7 ソ連兵みたいな帽子を被ったカエルのアイツ
そんな、碇賀がタバコを吸いたくなるようなタバコ休憩分の記事の人はさておき、本題に戻る。
「しっかし……、ほんと、これは、どういうわけなんだろうな?」
碇賀が、発電機のエンジンをかけなおすように、まず話を再開して、
「そう、ねぇ……?」
と、賽賀が相槌しつつ、天井を仰いで少し考え、
「もし、犯罪組織どうしの、利害関係による連続的な犯行とすると……、これだけの人やグループが、同じような形で殺害されるのかしら?」
「この、二、三〇人近いガイシャどうし、はたまたグループどうしってのは、何か繋がりとか有りそうなのかねい?」
と、碇賀が併せて、零泉に尋ねる。
「う~ん……、何か、今のところ、そのような情報はなさそっ、すね……」
コーラを置いて、今度はキ〇ベツ太郎を手にした零泉が、まだVRギアで情報を“見つつ”答える。
その、ヘッドギアをつけた顔には、口のほうにキャ〇ツ太郎の青のりがついていながら――
「あんっ――? キャベツ太郎じゃん!? それ、バカ美味いよな! ちょっと、くれよ」
「ええ! ガチで、美味いっすよね! どうぞ」
テンション上がって反応する碇賀に、零泉も同意しつつ差し出す。
「あれ、キャベツは入ってないんだよな」
「――っすね」
と、零泉が、ソ連兵みたいな帽子を被ったカエルのアイツが特徴的な袋を手にしつつ、VRギアをとおして、
「何か、形が、芽キャベツみたいだからってので、キ〇ベツ太郎――、らしいっすね」
「まあ、おおかた、そんなとこだろうねい」
「これ、バカ美味いんっすけど、けっこうカロリー高いんっすよね、油っぽくて――」
「その、油っぽいのがいいんだろがい」
「まあ、だから、小っちゃい袋で売ってるんですかね」
などと、二人はダラダラとキャ〇ツ太郎について話す。
本題に入るために、エンジンをかけたのに、このザマである。
そこへ、
「ねぇ、キ〇ベツ太郎トークはいいからさ? 本題に戻りなさいよ、元」
「うい。しぃましぇん」
と、賽賀に言われ、歯やら口元に青海苔をつけたまま、碇賀は詫びて本題に戻る。
さて、再び本題に戻る。
「そんで、話を戻すと、だ――、ガイシャたちは、それぞれ、何の関係もないってことか」
碇賀が、確認するように聞く。
少し、刑事モノっぽくシリアスな感を出しているが、相変わらず青海苔が歯に着いているのが目立つ。
「そっ、すね……。そうすると、利害関係による犯行の線は、少し薄くなりますかね?」
零泉が答えつつ、聞き、
「そうだねい……、もし、利害関係だったら、関係する相手や、少なくとも関係する人物たちを粛正するだけで終わり――、だろうしねい」
と、碇賀が答える。
ここでとりあえず、犯罪組織の利害関係だったり、“本職”の方たちによる粛正との仮説は、いったん除外する。
「そうしますと……、利害関係でないとすると、何か、強い怨恨のようなもの、なんっすかね?」
零泉が、再び二人に聞く。
「そうね……、それも、最初は、動画投稿を行った人物やグループだけだったのに対し、SNSで拡散させた人間にまで広まるなんてね……。動画投稿と、それを拡散するという“行為自体に”、強い憎悪を抱いているのかしら?」
賽賀が答え、
「まあ、そうだとすると――、犯人というのは、ガイシャ達が行ったような迷惑系動画で、被害にあった者か? もしくは、その関係者の可能性もあるのか?」
と、それを受け、碇賀が可能性をあげる。
その、二人が話すのを聞きながら、
「そうすると、調べるのは……、少し、めんどそうっすね」
と、零泉が言い、
「まあ、ガイシャたちの情報なら、それなりにそろっているだろうけどな……、ガイシャの被害者たちの情報ってのは、なかなか大変だろうねい……。まあ、ガイシャの被害者――って、変な感じがする言葉だけど」
と、碇賀も同意する。
すなわち、目をくり抜かれたりして殺害されたガイシャたちであれば、遺体があるので、とりあえずは彼らが何者であるかということが分かる。
ゆえに、その個人情報なりが集まるのは、それほど難しくはない。
しかし、今回の“ガイシャの被害者”たち――、恐らくは、嵌められて冤罪動画を撮られるなどの被害にあった者たちに関しては、そうはいかないだろう。
その多くは、泣き寝入りしたり、失踪したりしてして身を隠してしまったり、あるいは、すでに命を絶ってしまっている可能性さえある。
また、動画がネットで拡散され、個人情報を特定されてしまった場合であっても、世間というのは熱しやすく冷めやすものであり、とうに新たな炎上ネタに埋もれてしまっているだろう。
ここで、また碇賀が、
「う~む……、そうすると、その、ガイシャの被害者――っていうヤツか?」
「うん。そうね」
「その、“もし”の話だけどさ? この、“混沌事件”のガイシャたちに強い怨恨を抱いて犯行を行ったのが、被害者本人じゃなくて、被害者の関係者ってのもあり得るな? 例えば、身内とか、恋人だったり」
「まあ、あるでしょね」
と、賽賀が、同じような調子で相槌してやりつつ、
「そうだとするとさ? 犯人の情報を調べるのって、わりと大変じゃね?」
「まあ、そうでしょね」
「はぁ、……」
と、ここまで相槌したところで、締まりなく会話は終わる。