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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第225話 専用席

 あの長い一日からちょうど一月が過ぎた。

 ミシャール市場、ボナス商会の露店は、相変わらず常連たちが集い、心地よい喧騒を産み出し続けている。

 ただもちろん、いくつかの小さな変化もみられる。


「ん~美味しい。いやぁ、こうして日影からのんびりとサヴォイアを眺めるのも、意外と悪くないもんだね」

「こんな昼間っからラフィがここにいるのも妙な気がしもんだけど……流石にもう慣れたな」

「そりゃあ、こんな店あれば毎日来ちゃうよね。う~ん、それにしてもクロもシロは相変わらずすごい人気だねぇ。二人とも種族が違うのに凄いな……」

「クロもシロもここじゃあ人気者だからね。最近は露店に長くいられないから、余計にあんな感じになってるんだろうな」

「ふ~ん……ねぇ、ボナス。最近姿を見ないけど、ビビとガストは元気?」

「ああ、今はアジトの――俺たちの本拠地の改築に夢中だな。あと数日もすればひと段落つくだろうから、またサヴォイアへ来ると思うよ」

「そっか、いやぁそれにしても洞穴族専用席! これは実にいいものだね!」


 小さな変化の一つは洞穴族専用席を設けたことだ。

 あれからもラフィたちとは毎日のように顔を合わせており、露店でもすっかり常連の仲間入りを果たした。

 最初はいかにも恐々と言った様子で来ていたラフィも、今では特に用の無い日でも毎日姿を見せているようだ。

 洞穴族用に座り心地を整えた専用席にすっぽりとおさまり、オスカーに特別に作らせたコーヒーカップまで持ち込んで、優雅にコーヒーとチョコレートを楽しんでいる。


「喜んでもらえているようで良かったよ」

「私も長くサヴォイアにいるけれど、昼間の世界に居場所があるっていうのは……ちょっと特別な気分だね」

「まぁ本拠地が建築出来たら、もっとしっかりとした場所用意するから、協力頼むよ」

「そりゃもちろん! ん~っ、チョコレートも美味しいなぁ、ふふっ」


 そう言ってラフィはチョコレートを頬張り、足をぶらぶらさせる。

 市場の風景へ向けるその視線は、幼い子供のようでありながら、どこか老成した印象もあり、あの二人が老婆扱いするのもなんとなくわかる。

 いずれにしても彼女のおかげで建築計画は飛躍的に進んだし、かなり面白いことになってきた。


「それでも、まさかこんな流れになるとは俺も思わなかったなぁ……」

「いいアイデアだと思うけど? ただまぁ、まさか領主様が許可出すなんてね~」

「まぁその領主の娘のアイデアだからな」


 洞穴族には元々、俺の新しい店舗建築の手伝いをしてもらう手はずになっていた。

 だがそれに加えて、ラウラが地下通路で洞穴族の住居とつなげることを提案したのだ。

 それはまさに、洞穴族の日差しが苦手という特性故の様々な課題や、その他諸々の問題を一発で解決するアイデアだった。

 確かに建築に際しても、もちろんそのあともメリットは大きい。

 もちろん、お互いに信用できる相手である限りにおいてではあるが、ラフィはあの夜行動を共にしたことで、最終的に俺たちを心から信用することにしたようだ。

 どうもあの時の彼女の行動は、なにも冒険心からというだけでなく、俺たちを見極めるための行動でもあったようだ。

 そういうわけで、サヴォイアにおけるボナス商会の新しい拠点と、洞穴族の建物は地下で繋がることとなり、お互い運命を共にすることが決まったわけだ。

 しかも、もう洞穴族たちにより穴掘りは始まっており、全長の半分ほどは掘り進んでいるらしい。

 ビビやガストの様子からわかっていたことだが、やはり洞穴族は穴掘りが大好きなようだ。

 妙に色気のあるあのムチムチとしたあの連中も、今では夜の仕事そっちのけで、全身に土をかぶり、嬉々として穴を掘り進めているらしい。

 また意外なことに位置関係もわるくなかった。

 地上を歩くとそれなりに距離を感じるものの、直線距離だと驚くほど近い。

 ただし、この地下通路、これは王国全体で見ても、かなり例外的な扱いらしい。

 サヴォイアに限らず、これまで洞穴族たちは街中での穴掘りは、絶対禁止とされていたようだ。

 どうも過去王国の歴史において、大問題を何度も起こしてきたらしい。

 サイードの工場はその名残なんだろうな。

 確かにこんな穴掘りが好きな連中を野放しにすると、そこら中が穴だらけになって、いずれ街ごと陥没しそうだ。

 ということで今回は特例中の特例。

 通路の所有者も領主ということになっている。

 もちろん今の状況が特別いうのもあるのだろう。

 こうしてのんびりとしてはいるものの、一応今は戦時中だ。

 秘密の地下施設なんて、いくらでも使いようはある。

 そういえば地下通路にかかわる話と言えば、ギゼラの新しい鍛冶場も思いがけない展開を見せることになった。

 そもそも、新しい敷地には鍛冶場を設けることができなかった。

 立地がまずかったのだ。

 ミシャール市場に隣接するあの敷地は商業地区にあり、鍛冶場の建築が許されていなかったのだ。

 一応敷地を取り囲む四つの道路のうち、ひとつは職人街に面しており、ちょうどオスカーがもともとやっていた木工所も見えるので、何とかなるかと思っていたが、やはりそう簡単に行く問題ではなかった。

 たかが道一本分といえども、それがこの無秩序なサヴォイアの街に最低限の秩序をもたらしているのだ。

 気が付けば俺も領主の身内だ。

 だからこそ、よりいっそう街の秩序に関することには気を付けるべきことだろう。

 住民には直接関わりのない地下通路とはわけが違う。

 ということで、敷地内に鍛冶場を作る計画は早々に頓挫してしまった。

 ただその代わりといっては何だが、新しい店と地下で繋がる洞穴族の建物の中、年季の入った古いラフィたち洞穴族の鍛冶場を、ギゼラと共同のものとして作り直すことになったのだ。

 洞穴族の店舗兼住居は新しい俺たちの建築予定地ほどではないが、それなりに大きい。

 敷地みっちりに建物が建てられており、半地下を含めると総四階建ての重厚な建物だ。

 単一の建物としては、複数の建物で中庭を囲むように構成される領主館よりも大きく、もしかするとサヴォイアで一番でかい建物かもしれない。

 建物の一面は闇市の中でも治安の悪い通りに面しており、そちら側に鍛冶場やその他作業場は設けられており、ちょうどその向かいがマーセラスの店だったりする。


「――まったく、洞穴族どもの巣からギゼラ姐さんが出てきたときは、心臓が止まるかと思いましたよ」

「そう? まぁこれからは顔を合わせることもあると思うからよろしく。鉄、頼んだよ~」

「ええ、もちろんです!」


 ちなみに先ほどまでの打合せは、まさに鍛冶場の改築や鉄の調達方法についてが中心的な議題で、関係者であるギゼラやラフィに加え、ピリの従弟である悪人面のマーセラスも参加していたのだ。

 これまではあまりミシャール市場には姿を見せなかったマーセラスだが、ここ最近は毎日の用に顔を合わせている。


「小間使いが必要な時はいつでも声をかけてください」

「……マーセラス、あんた私相手の時とずいぶん態度が違うねぇ?」

「あ、当たり前だろうが!」

「まぁ、元々ご近所なわけだし、同じボナス商会の仲になったわけだから、これからはよろしくね」

「はぁ……まぁ、そうだな……まさか洞穴族のクソババアと組むことになるとは思わなかったぜ。ラフィ、これからは存分に協力させてもらおう」

「……そうだね、よろしく。ところで、まだあんたがまだハナタレ小僧のときうちの店のぞ――」

「なっ、そ、そんな話は今関係ないだろうが! そんなことより、今これからのことだ」


 二人の話しぶりには、気安さの中にもどこかお互いへの警戒感や緊張関係がにじんでいる。

 どうやらマーセラスの組織と洞穴族は、昔から仕事を取り合うような関係にあり、敵対とまではいかないものの、ちょっとしたライバル関係ではあったようだ。

 とはいえ両者とも、今後はボナス商会の名のもとに、協力していくことには納得している。

 お互いを罵りあいながらも、なにやら悪い笑顔を浮かべこそこそと話し合いはじめたので上手くやっていくだろう。

 しかしこう言っちゃなんだが……ラフィの悪人面がちょっと可愛いな。


「ーーそれでギゼラ、鍛冶場はうまくいきそう? 狭かったりしないか?」

「そうだね、今はまだ体格に合わない所も多いけど、最終的にはかなりいい環境になりそうだよ。それに気軽に相談できる相手がいるってのが、やっぱり良いよね~!」


 実際のところ、ギゼラはアジトで生活する時間も長いので、洞穴族と共同の鍛冶場を持つほうが何かと都合がいい。

 ある程度共有したほうが、材料や道具、燃料効率だって良いに決まっている。

 それに、ずっと自己流で続けてきた彼女にとっては、気軽に鍛冶のことを相談できる環境こそ、なにより価値があるようだ。

 それに、地味にありがたいのが、新しい店舗からの立ち退きを待つ必要もないことだ。

 工期がさらに詰められる。

 ちなみに屑鉄の調達をマーセラスが担当することになっている。

 なんだかんだ目端が利くし、使える男なんだよなぁ……。


「おや? 洞穴族の――ラフィじゃないか」

「どうも、ソルティス様」

「今日も来ていたのだな。どうだ、私のチョコレート食うか?」

「じゃあもらいま~す」

「いいぞ――あっ、一枚は……い、いやいい」


 ソルティスは妙に洞穴族に甘い。

 こういうタイプが好きなのだろうか。

 相手が大貴族ということで、ラフィもしばらくは警戒していたようだが、いいかげん慣れたようだ。

 今では飲み屋の客同様、上手く転がしている。


「おいボナス、お前はなぜこのタイミングで席を立とうとする? まぁ、座れ。コーヒー一杯分くらい付き合ったっていいじゃないか? どうせ私も直ぐにいかねばならんのだ」

「ソル……本当に毎日のように露店に来るようになったな」

「ああ、お前が監視塔のほうをうまくやってくれたからな、だいぶ楽できる。ところで、あのサラとかいう女、ヴァインツ村の出らしいが、実に優秀だな」

「サラは優秀だねぇ」

「ああいう人材も欲しいところだが……少々変わったところもあるようだな。うちの領地に誘ったら――ボナス商会のペットが神様で、どうたらこうたら訳の分からんことを言っていたが……何か知ってるか?」

「あぁ……まぁ、彼女はちょっと変わってるから」

「お前の周りの女たちは皆優秀だが、相当な変わり者が多いよなぁ」

「そんなことは……」

「それはともかく、今日はビビとガストはいないのか? あとはミルとオスカー、ザムザにボアロの娘はヴァインツか? それに――そうだ、コハクはどうした?」

「いやいや、俺の仲間たちについて詳しすぎだろ……。ザムザは鬼男引き連れてヴァインツ村にいるよ。コハクはラウラとさっき領主館行ったとこだよ。ビビとガスト、オスカーは俺のアジトを改築してる。あ~……あとはマリーもアジトだね」


 最近のマリーはよくオスカーやガスト、ギゼラ、そして俺を捕まえては話しかけてくる。

 今ちょうどアジトに作りかけている、新しい自分の部屋の相談ごとがほとんどだ。

 俺だって自分の部屋にはこだわりたいタイプだが、彼女は執着と言っていいほどの異様なこだわりを見せている。

 街での彼女はどちらかというと冷静沈着でそっけないほどだが、アジトにいるとどうもタガが外れがちになるらしい。

 興味のあることに関しては意外なほどよくしゃべるし、表情も豊かだ。

 今までマリーの有り余るエネルギーや、わがままを受け止められるような職人がいなかったのだろう。

 うちのちょっとおかしな職人連中は、当然のように彼女の要求を超えてくるので、マリーはそれが面白くて仕方ないようだ。

 少しづつ完成していく夢のマイルームに目を輝かせている。


「――なるほど、ボアロ家の人間はそういうとこあるよなぁ……まぁ、お前たちとはお似合いだ。それはともかく、サヴォイアの拠点の件、くれぐれも頼んだぞ!」

「あぁ……貴族向けのものになるかどうかわからないけど、ちゃんと部屋は確保するよ」


 ちなみにサヴォイア新店舗の話を聞きつけたソルティスは、真っ先に自分専用の客室を要求してきた。

 流石自称貧乏貴族だけあって金を払うつもりはないようだが、その代わりペンダル領からの物品、その仕入れの優先権なるものを書面付きで与えられた。

 常連の商人たち曰く、これはこれで相当やばいものらしく、様々な農林業資源を豊富に持つペンダルの商人は、サヴォイアへ来たらまず、俺たちの商会へと最初に伺いを立てる必要があるらしい。

 もちろん俺たちは別に商社のようなことをしているわけではないので、それほど直接的な恩恵はない。

 だが、他の商人たち、それは他領に対してのものであっても、かなり大きな発言力を持つことになるらしい。

 特に今のような資源不足の状況だと、その影響力は凄まじいようだ。

 正直商会を名乗りつつ、商売はたいしてしていないのであまりピンとは来ない――が、ソルティスの優秀さは信用している。

 間違いなく、お互いにとって損の無い形に収まっているのだろう。


「う~む、一度妻と子供もサヴォイアへ連れてこなければな。なぁボナス、お前もさっさと子供を作れ。別にラウラとでなくても構わんから、あまり年が離れては問題があるだろ?」

「いやいや、ソル、お前何企んでるんだよ……」

「――ソルティスさま?」

「げっ、ラ、ラウラ……や、やめろ街が吹き飛ぶ! あ、ああ~そうだそうだ、そ、そろそろ仕事に戻らねば~!」

「いやぁ、ボナスの店はいつも賑やかだねぇ~」

「ラフィ、お前は馴染みすぎだろ」

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