 横でヴァレリアが溜息をつく。


「識字率が低いのよ」


「普通は貴族か商人しか学ばない」


「農民は数字すら怪しい」


 マチルダも頷く。


「王都でもそうです」


「読み書きは支配階級のもの」


「知識を広げれば、統治が難しくなるから」


 クルザードは短く答えた。


「逆だ」


「え?」


「知識がないから統治コストが増える」


 全員が静かになる。


 クルザードは荷札を見る。


 文字。


 数字。


 簡単な記号。


 これだけで物流効率は変わる。


 つまり。


 教育は慈善じゃない。


 投資だ。


「学校作るぞ」


 ティグリスが肉串を咥えたまま止まった。


「学校?」


「読み書き計算」


「まずそこからだ」


 ガルドが腕を組む。


「教師は?」


「いる」


 クルザードはマチルダを見た。


 伯爵令嬢。


 頭脳明晰。


 礼儀。


 政治。


 算術。


 全部できる。


「……私?」


「お前が一番向いてる」


 マチルダは少し黙った。


 貴族として生きてきた。


 教育は“選ばれた者”のものだった。


 でも。


 この街は違う。


 子供が笑っている。


 獣人と人間が同じ鍋を囲む。


 ドワーフとエルフが酒を飲んでる。


 以前なら考えられなかった。


 だから。


「……やります」


 静かだった。


 でも強かった。


 三日後。


 学校ができた。


 元倉庫。


 石造り。


 広い。


 窓が多い。


 暖炉あり。


 長机。


 椅子。


 黒板代わりの石板。


 全部ガルド製。


 クルザードの土魔法も使われていた。


 朝。


 子供たちが集まる。


 汚れた服。


 痩せた腕。


 でも目だけは明るい。


「ほんとに無料なの?」


「飯も出るぞ」


 その瞬間。


 親まで並び始めた。


 ヴァレリアが笑う。


「強いわねぇ」


「飯付き教育」


「最強だろ」


 クルザードは真顔だった。


 実際強い。


 腹が減れば学べない。


 だから先に食わせる。


 合理。


 徹底している。


 昼。


 巨大鍋。


 味噌汁。


 焼きたてパン。


 魚と野菜の煮込み。


 子供たちが夢中で食べる。


「うまっ!」


「肉入ってる!」


「今日あったかい!」


 デニーゼが小さく呟いた。


「栄養失調、かなり減るわね……」


「感染症も減る」


「風呂と飯が効いてる」


 クルザードは頷く。


「だから教育も入れる」


「身体だけじゃ足りない」


 午後。


 授業開始。


 マチルダが黒板へ文字を書く。


『あ』


 子供たちが静かになる。


「これは“あ”です」


「声を出して」


「あ!」


 最初は笑い声だった。


 でも。


 少しずつ変わる。


 読める。


 わかる。


 自分で理解できる。


 それが楽しい。


 クルザードは外から見ていた。


 ティグリスが隣へ来る。


「そんな大事か?」


「大事だ」


「文字は力だ」


「剣より?」


「場合による」


 ティグリスは笑う。


「難しいこと言うな」


「簡単だ」


 クルザードは市場を見る。


「数字読めれば騙されにくい」


「文字読めれば契約できる」


「計算できれば利益が出せる」


「地図読めれば迷わない」


「知識があれば死ににくい」


 ティグリスが黙った。


 理解した。


 これは戦力だ。


 つまり。


 街全体を強くする。


 数週間後。


 変化が出始めた。


「北倉庫へ十箱!」


「了解!」


「塩二十!」


「計算合ってる!」


 物流が速い。


 事故が減る。


 盗難も減る。


 荷札が読めるからだ。


 更に。


 子供たちが働き始める。


 帳簿。


 在庫管理。


 薬草分類。


 簡単な補助。


 教育がそのまま街の機能になっていた。


 ヴァレリアが完全に呆れていた。


「本当に全部繋げるわね……」


「当然だ」


「教育単体で終わらせる意味がない」


 マチルダは教室で子供たちを見ていた。


 獣人の子。


 孤児。


 元盗賊の娘。


 元奴隷。


 全員が同じ机で学んでいる。


 普通ならあり得ない。


 でも。


 ここでは自然だった。


「先生!」


「ここわかんない!」


「はい、順番に」


 忙しい。


 でも。


 嫌じゃない。


 むしろ満たされていた。


 夜。


 学校の灯りがまだ消えない。


 大人たちまで勉強しているからだ。


「名前くらい書きてぇ」


「契約書読みたい」


「数字覚えたい」


 理由は単純だった。


 ここで生きたい。


 置いていかれたくない。


 街が前へ進んでいる。


 だから自分も進みたい。


 それが人を動かしていた。


 クルザードはその様子を静かに見ていた。


 ジェシカが隣に座る。


「……あなた、怖いくらい先見てるわね」


「普通だ」


「普通じゃない」


 エルフの薬師は苦笑した。


「普通の人間は、飯配って満足する」


「学校までは行かない」


「そこまで考えない」


 クルザードは少しだけ考えた。


 そして答える。


「飯だけだと止まる」


「知識がないと広がらない」


「広がらない街は死ぬ」


 ジェシカは小さく笑った。


「国家作る気満々じゃない」


「作るぞ」


 即答だった。


 迷いがない。


 遠く。


 港。


 新しい船が来ていた。


 商人。


 職人。


 移民。


 また増える。


 人が人を呼ぶ。


 飯が人を呼ぶ。


 安全が人を呼ぶ。


 教育が定住を生む。


 街が膨らむ。


 もう止まらない。


 広場では今日も湯気が上がる。


 味噌汁。


 魚節。


 オーク節。


 焼きたてパン。


 子供たちの笑い声。


 読み書きを覚えた子供が、自慢げに親へ文字を見せていた。


「これ俺の名前!」


 母親が泣いていた。


 ただ。


 名前が書けただけ。


 それだけなのに。


 人生が変わる。


 クルザードは静かに呟く。


「教育も物流だな」


 ティグリスが笑う。


「また意味わからんこと言ってる」


「人を動かす仕組みって意味だ」


「あー……」


「なんとなくわかった」


 夜風が街を抜ける。


 温かい。


 以前の冬とは違う。


 この街は変わった。


 もう。


 飢えて死ぬだけの場所じゃない。


 学べる。


 働ける。


 育てる。


 残せる。


 そんな場所になり始めていた。







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