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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第224話 明日からのこと

 少し冷えてきた夜風に、いっそうエリザベスのぬくもりを感じつつ、明日からのことへ思いを巡らせる。


 まずは新しい店舗。

 できれば早く手を付けたいが、改築できるのは三ヵ月ほど先と言っていたな。

 それなりに時間はあるが、事業規模を考えれば、それほど余裕があるわけでもない。

 限られた期間で限界まで計画を練り込んでおかなければ。

 今の段階でも、かなり難しいものになることが予想される。

 扱う建物も大きいし、何より関わる人数が異様に多い。

 メラニーや仕立て屋の娘たち、ハジムラド、それにピリたちやその家族。

 領主側の意向もありそうだけど……そこはラウラでいいか。

 後は鍛冶場についてはギゼラ、厨房はミル、そして洞穴族を代表してラフィだな。

 打ち合せだけでも大変なことだ。

 メラニーとハジムラドは概ね露店に張り付いており、仕立て屋の娘も頻繁に手伝いに来てくれていることを考えると……やっぱり露店で計画を練るのが良さそうだな。

 大きな決め事のタイミング以外は、具体的な日程を決めず、集まったメンバーで断続的に打ち合わせを進めるのが効率的だろう。

 特に機密内容があるわけでもないし、街の有力者や、未来のご近所さんたちの意見も聞いておきたい。

 それなりに大きな場所を占有するのだから、ある程度のトラブルは避けようもないだろうか、根回ししておけば避けられるものも多いはずだ。

 そういえば露店を出しているあの場所は洞穴族には日当たりが良すぎる。

 洞穴族専用の日影席も用意しないとな。

 

 次に鬼男たちの取り扱いだ。

 街の中では浮いていたようだが、思ったよりはるかに扱いやすい連中だったな。

 基本的にはザムザに任せるにしても、ボナス商会との関わりがはっきりしている以上、これまでのようにその辺で路上で寝泊まりされるのはまずい。

 しばらくはヴァインツ村で寝泊まりさせればいいか。

 まずはヴァインツ村や監視塔の建築を急ぐ必要があるし、その手伝いをさせればいいだろう。

 あの村の連中であれば今更鬼男程度で驚くことはないはずだ。

 もともと厳しい環境で生き残ってきた連中だ。

 黒狼の件から俺たちとの付き合いも長いし、かなり肝が据わっている。

 ハジムラドから言わせると常識の範囲が二回りはずれてるらしい。

 ザムザが間にいれば鬼男たちとも上手くやるだろう。

 しばらく様子を見たうえで、本人たちがそう望むのであれば、いずれアジトへ連れてきてもいいし、新しいサヴォイアの拠点に住まわせてもいいだろう。

 明日村長と――いや、相談するならサラのほうがいいか。

 どうせ資材の輸送についても相談するつもりだったしちょうどいい。


 あとはここ、アジトの改築だな。

 洞穴族と蜘蛛たちの力でだいぶ楽させてもらえそうだが、そう簡単に終わるものでもない。

 とはいえここは図面はおおよそできているし、締め切りがあるようなものでもない。

 他の建築から出た資材を流用しつつ、楽しみながらやれれば良いだろう。

 別に失敗してもかまわないし、工事中もこうやってみんなで集まって夜を越すのも悪くない。

 ひとまずガストに基本的なところを任せておけば安心だろう。

 もともと洞穴族の職人を束ねて、サイードの大きな工場を回していたのだ。

 あれでよく物が見えているし、才能の塊のような女だ。

 隙あらばおっさんの尻を撫でまわしてくる変態的なその手で、美しく合理的で芸術性の高いものづくりをこなす。

 そういえば、新しい荷車の収納場所も作らなければならない。

 毎度蜘蛛たちに上げ下げしてもらうのも大変だし、だからといって荒野に出しっぱなしもまずいだろう。

 暫定的ではあるが、スロープを使って岸壁内に隠し駐車場を作るのが妥当かな。

 

 勾配次第ではあるものの、下までスロープを作るとなるとアジトを一周ぐるっと回るような距離が必要になる。

 荷車を隠せる程度掘りこんだら、そこからは手動エレベーターで荷物を上下させたほうが効率がいいだろうな。

 それも蜘蛛たちが勝手にやってくれそうだが、当然自分たちだけで扱えたほうがいい。

 アジトに関しては一旦それくらいか。


 そして何より急がなくてはならないのが監視塔、次にヴァインツ村の保養所兼酒蔵というか今はもう要塞と言ったほうがいいのか……その二施設の建築だろうな。

 もちろん監視塔の正式な建築場所は領主やソルティスの意向次第だが、それも明日には決められることだろう。

 正確な位置や設置数はともかく、まずはあの崖上と、そこからヴァインツ村までのどこか――中間地点に当たる場所の二か所になるだろう。

 明日は一旦鬼男を回収してヴァインツ村へ行くべきか。

 しかしこうなると、なるべく早く軍の本体が来てほしいところだ。

 いつまたあのクジラで乗りつけてくるとも限らない。

 サヴォイアにはカイたち精強な護衛兵がいるものの、その数は極めて少ない。

 内乱を防ぐための慣習とはいえ、現状を考えるとそれでは頼りない。

 監視塔の人員であれば十分確保できるだろうが、黒狼襲撃時のように大量にモンスターが押し寄せた場合、なすすべがない。

 ソルティスや領主、人間を辞めつつあるラウラが前線に出てくれば意外になんとかなるような気もするし、ラウラが出るのであれば当然俺たちも参戦せざるを得ないわけだが……さすがに国の戦略としてそれではまずいだろう。

 正式な軍隊に相当するものを急いで用意する必要がある。

 サヴォイアの傭兵を総動員させればそれなりの戦力にはなるだろうが、ピリや一部の上位の連中を除き、ほぼ野盗と変わらないあの連中が、組織だって動けるようには思えない。

 いずれにしても、俺が考えることでもないな。

 ただそれでも、俺も今は踏ん張りどころには違いない。

 今日見たタミル帝国のやり口はあまり気持ちのいいものではなかった。

 ここで手を抜いて、あの連中にサヴォイアを蹂躙されるようなことがあってはならない。

 それに、やることは山積みだがそれだけのことだ。

 どれも嫌々するようなことでもないし、むしろ心躍るようなことのほうが多い。

 ラウラの父親やサヴォイアの常連たち、露店の仲間、ヴァインツ村の馴染みある連中や腐れ縁の傭兵たち、新しく知り合った貴族や洞穴族、なにより今目の前にいる頼もしいボナス商会の仲間たちと一緒にやることだ。

 ここは俺も気合を入れ直して後悔の無いようにいきたい。


「ぼなす~ぎゃうぐぎゃうぎゃうぐぎゃう」

「ああ、いつもありがとう、クロ」

「ぐぎゃうぎゃう」


 クロは先ほどから何度も皆に布を押し当てて歩いている。

 ぎゃあぎゃあ何やら呟きなら、頷いたり首を傾げたりと、迷うことを楽しんでいるようだ。

 彼女はとっくに全員の体形は把握済みなので、色味を合わせてみているのだろうな。

 俺の下着もすべてクロのお手製だ。

 最近では仕立て屋の娘たちとも付き合うようになったせいか、謎の縫製スキルで妙に立体的で派手なパンツを仕立ててくれる。

 蜘蛛たちもクロには絶対服従なので、近々また新しい技術を編み出すことだろう。

 まだ見た目が小鬼だったころから、クロはおしゃれ大好きだったからな。

 しかし不思議な奴だ。

 今日は大量の小鬼たちを見たから余計そう感じる。

 ぴんくのせいで謎の成長を遂げて今のような姿になってはいるが、クロも元々はちゃんと小鬼だったんだよな。

 今日相手した小鬼たちは、全員が歯をむき出して、飢えと恨みに取りつかれたように襲い掛かってきた。

 当時のクロとは全く違う。

 いったい何がこれほどの違いを産んだのだろう。

 そもそもモンスターとは何なのだろうか。

 ラフィの話を聞いた今でもいまいちピンと来ていない。

 キノコのようなものと言っていたが、土中のカビのような何かだろうか。

 元々は古代のキダナケモ、洞穴族やその他いろいろなものに取りつき、混ざりあって生き物の体裁をとっているようだが……いずれにしても、そういったものと今のクロの姿――どころか昔のクロの姿とも結びつかない。

 今回の件、タミル帝国は明らかにモンスターがクジラの口内で産まれるように仕向けていた。

 自然に産まれたものと、人工的に作られたもので、何か違いがあるのかもしれない。

 クロは特別としても、街中で普通に働いている小鬼だってたくさんいる。

 あの連中はタミル帝国によって人工的に作られたものではないのかもしれない。

 そういう意味では最後に見たあいつはどうなんだろうな……。

 少なくとも、クロはもう、クロという固有の生き物になっていると見ていいだろう。

 ラウラも昔そんな風なことを言っていた。

 主犯であるぴんくも意図せずのことのようだし、キダナケモ以上の謎生物が奇跡的な確率で産み出されてしまったのかもしれない。


「――うん? まだ布触ってるの? ほら、クロもたまには一緒に寝ようね」

「ぎゃ~う、し~ろ! ぐぎゃうぎゃうぎゃう! ぎゃっぎゃっぎゃっ!」



 珍しくシロに捕獲されたクロが、絡めとられながらぎゃあぎゃあと何か言っている。

 文句を言ってるようだが、むしろ少しうれしそうだ。


「ほら――ボナスも。みんな寝てるよ?」

「ぬぁっ」

「ぼなす~!」

「あれ? いつの間にギゼラとマリーは……ビビとガストも寝ていたのか」


 二人の様子を観察していると、今度は俺がクロとシロに絡めとられてしまった。

 ただシロの言う通り、皆いつの間にか眠っていたようだ。

 いつまでも湖に漂っていると思ったギゼラとマリーの二人も、気が付くとウッドデッキの上で毛布にくるまっていた。

 ニーチェの仲間たちと同じようにゴロゴロと並んで転がっているので、群れと同化している。

 洞穴族の二人も静かになったと思ったら、いつの間にか眠っていたようだ。

 間に転がっていたニーチェまで、クジラの髭にかじりついたままの姿で眠っている。


「そうだな……いい加減寝ようか。あぁ~今日は本当に長い一日だった」

「おやすみ、ボナス」

「ぎゃぅ~ぼなす~」

「ああ、おやすみ、クロ、シロ」

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