表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/45

25:読み書き

教育開始。


雪解けが始まっていた。


最果ての港町アルフェイドに停滞をもたらしていた長い冬が終わりを告げ、春の確実な兆しが大地へと染み渡りつつあった。

街の広大な道路、その両脇を滑らかに走る側溝を流れていく雪解け水の様子は、ほんの数ヶ月前とは完全に異なっていた。以前のように泥や生物の死骸、生ゴミの澱みを含んで濁り狂う不衛生な悪臭はただの一パーセントも存在しない。

クルザードの冷徹な「判断」によって精密に整備された、排水のための機能的な側溝。

一分の手戻りもなく美しく敷き詰められた石畳の傾斜。

そして、無菌化の処理を担保された巨大な水路網。

彼がこれまでに施してきたインフラ全体の最高効率化の仕組みが、今、完璧な機能美を伴って駆動し始めていた。


朝。

大規模に拡張された市場は、日の出の遥か前から力強い経済の足音を響かせて活発に動いていた。

独自の工程で黄金色に焼き上げられた発酵パンの柔らかな香り。

極限まで濃縮された、あの至高の魚節とオーク節の混合出汁の深く香ばしい湯気。

全細胞の飢えを胃袋の底から癒やし尽くす、熟成された特製味噌汁の匂い。

そして、倉庫にうず高く積み上げられた上質な燻製肉の放つ、高貴でスモーキーな煙の残滓。

まだ朝の光が浅いというのに、酒場や調理場からは人々の心からの暖かな笑い声が絶え間なく湧き上がっている。


新設された強固な港湾の設備には、何台もの超大型の荷車が澱みなく行き交っていた。

この街でしか作ることのできない、完全なる技術独占の結晶たる「オーク節」がうず高く積まれ、海の旨味の塊である「魚節」の箱が機能的に並べられ、精製された純白の塩や、長期の維持に耐えうる最高の味噌の木桶が、外部への流通のラインに沿って最高速度で搬出されていく。


人が増えていた。誰の目にも明らかなほどの、爆発的な奔流を伴って。

迫害の歴史を乗り越えて集まった獣人の一族。

世界の調和を象徴する、知性溢れるエルフたち。

金属と建築のインフラを力強く支えるドワーフの職人集団。

富の流れの本質を察知して集まった、目の高い大商人。

戦術の向上を確信して自らの意思で所属を志願した熟練の冒険者。

王国の不条理な重税と冬の飢餓から命からがら逃れてきた、周辺の地方の貧しい農民たち。

そして、自らの才能を発揮できる正しい役割を求めて最果てを目指してきた、活気溢れる若い労働者たち。

立場も種族も全く異なる何千人もの人々が、新しく舗装された道路を踏み締めながら、全員が例外なく全く同じ一言を確信の言葉として口にしていた。


「――ここなら、理不尽に餓死することなく、人間として健全に生きられる」


ただそれだけのシンプルな答え。しかし、これまでの不条理な搾取に怯え続けてきた彼らにとっては、それこそが一生をかけてでも手に入れるべき最高の価値そのものだった。

極寒の冬を完璧に越せる絶対的な保存食の備蓄がある。

口にするすべての飯が五感を震わせるほどに極上に美味い。

いかなる致命的な怪我であっても一瞬で修復される確実な医療がある。

各自の才能に応じた最高の仕事の振り分けがある。

肉体の疲労を完璧に癒やす天国のようなお風呂がある。

ずさんな不衛生によって子供たちが無駄に死ぬ病気のリスクが完全に排除されている。

その「生きやすさ」の数値がもたらす信頼の重みは、周辺のどの巨大な帝国の権力よりも強固に人間の足をここへと流していた。


だが――急速に肥大化し続ける組織の流れの真ん中において、資源の管理者としてのクルザードの頭脳は、次なる致命的な構造の「澱み」を、正確に看破していた。


「……クソッ、何て書いてあるのか、さっぱり読めやしねぇぞ!」


港の大型の集積所の前で、物資の移動を担っていた屈強な荷運びの男が、頭を抱えて困り果てたような悲鳴の声を張り上げた。


「おい、こっちの積荷の木箱はな、北側の第一倉庫に搬入するためのルートの物資だろ!」


「違うわよ、バカ! 荷札の形を見るに、これは南側の加工場へ直接流すための塩の袋よ!」


「いや、だからよ! 俺たちにはその荷札に細かく刻まれている、不気味な黒い線の文字の形がな、ただの一文字も読めねぇんだよ!」


物流の爆発的な拡大に伴い、現場の至る所で「積荷の混乱」という最悪の非効率が亂発し始めていた。

最高級の味噌の木桶と精製塩の袋が逆のルートへと不効率に運ばれ、世界中が渇望するあの至高の魚節の箱が、手違いによって別の商会の馬車へと流れかけ、現場の人員が無駄な怒鳴り合いと手戻りを繰り返している。

処理されるべき物資の絶対量が個人の限界値を完全に超えて膨れ上がったことで、これまで放置されていた「文字が読めない」という民の根本的な欠陥が、全体の流通速度を中央から完全に停止させる最悪の壁となって立ち塞がっていたのだ。


クルザードは厨房のカウンターの前に立ち、大きな木べらを滑らかに動かしながら、その現場の混乱の一部始終を明るく陽気な瞳の奥で冷徹に静かに見つめていた。


彼の真横で物資の帳簿を整理していた大商人のヴァレリアが、羽ペンを置き、心底呆れたような溜息を漏らした。

「……限界ね、クル。この街に集まった底辺の民たちのね、『識字率の絶対値』が不当なまでに低すぎるのよ」

「古い世界の常識ではね、読み書きや計算の技術なんて高貴なインフラはね、膨大な金を積める上位の貴族階級か、一部の特権的な大商人の血族しか学ぶ機会を与えられないのが常識の数式だからね」

「泥を啜って生きるだけの一般の農民や労働者なんてね、自分の名前の形すら怪しいし、簡単な数字の足し算引き算すら満足に行えないのが当たり前なのさ」


元伯爵令嬢であり、高い教育を受けてきたマティルデもまた、深く同意するようにその美しい首を縦に振った。

「王都の不条理な統治の仕組みも、全く同じ構造です。古い権力者たちはね、読み書きの知識を底辺の民に広げる行為を、最も厳重に禁止して隠してきました」

「民が論理的な思考の知識を持ってしまえば、不条理な搾取の歪みに気づいて反旗を翻すようになる。統治のコストを低く抑えるためにはね、彼らを何も知らない無知な家畜のままに据え置いておくことこそが、最も都合が良い判断であるとされてきたからです」


クルザードはスープの灰汁を掬い取りながら、口元に明るく快活な笑みを浮かべ、ハキハキとした明晰な声で即答した。


「――古い特権階級どもの、完全なる計算ミスだね。逆だよ、マティルデ」


「え……?」


「民に論理的な知識が一パーセントも備わっていないからこそ、現場でこれほどの大損を出す文字の誤認や盗難のバグが多発し、結果として統治のための無駄な人件費と人手のコストが爆発的に増えているのさ。これほど社会の駆動効率の悪い大損はないだろ?」

クルザードは、荷札に刻まれた細かな文字情報を、鑑定の目で冷徹に見つめながら言葉を繋いだ。


簡単な文字。

正確な数字の概念。

そして、一目で識別可能な共通の記号。

ただそれだけの論理的な知識を、集まったすべての民の脳内に完璧にシステムとしてインプットしておくだけで、現場の物流効率は数百倍の速度へと跳ね上がる。

つまり、民に読み書きを教える「教育」というプロセスはね、強者の気まぐれによる不確実な慈善事業などでは決してない。組織の未来の出力を最大値に引き上げるための、最も確実で手戻りのない最高効率の『投資』そのものなのだ。


「方針は決まった。流れをこれ以上滞らせないために、今すぐこの場所に、民の脳を最適化するための巨大な『学校の設備』を新設するよ」


ティグリスが、厨房の肉串を口に咥えて貪っていた動きをピタリと止め、驚愕のあまりに虎の耳を激しく跳ね動かした。

「がははは! お前、お風呂や料理屋の次は、ついに子供たちの教育のシステムまで自らの手で作り出すつもりかい!」


「ああ。読み書き、そして正しい算術の計算さ。まずはそこから全体のシステムレベルの底上げを開始するよ」


ガルドが分厚い腕を組んで灰色の髭を揺らした。

「理屈は分かったがよ、小僧。民に勉強を教えるためにはな、それ相応の高度な知識と礼儀を兼ね備えた、優秀な『教師の人材』が絶対に必要だぞ。そんな貴重な人員、どこから調達してくるつもりだ?」


「簡単な話さ、ガルド。俺たちの陣形の一番身近な場所に、世界で最もその役割に向いている最高の人材が、最初から綺麗に佇んでいるからね」

クルザードは口元に不敵な笑みを浮かべたまま、その明るい瞳を、隣に立つマティルデの顔へと真っ直ぐに向けた。


最高位の伯爵令嬢としての徹底された英才教育。

一分の澱みもない、明晰な頭脳の駆動。

他者を自然と惹きつける、洗練された美しい礼儀の作法。

国家の仕組みを見通す、高度な政治の眼光。

そして、物資の計算に不可欠な、完璧な算術の才覚。

この集落のどの人員と比較しても、彼女以上に教壇に立つ役割として、最高値のスペックを保持している者はただの一人も存在しなかった。


「……え? 私、ですか……?」

マティルデが、驚きのあまりに自らの胸元に手を当てて呆然とした声を漏らした。


「ああ、君さ、マティルデ。君の持つその素晴らしい知識の資産はね、戦場で剣を振るうよりも、この街の未来を担う子供たちの脳を育てる工程においてこそ、最も爆発的な最高効率の価値を発揮するからね。君にこの重要な役割の『振り分け』を任せるよ」


マティルデは、彼のその一片の揺らぎもない確信に満ちた言葉を聞くと、僅かの間だけ静かに目を閉じ、これまでの自分の人生の因果関係を思考した。

古い王国の歪んだ貴族社会。そこでは教育とは、選ばれた一握りの特権階級だけが、他者を搾取し、見下すための絶対的な「権力の凶器」として使われていた。

でも――クルザードの作ったこの崖の上の世界は、根本からすべてが違っていた。

腹を空かせた子供たちが、なんの問題もなく心からの笑顔を浮かべて笑っている。

普段であれば殺し合うはずの獣人と人間の戦士が、同じ暖かな鍋の火を囲んで並んでいる。

気高きエルフの薬師と、頑強なドワーフの鍛冶師が、同じ至高の新酒を酌み交わして肩を組んでいる。

古い世界の常識では、絶対にあり得ないはずの美しい調和の現実。


「……分かりました、クル。お前の下したその最高の『判断』、私の貴族としてのすべての誇りと知識を賭けて、完璧に役割を全遂して見せるわ」

彼女の放ったその言葉は、静かではあったが、いかなる戦士の誓いよりも強固で、揺るぎない迫力に満ちあふれていた。


三日間の後。

クルザードの土属性魔法、そして最高腕のガルドが加工した頑強な石材の歯車を組み合わせることで、集落の中央にあった古い巨大な大型倉庫は、完全なる近代的な「学校の建物」へと劇的にその姿を変貌させていた。


全体は、一分の無駄もない強固な石造りの構造。

室内に十分な光の流れを引き込み、子供たちの目の疲労を完璧に排除するための、精密な換気窓の大規模な配置。

極寒の残り火を完璧にシャットアウトし、室温を常に一定の最適値へと維持するための、巨大なレンガ造りの暖炉の設備。

何十人もの生徒が同時に机を並べられる、ガルド特製の頑強な長机と椅子の数々。

そして、マティルデの授業の動線に合わせて、文字の視認性を最高値に引き上げるための、世界初の「巨大な黒板代わりの特製石板」。

見た目はシンプルだが、内部の機能美の合理性は、王都のいかなる学術院よりも遥かに教育の能率を追求した最上の空間であった。


朝。

記念すべき最初の授業の開始に向けて、新設された学校の門の前には、数え切れないほどの子供たちが吸い込まれるようにして集まっていた。

纏っている衣服はまだ薄汚れており、腕もこれまでの栄養失調によって細く痩せ細っている。しかし――彼らの瞳の奥底にある命の輝きだけは、これまでにないほどに明るく、確固たる希望の光に満ちあふれていた。


「ねぇ、本当にここの場所、私たちみたいな貧しい孤児であっても、一パーセントの金を払わずに無料で勉強を教えてくれるの?」


「ああ、それだけじゃないぞ! 噂によると、午前中の授業が終わった瞬間にはね、あのクルの作った世界一美味い飯が、本当にお腹いっぱいに配られるらしいんだ!」


子供たちの弾んだ歓喜の声。その圧倒的な恩恵の事実を耳にしたことで、学校の周囲には、子供たちの手を引いてきた親の大人たちの姿までもが、当然のように殺到して凄まじい行列を作り始めていた。


ヴァレリアが、カウンターの窓からその熱気の質量を冷徹に計算しながら、心底楽しそうな不敵な笑みを浮かべた。

「ははは! 強いわねぇ、本当に! お前の下したその次の一手、これ以上の完璧な動線はないわ!」

「単に読み書きを教えるだけじゃない。『最高の美味い飯付きの教育システム』。この絶対的な合理の利点を見せつけられて、自らの子供をここに預けない親なんて、世界中どこを探しても絶対に一人もいるはずがないわ。最強の定住化の罠ね!」


「罠ではないさ、ヴァレリア。極めて自然で合理的な、人間の駆動効率の最適化だよ」

クルザードは厨房の真ん中に立ち、真顔になって当然の事実を告げた。

「どれほど高位の知識を並べ立てたところでね、腹が激しく減ってエラーを起こしている脳細胞では、文字の因果関係を一パーセントも正しく記憶することはできないからね。だからこそ、学ぶよりも先に、俺の作った最高の栄養源を胃袋の底へ腹一杯に流し込んでもらう必要があるのさ。すべてはただの、一分の手戻りもない合理主義さ」


昼過ぎ。

午前中の過酷な基礎学習の時間を終えた子供たちの前に、クルザードの手によって最も正しい最高効率の栄養バランスで計算され尽くした、「至高の学校給食」の数々が、完璧な流れを伴って次々と木皿へと配給されていった。


あのオークの極上赤身肉と最高の海藻出汁を極限までブレンドして作られた、濃厚な特製味噌汁。

石窯の熱によってフカフカに焼き上げられた、温かい白い発酵パン。

そして、高温の蒸気調理によって旨味を内側に閉じ込められた、新鮮な海魚と山の野菜の特製煮込み料理。


石鍋から激しく立ち上る白い湯気、そして人間の本能を芯から揺さぶる濃厚な旨味の香りが、新設された学び舎の全体を温かく包み込んでいく。

子供たちは、手渡された木椀を両手でしっかりと握りしめると、我を忘れたように夢中になって飯を貪り、掻き込み始めた。


「う、美味すぎるよ、何なんだよ、この温かい汁は……!」


「パンが驚くほどフワフワで甘い! お肉も入っているぞ、嘘だろこれ!」


「こんなに美味い飯が、本当に毎日お腹いっぱいにタダで食えるなんて、ここは神様のいる天国か何かなのか!」


子供たちの絶叫に近い歡喜の声が、学び舎の四方へと響き渡る。

回復士のデニーゼが、その子供たちの健康状態の数値を医療の目で測定しながら、晴れやかな笑みを浮かべて小さく呟いた。

「……本当に、素晴らしい変化ね、クル。この集落に集まった子供たちの栄養失調の数値、今日のこの配給だけでね、過去の最悪な時期に比べて劇的なまでの改善を記録しているわ」

「不衛生や寒さによる無駄な病気の発症率もね、一瞬にして完全にゼロに抑え込まれている。お前が毎朝仕込みを続けている、この温かい食事の効果が、全細胞の防壁として完璧に効いている証拠よ」


「ああ。だからこそ、肉体の修復と同時に、彼らの脳の中に『教育』という最高のインフラを流し込むのさ」

クルザードは木べらを滑らかに動かしながら、ハキハキとした明晰な声で答えた。

「肉体の健康状態を維持するだけではね、組織を次の巨大なステージへ前進させるための歯車としては、未だに数十パーセントの能率を欠いているからね。身体の管理と、知識のインプット。この2つの因果関係が完璧に同期して初めて、人間は最も壊れにくい最高の資源に変わるからね」


午後。

満ち足りた腹の余裕を得て、脳の駆動効率を最高値に跳ね上げた子供たちの前で、マティルデの記念すべき最初の「授業の工程」が正式に開始された。

彼女が、ガルド特製の黒い石板の真ん中に向けて、白いチョークの組織を滑らかにしならせて、一本の美しい線を刻み込んだ。


『あ』


学び舎の全体が、水を打ったかのように一瞬にして静まり返る。子供たちの明るい目が、その石板の文字へと完全に釘付けになっていた。


「皆さん、よく見て、私の声の流れを正しく真似するのですよ。これは、すべての言葉の始まりの形――『あ』という文字です。さあ、全員で大きな声を出して」


「あ!」


最初の瞬間は、ただの慣れないお遊戯のような、賑やかな笑い声が一面に響くだけだった。

しかし――時間が経過するにつれて、室内の空気の質は、劇的な変化を遂げて前進していった。

自分の目で、荷札の線の形が正しく『読める』。

これまで意味不明なノイズでしかなかった物質の繋がりが、完璧な『数字』として理解できる。

他者に不条理に騙されることなく、自分の頭脳で世界の理を『理解できる』。

その、人間の尊厳を内側から爆発的に覚醒させるプロセスの心地よさに、子供たちは全神経を熱っぽく滾らせ、夢中になって石板の文字を模写し続けていた。


クルザードは学び舎の外の廊下に佇み、換気窓の隙間から、その整然と駆動し始めた教育の流れを、静かに見つめていた。

彼の真横を、泥を踏み締めながら虎獣人のティグリスが歩み寄り、不思議そうにその黄色い瞳を向けた。


「……ねぇ、クル。一人の前衛戦士として教えておくれ。お前がこれほどの膨大な魔力と物資を無駄に消費してまで、子供たちにその文字の形を覚えさせる行為はね、それほどまでに組織にとって重大な一手なのかい?」


「ああ。これ以上ないほどに、絶対的な最優先の判断さ、ティグリス」

クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべ、気さくなトーンのまま、ハキハキと言い放った。

「文字や数字の概念というのはね、戦場で力任せに振るう長剣や、派手な大火力の魔法なんかよりもね、社会の仕組みを回す上では数万倍は強固で最強の『力』そのものだからね」


「剣よりも、文字の方が強いというのかい? 常識的な戦士の感覚では、到底理解できない理屈だけどね」


「極めて簡単な話さ、ティグリス」

クルザードは、活気溢れる広大な市場の全体へとその視線を滑らかに走らせながら、論理的な因果関係を弾き出した。

「民が正しい数字の概念を学べばね、市場のあくどい商人の不条理な計算の嘘を見抜いて、二度と資産を騙し取られる大損を出さなくなる」

「簡単な文字の形が正しく読めればね、他国との間で、一パーセントの不条理な歪みもない強固な『契約の流れ』を自らの手で対等に成立させられるようになる」

「高度な算術の計算の手際をマスターすればね、ただ言われた通りに動く家畜を置き去りにして、自らの手で最大の利益を生み出すための、最高の経済の流れを回せるようになる」

「地図の構造を正しく読解できるようになればね、どんな過酷な未開の遠征の街道であっても、一歩の迷いもなく最高効率の速度で行軍を完了させられる」

「つまり、脳内に正しい知識のインプットがある人員はね、過酷な世界のいかなる不条理な罠の前にあっても、無駄に命を落とす確率が極限まで最低値に抑え込まれるのさ。これこそが、最強の戦力インフラさ」


ティグリスはその一片の迷いもない徹底した合理主義の至言を聞くと、言葉を失って深く沈黙し、それから――その立派な虎耳を小さく震わせて深く納得した。

「……なるほどな。お前の言っていることは、ただの理想の戯言じゃない。街全体の、いや、ここに集まったすべての民の肉体と脳の戦闘力を、底辺から無条件で一気に引き上げるための、完全なる『最強の戦術の構築』そのものだ。本当にお前という男は、恐ろしいほどに物の本質が最初から見えてやがるな」


クルザードの放ったその冷徹な「判断」の成果は、数週間の月日の経過の後、集落全体の駆動効率の更新として、劇的な変化を伴って姿を現すこととなった。


「北側の第一倉庫へ向けて、オーク節の木箱を正確に十箱、搬入のラインを流すぞ!」


「了解だ! 荷札の文字の形は完璧に『北一』と確認した! 一分の手戻りもなく最高速度で届けてみせるぜ!」


「こっちの大型の荷車の塩の絶対量は二十袋だ! 算術の計算、一パーセントの狂いもなく帳簿の数字と完全に同期しているぞ!」


現場の物流速度は、従来の数百倍の能率へと爆発的に跳ね上がっていた。

物資の誤認による無駄な遅延の事故は一瞬にして完全にゼロに抑え込まれ、ずさんな管理の隙を突いた不条理な盗難のバグすらも、荷札の文字が全員に正しく「読める」というただそれだけの防壁の前に、完璧に綺麗に駆逐され尽くしていた。


さらに驚くべきことに、一定の初等教育のプロセスを完了した子供たちが、自らの意思で大喜びで集落の各機能の「補助の役割」へと率先して名乗りを上げ、活発に駆動を始めていた。

膨大な金貨の動きを記録する、ヴァレリアの帳簿の数字の入力。

倉庫に眠る大量の物資の、一分ごとの正確な在庫管理。

ジェシカの調合室における、乾燥薬草の精密な分類作業。

現場の大人たちの負担を軽減するための、簡単な実務のサポート。

彼らが学校でインプットした論理的な知識が、そのまま何の手戻りもなく、この街全体の機能を駆動させるための最高級の「歯車」として、完璧に噛み合って機能し始めていたのだ。


大商人のヴァレリアが、その一分の無駄もない組織の循環の手際を目の当たりにするなり、一人の管理者の目で完全に呆れ果てたような溜息を漏らした。

「……はぁ。本当に、お前という男は、この場所に転がっているすべての物質と人間の命を、一本の線で完璧に繋げて回してしまうのね」


「当然さ、ヴァレリア。教育という高度なプロセスをね、ただの教室の中の自己満足だけで終わらせておくなんて行為はね、俺の合理主義にとっては最も許し難い時間の不効率だからね。使えるものは最高値で駆動させる、それだけさ」


教壇に立つマティルデもまた、毎日の授業の中で、集まった子供たちの姿を輝くような瞳で見つめていた。

迫害の歴史を持つ、獣人の一族の子供。

街の澱みに見捨てられていた、無垢な孤児たち。

先日完璧に制成された、あの元盗賊の男たちの娘。

そして、不条理な関税によって売られかけていた、元奴隷の少年たちの姿。

本来であれば、古い世界の階級制度の前に、同じ机に並ぶことすら絶対に許されないはずの雑多な命の数々。

それが今、ここでは何の不自然さもなく当然のように同じ長机に並び、同じ美味い飯を食い、互いに笑顔を交わしながら同じ論理の知識を学び合っていた。

古い常識の壁など、この学び舎の暖かな暖炉の火の前には、ただの一パーセントも機能してはいなかった。


「先生! こっちの算術の計算のルートがね、どうしても途中で数字の流れが濁って分かんなくなっちゃった!」


「はいはい、慌てる必要はありませんよ。皆さんの脳の駆動能率は最高ですからね、一列になって順番に真っ直ぐ並びなさい。私がその澱みを一瞬で完璧に補修してあげますからね」


忙しく、目まぐるしい毎日の実務の連続。しかし、マティルデの胸の内にあったのは、これまでの不条理な貴族社会ではただの一度も味わうことのできなかった、自らの才能が誰かの命を豊かに動かしているという、心の底からの深い充足感の暖かさであった。


夜。

学校の窓から放たれる橙色の最高の灯りは、夜の帳が深く下りてなお、ただの一秒も消え去る気配すら見せてはいなかった。

なぜなら、子供たちの授業の工程が完全に終了した後の教室内にはね、日中の重労働を終えた現場の大人たちの集団が、自らの意思で大喜びで押し寄せ、熱っぽく机にしがみついて勉強を開始していたからだ。


「……へへ、俺みたいな薄汚い荷運びの男であってもよ、自分の大切な家族の名前の形くらいはな、一生のうちに一度でいいからこの手で完璧に書き表してみたいからな」


「他国の大商会から不当に買い叩かれないためにね、あの法律の契約書の文字の形をね、自分の頭脳で100%完璧に読解できるようになりたいのさ」


「数字の正しい足し算引き算の仕組みを覚えたいんだ! クルの作ったこの街にね、置いていかれたくないからね!」


彼らが夜遅くまで頭を滾らせる理由は、極めてシンプルで揺るぎないものであった。

この、世界で最も生きやすい最高の街で、これからも全員で長く一緒に生きたいから。

凄まじい速度で前へと前進を続けるこの強固な組織の歯車の流れから、自らの不効率な無知のせいで置いていかれたくないからだ。

街全体の進化の速度が、そこに住まう民の肉体と精神の駆動を、勝手に強固に前へと前進させていく。その絶対的な心理の流れが、そこには出来上がっていた。


クルザードは厨房の裏手に立ち、その学び舎から漏れ出てくる温かい熱気の全体を、静かにその明るい瞳で見つめていた。

エルフの薬師ジェシカが、上品な足取りで彼の真横へと腰を下ろし、口元を緩めて小さく気さくに笑った。


「……お前、真横でその佇まいを見つめているとね、時々本気で怖いくらいに世界の遥か先にある未来の図面を、完璧に見通して動いているわね」


「何が大げさなんだい、ジェシカ。俺はただ、そこにある資源の維持のために、極めて普通で当然の『判断』を下しているだけだがね」


「いいや、普通の人間はね、集まった民に美味い大鍋の飯を腹一杯に配給したその時点で、完璧に満足して手を止めて遊んでしまうのさ」

長命種のジェシカは、その鋭い知性の目を細めて言葉を繋いだ。

「その飯の提供のさらに先にある、民の脳のインフラを最適化するための学校の建築なんて巨大なステージまでね、一瞬で思考を繋げて具現化させる人間なんて、世界中どこを探してもお前以外には絶対に一人もいないわよ」


クルザードは少しの間だけ、美しく煮え滾る石鍋の底を見つめて思考を巡らせた。

そして、彼はいつもと変わらない、ハキハキとした陽気な声で一言だけ告げた。


「ただ美味い飯を配るだけの一時的な炊き出しの手順ではね、組織の発展の流れはいずれ特定の限界値に達して中央から完全に止まってしまうからね」

「文字や数字という名の論理的な知識のインプットがなければね、手に入った高度な技術の数々は外に向けて二度と太く広がることはできないからね」

「そして――外に向けて自らの流れを拡大し続けられない脆弱な街はね、いずれ古い世界の不条理な濁流に呑み込まれて一瞬で完全に死ぬからね。だからこれは、絶対に避けては通れない当然の計算さ」


ジェシカは彼のその一片の歪みもない冷徹なまでの大局の看破を聞くと、心底楽しそうな素晴らしい笑みを浮かべた。

「ははは! やっぱりお前、自分の手で新時代の強大な『国家』を築き上げる気で満ち満ちているじゃない」


「ああ、当然さ。世界中のどの都市よりも合理的で、誰も無駄に死なない最強の国をね、今この瞬間から確実に作るよ。俺の計算に間違いはないさ」


即答だった。一片の迷いも、躊躇もただの一片すら宿っていない、絶対的な資源の管理者としての確信の声。


遠く、新設された広大な港湾の地平の先。

夜の帷を切り裂いて、これまでに見たこともないほどの巨大な漆黒の帆を掲げた、他国の大規模な商隊の大型船の数々が、完璧な流れを伴って次々とこの場所に接岸しつつあった。

流入する大商人の集団。

技術の変革を求める高名な職人。

そして、冬の飢餓を乗り越えて安息の地を求める、大量の新しい移民たちの姿。

人が人を呼び、最高の美味い飯の匂いが世界中の優秀な人材を惹きつけ、徹底された絶対の安全が富の流れを一点へと集束させ、そして――この新設された学校の教育のシステムが、集まった彼らの足をここへと強固に縛り付けて、絶対的な定住の循環を生み出していた。

街の規模は、もはや誰にも止めることのできない爆発的な奔流となって、世界の地平の先へと広く広く膨らみ続けていた。


中央の広場の真ん中では、今夜も冷たい夜風を完璧に押し返すような巨大な石鍋が灯され、豊かな白い湯気が天高く立ち上り続けていた。

熟成された最高の味噌。

極限まで濃縮された、あの至高の魚節とオーク節の混合出汁。

豊かな海藻。農地から収穫されたばかりの新鮮な山の野菜。

そして、完璧な火入れによって柔らかく仕上げられた、魔物の極上肉の数々。

その至高の飯の真ん中で、読み書きの技術を新しく覚えたばかりの一人の小さな孤児の少年が、自慢げに自らの親の母親に向けて、泥の地面の上に一本の美しい文字の形を指先で刻んで見せていた。


「見て、お母さん! これ、俺の名前! クルの学校でね、マティルデ先生に教わって、自分の手で完璧に書けるようになったんだ!」


痩せ細った母親の女性は、その地面に刻まれた我が子の名前の形を見つめた瞬間、驚愕のあまりに両手で口を覆い、言葉を失ってボロ、ボロと大粒の温かい涙をその場に流して号泣していた。

ただ。自分の本当の名前の文字が、この手で一本の線として正確に書けただけ。

古い世界の常識から見れば、ただそれだけの些細な記号のインプットに過ぎないのかもしれない。

それなのに――彼ら親子のこれからの未来の人生の格は、この一瞬の駆動によって、不条理な暗闇から最高の光のルートへと、根本から完全に、そして劇的に救い出されて塗り替えられていた。


クルザードはその親子の美しい笑顔を廊下から見つめながら、口元に不敵な笑みを浮かべて静かに呟いた。


「教育の本質もまた、人間の脳へ正しい知識を最も無駄なく流通させる、ただの『高度な物流の一環』だからね」


ティグリスが、お腹いっぱいに肉を頬張りながら、彼のその独特すぎる合理主義のトーンを聞くや否や、堪えきれずに大声を上げて爆笑した。

「がははは! またお前、常人には一パーセントも理解できないような、最高に頭のおかしい変な理屈を平然とまくしたてているね!」


「いいや、ティグリス。大げさな表現なんかじゃないさ。文字や数字という名の正しい情報の仕組みを使ってね、人間の本能の動きを最も最高効率のルートへと向けて動かすための、ただの完璧な組織のデザインだよ」


「あはは、まぁね! お前の言う通り、そのデザインのおかげでね、この街は世界中で一番生きやすくて最強の場所に化けちまったんだから、文句の付けようがないよ!」


春の柔らかな夜風が、新しく舗装された広大な街路の全体を、滑らかに通り抜けていった。

衣服を包み込む大気の熱量は、どこまでも暖かく、そして心地よかった。

これまでの不条理な弱肉強食の搾取に怯え、冬の寒さの中でただ飢えて無駄に死んでいくだけだった最悪の澱みの時代は、ここにはもう、ただの一分の一秒も残されてはいなかった。

自らの頭脳で、世界の理を正しく学べる。

自らの才能を最高値に発揮して、対等に対価を得て真面目に働ける。

次の世代を担う子供たちの命を、何の問題もなく豊かに健康に育てられる。

そして、自らの作った最高の文化と技術の資産を、何年先の未来へ向けても、確実に色褪せずに残し続けられる。


ただの外れにある、崩れかけた小さな廃屋から始まった彼らの一歩。

しかし、その場所には今、美味い飯と確実な安心、そして人間の脳を最適化する高度な教育という、世界で最も揺るぎない絶対的な「合理の軸」を中心に据えることで――

澱んだアルフェイドの古い都市国家を完全に中央から呑み込み、新たなる新時代の輝かしい建国の歴史の巨大な歯車を、今、完璧な速度で力強く、そして最強の奔流を伴って駆動させようとしていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ