3 どうせ、古文漢文が無くなって浮いた時間で金融教育やプログラミングとかやっても、やらない人は最初からやらない
(2)
「ふぅ~……、チカレタ……」
と、碇賀元が、コーヒーの香りと、ため息とともに呟いた。
現場の捜査から小休止し、碇賀元と賽賀忍の二人は、外でコーヒーでも飲んでいる最中だった。
そこには、群麻と無二屋のコンビの姿もあって、
「そう言えば、ですけど? 碇賀さん?」
と、無二屋が聞いてきた。
「ああ”ん?」
「さっきの、混沌の、じょのいこ――? って、言った理由って……、何か、あるんですか?」
「理由、だと……?」
碇賀元が、缶コーヒーを口に当てたまま、無言になる。
その傍ら、
「……」
と、賽賀忍が、チラリ……と、見ていたが。
それにも気づかず、さらに、群麻が、
「その、『混沌のじょのいこ』って――、何ですか?」
と、聞いた。
その刹那、
――スッ――!
「「わわっ――!?」」
と、群麻と無二屋のふたりは、首元に突きつけられた“何か冷たく鋭い感触”に、驚きの声を上げた。
チラッ……と、見てみる。
そこには、いつの間に背後に移動したのか――? 碇賀元が、六角を突きつけていたのだ。
なお、これは棒手裏剣としても使用できる武器である。
そんな、忍びモードになった碇賀元は、冷たい声で、
「知らなくて、いい――。いや、お前たちは、何も聞かなかった。いいな……?」
「「は、はいぃッ……!?」」
「世の中には、な――、知らなくていいことが、あるんだよ……」
と、怯えるふたりを、脅してみせた。
そこへ、
「まあ、元ネタ知ったら、世代バレちゃうもんね」
「おい、」
と、賽賀忍のヒントに、某“鬼ばかりいそうな世間で割烹でもやってそうな坊主頭”が浮かびながら、碇賀元がつっこむも、
「――というか? もとネタ自体、このふたりは、知らないんじゃないかしら?」
「まあ、それも、そうか……。俺たちも、歳、取っちまったねい……」
「うん。それは、元だけにしといてね」
と、世代間ギャップに、時の流れのむなしさを感じるばかりだった。
それはさておいて、
「まあ、俺のオヤジギャグは置いてて、さ? 【混沌】って言葉くらい、知ってるっしょ?」
と、碇賀元が、ふたりに聞いた。
「う、う~ん……?」
はてなマークを浮かべる無二屋と、
「何か、漢文で、出てきたような記憶がありますね」
と、群麻が答える。
「まあ、その、漢文ね」
そのとおりと、賽賀忍。
また、横から碇賀元が、
「世間では、もう、わざわざカリキュラムに入れる必要ないんじゃね? むしろ金融とか勉強したほうがいいんじゃね――? とか言われる、あの古文・漢文か?」
「ああ、古文不要論ね」
「まあ、確かに、古文・漢文なんか、あんまし意味の無いっちゃ意味がないんだろうけどねい……、世の中、経世済民とはよく言ったもので、さ? 意味の無いものに付加価値を与えて、富の分配をしてきたもんでさ、」
「ああ、元のタバコのことね」
と、賽賀忍に冷たくあしらわれ、
「……」
と、碇賀元は、チーン……と沈黙した。
沈黙を破って、
「まあ、そんな風に、だ……、結局、世の多くは無駄なもの、無駄な利権で回っているわけだ。古文漢文くらいで目くじらを立てるのも、どうかって話なんよな」
「そうね。それに、どうせ、古文漢文が無くなって浮いた時間で金融教育やプログラミングとかやっても、やらない人は最初からやらないし、金融詐欺にひっかかる人はひっかかるでしょね」
「うん。めっちゃ、分かる。知らんけど」
と、碇賀元が、会話を締める。
そんなふうにして、“混沌”についての話題は、すっかりフェードアウトしながら、
「ほいで、今回の件は、どんな感じかねい?」
と、碇賀元が、ふたたび事件についての話にもどす。
「ええ……。先ほどのガイシャたちを調べたら、何やら、美人局とかして、それで、動画を撮ってたみたいなんすよ」
群麻が答える。
「美人局、ねい……」
碇賀元が、煙草を吸いたそうな顔で呟きながら、
「まあ、女を用い、正義と怒りを装った――、古今東西からある古典的な謀のひとつだねい。こんなしょうもない謀ひとつなくせない世の中だ。謀略、陰謀を無くすことなど、不可能に近いだろうね」
と、持論を交えて言った。




