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不思議な青年と出会った

 初めて入った美術準備室の中は、思いのほか広く、雑多で散らかっていて、けれど妙に生活感があった。


 ソファにテーブル、湯沸かしポット、飲みかけのマグカップ。テーブルには何色かわからなくなるほどに混ざりに混ざり、乾いてバキバキに割れた絵の具の張り付いたパレットや、筆の突き刺さった筆洗なんかも置いてある。窓から差し込む光でホコリがキラキラと光っていた。


 ── そして何より気になるものがあった。


「人が気持ちよく眠ろうとしてたのに、起こすなよな。もう……」


 二人掛けのソファに人が寝ていた。長い足を無造作に放り出して、軽く体を起こしている。


 眠そうに「ふぁあ」とあくびをすると、太もものあたりに乗っかっていた猫の頭を撫でていた。


「はぁ〜……仕方のないやつ」


 白く細い指が柔らかい猫の毛に沈み、行ったり来たりする。黒猫は青年の手を気持ちよさそうに目を細めて享受していた。


「おまえも飽きずに僕のとこ来るよね。また抜け出してきたの?」


 綺麗な人……なんて思って、思わず感嘆のため息がこぼれていた。


 青く濡れたような黒髪に、女の子が裸足で逃げ出したくなりそうなくらい、線の細い顔立ちをした美青年が、黒猫の頭を撫でている。かなり懐いているらしく、黒猫もゴロゴロと気持ちよさそうな声を出していた。


 映画のワンシーンかってぐらい、絵になる光景だ。ここだけ別の世界みたい……。思わず見惚れていると、おもむろに彼の目が私に向いた。


「で、あんたはだれ? 見ない顔だけど、なんか用?」


 こっち見たっ!?


「あ……えとっ!」


 まさか私に話を振られると思っていなくて固まってしまう。そりゃあこれだけガン見していれば聞かれて当然なのだけど、何も考えてなくて慌ててしまう。


 そ、そうだ! 猫ちゃん逃がすためにここに来たわけで……。


 改めて考えてみると、この人は誰なんだろう。先生……には見えないし、水色のカーディガンで見づらかったけど、そもそも制服着てる……よね。


 うちの高校はクラスが多く、5クラスまである。だからもしかしたら、私が知らないだけで他のクラスの子かもしれない。


 こんなに綺麗な人だと、赤座くんみたいに噂になりそうなものだけど……。そもそもなんでこんなところで寝てるの? 始業式はどうしたのだろうか。まさか、サボり……?


「あの、その猫見かけて、逃がしてあげようかと……」


 とりあえず聞かれたことを返せば、青年は「ふぅん」と興味なさそうに返事を返し、目をそらす。


「だってさ。ほら、おまえのせいで迷い込んできたやつが出たよ。僕の言う通りだったろ」


 そう猫の首のあたりの毛を指でこちょこちょと掻いて、猫もすごく気持ち良さそうだ。


「今日はもうおやつはないから、早く帰りなよ」


 まるでどうしようもないものを見るようで、しかしかわいいものを愛でるように目を細めながら、青年は猫に話しかける。すると猫は返事をするように、にゃーんと鳴いた。


 すごくファンシーな空間だ……。


 色々とツッコミたいところはあるのだが、あまりに不思議な光景だったので何も言えずに、彼と猫の対話?を眺めてしまっていると、青年はもぞもぞとソファに座りなおす。


 そんな中、猫はぴょんっと跳ねて、床に着地すると、窓へ歩いていく。


 あ、猫ちゃん……! 


 そのまま黒猫は空いた窓にしなやかに体を滑りこませ、外へ逃げてしまった。


 ふわふわが……! ちょっと撫でたかったのに……。


 青年とのふれあいを見て、あわよくば私も触らせてもらえないかな〜……なんてウズウズしていた。なんだか残念な気持ちがありながらも、残された青年に目を向ける。


 とりあえず……聞きたいことはたくさんある。伸びをする青年に、控えめに声をかけた。


「えと……そういう貴方はなんでここに……?」

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