5 別件の、ベッケンバウアー
(3)
場面は変わって、特別調査課にて。
碇賀元と賽賀忍の二人は、現場の調査から戻ってきて、
「――というわけで、僕ちゃん、来ますた」
などと、碇賀元はふざけながら、“ある調査室”へと入っていくと、
「ああ”? 何が、来ますた――、だよ? 舐めてんのか? 人が、イライラしてるって時に、」
と、すぐに、露骨に苛立つ女の声が返ってきた。
アラフォービューティの室長こと、松本清水子だった。
“松本室長”と、昭和の文豪、“松本清張”の語呂が似ているせいか、ややグレーがかったミドルヘアに、厚い黒ぶちメガネが特徴的だった。
ちなみに、この室長の松本清水子だが、碇賀元たちの所属する調査室とは別であるものの、つき合い自体は長くて、ゆえに、このような間柄だった。
なお、その松本清水子の後ろでは、
「……」
「……」
と、まだ二〇代のふたりの部下が――、ラノベ主人公によくいそうな髪型をした青年、黒桐廉太郎と、おかっぱがかったワイルドヘアを31アイスのようにカラーリングした零泉円子のふたりが、キレ気味の松本に対し、怯えたようすで戦慄していたが……
ふたりに気づいて、
「あん? 何してんだ、君ら?」
と、碇賀元が聞いた。
「あっ、碇賀さん、」
黒桐廉太郎が気づき、
「あ? ガーさん、こ、こんちわっす、」
と、続けて、零泉円子が反応した。
挨拶はそこそこに、本題に入る。
碇賀元と賽賀忍は、松本清水子たちに、今回の件のことを話した。
「――それで? この件の、ガイシャたちを、ウチらにも調べてほしいって、わけ?」
と、松本清水子が、単刀直入的に聞いた。
「そ、そっ、そゆこと」
碇賀元が、半ばフザケたノリで答え、
「何が、そ、そ、そゆこと――だっての、うぜぇ、」
と、松本清水子が苛立った。
なお、このキレ気味と、口の悪さだが、これは、松本清水子のデフォである。
「てか? 何で? ウチらが、アンタたちの案件の手伝いをしないといけないわけ? こっちは、この件について、関係ないんだけど」
「まあ、別件の、ベッケンバウアーって感じで、すこしだけ手伝ってよ? 松もっちゃん」
「ああ”? 面白くねぇよ。しかも、全然、別件でもねぇし」
松本清水子が、碇賀元のオヤジギャグにつっこんだ。
そうしながらも、
「ったく……、まあ、いま、すこし手が空いてるから……、円子でも、貸したげる」
と、ツンとデレの境界の如く、そのまま断ってくると思いきや、松本清水子は手伝ってやると言ってくれた。
なお、貸しだすと言った零泉円子であるが、特別調査課の、VR調査室のオペレーターとしても活躍できる能力を持っている人材だった。
ちなみに、VR調査室とは、“近未来的な電脳空間を用いた部屋的なもの”である。
松本清水子は、零泉円子のほうを向いて、
「――って、わけだからさ? ちょっち、手伝ったってよ、円子」
「う、うっす、」
と、零泉円子は頼まれ、返事した。
「おう、そしたら、借りるねい。そのまま、返し忘れっかもしれんけど」
「返却期限までに返せってんだよ。図書館の本かよ」
と、松本清水子が、碇賀元につっこむも、
「いや……、円子なら、いっか」
「え、ええッ……!?」
と、まさかの言葉に、零泉円子がマスオさんばりに驚いて見せた。
そのようにして、とりあえずは、零泉円子が、碇賀元と賽賀忍のふたりに協力する形となったものの、
「つったって……、わざわざ、VR室使って調べてもさ? 何か、統計的な傾向が、分かるくらいかもしれないだけかもしれないけど……、いいの?」
と、松本清水子が聞いた。
まあ、人工知能の応用が広まって久しく、人類をシンギュラリティに導くだろうとの予測があるのものの、「“あんなもの”、あくまで“機械学習”に過ぎない」と評する意見も少なくない。
貴重な半導体、コンピュータを大量に使っておいて、“ちょっと考えりゃ分かるじゃないか程度”の分析を出してきたり……、また、そもそも、「わざわざそんなところに人工知能使う必要あるのか?」と問い詰めたくなるような、ポンコツな使いかたをされることも少なくない。
なので、このSFじみたVR分析というものも、そこまでアテにしないほうがいい、といった意図だろう。
「まあ、それでも、いいさ。そっから、何か、考えれたら考えれたらで」
「はぁ、」
のん気なそうな碇賀元に、松本清水子は気の抜けた相づちをしながら、
「ああ? そう言えば、さ?」
「う、ん?」
「手伝ってほしいなら、さ? “あいつら”に、頼めばいいじゃない? どうせ、暇してるだろうし」
と、松本清水子は、思い出したように提案してきた。
「“あいつら”……? ああ? 松もっちゃんの、旦那さんたちか」
「元だっての、殺すぞ」




