エピソード0 ー終結ー
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遡ること17年。
人と魔族による戦争が終結を迎えようとしていた。
四大元素魔術が主流のこの世界に突如生まれ落ちた勇者の存在。
剣に魔法を付与して戦うことができたという。
その仲間の中には30~40年に1人の確率で生まれてくる、光属性の加護を持った聖女と呼ばれる女性もいた。
その2人が同じ世代に生まれてきた奇跡を良いことに、人類は魔族の殲滅を決行。
多くの犠牲を出しながらも勇者パーティの活躍により敵の本拠である魔王城へとたどり着いていた。
「『降り注ぐ火矢』128連!!」
大きな爆音とともに崩れ落ちていく魔族。
自らを幹部だと名乗るだけあり、パーティの面々も大きく消耗させられていた。
「よくやった、シェリー。
皆の消耗も激しいし一旦ここで少し休もう。」
声をあげた勇者に対し頷くメンバー。
ここまで大技を連発していて一番疲労が目に見えるのが、最年少のハイウィザードであるシェリーだ。
トレードマークであるとんがり帽子をかぶりなおし、小柄な自分の背丈と変わらぬ大きさの杖を抱えて座り込む。
彼女の火力なくしてここまでの進撃はなかっただろう。
「シェリー、大丈夫?」
回復魔法をかけながら歩み寄るのは当代の聖女であるアミリア・フィールガン。
シェリーとは歳も近く、姉のような存在だ。
「ありがとう、アミリアさん。
まだ魔力効率の良い魔法しか使ってないから大丈夫だよ。」
「と言ってもあの数のコントロールは体や頭への負担は大きいでしょう?
あなたが居なかったらこの先も自由に進めないのだから、無理はしないでね。」
「アミリアさんを温存するためにも多少の無理は必要さ。
でも、心配してくれてありがとう。」
笑顔で答えるシェリーに安堵してアミリアがその場を離れようと振り返った瞬間、敵の姿を目で捉えた。
「敵陣の中でゆっくりできるとは思っていなかったけれど・・・連戦に次ぐ連戦はさすがにきついわね。」
白く輝く杖を構えつつ、味方が準備できる時間を稼ぐ。
本来であれば後衛職である聖女だが、彼女の性格上後ろで守られているだけは我慢ならないのだ。
準備を整えつつアミリアよりも前に前衛が陣取る。
「おいおい、テレッサのやつあっさりやられちまったのか。」
テレッサとは先ほどの魔族の幹部のことだろう。
それよりも禍々しい魔気を振りまく目の前の大きな魔族は、パーティを見下しながらにやりと笑った。
「俺様は魔王様側近のマロドだ。
お前らの快進撃もここまでだな。」
身長250センチはありそうな獣の巨体に加え、一般男性の身体ほどの太さの腕。
一筋縄ではいかない相手なのは見た目ですぐに理解できる。
そして全員で相手をして倒せたとしても、そのあとに力を残せなそうなことも。
「ここは僕を残して、みんなは先に行ってくれ。」
「却下よ。あなたが居なかったら誰が指揮をとるのよ。
その役はあたしがやるわ。」
全滅を危惧した勇者がパーティに合図するも、シェリーがすぐに却下した。
その言葉の直後、ため息をつきながらシェリーの帽子を後ろから抑える手。
「はあ・・・シェリーが居なくても火力不足でしょう。
わたしがやります。異論は認めません。」
言いながら全員の前に出て、杖で地面を叩き結界を張るアミリア。
自身と敵のみを囲むように展開したその結界はまるで光の牢。
ずれた帽子を直しながらシェリーが声をあらげた。
「アミリアさん!危険すぎるよ!!」
「誰がやっても危険なのは同じでしょう?
それなら属性相性の良いわたしが残るのがこの場での最善の一手。
皆は先に行って魔王を討伐してちょうだい。」
一理ある。
元来魔物がもつ闇属性。
それに唯一対抗できるのは聖女がもつ光属性。
だからこそ勇者が成長したこのタイミングで勇者と共に討伐の任に就かされたのだ。
人類側の切り札の1つといってもいいだろう。
魔族全体の力を見誤っていた分、ここで切らざるを得ない場面というのも理解できる。
とはいえ、理解はできても人の感情とは違うものだ。
「そろそろ聖女を演じるのも飽きてきたことだしね。」
「演じる・・・?君は何を言って・・・?」
「ただの平民が急に聖女として担ぎ上げられたのよ?
最初はうれしかったけど、期待に応えなきゃって重圧も大きくて。
国民が見てるわけでもないし、たまには自分を出そうかなって!」
言いながら長いスカートの丈を破る。
左足が大きく見えており、先ほどよりもだいぶ動きやすそうだ。
その姿を見たパーティメンバーは驚きを隠せなかったが、普段よりも活き活きとしたアミリアの顔に何も言葉をあげることができなかった。
最初に動いたのはシェリー。
「行きましょう、勇者様。
アミリアさんの決意を無駄にしたくありませんし、何よりこの結界の中には入れないのでここに居る意味もありません。」
「さっすがシェリー、分かってるぅ!」
ウィンクをしながらこちらに顔だけ向けるアミリア。
その顔を見たシェリーは俯きながら勇者の手を取り先へと進んで行った。
「どうか、ご無事で・・・!」
一連のやりとりを見ていたマロドはあくびをしながら頭をかいていた。
たしかにこの結界はあの魔法使いが言うように外部への干渉ができそうにもない。
とはいえ自分の腕っぷしが目の前の人間の女程度に後れを取る気もしていない。
誰が最初であろうと順番に倒すだけのことであり、自分と魔王に匹敵する力の持ち主は居ないという判断。
その余裕から出たあくびだった。
「そろそろ初めていいかァ?」
「待っててくれるなんて、魔族のわりには優しいじゃないの。」
「はッ、魔族ってのは結構紳士なんだぜ?」
言いながら一瞬でアミリアの目の前に現れ、拳を振り下ろす。
大きな衝撃と共に床がえぐれるも手ごたえはなし。
敵ながらすばしっこい。
そう思いながら振り返ると目を疑う光景。
そこにはアミリアが3人居た。
「なんだァ・・・?」
「光って面白いわよね。
見る角度が違うだけでいろんな形になるのよ?」
その言葉に左右を見るマロド。
周りには光の結界。
目の前には杖をもった女が3人、いや4人・・・今度は3人。
そしてその結界の光が動きながら存在していることに気が付いた。
「なるほど、光の屈折を利用した分身か。」
「あら、魔物にそこまでの知性があるとは思っていなかったわ。」
その言葉にマロドは確信した。
仮に勇者やシェリーとかいう魔法使いであればなんとも思わなかっただろう。
強者であれ、それ止まり。
しかし目の前の女は違う。
あのパーティの中で最も厄介な敵を相手にしているのだと。
間違いなく、自分や魔王を討伐しうるのはこいつしか居ないと。
そこからの猛攻はすさまじかった。
自分を倒しうる強敵と判断してからは油断のかけらもなく、その巨体を存分に活かした戦い方。
距離を詰めては殴りつけるという単純な行動ではあるが、人間との力の差は歴然。
地面のほとんどが抉れており、回避するアミリアもかなりの注意を払っていた。
誰がどう見ても攻めているのはマロドだったが、分身にしか攻撃が当たらない。
攻め続けているのだから反撃の隙がないのだと思っていた。
しかしそれにしては相手の動きがあまりにも消極的すぎた。
「てめぇ、なんで攻めてこねぇ・・・!」
「ふふ、なんででしょうね。」
その返しに舌打ちをするも、頭は冷静だった。
ここまでの攻撃を避け続けているのは見事ではあるが、攻撃のチャンスはいくらでもあるはずだった。
それでもしてこないとなると別の理由が思い浮かぶ。
「さてはこの結界の維持に多くの魔力を継続して使っているな?
攻撃をしてこないんじゃねぇ、できねぇんだ。」
「うーん、半分正解、かな?」
「時間稼ぎに付き合うつもりはねぇ。」
言いながら両手を地面につき、魔力をさらに解放するマロド。
魔族の一部が使用できると言われている【魔神化】。
赤く禍々しい魔力をまとい、先ほどよりもさらに狂暴化していた。
速度も、力も。
マロドの突撃が先ほどとは比べ物にならない速度で繰り出され、アミリアもすんでのところで回避した。
しかし回避した先には先ほどまで散々抉られていた地面。
それに一瞬足を取られた瞬間。
「やっと見つけたぜェ。」
ドゴンー
屈折による分身は厄介だが、足をとられたりはしない。
その一瞬の隙を見逃さずに自慢の拳を叩きこんだ。
苦しそうに殴られた腹を抑え、口から血を吐くアミリアを見下ろす。
回復魔法を自身にかける人間の女の身体をつかみ持ち上げた。
「時間はかかったがこれでしまいだな。」
「あなたがね。」
「なに・・・?」
「魔族の【魔神化】は本当に恐ろしいけれど、それってつまり血の巡りを早めて本来出せない動きを出しているってことよね。ぐっ・・・!」
それがなんだと言わんばかりに身体をつかむ力を強めた。
「普通の人間には・・・あなたほどの魔族の・・・ッ・・・。
魔力を浴びれば卒倒してしまうでしょうけど・・・。
逆に魔族に・・・わたしの魔力が有効なのも・・・また同じなのよ・・・。」
「何が言いたい?」
ドクンッー
「ぐあっ!?」
急な体内の痛みに掴んでいた手を放すマロド。
膝をつき苦しそうに胸のあたりを抑える。
急に離されたアミリアは床に落ち苦しそうな表情のまま、杖をマロドに向けた。
「結界を張ってからずっとこの結界内に目に見えないほどの光の粒子を出し続けていたの。
おおあくびをしてくれていたおかげで、たくさん吸い込んでくれたみたいね。」
「あの時から・・・だと・・・ッ・・・?!」
「油断してくれていたから楽だったわよ?
そしてわたしの魔力ってことは自在に操れるってこと。
・・・あとは言わなくてもわかるわよね?」
「貴様・・・ッ!」
最期の力を振り絞りアリシアに殴りかかろうとするマロド。
しかし体内に取り込んでしまった敵の魔力の動きのほうが速くー
「『粒子の爆発』!!」
体内の至る箇所から光の筋があふれ出し、血を吐きながら倒れる。
完全に動きが停止したことを確認したところで大きな揺れが始まった。
「いたた・・・自分を回復する魔力も残ってないや・・・。
でもこの揺れ、向こうも決着をつけたみたいね・・・。」
その場に大の字で倒れ、安堵の表情を浮かべる。
魔王討伐により城が崩落し始めるも、身動きが取れず。
先の戦闘で抉れに抉れていた地面はあっさりと抜け落ち、アミリアもまたその崩落に巻き込まれていった。
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「あれ・・・生きてる・・・。」
さすがに死を覚悟していただけあり、意識が覚醒して少々驚いてしまった。
周りを見渡すもどうにも薄暗くてよく見えない。
どうやら城の地下にまで落ちてしまったようだ。
生きているのが不思議な高さから落ちたうえに、周りには城が崩落したであろうことが一目瞭然のがれきまみれ。
どういうことだと見渡すと、右斜め前方に鉄の格子のようなものを見つけた。
まるで牢屋のような。
不思議に思いつつもそちらへ向かうと、案の定牢屋なのだろうか。
人間の男が両手を鎖につながれうなだれているのを見つけた。
「あなた、大丈夫?」
「ああ、この牢屋は隕石でも壊れないよ。」
「いや、そういうこと聞いてるんじゃないんだけど。
ひとまず助けるわ。」
言いながら光の魔力でカギを破壊して内部へと入り、同じ要領で手枷も破壊。
無事に助け出すことに成功した。
「光の魔法とは驚いた。
君が噂に聞く聖女ということか。」
「どんな噂か知らないけれど、たぶんそうね。」
「やっていることは犯罪者のソレだが。」
「助けられておいて言う言葉がそれか。」
破壊された手枷と鍵を見て顎に手をやる男に思わずつっこんでいた。
この男は今まで出会ってきたどの人間よりも自分のペースを乱してくる相手だった。
「俺は魔王軍幹部のフィーガ。
助けてくれて礼を言う。」
「魔王軍の幹部助けちゃった!!」
ガーンと効果音が出そうな顔でショックを受けるアリシアに対し、男は笑いながらも戦闘の意思がないことを説明。
見た目が人間そのものということもあり、よく人里に出ては情報を集めていたという。
その際人間の温かさに触れて、争うのをやめ共存できないかと考えているらしい。
「それで、なんでこんなところにつかまってたんだ?」
「魔王や側近のマロドという奴は好戦的でな。
共存の話を進言したら反逆者として扱われた次第だ。」
確かに好戦的ではあった。
しかし仲間をそれだけで牢屋にぶちこむとは、魔族にも政治的なものとかいろいろあるのだろうか。
「とりあえず礼として、その額と腕の傷をふさいでおく。
あとはここから出てから考えよう。」
男がそう言うと黒い影がアミリアの傷を包帯のように包み込んだ。
驚きはしたものの痛みなどは全くなく、むしろ本物の包帯かと錯覚するほどの優しさだった。
感心するアミリアを抱え、壁を利用して左右に跳躍。
あっという間に地上に出てくることができた。
見た目は人間だというのにこの身体能力。
間違いなく魔族のものだ。
崩落した魔王城の傍に生えた木に寄りかかり腰かけたフィーガ。
その身体が震えていることにアミリアはすぐに気が付いた。
「ちょっと待て、魔族ということはわたしに触れたらただじゃ済まないだろ!?」
「なに、救ってくれた礼だよ。」
「自分の命を削ってまでか!!」
その言葉にふっと笑ってみせた。
それだけ彼にとっては人間に救われたことが嬉しい出来事であった。
自身もその女性を救いたいと思ってしまったから。
「アミリア・・・さん・・・?」
聞き覚えのある弱った声に振り返る。
そこには全身ボロボロになり杖を頼りに歩みを進めるシェリーの姿があった。
「ご無事だったのですね・・・よかった・・・。」
「あなたこそよく魔王を討伐してくれたわ。
ありがとう。」
「とはいえ、生き残れたのはあたしだけですけどね・・・。
勇者様は魔王と相打ち、ほかのみんなは戦いで瀕死の大けがを負ってからの崩落で・・・。」
「・・・そう。」
「それで、そちらの方は・・・?」
「・・・わたしの命の恩人よ。
でもかなりのけがをしてしまったから、看病しようと思ってるわ。」
返答への一瞬の間。
天才と称されるほどの頭脳をもったシェリーには、その間だけである程度の事情は把握できてしまった。
目の前の男性が魔族であろうこと。
魔族の身でアミリアに触れたことでダメージを負ってしまったこと。
それを知ったアミリアが放っておけない性格なのだということも。
「でしたら、この戦いでの生存者はあたしだけということですね。
王様にも、国民にも、そう伝えておきます。」
「本当に察しがよくていつも助かるわ、シェリー。」
「プライベートでこっそりと会いに行きますね。」
「まあ、妥当なところね。」
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こうして多くの犠牲の上に、人魔大戦は幕を閉じた。
当代の聖女が消息を絶ち、世界各地に散らばった魔族の生き残りが動きを見せるのはもう少しあとのお話し。
30~40年で聖女が生まれ落ちる。
その実態は先代の聖女がその生を終えるか、出産することで聖女としての力を失うか。
そのどちらかが発生すると新たな聖女が生まれる。
それがこの世界の知られざる理。
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