2 ま、まずいッ! ホールインワンしちゃう!
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そういうわけで、碇賀元と賽賀忍の、特別調査課の二人も現場捜査に加わる。
「ふぅ……」
と、ため息とともに、碇賀元が懐からタバコでも取り出す様に、
――スッ……
と、再び、“うめい棒”を取り出した。
ちゃっかり人気のある、やさい味。
開けて手に取るなり、煙草でも吹かすかのように咥えつつ、
「さって、ガイシャでも見てやろかねい? どれどれ、ドレミちゃ~ん?」
と、オヤジギャグを吐きながら、遺体のほうへと近づいていく。
「おいッ! そんなもん持って遺体に近づくなってんだよ!」
当然、中年刑事が怒鳴り、
「早く、しまえ!」
と、もう一人のほうが、強制的に取り上げようとする。
「おわッ!? ちょッ!? そ、そんな、うめい棒一つで怒らんでもいいでないかい!?」
「怒らんでもって、怒るだろが! 普通!」
「お前は、ふざけすぎなんだよッ! さっさと、それしまえってんだよッ!」
碇賀から、刑事たちが無理やり“うめい棒”を奪いとろうとする。
すると、
――ポ、キンッ……!!
「あ、んっ――!?」
と、“うめい棒”は乾いた音を上げると同時に、折れて遺体のほうへと落ちてしまう。
さらに運悪く、その落ちんとする先は、遺体の、空いた“穴”のほうであり、
「あッ!?」
「お、おぉいッ!」
「ちょッ!? 碇賀さんッ!」
と、刑事たちが叫ぶ中、
「ま、まずいッ! ホールインワンしちゃう!」
と、さすがに碇賀も慌てる。
そして、まさに遺体の、口のほうへと“うめい棒”が刺さらんとした、その時、
――シュババッ――!!
と、忍者の如くーー
まるで電光石火の身のこなしで、重力よりも早く身を屈めると同時、遺体の穴に刺さらんとする“うめい棒”を、
――シュパッ……!
と、キャッチする影があった。
「おぅわッ……! あっ、ぶなかったねい……、」
心臓バクバクの碇賀元の見た先――
離れたところにいたはずの相方の賽賀忍が、半分になった“うめい棒”を手にしていた。
「――ちょっと、何してんの? 元?」
「い、いやぁ、不可抗力だって……!」
やれやれと呆れる賽賀に、碇賀が弁明するように答えていると、
「て、てか……? い、いつの間に動いたんですか?」
「さ、さっき……、そこに、いましたよね? 賽賀、さん……?」
と、群麻と無二屋が驚きの顔とともに、先ほど賽賀が立っていた場所を指さした。
確かに、そこは、少なくとも5メートル以上は離れていた。
普通の反応と動作では到底、さきほどのように落ちる物体など、キャッチすることはできないだろう。
まあ、この賽賀忍と碇賀元はともに、特別調査課に所属する異能力であり、なおかつ忍者の家系などという設定みたいなプロフィールゆえ、やってのけたのだろうが。
「まったく、気をつけなさいよ。危うく、遺体の口に“うめい棒”がブッ刺さるところだったじゃない」
「プフッ……、想像したら、ちょっと面白いねい。その絵面」
「いや、不謹慎でしょ」
賽賀が、碇賀をさすがに諌める。
そうしながらも、話を戻して、捜査を再開する。
「しっかし、この……、目をくり抜いたりするってのは、何か、意味があるのかねい?」
改めて遺体に近づきつつ、碇賀が言った。
「そう、ですよね……」
群麻が、同意するように相槌する。
まあ、ここは、皆が共通に思う疑問だろう。
「何か、目の移植……、とかのために?」
無二屋が、何となく言うと、
「はぁ? そのために、目を狩っているというのか?」
「わざわざ、こんなところでか?」
「もし、そんなことをするのであれば、もっと、足がつきにくい場所でやるだろうし、ターゲットも、選ぶんじゃないか」
などと、答えが返ってくる。
まあ確かに、仮に、闇のルートで売るために目を“狩って”いるとすれば、こんな大々的に、おおやけになるようなふうにはしないはずである。
もっと政情が不安定で場所、あるいは治安・秩序の崩壊してしまった、表から隔離されたような場所で、“もし行方不明になったとしても問題とされない者たち”を選んで行うだろう。
残念なことに世界には、そのような場所が、たぶんにある。
それはさておき、
「それか、何か犯罪グループの、報復ですかね?」
と、群麻が、また別の仮説を口にすると、
「報復、ねぇ」
「まあ、それが、一番ありそうだろが」
と、刑事たちが、口々に反応するところ、
「にしても、わざわざ、こんな遺体を残す必要があるかねい? メキシコの、麻薬戦争とかじゃあるまいに」
と、碇賀が、横から言った。
「あぁ”ん?」
中年刑事が、面白くなさそうな顔をすると、
「まあ、それに……、ガイシャの多くも、多種多様で幅広いプロフィールです。このガイシャたちがすべて、何か犯罪グループの報復対象となるなど、少し、考えにくいのでは?」
と、警察たちの中の、何か現場を分析してそうな男がメガネをクイッと持ち上げつつ、資料を手にしながら言った。
ここで、
…………
と、いったん、現場は沈黙する。
確かに、当然、犯罪グループの線でも調べているのであるが、今のところ目ぼしい成果は出ていない。
そんな、ああでもないこうでもないと話すばかりの状況。
「う~ん……? それとも、これは、何か意図のある、メッセージのようなものなのか?」
と、誰かが言う。
その言葉に、皆が再び遺体を見る。
「メッセージ、か……?」
「この、のっぺらぼうだったものに、穴を穿たれたような様――」
と、ここまで、また誰かが言葉を交わす。
皆の脳裏に、あるものが浮かぼうとした、その時、
「――これって、混沌……?」
と、賽賀忍が、その言葉を口にした。
「混沌、か……」
「ああ……、あの、漢文の、」
何人かが、反応する。
そんな、皆のイメージが固まってきたところへ、
「混沌の、じょのいこ?」
と、今度は碇賀元が、微妙な表情で言った。




