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03 【混沌事件調査】  作者: 非常口どん八
第二章

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8 飛べないブタじゃなくて、飛びそうなブタ――、いや、飛ぶ以外に考えられないブタ




          (2)




 引き続き、碇賀元と賽賀忍のコンビ、それから零泉円子の三人は、VR室で話していた。

「それにしても、なんすけど……、ガイシャの、遺体の資料を“見た”んすけど……、なかなか、酷いもんっすね」

 零泉が、遺体について話をふった。

「まあ、ねい……」

 碇賀が、相づちした。

 零泉はVRギアをとおして、今までのガイシャたちの記録にアクセスし、覗き見ていた。

 それというのは、遺体を、直(じか)に見たことに等しかった。

「それで? その、目をくり抜いた様子から、“混沌”ってキーワードが、出てきたわけなんすよね?」

 零泉が、聞くと、


「うん。混沌の、じょのいこ」


 碇賀元が、ふたたび、先ほどのネタで答えた。

「だから、面白くないって、元(はじめ)」

 賽賀忍が、つっこむ。 

 そのかたわら、

「混沌の、じょのいこ――?」

 と、零泉は、いまいちピンと来なかった。

 世代のせいか、通じないネタなのかもしれないし、また、元ネタが分かったとしても、「だから、何?」的な話だが。

 すると、

「そうだ、ついでにさ? “混沌”について、何か調べてみてくれよ」

 碇賀元が、零泉に頼んできた。

「そっすね。ちょい、調べてみます」

 零泉が答えるなり、VRギアをとおし、“検索”する。

 すると、すぐに調べることができ、


 ――フ、ァァンッ……

 

 と、ホログラフィック・ディスプレイに、“ナニカ”が表示される。

 まず、映し出されたのは、原文の漢文に“レ点”などを使った文章と、それを、くだけた現代語に訳した文章。

 併せて、著者とされる荘子や、空想の生物の“混沌”の画像も出てきた。

 ちなみに、“混沌”のキャラクター画というかイメージ画だが、少々奇妙な風体(ふうてい)だった。

 ボンレスハムというか、ブタのような胴体に、六つの足があるのだが、奇妙なことに、“顔というもの”は無いのだ。

 そして、背中には、小っちゃいペガサスのような羽が四つ生えているという。

「あん? 何じゃ、こりゃ? こいつが、混沌?」

「うん。そうみたいね」

「この、飛べないブタじゃなくて、飛びそうなブタ――、いや、飛ぶ以外に考えられないブタみたいなのが?」

「何か、あっちの神話系には、こんなキャラが多いみたいっすね」

 と、零泉が言葉を添えながら、古代中国の神話に登場するキャラクターや、『山海経(せんがいきょう)』に出てくる奇妙な生き物を、表示してみせる。

「はぁ、……」

 碇賀元が、気の抜けた声を出しながら、

「――で? この、飛びそうなブタの頭がないバージョンっぽい怪物に、目や鼻、耳などの“穴”を開けたら、死んでしまった――、とかいう話なんだな?」

「ザックリまとめると、そっすね。まあ、いろいろ、解釈があるみたいなんっすけど」

「それは、どんなものなの?」

 とここで、賽賀忍が聞いてくると、

「アンタ、知らんのかい? 学生時代、古文・漢文とか、ぜったい勉強してない系だろ?」

「まあ、勉強してたかしてなかったかと聞かれると……、あんま、してないけど。――ていうか、元(はじめ)こそ、してないでしょ」

「うん」

 と、横やりのように、碇賀元が、本題から脱線させようとしてくる。


 それをスルーして、零泉が、ネット空間のどっかから資料を拾ってきて、

「とりま、ネットから引っぱってきただけなんすけど……、まずひとつは、その、混沌って、『カオス』って訳せるじゃないっすか?」

「うん」

「その、『混沌』=『カオス』。つまり、複雑で、無為かつ無垢な自然界のことを意味してまして……、その混沌に穴を開けるということは、自然界に手を加えるっちゅうことになりまして、」

「ああ、自然破壊的なヤツね」

「そ、そっす、それっす」

 と、途中まで出てきかけた言葉を、碇賀元が変わりに引き出しつつ、、

「ただ……、何す、かね……? こっちの解釈じゃ、なさそうなん、っすよね」

「うん。何か、私も、漢文の時間に聞いたのは、ちょっと違ったような……」

 と、賽賀忍も、天井を仰ぎながら記憶を思い出そうとする。

「そうなんっすよね、私も、そんな記憶あるんすよね」

「嘘つけ。どうせ、居眠りしてたんだろうに、君ら」

「うるさいわね、元(はじめ)」

「そっすよ」

 と、余計なこと言ってくる碇賀元に、賽賀忍と零泉のふたりがつっこんだ。


 再び、零泉が話す。

「それで、別の解釈は、何っちゅうっすんかね……? 皆が親切心で、混沌に、目や、口、耳などの穴を開けてあげたんっすけど……、混沌は、“それらの穴”を得てしまったことで、不条理で汚い俗世間の情報を、否応なしに見たり聞いたりして、取り込んでしまうようになったわけなんっすね。ほんで、そんな世界にショックを受けちゃって、無垢な状態を保てなくなって死んでしまった――、っちゅう説っすね。まあ、確かに、漢文時間で、爺ちゃんの先生が……、そんな話をしてた記憶があるんすよね」

「ああ、『見ざる聞かざる言わざる』の、逆バージョンで、『見なさい聞きなさい喋りなさい』ってことね」

「何か、違(ちが)くない」

 謎解釈する碇賀元に、賽賀忍がつっこんだ。

 続けて、賽賀忍が、

「何て、いうのかな? 混沌は、その、“穴”を開けられたら死んじゃうわけだけど……、混沌と違って、私たち人間は、目・口・鼻といった“穴”を以って、世界の不条理と汚さを取り込んで、欲を手にし、さらに不条理で汚い世の中をつくる――」

「……」

「……」

 と、ふたりが、耳を傾ける中、

「もし……、その、“混沌”というの知ってか知らずか……、犯人が、目をくり抜いたり口の中を焼くという行為に、何かの“メッセージ”を込めたのだとすると、そのこころは――」

「……」

「……」

 と、沈黙をはさみながら、

「『何故? お前たちのような者が、目、口、耳を持って、世の中とつながっているのか? お前たちには、不要だろ』――ってとこに、なるのかしら?」

 と、賽賀忍が代弁した犯人のメッセージに、

「……」

「……」

 と、ふたりは、ふたたび沈黙した。

 そのように、沈黙したままの中、


「はい、おまえ逮捕~」


 と、碇賀元が突然に、

 ――グワ、シッ――

 と、手錠をかけるように、賽賀忍の両手首をつかんだ。

「何で――?」

 賽賀忍が、無表情でキョトンとして、

「もしかして? アンタ、犯人じゃない?」

「じゃないって。てか? 聞く順番、逆じゃない?」

 と、つっこんだ。


 そのようにしながら、碇賀元が、

「ふぅ……、やれやれ。まあ、とりあえず、こんなところで、アレコレ話してても拉致が開かないな」

「“こんなところ”、とは――?」

 と、零泉がつっこみたくなりながら、賽賀忍が、

「そうね……、とりあえず、松本さんの旦那さんたちに、連絡してみようよ」

「はぁ……、そうだ、ねい」

 と、碇賀元は、ダルそうに溜め息した。

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