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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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23/43

23:オーク討伐

肉確保。


冬の空は鈍色だった。


最果ての海から吹き付ける風が骨を刺すように冷たい。港町の強固な外壁には真っ白な霜がびっしりと張りつき、吐き出す息はどこまでも白く濁って空気中へと広がっていく。

厳しい寒さが世界のすべてを凍りつかせ、活動を停止させるはずの季節。それでも、この街の熱量と機能はただの一秒たりとも止まりはしなかった。


新設された大型の発酵パン窯は朝から赤々と燃え盛り、広大な魚市場の前には新鮮な海の幸を求める人々の長い行列が整然と出来上がっている。

至る所から立ち上る、あの至高の特製味噌汁の豊かな湯気。そして、人々の肉体を温め尽くす酒場からの快活な笑い声。

集まった人間の本能の動き。

澱みのない完璧な物流の循環。

各自の才能に応じた最高の仕事の振り分け。

この最果ての地には今、生きるための力強い音が爆発的な勢いで増え続けていた。


まさにその時、一人の若い漁師の男が、息を切らせて広場の真ん中へと猛烈な勢いで転がり込んできた。


「オ、オークだ! 街のすぐ外の森沿いに、とてつもない化け物の集団が現れたぞ!」


男の悲鳴が広場全体へと広く響き渡る。

その瞬間、周囲の空気がカチリと一瞬で凍りついた。飯を食っていた民たちの顔から、温かい笑みが綺麗さっぱりと消え失せていく。


オーク。それはこの世界において、最も最悪と称される凶悪な害獣の一角であった。

個体としての純粋な物理戦闘力が極めて高い。

ひとつの強固な意思のもとに、信じられないほどの膨大な「群れ」を形成して駆動する。

爆発的な繁殖力によって瞬時にその絶対数を増やす。

彼らは一度出現すれば、民が命がけで耕した畑のすべてを一瞬で荒らし尽くし、罪のない人間を容赦なく襲って喰らう。ただ放置しておくだけで、一つの巨大な村や商会が一夜にして完全に崩壊して消え去るのが、この世界の不条理な常識の数式だった。

以前の脆弱なこの土地の人間であれば、その圧倒的な暴力の前に、ただ恐怖に身を震わせて大慌てで街を捨てて逃げ出していたはずだった。


でも――現在のこの場所は、根本からすべてが違っていた。

クルザードは木べらを手に持ったまま、静かに、しかし流れるような動作でその場に堂々と立ち上がった。その佇まいには、恐れも動揺もただの一パーセントすら存在しなかった。


「状況の確定値を教えてくれ。奴らの正確な絶対数はどれくらいだい」


「に、二十以上です! 今も森沿いの未舗装のルートを、完璧な陣形を敷いてこちらに向けて急速に移動しています!」


「……なるほど。冬を前にして、山から下りてきたわけだね。狩りどきだね」


ティグリスが、黄色い瞳の奥に獰猛な戦士の殺気を孕んで、その口元を不敵にニヤリと釣り上げた。


「がははは! 面白いね! ちょうど退屈していたところさ。久々に私のこの自慢の牙と爪を、最高効率で本気で駆動させてあげようじゃないか!」

最高腕のドワーフ鍛冶師ガルドが、長年愛用してきた巨大な戦斧をその分厚い肩へと豪快に担ぎ直した。


金髪のドミニクもまた、クルザードの仕込んだ調理用の短剣を滑らかな手際で腰のベルトへと差し込み、快活に笑声を上げた。

「あはは! 向こうからわざわざ、極上の料理の材料が勝手に歩いてきてくれたようなものね!」


「お前、本当に不敬というか、とんでもない言い方をするわね!」

マティルデたちが呆れたような突っ込みを返す。


しかし、中央に立つクルザードの頭脳の中は、驚くほど不気味なまでに冷徹に澄み切っていた。

彼の中には、一切の無駄な感情論は存在しない。

ただ、鑑定のシステムから直接流れ込んでくるデータを脳内で瞬時に整理し、戦況を最も完璧に支配するための因果関係の数式を組み立てていく。

周囲の複雑な地形の構造。

敵の絶対数の確定値。

連中が突っ込んでくる移動の動線。

そして、退路を断つための完璧な逃走経路の計算。

彼の思考の中で、一瞬にして一本の美しい戦術の「流れ」が完璧に組み上がっていった。


彼の瞳の奥で、整然と鑑定の文字が明滅する。


『対象:オークの群体。状態:極寒の冬による完全なる飢餓状態に伴う攻撃性の暴走』

『特性:全身が強固な筋肉層に覆われ、打撃防御力が極めて高』

『成分:素材の持つ肉質:極めて良質。さらに最高級の不飽和脂肪酸(脂質)を多量に検出』

『効果:純白の塩を用いた塩漬け処理、および燻製加工、さらには特製の味噌漬け工程への適性が最高値を記録』

『結論:この過酷な冬の時期における、最大規模の貴重な食料資源と判明。一欠片も無駄にせず完全回収が最優先』


クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべ、ハキハキとした声で小さく呟いた。


「……素晴らしいね。これだけの最上のタンパク質があれば、みんなで何の問題もなく最高効率で極寒の冬を越せるさ」


「ちょっと、お前! この全滅必至の化け物の群れを前にして、一番最初の『判断』がそれなの!?」

赤髪の剣士マティルデが、開いた口が塞がらないといった呆れ顔で声を張り上げた。


「当然さ、マティルデ。食料資源の安定した確保と管理こそが、すべての強固な集団を維持するための最優先事項だからね。飯の絶対量を増やすチャンスをドブに捨てる方が、よほど大損で不効率だろ?」


クルザードは真顔だった。一片の冗談も、誇張もない。資源の管理者としての確固たる「判断」の重みがそこにあった。

彼は即座にその場にいる全員へ向けて、自らの頭脳が弾き出した最高効率の役割の「振り分け」の指示を、ハキハキと言い渡していった。その差配の速度には、一ミリの手戻りも迷いもただの一片すら存在しなかった。


「戦闘班の駆動を開始するよ。全員、俺の示す陣形の軸に沿って完璧に連動してくれ」

「ティグリスは最前線の突進を封じる前衛! ガルドは中央の破壊力を維持する中核!」

「ドミニクは左右の隙を埋める遊撃! カタリナは木々の上からの完璧な索敵!」

「ドロテアは後方からの魔法による熱量制御! デニーゼは治療室での完全待機!」

「ステファンは左翼の動線の完全封鎖! マルセルは右翼からの正確な奇襲!」

「そしてアランは、アミのように周囲の金属成分を操作して、敵の足元の自由を奪う拘束補助を担ってくれ!」


一瞬。たった一言の鋭く通る声の差配。それだけで、広場を満たしていた不安の空気は一瞬にして完璧に中和され、最高効率の軍隊の如き強固な組織の流れへと書き換わった。

ティグリスが自慢の鋭い牙を見せつけ、嬉しそうにその黄色い瞳を細めて笑った。

「了解だよ、クル! お前のその完璧な振り分け、一パーセントの澱みもなく体現して見せるさ!」


「よし、もう一つの厳格なルールを言い渡しておくよ。全員、敵を必要以上に痛めつけて『殺しすぎるな』よ」


「はあ!? それは一体どういう計算なのよ?」


「肉組織が必要以上に傷ついて破裂すれば、そこから食材としての鮮度が劇的に落ちて大損を出すからね。急所だけを最も無駄のない正しい最小の手順で正確に刈り取るんだ。これが俺の合理主義さ」


居合わせた全員が一斉に、その徹底ぶりに対して盛大な大声を上げて吹き出した。

「そこまで肉の鮮度のことしか考えてねぇのかよ、お前は!」


「普通なら命を守るための必死の戦いだぞ、本当に面白すぎるわ!」


ステファンたちが大笑いしながら武器を構える。しかし、彼らの心の中から恐怖の澱みは完全に綺麗に消え去っていた。この青年の放つ絶対的な「合理の軸」に従って動けば、結果は常に最高値として返ってくるのを、彼らは骨の髄まで信頼していたからだ。命すらも、社会を回すためのただの貴重な「資源」として冷徹に見つめる圧倒的な強さ。


冬の冷気が立ち込める、鬱蒼とした魔の森。

雪の混ざった泥の地面を踏み締めながら、陣形は一分の手戻りもなく急速に進軍していた。

頭上の木々の隙間を滑らかに跳ね回っていた斥候のカタリナが、音もなく地上へと降り立ち、クルザードの真横へと並んだ。


「クル、前方の構造的死角に、不条理なノイズの全体を完璧に捉えたわよ」


「正確な数値のデータを教えてくれ、カタリナ」


「絶対数は総勢で二十三匹。内部にまだ未成熟な子供の個体が数パーセント混じっているわね。……ただし、最前線の先頭にね、通常の個体の数倍の魔力質量を蓄えた、圧倒的に巨大な『上位種リーダー』が布陣を敷いて潜んでいるわ」


オークの上位種。その言葉を耳にした瞬間、中堅の冒険者たちの顔に、僅かな重苦しい緊張の張りが走った。

通常のオークを遥かに凌駕する腕力と、強固な皮膚の鎧を保有する、迷宮の深層にしか現れないはずの災害級の化け物。普通であれば、一パーティの全滅を予感して大慌てで撤退を判断する最悪の戦況。

普通であれば、の話だ。


クルザードは口元に不敵な笑みを浮かべたまま、腰にある古びた剣を滑らかな動作で静かに引き抜いた。

その刃は、銀色の美しい輝きを放ち、軌道上の無駄を極限まで削ぎ落とした細身の構造をしていた。


(しまっていこう。俺自身の肉体のスペックは、世界の基準から見れば未だに『極めて弱い』段階にあるからね。だからこそ、一分の一秒の無駄な動きも許されない最高の効率の戦術が必要さ)


本人は大真面目に自らを弱い欠陥品であると思い込んでいた。しかし、彼の脳内が弾き出すその戦い方のプロセスは、世界のいかなる高名な剣聖や軍師をも遥かに置き去りにして、圧倒的に異常で冷徹極まりないものだった。


「ドロテア、熱の流れを今すぐ駆動させるんだ! 厨房の技術を応用した、あの高温水蒸気の一気の行使さ!」


「了解よ! 視界を完全に遮断してあげるわ、燃え上がりなさい!」


後方からドロテアの放った精密な魔力が空間の水分と結合し、一瞬にして、森の全体を視界ゼロにするほどの真っ白な「高温の蒸気のアラシ(スチームバースト)」が爆発的に広がり、オークたちの突進軸を中央から完璧に遮断した。

突如として視界と温度の不意打ちを食らったオークたちが、驚愕と混乱の激しい咆哮を暗闇に轟かせる。彼らの統率の動きが、最初の一手で完全に機能停止に陥る。


「アラン、今だ! 敵の足元の自由を無条件で奪い去るんだ!」


「枷の錬成を開始する! 逃さねぇよ!」


アランが地面の岩盤に含まれる強固な金属成分を一瞬で操作し、隆起させた強固な鉄の鎖が、泥に足を取られていたオークたちの両足へと寸分の狂いもなく完璧に絡みつき、その場へと無様に転倒させて完全固定した。


「ティグリス、右側の三匹の急所を、最も正しい最小の手順で正確に刈り取るんだ!」


「任せなさい! 最高の差配だよ、クル!」


虎獣人のティグリスが、驚異的な身体のバネを活かして加速し、真っ白な蒸気の帳を内側から切り裂いて跳躍した。

その動きは、あまりにも速く、重く、そして美しかった。

一切の手戻りもない鋭利な爪の一閃が、動きを止められたオークたちの喉元の血管だけを、一ミリの狂いもなく正確に引き裂いていく。鮮血が白い雪の上に生々しく飛び散るが、肉組織そのものは完璧に傷一つなく美しい状態を維持していた。

流れるような、完璧な役割の処理の工程。


「マルセル、左翼の動線へ向けて、風の刃の奇襲を滑らかに流し込むんだ!」


風を切り裂く鋭い音が響き渡り、逃げ出そうとしていたオークの首が次々と綺麗に刎ね飛ばされ、泥の中にどさりと力なく崩れ落ちていく。


「がははは! おいおい、小僧! こいつは戦闘というより、ただの『最高効率の解体作業』じゃないか! 楽な仕事になったもんだぜ!」

ドワーフのガルドが、巨大な戦斧を豪快に振り回し、動きを制限されたオークの巨体を次々と一撃のもとに粉砕していった。


以前の彼らとは、すべてが根本から違っていた。

ただ力任せに武器を振るい、互いに足を引っ張り合いながら血を流していた古い冒険者たちの姿は、ここにはもうどこにも残されてはいなかった。

完璧な役割の振り分け。

一分の澱みもない連携の噛み合い。

敵を無条件で無力化する強固な拘束。

そして、命を一欠片も無駄にしないための、冷徹な「処理の流れ」の具現化。

クルザードが中心に立ち、最適な判断の軸を一つ示すだけで、集団のすべてが一つの巨大な工場の機械のように、最高効率で美しく回り続けていた。


クルザードは陣形の後方から、その全体の動きの本質を、瞳の奥に宿る鑑定の数値情報で冷徹に観察し続けていた。

前衛のステップの細かな癖、体内の魔力の残量、次に敵がどのルートを通って奇襲を仕掛けてくるのかという因果関係のすべて。

かつては情報の洪水に脳を直接焼き切られそうになって顔をしかめたあの力。しかし、現在の彼の頭脳は、それらの膨大なデータを完璧に美しい記号の並びとして整理し、状況の流れを決めるための最強の武器としてマスターしていた。頭痛はただの、駆動のための必要経費さ。


まさにその時、群れの最深部から、これまでの雑魚とは完全に格の違う、圧倒的な質量を誇るオークの上位種リーダーが、地鳴りのような凄まじい咆哮を上げて突進してきた。

体長は優に二メートル半を超え、その全身は鎧のように強固な漆黒の筋肉層に覆われ、口元からは丸太を容易に噛み砕く巨大な牙が覗いている。手にした巨大な鉄の棍棒を振り回しながら、彼らの前線を力ずくで踏み潰そうと、凄まじい速度で泥を蹴って突っ込んできた。

普通であれば、その圧倒的な威圧感の前に、誰もが一歩後退りして戦慄する絶望の戦況。


「ベッティーナ、今だ! 正面から奴の突進軸を、その自慢の大盾で一秒だけ完全に固定するんだ!」


クルザードの鋭い、一切の無駄な軽口を排した「判断」の指示が飛んだ。


「待ってました! 私の防壁の力、舐めるんじゃねぇぞ、この化け物がぁ!」


盾士のベッティーナが全魔力を大盾に集中させ、泥を深く噛み締めながら、果敢にオーク上位種の正面へと激突した。

ズズズン、と森全体を内側から震わせるような凄まじい衝撃音が響き渡り、彼女の足元の石畳が派手に沈み込んで砕け散る。しかし、彼女の執念の防御により、オーク上位種の圧倒的な突進のエネルギーは、確かにその場の一点へと完全に制動されて停止した。


一秒の、完璧な手戻りのない隙の誕生。

クルザードは深く踏み込むと、腰の細身の剣を滑らかにしならせて、空間全体に向けて一気の一閃を放った。


「ウォーターワイヤ(水線一閃)」


掌から解放された過剰な水属性の魔力が、彼の精密な【微細制御】のスキルによって、肉眼では決して捉えることのできないほどの、極限まで圧縮された「一本の水の細線」へとその姿を瞬時に変貌させたのだ。

超高速で回転する流体の糸。それが空間を滑らかに通り抜けた次の瞬間、大言壮語を叩いていたオーク上位種の丸太のような巨大な右腕の組織が、防具ごと綺麗に切断されて地面へと滑り落ちた。


「……は? 今の、本当に水魔法……? 剣を振るうよりも、遥かに恐ろしい精度じゃないか……」


ティグリスが、そのあまりにも冷徹で一分の狂いもない制圧の手際を前にして、黄色い瞳を限界まで見開いて呆然と言葉を漏らした。

クルザード自身も、自らの手のひらに残るその驚異的な身体感覚の数値の動きに、僅かに驚きを隠せないでいた。

以前に比べて、体内の魔力の出力のコントロール、および空間の因果関係への理解力が、飛躍的な向上を遂げている。


『――個体名:クルザード。戦闘駆動能率の最適化を確認。全体のシステムレベルの上昇レベルアップを検知――』


耳の奥で鳴り響く、無機質な世界の更新の記号の響き。

これまでの数々の目まぐるしい死闘、そして何よりも、毎日の美味い飯による完璧な肉体の修復のプロセスが、彼の肉体に宿る才覚を、分単位で爆発的な勢いで進化させ続けていたのだ。積み重ねてきた合理の結果が、そこにはあった。


オーク上位種は、自慢の右腕を一瞬で失ったことに激昂し、残された左腕で棍棒を狂ったように振り回して、最後の悪あがきの突進を駆動させようとした。

しかし、クルザードの脳内には、次なる完璧な処理の手順が最初から見えていた。


「スチーム(蒸気炸裂)」


掌から放たれた、高温高圧の純白の蒸気の塊が、オーク上位種の顔面全体へと直撃してその視界を完璧に奪い去り、肉体の機能を一瞬で激しく怯ませた。

決定的な、手戻りのない本当の終焉の瞬間の誕生。


「これで、すべての澱みの処理は完了さ。終わりだよ」


クルザードの細身の剣が、暗闇の中で冷徹な一本の光の線を描いて滑らかにしなった。

風を切り裂く鋭い音が響いた瞬間、オーク上位種の巨大な首は正確に断ち切られ、泥の中にどさりと力なく崩れ落ちた。


凄まじい風圧の後、魔の森の中に、完全な静寂が訪れた。

頭上から静かに降り注ぐ、純白の雪の落ちる微かな音だけが、彼らの白い息の向こう側で静かに響いていた。


ティグリスが、長槍をおろしながら、心底震えるような声を漏らした。

「……おい、お前。これほどの大集団をたったの数分でノーダメージで仕留めておいてよ、まだ自分のことを『弱い欠陥品だ』なんて平然と言い張るつもりかい?」


「ああ、当然さ。俺の魔力制御にはね、未だに出力の数値に僅かな手戻りの歪みが残っているからね。まだまだ理想の最高効率には程遠い、普通の荷物持ちさ」


「嘘をつけ、絶対にそんな普通の荷物持ちが世界にいるわけがないわよ!」


ガルドが巨大な戦斧を担ぎ直しながら、感心したように豪快に笑い出した。

「がははは! だがまぁ、前よりもお前という男のヤバさの数値が、跳ね上がっていることだけは確実だぜ、小僧!」


クルザードは彼らの称賛を陽気に受け流すと、地面に横たわる二十三匹のオークの巨体を見つめ、その瞳を資源の管理者として爛々と輝かせた。


「さあ、流れは決まった。一欠片の筋肉も脂もここに無駄に見捨てておくわけにはいかないからね。これだけの最上のタンパク質の全体を、今すぐアイテムボックスへ回収して、最高の飯の素材に解体加工しよう」


「本当にお前は、どんな死闘の直後であっても一ミリもブレない男だな!」


彼の一片の揺らぎもないその快活な一言に、全員が一斉に大声を上げて笑い、彼らは大満足の収穫を抱えて、軽やかな足取りで最高の料理屋へと帰還していった。

以前であれば、魔物の血塗れの解体作業など、誰もが不快そうに嫌がって手戻りを出していたはずだった。しかし、現在の彼らは全く違っていた。クルザードの放つ「飯の価値」の本質を骨の髄まで知っているからこそ、自らの意思で大喜びで手を動かし、一瞬にして最高速度で処理を完了させていった。


肉組織は、彼の持つ純白の精製海塩を用いた、長期の塩漬け。

香木の煙を操る、あの簡易燻製小屋での高度な乾燥。

そして、木桶の底から取り出されたばかりの、あの至高の味噌を用いた完璧な味噌漬けの工程。

それらの保存のラインへと、一分の無駄もなく均等に振り分けられていった。

骨からは濃厚な大鍋の出汁が抽出され、外皮はガルドの手によって最高級の防具用皮革へと加工され、溢れ出る極上の脂は、冬の間の貴重な照明用の油として完璧に再生されていった。一パーセントの無駄な廃棄も出さない。その徹底ぶりこそが、この街の絶対的な強さの基盤そのものであった。


夜。

最果ての海岸線の広大な料理屋の内部は、かつてないほどの凄まじい祭り状態の狂熱と歓喜に包まれることとなった。


「おい、聞いたか! 冬の時期にまさか、あの極上の『オークの肉』が腹一杯に食えるなんてな!」

「この味噌を擦り込んで直火でじっくりと焼き上げられた、肉の香ばしさが本気で頭を狂わせそうだぞ!」

「お代わりだ! スープの中にあの濃厚な味噌の汁をたっぷりと持ってきてくれ、早くしろ!」


立ち上る、豊かな白い湯気。

五感を芯から満たし尽くす、至高の旨味の香り。

そして、崖の上から響き渡る、何百人もの人間の心からの温かい歓声。


最前線で解体を担当し続けていた虎獣人のティグリスは、その目の前に次々と運ばれてくる極上の肉の皿を前にして、完全に野生の本能の歓喜を爆発させて理性を崩していた。

「肉だ! 肉だあああ! これほどの極上の脂を含んだタンパク質、一生かかっても食べ尽くせないほどの極楽だよ、お前!」


「慌てるな、ティグリス。君の胃袋の許容量に合わせた、最適な分配のペースを守るんだ」


「落ち着いていられるわけがないだろ! この美味そうな匂いの前に、私の虎としての全神経が、今すぐ限界まで肉を喰らえと激しく悲鳴を上げているのさ!」


ドミニクが、配膳のカウンターの奥から、その彼女の必死すぎる姿を見て大声を上げて笑った。

「あははは! 凄い食べっぷりね、ティグリス、今日だけで一体何皿の肉をそのお腹の中に流し込むつもりよ!」


「胃袋の限界の最大値に達するまでさ! 一欠片も残さずにね!」


クルザードは厨房の真ん中に立ち、美しく煮え滾る巨大な石鍋の熱の流れを静かに見つめていた。

最高の海の幸と、今日獲得したばかりの新鮮なオークの極上肉。そこに、熟成されたあの至高の味噌の質量が、一分の澱みもない手戻りのない手順で完璧に溶かし込まれている。

豊かな海藻。農地から収穫されたばかりの新鮮な根菜。そして、肉体を温め尽くす最高の酒。

石鍋から激しく立ち上る白い湯気と香りが、冬の冷たい夜空を完全に圧し戻して、広場全体を暖かく支配していた。


集まった民たちは、木椀を掲げながら、口々に心からの笑顔を浮かべて大声を上げて笑い合っていた。

「信じられないわね、この街の生活は! 外のどの街の市場に行っても、冬の時期は肉不足で深刻な飢えに喘いでいるっていうのによ!」

「あぁ、間違いない! ここにいれば、そんな不条理な飢餓なんて言葉、一パーセントも関係なく毎日腹一杯に美味い肉が食えるんだ!」

「風呂もあるし、酒もある! この街の仕組み、本当に最高に頭おかしくて素晴らしいぜ!」


彼らの言う通り、それは世界の他のどの大都市の権力者であっても、到底具現化することのできない奇跡のような救いの現実であった。

通常の街であれば、冬期は物資の移動が完全に停止し、保存技術の欠如によって深刻な食料難と飢えが乱発するのが常識の数式だ。

しかし、ここの空間においては、すべての事象がクルザードの合理主義によって、完璧な高次元のステージへと引き上げられていた。

完璧な常常温保存技術の確立。

質量を無視した、圧倒的な空間輸送(物流)の掌握。

最高値に徹底された、無菌化の衛生環境の維持。

そして、それらの資源の価値を極限まで高めて人々に振り分ける、至高の調理の手順。

そのすべての歯車が、一分の淀みもなく一本の流れで噛み合って回り続けているからこそ、この場所には無限の富と食料の「余剰」が勝手に生み出され、どこよりも強固に駆動し続けているのだ。


大商人のヴァレリアが、カウンターの奥からしなやかな動作で歩み寄ってくると、その鋭い商人の目を細めて小さく告げた。

「……確実よ、お前。アルフェイドの中央の街の支配者たちがね、ここのこの冬の豊かさを一目目撃してみなさい。あまりの不条理な格の違いいに、本気で顔を青くして発揮するわよ」


「何故発狂するんだい、ヴァレリア。俺たちはただ、手に入った資源の正しい使い道の工程を、最も無駄のないルートでこなしているだけだがね」


「お前が平然と言ってのけるその『だけ』という結果がね、彼らの古い特権階級のシステムにとっては、世界の常識を根底からすべて破壊する最高に危険な革命そのものだからよ」

ヴァレリアは、最高の利益と時代の変革を確信した素晴らしい笑みを浮かべた。

「『なんで冬の極寒の時期に、これほど大量の極上の肉を平然と貪り食うことができるんだ』ってね」

「彼らが軍隊を動かして金を積んで維持していた古い利権はね、明日からお前の一杯の味噌鍋の前に、完全に価値を失って死ぬのさ」


クルザードは大きな木べらを滑らかに動かしながら、当然の事実を告げるように、ハキハキとした声で答えた。

「食えるだけの豊かな資源が最初からここに眠っていた、ただそれだけのシンプルな因果関係さ」

「高純度な塩の精製」

「熟成された麹による、最高の味噌と醤油の量産」

「人間の肉体を温め尽くす、至高の酒の醸造」

「完璧な脱水処理を施す、あの燻製小屋の技術」

「そして、質量を完全に無視して物資を届ける、俺のアイテムボックスの空間輸送」

「このすべてのインフラの歯車が、一本の流れで完全に繋がっていなければ、この極寒の冬を乗り越えることは絶対に不可能な数式だからね。積み上がった結果が、ただここにあるだけさ」


彼がそう言葉を発した瞬間、世界の真実を映し出す鑑定のシステムが、彼のその壮大な建国のデザインに呼応するようにして、脳内で爆発的な数値の更新を弾き出し続けた。


『環境:食料自給の完全なる安定化を感知。外部からの経済的干渉リスク:完全なるゼロを記録』

『流入:冬の飢餓から逃れてきた、新規の移住希望者の増加率が過去最高値を更新』

『状態:集落全体の治安、および民の生存満足度の数値が最高値に到達』

『結論:単なる一大交易都市の枠を遥かに置き去りにして、独自の主導権を掌握する、新たなる最強の『国家(勢力)』としての駆動が完全に進行中と判明』


理解する。また一歩、世界のすべての不効率な澱みを消し去り、自らの国をどこよりも強固にするための、絶対的な変革のプロセスが前進した。


エルフの薬師ジェシカが、その白い湯気を含んだ味噌汁を大切そうに口に含みながら、口元を緩めて小さく気さくに笑った。

「……本当に、どこまでも変で、最高に面白い男だね、お前は」

「あの災害級と言われたオークの上位種を一瞬で仕留めておいてね、一言目に叩く言葉が『肉の保存効率の計算』なんだからね」


「当然さ、ジェシカ。食料の安定した確保こそが、すべての組織の生命維持において最も重要な基礎だからね」


「はは、分かっているわよ。お前のその徹底ぶりのおかげでね、私の治療室に通ってくる病人の数は、完全に一パーセントもいなくなって退屈しているくらいだからね」

彼女は、深く洗練された味噌の味わいに、心底感服したような深い感嘆の溜息を漏らした。


人間の肉体が、最も内側から温まり、全細胞の飢えが確実に満たされ、生きる喜びを取り戻して笑い合う。

ただそれだけの、世界で最も揺るぎない絶対的な「快適さの軸」。それさえこの場所に完璧に整えておけば、人間の心の流れは、古い街の権力や理不尽な不条理を完全に置き去りにして、怒涛の勢いでこちらの手元へと流れてくるのだ。


料理屋の敷地のすぐ外側、新しく舗装された道路の向こう側からは、夜の寒さを凌ぐために、さらに新しく押し寄せてきた無数の新しい移住希望者たちの長い列が、完璧な流れを伴って美しく出来上がりつつあった。

彼らが暗闇の中で交わす、明日の生存を完璧に確信した信頼の言葉の噂。

「なぁ、あの海沿いに出来た、あの新しいやばい料理屋に行けば、この極寒の冬であっても、腹一杯の最高の温かい肉の飯が食えるらしいぞ」

「ああ、確実だ。酒もあるし、怪我が一瞬で治る天国のようなお風呂まであるんだ」

「あそこに行けば、子供たちが無駄に死ぬ心配なんてただの一パーセントもなく、誰でも真面目に役割を与えられて働くことができるのさ」

「俺たちのこれからの人生を、何の問題もなく完璧に委ねて生きていける、最高の楽園さ……!」


人が増え、街が広がり、彼らの持つ貴重な技術と才能は、一分の手戻りもなく最高効率の速度でこの場所に蓄積され続けていた。


クルザードは窓の外に広がる、月明かりを美しく反射してきらきらと輝く広大な海、そして新しく開通した滑らかな道路の上で活発に駆動する民たちの姿を静かに見つめ、その瞳の奥に冷徹なまでの確信の光を宿し続けた。


ティグリスが、お腹いっぱいに肉を頬張りながら、嬉しそうにその黄色い瞳を細めて笑った。

「……おい、クル。このお前の作った最高の街ね、これから遠くない未来、世界中のどの大都市の歴史をも遥かに置き去りにして、絶対にとんでもなくヤバい国に化けるよ」


クルザードは彼女の問いに対して、口元に世界全体の構造を美しく塗り替えるための、不敵で、そして最高に陽気な微笑みを浮かべたまま、ハキハキと言い放った。


「いいや、ティグリス。大げさだよ、未来の話なんかじゃないさ。俺の完璧な計算の通り、この場所はね――もうすでに、世界で一番最強の国へと、勝手になり始めているのさ」






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