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始まりは失恋から

 ── それは、一目惚れだった。隣のクラスに、とても綺麗な子がいた。

 

 赤座あかざ 尊人たかひとくん。


 スラッとした手足に、サラサラな黒髪をもつ男の子。西古高校に入学してすぐのこと。廊下ですれ違って、その綺麗な目がチラッと私に向けられた。


「はい、落としたよ」


 差し出されたのは私のハンカチ。どうやら私の落としたハンカチを拾って、渡してくれたらしい。彼にとっては他愛ない行動だったと思う。


 ── でも。その日、怖くなるほどあっさりと、私は彼に一目惚れしてしまっていた。


 隣のクラスだから、接点がない。廊下を歩くとき、「何か彼と話をするきっかけがありますように」なんて、祈るしかできなかった。


 だけど、クラスの中でも一軍で、ふわふわした髪の可愛い鹿島かしまさんが、彼に告白するなんて話を聞いてしまった。


 だから、馬鹿な私は焦燥に駆られて─── ちっぽけな勇気を出して、一歩、踏み出してしまったのだ。


 靴箱に「校舎裏で待ってます」なんて時代遅れな手紙を挟んで、ドキドキしながら待った。


 心臓が死んでしまいそうなほど大きく脈打っていて、すぐに爆発してしまいそうだった。夕日の赤が、頬を熱く染めていく。バクンバクンと心臓は跳ねて、苦しいくらいだ。


 知らない子からのこんな手紙、来ないかもしれない、イタズラだと一蹴されて、手紙も捨てられているかもしれない。そう思ったけれど── 彼は来た。


「四ツ森さんだよね。何か用?」


 初めてしっかりと交わせる会話を楽しむ余裕なんてなかった。とっさに俯いて、頭の中が真っ白になってしまって、息が詰まる。


 ──そ、そうだ、好きって、言わないと!


 つっかえて、うまく出せない声を絞り出して、顔を上げて、言葉を紡ぐ。


「……ひ、一目惚れです。す、好きです!!」


 緊張でひどく震えて、聞き取りづらい声だった。背の高い彼はそんな私の顔を見下ろしていて、その表情は逆光でよく見えなかった。でも、たしかに彼は笑っていたように感じた。


「──誰かを好きになるとか、よく分からないんだよね」


 その一言が、やけによく聞こえた。


「ごめんね」


 ── 私の人生が変わったのは、確かにこの日からだった。


**


 失恋の痛みは、半年も過ぎれば随分と薄れていた。それに、彼が隣のクラスなことが幸いして、気まずくなることもなく……2年生に上がる今日まで普通に過ごすことができていた。振られた当日は死んでしまいそうなほど悲しかったけど、半年も経てば少しずつ薄れていく。


 そして、1つだけ、想定外に良いこともあった。あの時は恋敵だった鹿島かしま 美月みつきちゃんと、今では親友と言えるほどの仲なのだ。


 私もどうしてそうなったのか、未だに不思議だ。ミツキちゃんと仲よくなったのは、本当に偶然だった。


 失恋を忘れたくて、新しいことを始めようと入ってみたレストランでのバイトが、たまたまミツキちゃんと同じだったのだ。ビックリしたし、最初は気まずかったが、ミツキちゃんが気さくで予想外にさっぱりした性格をしていたことで、今では親友って呼べるほどの仲になった。


 ミツキちゃんも赤座くんに振られたらしいが、彼女は私と違って、スッパリと失恋して、次の恋を探していた。バイト終わり、どうしてそんなにスッパリ諦められるのか、彼女に聞いてみたことがある。


「ウチを振るなんて、顔よくても見る目ないじゃん?」


 彼女は桃色に染まった髪を指でくるくると弄りながら、私にいたずらっ子のような笑顔を見せて、言ってのけたのだ。


「ウチを大事にしてくれる人じゃないとね〜。ウチに釣り合う男じゃ無いよね」


 美少女にそこまで言い切られると、むしろ清々しいというかカッコいい。


 私は未だに彼のことを若干引きずってはいたが、性格もろくに知らず、なんとなく一目惚れしてしまったのだ。今思ってみれば、見た目がタイプなだけで好きになるってどうなんだろう……って、あの頃の自分の気持ちに懐疑的になりつつある。


 それに、ミツキちゃんを見習って、もうそろそろキチンと諦められそうだと思えていた。


 ── 今日は始業式だ。2年生、どんなクラス分けになるんだろう。


 あくびを噛み殺して、制服に着替えていく。


 ミツキちゃんとはまた一緒がいいな。……あと、少しだけ、赤座くんと同じクラスになってみたいな


 振られたから気まずくはあるんだけど、恋愛感情はひとまず置いておけば、彼はすごく綺麗な顔をしているのだ。立ち姿はモデルも顔負けに絵になる。


 目の保養として、一緒のクラスになりたい。 ……やっぱり、こういう風に考えてしまうってことは、私の赤座くんへの気持ちは、恋とかではなく、推しとかアイドルに対する好きみたいなものだったのかな……。


 あの日勇気をだして告白した自分を否定する気はなかったが、今思い返してみると、なかなか恥ずかしいことをしたかもしれない、と思うのだった。


 家を出て、電車に乗って、途中の駅でミツキちゃんと合流する。


「おはよ〜」


 ふぁあ、とあくびをする彼女も眠そうだ。ピンクのメイクでキラキラな大きな目元を細めて、にっこり笑ってから、私に手を振ってくる。


 西古高校は、昔の生徒会の活動により、おしゃれに対しての校則が緩くなったらしく、メイクもネイルも正式な行事の時以外はOKだ。だからミツキちゃんみたいにおしゃれ好きな子は毎日気を遣っていてすごいと思う。


 ミツキちゃん、彼女とは途中の駅が同じこともあり、3ヶ月前程から途中で合流して、一緒に通っていた。


 見た目はキラキラでお姫様みたいなミツキちゃんは、中身は結構ミーハーで、でもしっかり自分の意志があってかっこいい。内心、目標にさせてもらっている。


「んで、おひさ〜!」


「うん、ひさしぶり!」


 軽く抱きついてきたミツキちゃんに頬が緩んでしまう。彼女は結構スキンシップが多い。最初は驚いてアタフタしてしまったが、慣れてくると癒やされる。


 そんなミツキちゃんがパッと離れると、私の手に何かの感触がある。手を前に持ってくると、四角い箱。ピンクのリボンで可愛く包装された……プレゼント?


「はい、これドバイ土産。家族旅行行ったんだけど、お土産! お肌ツルツルになる石鹸らし〜よ!」


 手元を見ていればそんな言葉をかけられて、プレゼントとミツキちゃんとの顔を2度見した。すると彼女はにっと笑った。


「今年も同じクラスになれたらいいよね〜!」 


 予想外のプレゼントがすごく嬉しい。ドバイに家族旅行なんて凄いな〜なんて感想と同時に、彼女が旅行先でも私のことを考えて選んでくれたことが嬉しかった。


「えっ!? ありがとう〜っ! 私もミツキちゃんと同じクラスになりたいよ〜」


 あぁ、やっぱり可愛いし、いい子! 私の自慢の親友だ。


 こんな可愛い子を振るなんて赤座くんもったいないな〜、なんて思いつつ、ふと、彼が私を振るとき言われた言葉を思い出した。


「──誰かを好きになるとか、よく分からないんだよね」


 今でも鮮明に、あの日のことを思い出せる。振られた時に言われた言葉は何回も何回も反芻して、その度に意味を考えた。


 一時期、告白ブームがあって、私たち以外にも赤座くんに告白した子はいる。でも全員振られたそうだ。


 ……やっぱり、本当の言葉だったのかな。それとも、ただの振る理由付け?


 思い出して、心の奥の方が、ツキッと小さく痛んだ。半年も経ったし、もう諦めた気ではいたけど、やっぱり切ないな。


「ん? どしたの?」


 ミツキちゃんからきょとんとした声がかかって、はっと我にかえる。こんな風に何度も思い出すから、未だに忘れられないのだろう。


「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた!」


「ん〜ん、い〜よ。ほら、 新学期早々学校遅れちゃマズイし、早く行こ!」


 そう言ったミツキちゃんは私の腕を組むようにして掴み、引っ張る。


「クラス分けも早く確認したいし!」


「わわっ!?」


 そう、ミツキちゃんに腕を引っぱられながら、足早に学校へ向かった。

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