20:盗賊
即拘束。
夜。
最果ての海岸線には、冷たくもどこか穏やかな冬の海風が静かに流れていた。
漆黒の闇に包まれた砂浜の中で、新設されたばかりの巨大な木造二階建ての料理屋だけは、遠くからでも一目で分かるほどに暖かな橙色の灯りを煌々と灯し続けていた。
夜も更けているというのに、広大な店内は未だに隙間が一つもないほどに完全な満席の状態を維持していた。
限界まで濃厚に煮出された、あの至高の海藻出汁の特製鍋。
自前の純白の精製海塩を揉み込んで完璧に焼き上げられた、肉厚の海魚の塩焼き。
燻製小屋から日々量産される、芳醇でスモーキーな干し肉の塊。
石窯の熱によって美しく黄金色に色づいた、ふんわりと柔らかい白い発酵パン。
海の塩気を多分に孕んだ、豊かな海藻の濃厚なスープ。
そして、人々の肉体を内側から温め尽くす最高の酒の数々。
そこら中から湧き上がる人間の心からの温かい笑い声、満たされた人々の発する圧倒的な熱気と活気。
ほんの数ヶ月前まで、潮風が吹き付けるだけで何一つ存在しなかった不毛な海岸線であるとは、到底信じられないほどの奇跡のような光景がそこには出来上がっていた。
そして――人間がこれほど爆発的な勢いで集まり、豊かな富と食料が一点へと集中する場所には、その澱みを嗅ぎつけて必ず外部から寄ってくる不条理な存在があった。
「……フン、予想通りの淀みが、ようやく重い腰を上げてこちらへ向けて流れてきたね」
料理屋の強固な屋根の上。冷たい夜風に長い黒髪をしならせながら、斥候のカタリナが鋭い知性を宿した目を細めて闇の奥を凝視した。
夜闇の帳の向こう側。街道の脇に広がる鬱蒼とした木々の影。
そこから、総勢十数人を超える不穏な人間の集団が、泥を踏み締めながらじりじりとこちらに向けて急速に接近してきていた。
その移動の足取りは極めて荒く、周囲を警戒して気配を完全に隠そうとする隠密の意思も致命的なまでに薄い。
纏っているのは、手入れの行き届いていない薄汚れた粗末な革鎧。
手元で鈍い光を放つのは、手戻りの多そうな錆びついた粗悪な武器の数々。
そして、その瞳の奥底には、極限の飢えによって理性を失いかけた、本能的な飢餓の目がギラギラと不気味に輝いていた。
紛れもない、この冬の時期に最も活性化する、凶悪な「盗賊」の大集団であった。
カタリナは屋根の上から一瞬にして音もなく滑らかに地上へと降り立つと、迅速な動作で厨房の裏手へと回り込んだ。
そこでは、大きな調理を終えたばかりのクルザードが、魔法結合された巨大な鉄製の大鍋の表面を、一秒の無駄もない見事な手際で淡々と洗い流していた。
「クル、正面の街道の闇から、不条理なノイズがこちらの物資を狙って急速に接近してきているわよ」
「人員の絶対数はどれくらいだい、カタリナ」
クルザードは木べらを置くこともなく、口元に明るく快活な笑みを浮かべたまま、ハキハキとした明晰な声で尋ねた。
「総勢で十五人さ。全員、武器の扱いも足腰の踏み込みの癖も致命的に雑で、戦力としての数値は極めて低いわね」
「十五人か。想定の範囲内の数だね。全体の戦術の駆動効率としては、極めて脆弱で弱い集団だ」
クルザードは手を止めることなく、流れるような手際で次の作業へと意識を向けながら、淡々と質問を繋いだ。
「それで、彼らがこれほどの不効率なリスクを冒してまで、俺たちの拠点へと突っ込んてくる本当の目的の流れは何だい」
「簡単な話さ。倉庫に眠る大量の食料の略奪」
「金目のものの強奪」
「そして――中にいる女たちの身柄の強制的な確保よ。実に非の打ち所のない悪党の手順ね」
その言葉を耳にした瞬間、厨房の傍らに佇んでいた虎獣人のティグリスの黄色い瞳が、一瞬にして冷酷な獣の殺気を孕んで鋭く尖った。虎の尻尾が、床を力強く叩いて不穏な重低音を響かせる。
「がははは! 面白いね! 飯の前に、その自頭の悪いクズどもの首を片っ端から根元から噛みちぎって、ここの砂浜に並べてあげようかい? 瞬時に殺してあげるよ」
「いや、殺す必要は一パーセントもないさ、ティグリス。彼らの肉体はすべて、一分の手戻りもなく生きたままで完璧に『捕まえる』のが最も正しい選択だよ」
「何故だい、クル。そんな泥棒のゴミどもを生かしておいて、組織に一体どんな合理的な利点があるっていうんだ?」
「集まったこの街のすべての民に向けて、確固たる事実を完璧に見せつけるためさ」
クルザードは大きな木べらを静かに置き、真顔になって当然の事実を告げた。
「この俺の作った料理屋の敷地内はね、いかなる不条理な暴力や略奪の試みであっても、一瞬にして完璧に制圧される、世界で最も安全な最強の『約束の居場所』であるという厳然たる事実をね。治安の完全な維持こそが、これからの組織の拡大において、最も大きな信頼の資産に変わるからね」
大商人のヴァレリアが、カウンターの奥から口元を不敵にニヤリと釣り上げながら、彼に向けて素晴らしい笑みを浮かべた。
「あはは、あー……なるほどね! さすがはお前ね、クル!」
「これほど多くの人間と富が流入する場所においてね、治安が100%完璧に担保されているという事実は、それ自体がいかなる最高級のブランドよりも巨大な『商業的な価値』に直結するのさ」
「『ここの場所なら、絶対に後ろから刺されて物資を奪われる心配がない』。商人たちがそう確信した瞬間、アルフェイドのすべての富の流れは、古い市場を置き去りにして勝手にここへと流れ込んでくるわよ。完璧な商売の基本ね」
その頃、料理屋の敷地を完全に取り囲んだつもりになっていた盗賊たちは、暗闇の木々の影から、煌々と輝く美しい木造の建物の全体を、強欲な目でギラギラと値踏みしていた。
窓の隙間から溢れ出てくる、これまでに嗅いだこともない至高の発酵パンと燻製の香ばしい匂い。
中にいる無数の人間たちの豊かな活気。
そして、倉庫にうず高く積まれているのが目に見える、大量の極上の食料資源の質量。
そのすべてが、極限の飢えの底にいた彼らにとっては、何としてでも力ずくで奪い取るべき、最高に魅力的な略奪の対象であった。
ガリガリに痩せ細った泥まみれの男が、下卑た欲望に塗れた笑みを浮かべながら舌舐めずりをした。
「おい、見ろよ。これほどの規模の建物のくせによ、外に見張りの兵士の姿がただの一人も立っていねぇぞ。信じられないほどに防備が薄くてガバガバじゃないか」
「中にいるのは、美味い飯につられて集まっただけの、ただのただの素人の集団だろ? 武器を持った俺たちが一斉に突っ込めば、一瞬で全員が悲鳴を上げて平伏するのが目に見えているぜ」
別の男が、錆びついた長剣の刃を撫でながら、鼻で笑った。
「特に、あのカウンターの奥にいる女たちの身体の質を見てみなさい。売ればとんでもない金に化ける極上品ばかりだぞ!」
「裏の倉庫にはな、水揚げされたばかりの新鮮な海魚の物資が山積みにされているらしい。運んで街の市場へ流すだけで、俺たちの冬の間の食い扶持は完全に黒字に化けるぜ!」
頭の男が、錆びついた斧を力強く握り締めながら、下品な笑声を漏らした。
「街のギルドの噂ではな、何か物凄い奇跡を起こす料理屋だなんて大げさに騒がれていたが……。来てみれば何のことはない、地方の貧しい流民たちが始めた、ただの『炊き出しの延長のボロ屋台』じゃないか。拍子抜けするほどに楽勝な戦況だな」
「よし、全員一斉に突入して、中の物資を一欠片も残さずすべてを略奪しろ!」
男たちが一斉に泥を蹴り上げ、最悪の暴力を剥き出しにして敷地内へと足を踏み入れた、まさにその瞬間だった。
冷たい海岸の夜風が、空間全体を激しく切り裂くようにして、ヒュウゥゥと不気味な重低音を響かせて吹き荒れた。
「……ん? 何だ、今の風の冷たさは……」
盗賊の一人が、不審そうにその顔を上げた。
次の瞬間、彼らの足元にある凍りついた砂浜の地面が、地鳴りのような凄まじい轟音と共に、内側から爆発的な勢いで一斉に隆起し、上方に向けて激しく盛り上がった。
「は?」
男たちの論理的な理解の速度を一瞬で置き去りにして、すべての事象の処理が完了していた。
地脈の構造を瞬時に組み替える、クルザードの土属性魔法の完全なる発動。
隆起した強固な岩石と土の防壁が、突進中だった十五人の盗賊たちの両足へと、寸分の狂いもなく完璧な軌道で直接襲いかかったのだ。
足首。膝。そして、体軸の全体にいたるまで。
「なっ――」
逃げる行動の手順を踏む時間すら、彼らには一秒も残されてはいなかった。
ズズズン、と重苦しい結合音が響き渡り、十五人の肉体は、泥の中から生えてきた強固な石の枷によって、地面へと無条件で完璧に「完全固定」され尽くしていた。土属性拘束魔法の具現化。
「ぎゃあああっ!? 俺の、俺の足が地面と完璧に同化して、一ミリも動かせねぇ!」
「何だこの強固な石の重さは!? 斧を使っても、表面に傷一つ付きやしねぇぞ、クソッ!」
「動かねぇ! 引き抜こうとしても、足の骨がへし折れそうだ!」
狂乱に近い悲鳴が暗闇の広場に響き渡る。さらに追い打ちをかけるようにして、空間を満たしていた冷たい風の質量が、クルザードの緻密な風属性魔法によって、鋭利に回転する「不可視の風の縄」へとその姿を劇的に変貌させた。
しなる風の圧力が、十五人の首。腕。そして、握りしめられていたすべての武器の全体へと寸分の狂いもなく完璧に絡みつき、その肉体の自由を、完全なる制動によってすべて奪い去っていった。一分の手戻りもない、完璧な複数同時拘束のプロセスの完了。
虎獣人のティグリスが、月明かりをその長い黒髪にしならせながら、滑らかな足取りで彼らの正面へとゆっくりと歩み出てきた。
その闇の中で怪しく怪しく輝く、気高き黄色い虎の瞳。
その圧倒的な本物の前衛戦士の風格を目にした瞬間、固定されていた盗賊たちの顔色は、一瞬にして血の気が引き、真っ青に変色して戦慄した。
「じ、獣人……!? なんでこんな最果ての料理屋の裏に、こんな化け物じみた強さの虎の戦士が潜んでいるんだよ……!」
「化け物、とは失礼な言葉を叩くね、この自頭の悪い泥棒のクズどもが」
ティグリスは腰の短剣の刃を滑らかに遊ばせながら、口元を不敵に釣り上げて静かに告げた。
「お前たちのその低い脳みその計算に、正しい更新のデータを教えてあげるよ。私は化け物なんかじゃないさ。このクルザードの作った至高の村の、誇り高き『住人』の一人だよ」
盗賊の頭の男が、恐怖による肉体の硬直を無理やり撥ね退け、風の縄に抗いながら、手元の錆びついた斧をクルザードに向けて力任せに振り下ろそうと、必死に全筋肉を収縮させた。
しかし――その腕が動くよりも遥かに早く、クルザードの左手が静かに前方へと突き出されていた。
空間を流れるすべての水分が、彼の莫大な魔力の源泉によって強制的に一点へと集束を始める。
「ぶ――っ!? ごほっ、げふっ……!?」
新魔法、《ウォーターマスク(完全水膜拘束)》。
男の開かれた口、鼻の穴、そして気道の入り口にいたるまでの全体を、透明で強固な「水の仮面」が一瞬にして完璧に包み込んで張り付いた。
男は突如としてすべての呼吸機能を無条件で完全に遮断され、驚愕に目を見開いて、石の枷の中で無様に全身をガタガタと震わせて暴れ狂った。
呼吸ができない。肺が完全に停止し、全細胞が急激な酸素不足に陥って悲鳴を上げる。
生物としての根本的な生命維持のシステムを止められてしまえば、どれだけ武器を構えていようとも、肉体はただの動かない木偶の坊に過ぎない。
激しい悶絶の数秒の後、クルザードが左手を僅かに引くと、男の顔面に張り付いていた水球は、一瞬にして弾けて地面の泥へと散っていった。
呼吸を取り戻した頭の男は、石の枷の中にぐったりと崩れ落ち、喉をかきむしりながら盛大に赤黒い体液を吐き出して咳き込んだ。
「ごほっ……! げほっ、げほっ……! 殺す、殺される……!」
その顔は、死の本質的な恐怖によって無残に引き攣り、涙と鼻水でぐしゃぐしゃに汚れていた。
「次、その無駄な武器を俺たちの仲間に向けて駆動させようとした瞬間にね、その水膜の門を二度と開けずに、全細胞を無条件で完全に底へと落とすよ。俺の判断の計算に、一パーセントの揺らぎはないからね」
陽気さを完全に排した、静かな、しかし確固たる重みのある声。
そのいかなる最高位の剣士よりも冷徹で、一分の無駄もない制圧の迫力を前にして、生き残っていた十四人の盗賊たちの心は、この一瞬の処理だけで完全に綺麗に粉砕されて平伏していた。格が、根本からすべてが違っていた。
クルザードは背中の荷袋を揺らすこともなく、ハキハキとした足取りで、泥の中に固定されている彼らの傍らへとゆっくりと近づいていった。
彼の瞳の奥で、再び鑑定のシステムが、十五人の肉体の因果関係のデータを冷徹に弾き出し始める。
『対象:目の前の集団。経歴:王国の軍隊から不条理にパージされた、元兵士の残党と判明』
『財政:高利貸しによる多額の借金。心理:完全なる飢餓状態に伴う、絶望の暴走を確認』
『過去:生存のための殺害歴あり。さらに周辺の村での略奪の履歴を捕捉』
『肉体:不衛生な環境による慢性的な皮膚の病気。さらに深刻な栄養失調を計測』
すべての真実の情報が、彼の脳内へと整然と流れ込んでくる。以前のように情報の洪水に溺れて顔をしかめることはもうない。今の彼は、目の前にいる人員の本当の価値と、彼らが抱える肉体の欠陥を、一瞬で正確に看破できるようになっていた。
クルザードは泥の中にへたり込んでいる、盗賊の頭の男の顔を、その穏やかな瞳でじっと見つめた。
「お前、右の肺の細胞が、かなり深刻なレベルで内側からやって(壊れて)いるね」
「……は? お前……何を、言っていやがる……」
「先ほどから、呼吸の対流のたびに、肺の奥から微細な雑音が完全に響いているからね。それに、咳がただの一秒も止まっていない。過去に深刻な風邪を引いた際、適切な治療を施さずに放置して悪化させた、不効率な手戻りの結果さ」
「さらに、体内のアルコール成分の数値が過剰すぎる。現実の恐怖から逃れるために、そんな粗悪な酒を毎日限界まで飲みすぎているからね。肝機能の数値も最低値にまで低下しているよ」
男は、自分の肉体の奥底に隠されていた、専門の薬師であっても気付けないほどの細かな病状を一瞬で見抜かれ、恐怖に身を震わせながら言葉を失って固まった。
「な……なんで、お前、ただの一度も私の身体に触れてもいないのに、そんな細かなことまで正確にすべて分かるんだよ……」
「見れば分かるさ。構造の不効率な歪みは、いつだって目につきやすいからね」
クルザードはそのまま、横に並んでいる次の男へと滑らかに視線を向けた。
「お前は、右足の主軸の骨だね。大昔の戦闘の際、完全に真っ二つに折れたのを、正しい接合の手順を踏まずに雑に繋ぎ合わせたろ」
「……っ!?」
「だから、本格的な冬の冷気や冷たい雨が降る日にはね、その接合部から神経に激しい痛みのエラーが走って、一歩の踏み込みの速度が致命的に鈍るのさ。肉体の管理としては、最低の非効率さ」
「そして、その後ろにいるお前は、昨日の夜、森の中で自生していた高致死性の毒草を、ただのキノコと誤認して平然と胃袋に経口摂取して腹を激しく壊しているね」
「体内の毒素の分解速度を計算するに、適切な解毒の処理を今すぐ施さなければ、三日以内に確実にその場で内臓が溶けて心停止を迎え、全細胞が死滅するよ」
盗賊たちの全体が、まるで世界のすべての因果関係を支配する、神のような存在の前に立たされているかのような凄まじい錯覚に囚われ、ガタガタと激しく肉体を震わせ始めた。
「な……何なんだよ、お前は……! 魔法使いでも、街の暗殺者でもねぇ……一体何者なんだ、お前は!」
「俺はご覧の通り、背中に大きな荷袋を背負った、ただの陽気な料理人さ」
真横で話を聞いていたドミニクが、そのあまりにもブレない答えを聞くや否や、堪えきれずに大声を上げて吹き出した。
「あははは! 間違ってはいないけどね、クル! その人を恐怖の底に叩き落としておいて平然と言ってのけるトーン、本気で面白すぎるわよ!」
ティグリスもまた、長槍を砂浜に突き立てながら、心底楽しそうな大笑いを炸裂させた。
「がははは! 料理人、か! 敵に回したら世界で一番怖くて恐ろしい飯炊きだな、お前は!」
クルザードは彼らの笑声を陽気に受け流すと、泥の中に固定されている十五人の盗賊たちを冷徹な目で見つめ、ハキハキとした明晰な声で選択を迫った。
「方針は決まった。今すぐ、君たちのこれからの未来の流れを決める、最も正しい選択を選んでくれ」
「……選ぶ、だと? 一体、俺たちに何をしろって言うんだ」
「この場所で、俺たちの指示通りに真面目に『働く』か」
「それとも、このまま不効率な略奪の意思を維持したまま、俺の魔法によって空間から完全に『消える』か、ただの二択さ」
広場の全体が、一瞬にしてカチリと完全に静まり返った。
盗賊たちは、互いに顔を見合わせながら、信じられないというように耳を疑った。
「……働く、だと? 命を奪うための処刑をするんじゃなくて、俺たちみたいなゴミをここで働かせるって言うのか?」
「ああ、当然さ。現在、この村の拡大速度に対して、肉体を駆動できる人的資源の絶対数が致命的に不足しているからね」
クルザードは口元に気さくな笑みを浮かべ、淡々と彼らに割り当てるべき仕事の役割の「振り分け」を弾き出していった。
「俺たちの新しく開通させる、海岸線までの大規模な食料の運搬ライン」
「商隊の荷馬車をスムーズに通すための、強固な道路の舗装整備」
「無限の資源を獲得するための、命がけの大海での漁業のサポート」
「そして、次なる巨大な下水道の都市計画を具現化させるための、強固な建築の重労働」
「この集落にはね、君たちのその頑強な元兵士としての肉体を最高効率で機能させるための仕事なんて、それこそ山のようにいくらでも溜まっているからね」
「俺たちのルールに従って真面目に役割をこなすなら、毎日の美味い飯は100%確実に保証して出すよ」
「冬の冷気を完全にシャットアウトする、最高の温かい寝床も用意する」
「だが――もしも一度でも俺たちの合理的な流れを裏切り、物資を盗み出そうとする不効率なノイズを駆動させた瞬間、即座にあの水膜の枷によって完全な再拘束を施す」
「二度目のチャンスの手戻りは、俺の合理主義には一パーセントも存在しない。次はないよ、それがすべての数式さ」
頭の男は、ただ呆然としながら、目の前に立つ青年の顔を見つめるしかなかった。
「……なんでだ。なんでお前は、俺たちみたいな略奪を仕掛けてきた悪党を前にして、そんな風に平然と居場所を与えようとするんだ」
「普通なら、見せしめとしてその場で全員の首を刎ねるか、ギルドの兵士に引き渡して監獄の奥へ叩き込むのが当たり前だろ……!」
クルザードは背中の荷袋を背負い直しながら、当然の事実を告げるように、ハキハキと言い放った。
「人手が圧倒的に足りないからさ。死んで動かなくなったただの死体はね、翌日の道路の舗装の作業を、一パーセントも手伝ってはくれないからね」
感情論や道徳の不確実な理屈ではなく、100%完璧に計算され尽くした、冷徹なまでの「圧倒的な合理主義」。
ヴァレリアが、カウンターの奥から深く感銘を受けたように、その美しい首を縦に振って深く笑った。
「ええ、私は本気で大好きよ、お前のそういう徹底した実利主義の姿勢! 命を無駄に使い捨てる古い街のやり方よりもね、全ての資源を最高効率で再利用するお前のその差配の方が、数百倍は組織を強固にするわ!」
横倒しになっていた盗賊の一人が、喉をごくりと大きく鳴らしながら、震える声で尋ねた。
「……お、おい。本当に、俺たちが真面目に働けば、あの噂に聞く世界一温かくて美味い飯が、俺たちの胃袋にも本当に出るのか?」
「ああ、確実に出すさ。俺の判断に間違いはないよ」
「……あの、身体の芯まで蕩けるっていう、貴族様しか入れないようなお風呂にも、俺たちみたいな浮浪者が本当に入れるのか?」
「あるさ。肉体を清潔に保つことこそが、翌日の労働駆動の能率を最高値に維持するための最も基礎的な効率だからね」
「……毒草を食って、あと三日で死ぬって言われた俺のこの腹の病気は……本当に治るのか……?」
最後の男の切実な悲鳴に対し、エルフの薬師ジェシカが、上品な足取りで滑らかに前へと歩み出てきた。
「喜んで診てあげるわよ、一人の専門家としてね。私の持つ最高峰の解毒の調合の手順を踏めばね、そんな泥の中の雑菌の毒素なんて、一瞬で綺麗に消し去ってあげるわ。……ただし、あの天国のお風呂で、その汚い身体の全体を骨の髄まで綺麗に洗ってからのお話だけどね」
盗賊たちの黄色い目が、驚愕と信じられないほどの劇的な希望の色を孕んで、激しく揺れ動いた。
この残酷な最果ての世界において、彼らがそれまでに出会ってきた大人は、誰もが自らの力と資産を誇示し、弱者から力ずくで物資を略奪し、奪い合うことしかしない悪党ばかりだった。奪う側と、奪われて死ぬ側。その二つの残酷な数式しか存在しないのが、この街の厳然たる常識だったからだ。
なのに――この崖の上の料理屋が提示してきた未来のビジョンは、根本からすべてが違っていた。
クルザードは大きな木べらを手に持ち直すと、口元に明るく快活な笑みを浮かべ、気さくなトーンで告げた。
「全員、お腹の底から猛烈に腹が減っているだろ。生存の危機を感じているなら、まずは黙って俺の作った最高の温かい飯を、その胃袋に腹一杯に流し込むといい」
数十分後。
料理屋の広大な厨房の裏手にある、頑強な石造りのカウンターテーブルの真ん中では、信じられない光景が出現していた。
先ほどまで殺気を剥き出しにして略奪を仕掛けてきていたはずの、あの十五人の盗賊たちが、デニーゼの魔法とジェシカの解毒薬によって肉体のすべての病気や古傷を完璧に修復してもらった後、用意された熱々の木椀を両手で必死に握りしめて並んでいた。
今夜の彼らの胃袋に配られたのは、海の幸をこれでもかと贅沢に使った、最高峰の「塩魚スープ」と、焼きたての白い発酵パンの山であった。
最初の数秒の間、彼らは未だに強い警戒のオーラを崩せず、出された飯を前にして不自然に動きを止めていた。
これは自分たちを油断させて一瞬で仕留めるための、残虐な罠のスープではないのか。
中に、肉体を内側から麻痺させる最悪の毒素が仕込まれているのではないのか。
これまでの地獄のような日々が培ってきた深い人間不信のシステムが、彼らの手を激しく躊躇させていたのだ。
しかし――彼らの鋭い鼻腔を直接破壊するような、濃厚な海藻出汁の至高の香りと、燻製肉の放つ暴力的なまでの香ばしい湯気の誘惑。
結局、本能的な飢えの不効率に抗うことはできず、頭の男が、椀を口へと一気に運んでその黄金色のスープを喉へと流し込んだ。
そして――男の肉体は、完全にその場で落雷に打たれたように激しく硬直した。
「……っ!?」
「……う、美味ぇ。美味すぎるよ、何なんだよ、この温かい汁は……!」
男のその静かな絶叫の震え声を切り裂くようにして、残る十四人の男たちも一斉にスープへと群がり、貪るようにして猛烈な速度で食べ始めた。
ある男は、手渡されたふんわりとした白い発酵パンを口に含んだ瞬間、その驚異的な柔らかさに大粒の涙をボロ、ボロと床に流して号泣していた。
一体、何日間の間、まともな人間の温かい食事を一口も口にすることができずに、極寒の森の中を彷徨い続けてきたのか。彼らの全細胞が、内側から劇的な温かさと活力によって満たされて修復されていく。
虎獣人のティグリスは、長槍を壁に立てかけながら、彼らが夢中で飯を掻き込んでいるその姿を、静かに、そしてどこか優しい目を向けて見つめていた。
「……本当に、骨の髄まで飢え果てていたんだね、連中は。ただの、行き場を失った哀れな迷い子たちじゃないか」
「ああ、間違いないよ、ティグリス。人間も組織もね、腹の飢えの不効率が限界値を超えてしまえば、理性のシステムが簡単に壊れて暴走を始めるからね」
クルザードは木べらを滑らかに動かしながら、ハキハキとした声で答えた。
「それは国家の最高幹部であっても、地頭の悪い盗賊であっても、生物である以上全く同じ因果関係の数式さ」
ヴァレリアが、その彼の一歩先を見据えた言葉を聞きながら、その美しい目を鋭く細めた。
「だからお前は、この最果ての地で、何よりも先に『絶対的な食料資源の維持と管理』を最優先の軸として掌握したのね?」
「いいや、支配や掌握が目的ではないさ、ヴァレリア。俺はただ、手に入った豊かな富と正しい栄養の流れを、この場所に集まったみんなの真ん中に、完璧に維持し続けたいだけだよ」
クルザードは石鍋の豊かな白い湯気を見つめながら、明るく快活に続けた。
「本格的な冬を完璧に乗り越えられる、最高の温度がある」
「理不尽な飢えによって、お腹を空かせることがただの一度もない」
「不衛生による無駄な病気や古傷のエラーで、人が途中で死なない」
「そして、各自の才能を最も最高値に発揮できる、完璧な仕事の振り分けがある」
「ただそれだけの確実な生活の循環がそこに整っているだけで、人間の本能の動きはね、内側から綺麗に整えられて、二度と不条理な犯罪や暴走へ流れることはなくなるのさ。これが真に強固な組織の作り方さ」
さっきまでの数分前までは、自分たちの命と資産を脅かす最悪の敵の集団だったはずの男たち。
しかし、クルザードの放った温かい飯、そして確実な救いのプロセスの前には、彼らは今や、ただの腹一杯に満たされて穏やかな笑顔を浮かべる、ごく普通の「不器用な一人の人間」にしか見えなくなっていた。
ドミニクが、空になった木椀を回収しながら、彼の真横で小さな声で不思議そうに微笑んだ。
「……なんだか、本当に不思議で変な感じね、クル」
「何が変なんだい、ドミニク。分配の手順に、何か不効率な澱みでも生じているかい?」
「ううん、完璧に正しいわ。そうじゃなくて……普通ならね、あんな恐ろしい悪党たちが夜に突っ込んできたら、怖くて生きた心地がしないはずなのよ。それなのにね」
「お前がこの厨房の真ん中に立って、いつも通りに最高の温かい飯を作ってくれているだけでね、『あぁ、この場所なら、どんな最悪なトラブルが起きても絶対に何とかなるわ』って、心の底から100%完璧に安心できちゃうのよね」
クルザードは彼女の言葉に直接は答えず、ただ口元に気さくな笑みを浮かべるだけで、再び次の日の朝の仕込みへと、滑らかにその熟練の手を動かし始めた。
しかし、彼女の言う通り、その目に見えない「絶対的な信頼の場」の形成こそが、この歪んだアルフェイドの都市国家において、いかなる強硬な武力よりも強固に人間の本能を引きつける、最強の変革のエネルギーそのものであった。
次の日の早朝。
街の住人や、街道を通りがかった一般の商隊の連中たちは、新設されたばかりの料理屋の周辺を目にして、驚愕のあまりその場にカチリと完全に凍りつくこととなった。
まだ薄暗い早朝だというのに、昨日まで略奪を仕掛けていたはずのあの十五人の盗賊たちが、誰一人として逃げ出す素振りすら見せず、驚くほど静かに、そして猛烈な速度で活発に労働に身を投じていたからだ。
あるグループは、ステファンの指示に従って、荷馬車がスムーズに通れるように街道の凸凹の泥の道を、石を砕いて滑らかに整える道路整備の重労働に汗を流している。
またあるグループは、ガルドの加工した建材を運び込み、これからの大規模な船の往来を支えるための、強固な漁港の土台の掃除と拡張ラインを迅速に進めている。
またある別のグループは、ティグリスの背中を追いかけながら、大量の乾燥海藻を運搬するための、巨大な木枠の荷車を最高効率の速度で動かしている。
逃亡を図る者は、ただの一人も存在しなかった。
理由は、彼らの肉体にとっては、火を見るより明らかに単純明快であった。
ここにいれば、世界で一番美味い飯が、毎朝確実に腹一杯に食える。
冬の極寒の夜風を完全にシャットアウトする、最高の温かい寝床で安心して眠れる。
そして、一日の重労働を終えた後には、あの筋肉疲労を一瞬で消し去る天国のようなお風呂が待っている。
ただそれだけの絶対的な合理の利点を前にして、再びあの寒くて飢えた、いつ後ろから刺されるか分からない地獄の盗賊の生活へと逆戻りする大損を選ぶ人間など、脳の計算が正常である以上、最初から世界に一人もいるはずがなかったのだ。
集落の全体の空気が、この一手の処理によって、さらに高次元のステージへと劇的に変わり始めていた。
「おい、聞いたか! あの悪質極まりない元兵士の盗賊団が、崖の上の料理屋に突っ込んだ瞬間、一瞬にして死者ゼロで完璧に全員が捕まったぞ!」
「ギルドの兵士たちに引き渡されるどころか、今朝見に行ってみなさい、全員が神妙な顔をして、自らの意思で大喜びで道路の舗装工事を手伝ってやがる!」
「何なんだよ、あの料理屋の主は……中央の軍隊の将軍よりも、遥かに有能で完璧な統率の手際じゃないか……!」
驚乱に近い噂は波紋のようにアルフェイドの全域へと広がり、それに誘われるようにして、さらに新しい人間たちが、怒涛の勢いでここへ向けて流れ込み続けていた。
腕利きの冒険者。
技術の行き場を失っていた本物の職人。
富の流れの本質を察知した、目の高い大商人。
そして、過酷な世界で傷ついた無数の流民たち。
彼らは一様に、新しく開通した滑らかな道路を踏み締めながら、同じ確信の言葉を口にしていた。
「ここ、これまでの汚いアルフェイドの街とは、根本からすべてが違っているわ」
クルザードは、自らの手で整備されつつある、広大な漁港の海岸線に立ち、静かに打ち寄せる冬の波の躍動を見つめていた。
濃厚な潮風の匂い。
着々とその全容を現しつつある、強固な港湾の設備。
朝一の需要に向けて、どこまでも長く伸び続ける人間の長い列。
一分の澱みもなくそれぞれの役割へと「振り分け」られ、笑顔を浮かべて活発に働く住人たちの姿。
そして、料理屋の換気窓から立ち上る、最高の飯の白い湯気の行方。
ここはまだ、世界全体の規模から見れば、小さな始まりの集落に過ぎない。
しかし――その基盤にはもう、いかなる時代の不条理をも撥ね退けて進化し続ける、完璧な社会の構造が形作られていた。
そして、クルザード自身の頭脳もまた、明確な一歩の重みを確信し始めていた。
真に強固な最強の国家。それは、力任せに他者を殺害し、城壁の内部に引きこもって強さを誇示することから生まれるのではない。
美味い飯と確実な安心によって、集まったすべての人間たちが、「心からこの場所を壊したくない、ここで永遠に生きたい」と願った、そのたった一つの“壊れない場所”の創造からこそ、偉大なる新時代は始まるのだ。
閉店の夜。
料理屋の前には、冷たい冬の夜空を暖かく押し返すような、昼間を遥かに凌駕するほどの、さらに新しく長い一本の行列が、完璧な流れを伴って美しく出来上がっていた。




