振られた相手と同じクラスになってしまった
学校につけば、入ってすぐの所にクラス分けが張り出されていて、人だかりができていた。ミツキちゃんに手を引かれるまま、人の中へ割って入る。
「ここは手分けしよ? 優陽は5組から見てくれる?ウチは1組から見てくから」
コクっと頷けば、ミツキちゃんは「じゃあ向こうはよろしく!」と1組の表を見に行った。
よし、じゃあ私は5組から順に確認していこう。そうやって上から順に目をすべらせて、5組には私とミツキちゃんの名前はない。じゃあ次は4組……。
「ん〜と、鹿島……あ、あった! 」
そんな時、ミツキちゃんの声が聞こえた。彼女はもう3組の表の前に立っていて、彼女の指差した所には鹿島美月の名前がある。
「見つけるの早いね……!?」
驚いて聞いてしまうと、ミツキちゃんはきょとんとしてから、あははと笑った。
「まぁね。てゆーか、五十音順に並んでるんだからカ行とヤ行見つければすぐじゃん? ……あ、もしかして優陽、上から順に確認してた?」
「あ、うん……お恥ずかしい限りです……」
確かに彼女の言うやり方の方が早いだろう。少し考えれば分かることなのに、ポンと頭から抜けていた。恥ずかしさでなんとも言えない顔になる私をミツキちゃんはけらけら笑う。
「あはは、アンタ真面目だもんね〜。次からこのやり方でやったら早いよ」
「うん、やってみる……!」
「ウチは3組みたいだけど……。あ~あ……優陽とはクラス離れちゃったみたい」
彼女の一言にがっくり肩を落とす。そっか……ミツキちゃんとは分かれちゃったんだ。残念……。
前は同じクラスだったけど、ミツキちゃんと仲良くなれたのは2学期の終わりくらいだった。だから、もっと同じクラスで居たかったな〜なんて……。
もうすでに気落ちしてしまっていたが、ミツキちゃんのアドバイスを意識しながら、4組の表に目を滑らせる。そしてヤ行を探す……その前に。
──赤座 尊人、彼の名前を見つけた。
なんか、ついつい探しちゃうの未練がましいな。
ヤ行を探そうとしても、つい目線がア行に向かってしまったらしい。
そうして、気持ちを切り替え、さらに視線を滑らせて……四ツ森 優陽、私の名前を見つけた。
あっ……そうなんだ。……一緒のクラスなんだ。
心のどこかで、もしそうなれば嬉しいなとは思っていたけど、いざ本当になると微妙な心境だった。
振られた相手と1年間同じクラスって……かなり気まずい!
「わ、赤座と同じクラスじゃん。大丈夫そ?」
そんな私の様子に気づいたのだろうか。近づいてくるミツキちゃんに慌てて手を振る。
「え? だ、大丈夫!」
咄嗟にそう言ったものの、心細い。私の不安そうな顔に気づいたからか、ミツキちゃんは「ん〜」と少し思案する様子を見せてから、笑いかけてきた。
「とりあえず一緒に行こっか。何かクラスで困ったことあったらライン送ってよ。相談くらいなら聞けるから」
彼女の優しい言葉が胸に染み渡る。ミツキちゃん優しい……大好き! 本当に私にはもったいないほど素敵な親友だった。
そうして階段を登り、慣れない2年生の教室を見て回る。2-1、2-2、2-3……階段を挟んで向かいが2-4、つまり私がこれから通うことになる教室だった。
「ふぅん、ここが4組。赤座は……まだ来てないっぽいね。いつも朝早いのにめずらし」
隣でミツキちゃんが4組内を覗き込む。3組だけど、着いてきてくれたのだ。
4組には生徒はある程度揃っていて、でもそのどれもが私の見たことない顔や、あまり話したことのない子だった。
「じゃ、私は3組戻るから。まぁ、頑張って!」
あぁ〜! ミツキちゃん…… っ!
パシッと私の肩を軽く叩いてから、ヒラヒラと手を振り3組へ戻っていくミツキちゃん。その姿を見て急に心細くなる。
けれど教室に入らないといけないことは変わりなくて、私も4組の扉をくぐった。
黒板に割り振られた出席番号の席を探す。そして気まずさを抱えながら、ちょこんと自分の席に座って先生を待つ。
増えていく生徒も見知らぬ顔が多く、もうすでに友達同士だろう人が話している。私はそのことも少し憂鬱だった。
4組の名前見た限り……私の話しやすい子や友達と呼べる子が、残念なことに一人もクラスに居なかったのである。
友達が多い方ではないけれど、それにしても運がないというか……。ううん、赤座くんとは同じクラスになれたわけだけど、でもいざなってみると気まずい。
改めて友達作り……って思うと、今までどうやって友達になってきたかイマイチ思い出せないし……!
そうして悶々と考え、今後を憂鬱に考えながら待っていると、人のざわめきが聞こえてきた。
「赤座〜!! 遅かったじゃん!今年も同じクラスな!よろしく!」
「てか担任誰なんだろ〜な」
どこかで見たことあるような男子グループが入ってきた。そしてその中、元気そうな男子に気やすげに肩を抱かれたのは赤座くんだった。
「っと、いきなり絡むなよ、むさくるしいな」
そうやって笑っている赤座くんの姿。彼をこうしてちゃんと見るのは、あの告白の日以来だった。
あの日から、赤座くんの姿を見ると、失恋のショックを思い出してしまう気がして、意識的に見ないようにしていた。
半年過ぎて、彼を見て、思っていたよりかはショックを受けていない自分に気がつく。でも、胸の奥がチクッと甘く切なく痛んだ気がした。
「おはよ。今年もよろしく」
赤座くんはそうやって男子と話しながら自分の席へと向かう。その姿は輝いていて、仲良さそうな他愛ない様子が男子高校生らしいなと思った。
あぁ、こんな所……1年生の頃は窓越しに見てたなぁ。
移動授業で廊下を歩くとき、つい赤座くんの教室を通る道を選んで、窓から中を見て、彼がこうして男子と笑いあっている所を見た。あの時の壁が、今はない。でも失恋はしていて……なんだか不思議な気持ちだった。
そうしてぼーっとしていると、近くの席の女子グループが赤座くんについてコソコソ話しているのが聞こえてきた。
「赤座くんと同じクラスになれたのラッキーだよねっ!」
「ね。実物、イケメンすぎ。まつげなっがぁ。羨ましい〜」
ファンクラブもあると噂の赤座くんだ。改めて同じクラスで見てみると、すごくモテてる。
赤座くんを思わず見つめていたら、視線に気づかれたのか、彼の顔が私の方へ向きそうになって、慌てて逸らした。
気まずい……でも。私のことなんて忘れてるかもしれない。赤座くんはそれこそモテまくりで、告白なんて沢山されている。そもそも接点なんてなかったし、名前を覚えられているかすら怪しい。
もう、そっちの方がいい……。深いため息をついて、窓の外を見る。晴れ渡って、かなりいい天気だ。校庭で見事に満開の桜が揺れている。
私の名字は四ツ森だから、席順は自然と校庭側の窓際の席になった。青春の1ページとしては完璧なシチュエーション。
これで仲のいい子の1人でも同じクラスになれれば完璧なのだが、今入ってきている顔ぶれを何回見ても、残念なことに、このクラスには誰1人友達がいなかった。
泣きそう。机に突っ伏して、もう現実逃避で眠ったフリでもしようか悩んでいると、声がかけられた。
「四ツ森さん、おはよう」
耳障りの良い落ち着いた声。一瞬、誰に声をかけられたのか理解できなかった。
……えっ、赤座くん……!?
何気ないようにかけられた言葉。ただの挨拶だ。
でも固まってしまって、咄嗟に声が出ない。
顔をあげると、そこには俳優顔負けに整った顔に微笑みを浮かべる赤座くんの姿があった。
「……お、おはよう……」
でも、ようやくフリーズが解けて、声を絞り出した時には、もう彼は元の男子グループに戻ってしまっていた。
「でさ〜映画マジで凄かったんだよ!!」
「またその話? 何回目だよ」
テンションの高い男子の話に、呆れたように笑っている赤座くんの姿を、ついつい目で追ってしまう。
聞こえたかな……。うまく挨拶はできなかったけど、予想外に話しかけられて、胸はドキドキしていた。
……挨拶してくれた。振った相手なのに。気まずいだろうに、1年間無視される可能性まで考えてたのに。ただの挨拶なのに、私の心は上向いてしまっていた。
諦めたと思ってたのに……こんなことでフワフワしてしまうなんて、単純だなぁ。
自嘲気味にだが、唇は弧を描いていた。
チャイムが鳴ってクラスメイトたちが自分の席へ散っていく。今日の予定は聞いた話によると、始業式だけのようだ。つまり午前中で帰れるらしい。
早く終わればいいな……。私はとりあえず隣の席の女の子に挨拶してから、机に突っ伏して先生を待った。
✳✳
体育館に入ると、席番号順に緑の長椅子にかけることになる。丁度折り返し地点の関係で、私の席から赤座くんの後ろ姿がよく見えた。
朝の挨拶……あぁ、考えすぎだよね……!
……でも、名前、覚えててくれたんだ。いい人だ……。
あの日の告白は悲しい結果に終わった。すでに振られている。でも、ちゃんと覚えていてもらえたことが嬉しい。
諦めた諦めたと口では言っていても、やっぱり、ミツキちゃんみたいにスッパリとは諦めきれないようだ。
校長の長い話を聞いて、始業式はつつがなく終わる。そうして始業式が終われば、ホームルームをして下校になる。
中には部活のある子もいて、ミツキちゃんからは「ごめんっ!今日演劇部の練習あるから、先帰ってて〜!」と言われている。
一学期早々、忙しそうだったなぁ……。
どうやら、コンクールが近いそうだ。特にミツキちゃんは演劇部でも主役をやることが多いから大変だ。一度、見に行ったこともあるが、さすが器用なミツキちゃん。声も通るし、すっごく上手だった。
そして私はというと、特に部活に入ってることもない。帰宅部というやつである。だから今日はそのまま帰る予定だった。
「ちょっといい?」
「え? あっ、はい!」
カバンにプリントを詰めていると、予想外に声をかけられて驚く。担任の先生だ。先生はたまたま一年の時と同じ先生だった。
「四ツ森さん、ごめんだけど、このプリント、職員室の先生の机まで運ぶの手伝ってくれないかしら?」
その視線の先の教卓には、今日回収されたアンケートなどのプリントの山がある。
「え……」
め、めんどくさい……。けど、先生1人じゃ多いもんね……。特に他に予定もないし……。
こうして先生に面向かってお願いされてしまうと断りづらいし、面倒なこと以外に断る理由がない。
「わかりました」
頷くと先生は助かった様子で微笑んだ。
「ありがとう!」
まぁ仕方ない。内申点アップとでも思って頑張ろう。ちょっとプリントの量が多い気がするけど、持てなくはない……はず。
「 ……そうねえ、でも男子の人手も欲しいわよね。赤座くんも手伝ってくれない?」
先生の想像外の一言にびしっと固まる。
……えっ!? 赤座くんも!?
待って。それは予想外だ。なんて顔すればいいのかわからない。
「先生? どうしました?」
急に聞こえた赤座くんの声にドキンッと大袈裟に心臓が跳ねた。




