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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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21/104

21:酒

 酵母成功。


 夜の港町は、以前よりも明るかった。


 潮風。


 湯気。


 魚を焼く匂い。


 そして、人の声。


 料理屋の前には今日も行列が出来ている。


 冒険者。


 漁師。


 職人。


 移住希望者。


 獣人。


 エルフ。


 元盗賊。


 肩書きが混ざり始めていた。


 それでも喧嘩は少ない。


 理由は単純だった。


 腹が満たされている。


 風呂がある。


 仕事がある。


 寝床がある。


 そして。


 ここには“明日”がある。


 クルザードは厨房裏で樽を見ていた。


 木樽。


 密閉。


 内部温度。


 湿度。


 香り。


 全部確認する。


 ジェシカが隣で腕を組む。


「……本当にやるの?」


「やる」


「失敗したら腹壊すわよ」


「だから確認してる」


 クルザードは静かに樽を開けた。


 ふわり。


 甘い香り。


 酸味。


 発酵臭。


 空気が変わる。


 ティグリスの耳が動いた。


「……なんだこの匂い」


「面白い匂い」


 ガルドが目を見開いた。


「酒か?」


「まだ途中だ」


 クルザードは木杓子で液体をすくう。


 泡。


 炭酸。


 発酵。


 生きている。


 彼の鑑定が反応した。


『酵母』

『糖分分解』

『発酵』

『アルコール生成』

『保存向上』

『栄養変化』


 以前は意味不明だった情報。


 今は違う。


 繋がる。


 理解できる。


 クルザードは小さく息を吐いた。


「……成功してる」


 ジェシカが驚いた。


「本当に見えてるの?」


「ああ」


「菌が動いてる」


「糖を食ってる」


「増殖してる」


 ガルドが笑った。


「相変わらず意味分からん男だな!」


「でも好きだぜ!」


 クルザードは樽を見た。


 最初は偶然だった。


 パン。


 酵母。


 膨らみ。


 香り。


 そこから気づいた。


 生き物がいる。


 目には見えない。


 でも働いている。


 発酵。


 保存。


 酒。


 そして。


 それは国家を変える。


 ヴァレリアが静かに聞く。


「どれくらい儲かる?」


「かなり」


 クルザードは即答した。


「酒は保存できる」


「運べる」


「価値が落ちにくい」


「税になる」


「人を呼ぶ」


 ヴァレリアが笑う。


「最高じゃない」


 彼女は商人だ。


 分かる。


 酒場が出来る場所には人が集まる。


 人が集まれば物流が生まれる。


 物流は金になる。


 そして。


 金は権力になる。


 クルザードは小さな杯へ液体を注いだ。


 淡い琥珀色。


 泡。


 香り。


 果実と麦の中間。


 ティグリスが顔を寄せる。


「……飲めるのか?」


「多分」


「多分ってなんだ」


 ドミニクが笑った。


「実験台誰?」


 全員がガルドを見る。


「おい」


「なんで俺だ」


「頑丈だから」


「納得いかねぇ!」


 でも飲む。


 豪快に。


 ぐびり。


 一瞬。


 静止。


 全員が見る。


 ガルドの顔が赤くなった。


「……うめぇ」


 静寂。


 次の瞬間。


「おおおおおお!?」


 歓声が上がる。


 ティグリスが杯を奪う。


「私も!」


 一口。


 目を丸くした。


「……甘い」


「でも熱い」


「喉が温かい」


 ジェシカも飲む。


「香りが凄いわね」


「雑味少ない」


「これ、本当に初回?」


 クルザードは頷く。


「水が綺麗だった」


「岩塩もある」


「浄化も使った」


 ピュリフィケーション。


 純化。


 雑菌除去。


 水洗浄。


 衛生改善。


 全部繋がっている。


 この世界の酒は雑だった。


 腐る。


 濁る。


 臭い。


 でも。


 クルザードの酒は違う。


 清潔。


 管理。


 温度。


 発酵制御。


 合理。


 だから強い。


 ドミニクが小さく笑う。


「また始まった」


「何が」


「快適さで殴るやつ」


 クルザードは否定しない。


 彼は知っている。


 強い国とは。


 剣が強い国じゃない。


 住みたい国だ。


 その夜。


 料理屋は異常な盛り上がりを見せた。


「酒だ!」


「新作だ!」


「並べ!」


 人が増える。


 笑い声。


 魚料理。


 焼き貝。


 燻製。


 海藻出汁鍋。


 焼きたてパン。


 酒。


 最高だった。


 ティグリスは酒に弱かった。


「……ふにゃ」


「顔赤いぞ」


「うるさい」


 尻尾が揺れる。


 完全に酔っていた。


 ドミニクが笑う。


「可愛い」


「噛むぞ」


「怖っ」


 ガルドは既に大騒ぎしている。


「酒だあああ!」


「もっと持ってこい!」


 元盗賊たちまで笑っていた。


 数週間前。


 殺し合う側だった人間。


 今は同じ卓を囲んでいる。


 料理。


 酒。


 灯り。


 それだけで変わる。


 クルザードは静かに周囲を見ていた。


 鑑定。


 情報。


 感情。


 流れ。


 少しずつ見えてくる。


『定住率上昇』

『治安改善』

『幸福度上昇』

『人口増加』

『物流安定』

『食料余剰』


 数字じゃない。


 でも感覚で分かる。


 この場所は強くなっている。


 そして。


 彼自身も。


 レベルアップ。


 頭の奥で音がした。


『新スキル獲得』

『発酵理解』

『微細制御』

『浄化精度上昇』


 クルザードは目を閉じた。


 魔力。


 流れ。


 以前より鮮明。


 制御が出来始めている。


 まだ不完全。


 でも。


 確実に進んでいた。


 その時。


 ヴァレリアが隣へ来た。


「これ、他国が欲しがるわよ」


「分かってる」


「どうするの?」


「簡単には出さない」


 ヴァレリアが笑う。


「技術独占」


「ああ」


「まずはここを太らせる」


 道路。


 港。


 冷蔵。


 保存。


 酒。


 塩。


 出汁。


 パン。


 全部繋がる。


 そして。


 人が離れなくなる。


 ティグリスが酔った顔で聞いた。


「……お前」


「どこまで作る気だ」


 クルザードは少し考えた。


 海を見る。


 灯りを見る。


 笑う人を見る。


「冬でも腹が減らない場所」


「病気で死なない場所」


「子供が笑う場所」


「誰でも働ける場所」


「……そんなとこ」


 ティグリスはしばらく黙っていた。


 そして。


 小さく笑う。


「それ、国だぞ」


 クルザードは答えなかった。


 でも。


 否定もしなかった。


 深夜。


 料理屋はまだ賑わっていた。


 酒。


 笑い声。


 肉汁。


 魚の香り。


 湯気。


 灯り。


 外では新しい移住者が並んでいる。


「ここなら生きられるらしい」


「飯が美味い」


「冬を越せる」


「盗賊も働いてる」


「風呂がある」


「酒がある」


「最高じゃねぇか」


 人が増える。


 街が広がる。


 技術が積み上がる。


 クルザードは静かに酒を口へ運んだ。


 温かい。


 柔らかい。


 そして。


 確信していた。


 快適さは。


 いつか国家すら呑み込む。








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