4 某帆船のチョコレートに似た名前の車
それはさておき、本題に入る。
碇賀が、
「――で? ガイシャたちは、私人逮捕とか、やってたヤツらみたいな連中なんだな? あまり、知名度はなさそうだが」
と、資料を見つつ、群麻と無二屋の二人に聞く。
「みたい、ですね」
群麻が、そのとおりだと相槌する。
また続けて、碇賀が、
「それで、何やら、ガイシャの女を囮として、売春を持ちかけた男をターゲットにして、動画とかも撮りつつ、強請ってたて話だがな」
と、資料を眺め、確認する。
同時に、彼らメンバーの一人が撮っていた、“売春を行っている者を成敗する”的な動画を再生させながら。
その横から、
「――で、それが原因で、こいつらが何者かに殺された可能性がある――、ってわけね」
と、賽賀が言った。
まあ、それが直接の原因かは分からないが、ガイシャたちのグループは、碇賀が確認したような、“美人局”と、動画撮影という近代的な手法を組み合わせることで、あくどい小遣い稼ぎを行っていたようである。
その中には金目的でなく、単純に、面白半分で行ったとしか思えないものもある。
「何か、犯罪グループと、シノギがかち合ったの、か――」
碇賀が言い、
「あるいは、本職の怒りに触れるようなことでも、やってしまったんですかね……」
と、群麻が、その続きを言った。
シノギだの、本職だの、アウトローな匂いのする言葉が出てきつつ――
まあ、そこまでは、部分的には分かる。
先ほど刑事たちとも話していたとおり、対立していた犯罪グループどうしの報復というもの、あり得ると言えばあり得るし……、はたまた、どんくさい間抜けな犯罪グループが、やってはいけない相手にやってはいけないことを――、例えば、某帆船のチョコレートに似た名前の車を盗難したところ、その持ち主がアウトローの大物だった――、のようなことをしてしまい、粛清されてしまった。
そういう、ちょっとした作り話みたいなことも、少ない確率ながら、あるといえばあるのかもしれない。
しかし、
「――ただ、そうすると……」
と、賽賀がそう前置きして、沈黙を破りつつ、
「今回のガイシャたちだけなら、話は分かるだけどさ、過去の、これまでのガイシャたちは、どうなの――? って話になるわね」
と、疑問をあげた。
「そう……、そこ、なんですよね」
群麻が、そのとおりだと相槌する。
というのは、これも先ほど現場で話していたとおり、同様の事件はここ最近続いており、その被害者は2、30人ほどにのぼる。
その、今までの被害者たちの資料を見つつ、
「中には、今回の被害者たちのような、犯罪だったりアウトローなどと、つながりありそうな者もいるが……、それ以外は、おおむね一般ピープルの範囲内の人間ばかりなんだよな……」
と、碇賀が言った。
その資料を見るに、被害者は学生だったり、会社員だったり……、あるいは、フリーで何かをしている人間だったり。
また、その横から、
「ふぇー……、動画配信者だったり、Ⅴチューバーだったり……、あるいは、SNSライター、インフルエンサーっぽい人も、いますねぇ」
と、無二屋も、資料を見ながら言い、
「まあ、ちょっと変わった職業といえば、変わった職業なんですけど……、こういう仕事も、認知されて久しいですからね。一般人といえば、一般人よりになりますよ、ね?」
と、群麻が、皆に確認するように言った。
「……」
碇賀は無言で、何か考えるように、チラリ……と見ていたが。
その碇賀が、
「はぁ~……」
と、煙草を吸いたい様子で、眠たそうに溜め息しつつ、口をひらく。
「そうだな……、このガイシャたちが皆、そのような犯罪グループや本職と関係あるのか――」
「……」
「……」
と、群麻と無二屋が耳を傾ける中、一呼吸おきつつ、
「――あるいは、ただの、猟奇殺人なのか?」
「……」
と、賽賀も、流し目で見ながら、
「……まあ、もう一度、今までのガイシャのプロフィールなり、共通点なりを――、調べたほうが、いいかもな」
と、煙草の煙を吐き終えるように、碇賀が言った。