エピソード1 ー入学ー
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ノール王国。
大陸の中心に位置しており流通が盛んな王都を中心に発展を遂げた大国。
先の大戦の際、勇者や聖女らを自国から送り出したこともあり大きな戦果をあげたと言っても過言ではない。
魔王は討伐されたものの未だに残党魔族が世界各地に存在しており、大戦以前よりは平和になったものの魔族被害は絶えない。
それを考慮して王国は新たな戦力増強を図るため、15年前に王立の魔法学院を設立。
効果は絶大で、卒業生を筆頭に残党を狩れる戦力を確保。
魔法力に関しては他の追随を許さない国へと成長した。
その中でもこの世界の基本である四大元素魔法のうち3つ。
火、風、水属性において御三家と呼ばれるほどに力を持つスペシャリストの家系もこの地に移住。
その子らも当然魔法学院へと入学し、卒業後はあらゆる方面で活躍を見せている。
思惑通りと言ってしまっては元も子もないが、王国の計画した通りには事が進んでいるのも事実だった。
王立魔法学院では昨年まで王国側で運営をしていたが、軌道に乗ったことにより管理のみへと移行。
学院内の実権、裁量としては学院長にゆだねる方針へと切り替えた。
その学院長に就任したのが先の人魔戦争における英雄魔法使い、シェリー・マックジェラルド。
結局は王都の傀儡になることを危惧したシェリーは、就任にあたりいくつかの条件を付けくわえた。
1つ、自身の判断で推薦入学生を入学させる権利を持つこと
2つ、経営を破綻させうる状態、またはそれに近しい状況にならない限りは運営には一切口を出さないこと
3つ、家柄や能力に捉われず、個人の力量と貢献度で成績序列を決めること
以上がシェリーが学院長に就任するにあたり付け加えた条件。
王国上層部では賛否両論あったものの、先の大戦の功績を踏まえてこれを承諾。
晴れて初の外部からの学院長就任となった。
王国としては2つ目に多くの批判が集まったものの、シェリー本人としてはそんなものはどうでもよい。
普通にやっている限り破綻することなどありえないほどには軌道に乗っている。
大事なのは1つ目と3つ目。
特に成績序列に関しては過去の卒業生を調べた際に不可解な点がいくつもあった。
家柄至上主義のような序列のつけかたには納得いくはずもない。
それをそのまま伝えても頭の固く自分の安全しか考えていない上層部のおやじどもには通用しない。
だからこそ個人の成長や切磋琢磨などの聞こえの良い言葉を並べて勝ち取る必要があったのだが、それはまたの機会に。
英雄シェリーが学院長に就任するという報は瞬く間に大陸中に知れ渡る。
教えを乞いたいもの、自分の実力を試したいもの。
それぞれの想いを胸に、過去最大の受験数を更新するまでの人気を博した。
その険しい関門を突破した149名。
加えて学院長推薦枠1名。
延べ150名が入学することとなった。
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「学院長推薦枠の、アルスです。」
「推薦枠・・・あった。はい、どうぞ。
特級クラスなんて、さすが推薦枠だね!」
「ありがとうございます。」
新入生が式のために学院に行くと、校舎に入る手前で呼び止められた。
入学試験における成績によるそれぞれのクラス振り分けと、腕につける時計式の最新端末を受けとる。
それぞれの魔力に反応して起動するため、本人以外では操作できない代物だ。
式場に向かいがてら早速装着して起動する。
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アルス
15歳 男
王立魔法学院 1年特級クラス
個人ランク 150
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内容を見るに、身分証明のような役割を果たせそうだ。
個人ランクというものが気になるが、おいおい分かるだろう。
画面を閉じ式場へと入り自分の席に着席。
すると周りからひそひそと話し声が聞こえてきた。
「黒髪黒目なんて珍しい・・・。」
「あれが推薦枠?なんかパッとしねえな。」
おばさんの誘いでなければこんなところには居ない生活をしていただけあり、なかなかに居心地が悪い。
アルスが下を向いていると、右隣の椅子が引かれたことに気が付いた。
「お隣、失礼いたしますね。」
はい、と言おうとして顔をあげた瞬間、言葉を失っていた。
これまでの人生で同年代の女性との出会いなどなかったとはいえ、その姿はあまりにも可憐で優雅で神々しかった。
まっすぐに整った金色の髪、アクアマリンを連想させる色の美しい瞳、純白の肌。
どれをとっても美しいという言葉がよく似合う。
目を奪われているとその少女は不思議そうな顔をした後、ニコッと笑顔で会釈をして着席。
(主ー、この女の近くに居ると身体が痛いよぉ。)
(タロットがそう言うってことは、俺の右腕がチクチク痛いのもそういうことなんだろうね。)
「君ってもしかして聖女様だったりする?」
思わず先ほどの女の子に声をかけていた。
周りの男子からの妬みの視線が痛いが。
「あら、なんで分かったのですか?!
わたしはリュカ・フェルナンドレース。
お察しの通り、当代聖女の任を賜っております。」
「あはは、なんとなくね。
俺はアルスだ。これからよろしく!」
「僕はベント・アンドロッソ!
ついでによろしく!」
急に左隣から声をかけられ驚いたものの、にこやかな少年に挨拶を返す。
初めての同年代の友達になれるかもしれない人がいきなり2人も。
そう考えるとわくわくしてしまう。
表に出さないように気を付けなくては。
「ところでお2人は光属性にー」
「ただいまより王立魔法学院、第15回入学式を始めます。
皆様静粛にお願い申し上げます。」
リュカが何かを言おうとしていたが、ちょうど式が始まってしまった。
アナウンスを聞いた途端に口をつぐみ姿勢を正すリュカのまじめさにほほえましくなりながら。
「最後に学園長挨拶。」
呼ばれて立ち上がる、大きめのとんがり帽子をかぶった小さな女性。
自分の身長と大差ない立派な杖を持ち、両肩両足を派手に出した装い。
年齢考えろっての。
その女性が壇上へとあがり一礼のあと、ふと目が合った気がした。
にやりと笑ったのを見るに、おそらくこちらの姿を確認したのだろう。
「知っている者も多いと思うが、今年度から学院長に就任したシェリー・マックジェラルドだ。
先ほど配られた端末に表記されている個人ランクというものがあると思うが、それは同じ学年の中での自分の成績序列をさしている。
当然数字が若いほうが序列が上ということになる。
これについては随時更新されていく。
1つでも上の順位を目指して全員で切磋琢磨していってほしい。
それぞれが成長していくことで、より良い将来につなげてくれることを祈りつつ、この場での挨拶とさせてもらいます。」
挨拶を終えると場内から大きな拍手があがった。
この大きさからもシェリーに対する期待の大きさがうかがえるというものだ。
魔法に関して言えば大陸内でも指折りの実力を誇っているし当然なのだが。
にしても序列最下位か。
おそらく入学試験の結果による数値計算だろうし、受けていない俺が一番下なのは仕方のないことだ。
あまり気にしないほうがいいだろう。
その後式はつつがなく終了。
ベントとリュカと共にクラスへと向かう。
2人とも他愛のない会話ができる程度には仲良くなれた気がする。
教室へ入るとすでに数人が腰かけていた。
赤い長い髪を後ろで束ね、頭の後ろで手を組みながら足を机に投げ出している目つきの悪い青年。
水色髪のツインロールで扇子を手に持ち何やら考え込んでいる女性。
美しく長い金髪に整った顔立ちのハーフエルフの女性。
そして窓際で外の様子をうかがう短い茶髪の背の低い男子。
「あっ、殿下!」
リュカが窓際の男子生徒に声をかけた。
殿下・・・?
「やあリュカ。
君もこのクラスだったのか。」
2人は顔なじみのようだが、こちらは全く存じ上げない。
とはいえ相手に名乗らせるのも申し訳ないということで、こちらから名乗っておくとしよう。
「はじめまして、アルスと申します。
以後お見知りおきを。」
「ベント・アンドロッソ!
王子様と同じクラスとは光栄っす!」
「ロベルト・アーリー・ノールだ。
ここでは1人の生徒だから、そう接してくれると嬉しいよ。」
自己紹介ののち互いに握手を交わす。
物腰の柔らかい人という印象。
確かもう少し上の年齢の兄が2人ほどいたはずだ。
家督争いのための学習というわけでもなさそうだし、本人の言うように友人として接したほうがよさそうだな。
担任が現れてからはクラスで全員の自己紹介があり、魔法御三家出身の3名とも顔を合わせた。
その後軽く身体測定的なものをし、それぞれの実力は見て分かった。
先ほどの赤い髪の青年、シエスタ・ロードニコルフ。
炎属性魔法の超名門ロードニコルフ家の次男だ。
魔法の強さがすべてであり、炎属性魔法が最強だという家の教えが染みついており、その教えに沿った言動が目立つため嫌に感じる部分もあるが、基本的には魔法に対して真摯に向き合っている。
見た目もよく魔法の成績はトップクラス。
中身さえ知らなければ女子生徒からの支持は厚そうだ。
続いて水色髪のお嬢様はセオドア・ローラングレイス。
氷魔法の名家、ローラングレイス家の次女。
姉は王国魔法騎士団副団長のテラ・ローラングレイス。
若くして副団長の地位まで上り詰めた才女だ。
その姉と比較されることがコンプレックスではあるが、同時にあこがれてもいるらしい。
家訓は「常に美しくあれ」。
それを体現しているかのような立ち振る舞いで、所作もすべてが美しい人。
御三家最後の1つはアーケンミスト家。
その長女であるツヅリ・アーケンミスト。
もともと風属性において他の追随を許さない家系ではあったが。
なんとエルフを迎え入れ、その地位をさらに確たるものとしたようだ。
その血を受け継いだハーフエルフの彼女は、やはりというべきか風属性のスペシャリスト。
特に短距離においての移動速度は今まで見てきたどの人物よりも速かった。
ただエルフの血をいれたおかげかせいか、胸部はほとんど存在しておらず、それをセオドアに指摘された際には先生が止めに入るほどの魔法合戦になってしまった。
彼女に対してその話題は絶対にしないようにしなくてはなるまい。
俺自身も測定があったものの、人前ではなるべく魔法の使用を控えている。
四大元素が基本の世界では異質で、かつ人類が使用する属性ではないからだ。
俺の魔法はというと。
(主ー、出てもいいかの?)
(タロット!今はだれもいないからおいで。)
念での会話ののち、俺の影から黒い猫が現れて飛び込んできた。
大事に抱えて撫でていると満足そうな声をあげているこの子は、使い魔であるタロット。
子どものころにひょんなことから魔神と遭遇してしまい死を覚悟したもののなぜか使役してしまうといった出来事があった。
この子の正体は魔神アスタロト。
今は黒猫に姿を変えて俺の影魔法の中に潜んでいるというわけだ。
影魔法、そして使役。
お察しの通り闇属性魔法の使い手。
だからこそ相性の悪い光属性使いであるリュカの隣に居た際にダメージを受けていたというわけだ。
人類にはほかに持ち合わせている存在は確認できておらず、持っているのは魔族。
とはいえ俺自身が魔族というわけではなく、人類に分類されている。
なんとも不思議な立ち位置という事情もあり、あまり人前では使いたくない。
(しかしあのガキども、主を落ちこぼれだのぬかして・・・
危うく影から飛び出してとっちめるところでしたよ。)
(よく我慢してくれたね。
俺はなんと言われても今のスタイルは変えないよ。)
言いながらタロットの頭やあごを撫でながら寮へと向かう。
ここでの生活の始まりだ。
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