苦手なことでも友達がいれば天国だ
ミツキちゃんと分かれて、クラスに入る。すると入り口のすぐ近くに赤座くんがいて、男子と話していた。私に気がつくと、さらっと微笑んだ。
「四ツ森さん。おはよう」
「……えと、おはよう!」
赤座くんは、「あ」から始まるから出席番号順だと、席は自然に入り口から近いこの席になる。だから、教室に入るとまず目に入るのが赤座くんの姿なのだ。
赤座くんはよく挨拶してくれるのだが、今日はあまり挙動不審にならずに返せた。でもそれは、頭の大半を今朝の衝撃的な事実が埋めていたからだった。
まさか、蒼真くんが……。いまだに信じられない。あんなに生意気で、私にパレット掃除までさせて……、水で洗った感覚も全部本物だったのに。
でもたった一週間前の記憶だというのに、彼の顔立ちひとつ引っ張り出そうとしても、どこかボンヤリとしていて、その輪郭をつかむことができない。蒼真くんの顔を思い出そうとして……きれいな顔だったと、おぼろげにしか思い出せないのがもどかしい。
……私、霊感とかないはずなのに……。信じられない。……信じたくない。
「── お人好しだね」
彼の声を思い出す。ため息まじりの綺麗な声。これは、ちゃんと覚えている。
……よし、放課後また美術準備室に行ってみよう。私の掃除したパレットや筆洗がキレイだったら、少なくとも1時間近くかけて掃除したことは白昼夢では無いはずだ。
やっぱり、自分の目で見てみないと……信じられない。怖くないわけじゃないけど⋯⋯確認したい。そう決意しつつ、1限目の数学を机に出した。
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──3限目。急に降り出した雨により、体育館で男子と合同で授業することになった。授業はどちらもバスケなのだが、男子は体育館の入り口側で、女子は舞台側で行う。体育はあまり得意ではないけど、この授業は少しだけ楽しみだった。
なんたって……!
「優陽〜、今日も一緒にペア練しよ!」
「ミツキちゃんっ!!」
ミツキちゃんと一緒に授業を受けられるから!
そう、体育の女子の授業は3組と合同で、ミツキちゃんと一緒なのだ。いまだクラスに馴染めていない私にとって、体育の授業は救いだった。
我ながら情けない限りだけど、ミツキちゃんがいてくれてホントよかったっ!! ミツキちゃんさまさまである。可愛くて、人気者で、ぼっちの私にも優しくしてくれるって、彼女は女神か天使じゃないだろうか。
ポニテ姿も最高に可愛い……っ!! ふわふわとカールした髪を後ろでポニーテールにした彼女は、私と同じジャージを着ているはずなのに輝いて見えた。どんな角度で見てもバッチリ決まっている。可愛い!!
もはや拝みたい、なんて胸の前で指を組むと、ミツキちゃんは首を傾げる。
「優陽? どしたの? 手なんか組んで」
あ、ん〜と、拝んでるって言っていいのかな……? そんな会話をしていると、舞台の方から女子の体育の先生の声が聞こえてきた。
「点呼始めるぞ〜」
時計を見るともう9時。授業開始の時刻だ。
「……あ、やば、 点呼! 優陽、 遅れるよ!」
「あ、うん! 行きます!」
ミツキちゃんを追いかけて、体育の先生の前にできた女子の列に加わった。そうして体育の授業が始まった。今日の内容は、実技テストの項目の一つであるドリブルの練習だ。
私は約束通り、ミツキちゃんと二人ペアでドリブル練習をしていた。しかし私はどんくさくて、ドリブルもまともにできなかった。
止まって床にボールをつくことすら難しいのに、それに加えて動くとなると、手からすっぽ抜けるわ、あらぬ方向へ飛んでいくわで全くできない。
「ダイジョブ、ダイジョブ! もっかいやってみよ〜!!」
ミツキちゃんはそう笑ってくれるけど、情けない限りです……。そうして私達がゆるゆると練習していると、男子コートから歓声が聞こえてきた。
男子は、同じバスケの授業といっても流れが違うらしく、向こうはまず練習試合をしているようだった。
私だったら絶対無理だなぁ……。試合に参加以前にドリブルすらできないし……。それにしても、すごい盛り上がってる……。何かあったのかな?
随分な盛り上がりに、思わず目をそちらへ向ければ──。
「……よっと」
そこには自チームのゴール近く、相手チームからボールを奪ったらしい赤座くんの姿があった。




