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元令嬢の結婚〜〜〜没落貴族の嫁と、大学教師の夫による日常筆録。〜〜〜  作者: ふゆき
 【本編】  元令嬢の日常と、その夫の少し昔のお話。
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木漏れ日(8)



リチャードはもう、マリアの婚約者ではないけれど。


「……帝国皇帝陛下、私マリア・ストウナーの名にかけ誓いましょう。私も、必要とされるならば、貴方様の臣民として、夫と共に仕えさせていただきます」


自分がリチャードにできることは、しようと思う。アーサーが、本心で捨てきれない何かが、リチャードにはある。ならば、私はアーサーの妻として、恥じない人でいたい。


リチャードには、すぐに察せられたらしい。


「……それが、貴女が、俺にくれる、貴女の一部か」


「はい。氷公のアーサーが貴方へのものであるように、私にも、皇帝陛下へ差し上げられるものはあります。氷公に比べれば少ないですが、本当に必要ならばいつでも貴方様の力になります。私は帝国の…皇帝陛下の国民ですから」


リチャードだけでなく、アーサーもマリアの言葉に瞠目した。


やっぱり、ちょっぴり情けない顔をしている。こんな夫一人を皇帝に送るのも、こちらが不安になる。だから私も一緒の方がいいわ、とマリアは納得した。


「……ありがとう」


なぜかアーサーがマリアにお礼を言った。しかも泣き出しそうだ。とても恥ずかしいことをしたようで、マリアは照れ隠しに叱った。


「しっかりしてください!」


「あ、ハイ、ごめんなさい」


そんな二人に、ぷ、とリチャードが吹き出す。


「アッハッハ! ふふ、ククク……なる、やはり貴女たちは似合いだな…! 氷公の吹雪も、貴女の前では、溶かされている…。太陽そのものとは言わずまでも、その日差しくらいに、元婚約者殿が強烈などは初耳だった」


そして、マリアの手を取り、そっとキスを落とした。


親愛の情を表してリチャードがキスをしたのは、アーサーとステファニーくらいだと、後になってマリアはアーサーから聞いた。皇帝陛下に受け入れられた希有な人の一人になったのだと、この時は分からなかったが、心臓は大きく飛び跳ねた。


らん、とした美しい顔で覗き込まれる。さすがにマリアの息も止まった。


「そうだな、太陽皇は一人でも十分、暖かい。ならば木漏れ日のご令嬢は、氷の公爵の隣にいるといい。改めて祝福するよ」


アーサーが声を上げる。


「リチャード!」


止める間も無く、リチャードは校門に走っていった。マリアは驚きで立ちすすくみ、それに気づいたアーサーが肩を抱き、支えた。


「大丈夫?!」


「え、ええ」


「ならよかった………リチャード!」


再度吠えたアーサーの声に、リチャードが振り向く。空からは白い粉のような、泡のような何かが、ひらり、ふうわりと舞落ちてきた。


(……雪!)


アーサーの吐く息は白く凍り、キラキラと反射している。


(何を言うの?!)


恐々として見つめるマリアの肩を一層強く引き寄せ、アーサーは口を開いた。


「建帝国、おめでとう……そして、よい年を!」


(あ、そんなこと……)


マリアだけではなく、身構えていたリチャードが、面食らったのが見えた。


そう、もうすぐ記念日であるし、それが終わったらすぐに年が変わる。この頃なら当たり前の、よくある挨拶だった。


(それにしても、よね……)


どこまでアーサーらしくて、マリアは笑いたくなった。これが私の大切な旦那様なのだ。さっきまで焦ったり、しみじみしたりしていたのに、全然ブレない。


校門の遠くで、リチャードが、手を振って応えた。


「……ああ、よい年を!」


雪で霞み、段々と遠ざかって消えていくリチャードに、マリアも手を振り返す。マリアを抱えていたのとは反対の腕を、アーサーも振っている。


人々は気にした様子もない。なにしろ珍しくもない、年明け前の別れだ。まさか大学内で皇帝と手を振り合っているなど、夢にも思わないだろう。


雪は段々と勢いを増し、そこらじゅうに白く透き通った羽根をさんさんとまいていた。一度降るとなかなかやまないのが帝国の雪だ。この調子ならば、年明けまでには高く、高く積もるに違いない。


寒さ対策を強化しなければ。


「……ストーブを、もう一台出しましょう。それと、薪も」


きゅ、と手を握られる。


「うん、そうしよう」


とても幸せそうに、アーサーが頷く。のほほん、とした顔はとても氷公には思えない。今でも冗談なのではないかと、疑うに十分だ。そんなマリアの気も知らず、アーサーは平和そのものであるので、マリアもしたいことをすることにした。


ええい、と気合いを入れ、ギュッと、アーサーの胸に抱きつく。何かを言われる前に、まくし立てた。


「リ、リチャード様にはしていたでしょう? ちょっとしばらくは、このままで、いてくださいな!」


アーサーは予想通り、ええ、やら、えっと、やら、しどろもどろしている。散々の動揺っぷりを披露した後、恐る恐る、マリアの背中に手が回された。


痛くないように、でも、マリアに分かるように、優しく、抱きしめられる。自分の勢い任せの抱きつきとは、全然違う。


(……なる……わ、悪くないわ……!)


急激に速まる鼓動を感じつつ、マリアはそうっと、目を閉じる。耳には雪の降る音が、人々の往来が、聞こえる。それなのに、どこか夢の中にいるような心地で、頬が熱くなった。


帝国の新年も、もうそこに来ているのだ。



多分年内最後の更新です。やっとキャラも出し切れたような、そーでもないような…。

ともかく読んでくださってありがとうございます٩( 'ω' )و

みなさん良いお年を〜^ ^

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