第85話 VSナーグ ”危機”
俺から見て今のナーグは姿には何の変化はないものの、怪物を思わせる何かを放っていた。
ナーグの放つ何かに恐れながらも、このままでは危ないと本能的に察した俺は直ぐに家族達を呼び出そうと『風の剣』をもったまま、直ぐに右手を前にかざす。
「『タロットマジック』大アルカナNO.…」
「○△□☆$%€*‼︎」
しかし、呪文を詠唱している途中でナーグが魔剣を上段に構え、意味不明な叫び声とともにブゥオン、とものすごい音を立てながら魔剣を振り下ろした。
その瞬間に魔剣から何かが放たれた。
その何かは『風斬撃』に似ていたものの風は纏ってはおらず、まるで純粋な魔力を形成した不透明な斬撃だった。
その斬撃は地面を抉りながら俺に向かってきており、詠唱を途中で止めて右に緊急回避をし斬撃をギリギリのところで躱す。
その直後、爆音が轟き後ろを振り返るとそこには、木々が無残な姿に切り倒され、この森に生息していた獣や魔獣であったものが原型を留めずに辺り一面を大量の血で塗り尽くす、そんな現実逃避したくなる光景が数十メートル先まで続いていた。
「*¥♪°<|〆÷$‼︎‼︎」
その叫び声で我に返った俺は慌てて振り返る。しかし、気を取られていた分反応が遅れ、気づけば左の脇腹に魔剣の一撃を喰らい、強い衝撃が走りそのまま弾き飛ばされ十数メートルの地点で地面に落ちるとそこから数メートル先まで転がっていき、そこでようやく止まる。
「強くなりすぎだろ、これ…」
愚痴を吐きながらも、風の鎧を身に纏っていたおかげで重傷を負わずに済むも痛いのには変わりなく攻撃を受けたところを抑えながらその場に立ち上がり、ナーグの方を向く。
ナーグは此方に一歩づつ、ゆっくりとだが確実に此方に近寄ってきていた。
そこで俺は再度ナーグのステータスを確認してみた。
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ナーグ (17) ♂ 人間族
【洗脳】、【呪い】
レベル:20
職業:魔剣士
筋力:253(1373)
体力:255(1261)
耐性:250(1376)
敏捷:224(1239)
魔力:215(1221)
魔耐:211(1217)
運 :142(0)
称号
魔剣の使い手(完全強制解放)
スキル
剣術、筋力・耐性強化:6、全強化:50(魔剣強制付加)、強制解放(呪縛付与)、《魔力操作》
特有スキル
ステータスチェック(自)、《魔力放出(魔剣強制付加)》、《魔力武装(魔剣強制付加)》
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(真正面からやりあったら絶対に勝てない)
そう悟った俺は『隠密』を使い気配を消し、それからナーグの背後に素早く移動する。
(腕にダメージを与えれば魔剣を持ち上げることはできない)
そう考えた俺はナーグの腕めがけて『風の剣』を振り下ろしす。
『7時の方角、上段からの攻撃をガード』
しかし、声の主からの指示に従うようにナーグは方向転換し攻撃を魔剣でガードしてきた。
攻撃を受け止められた俺は直ぐにその場から離れようとするもナーグが先に動き、腹に強烈な蹴りを喰らいその場で手と膝をついた。
「ゲホ…おい、何であんたにバレたんだよ」
腹を抑えながら声の主に問いかける。
『その質問にはお答えできませんね』
問いかけに対して声の主は即答で拒否し更に話が続く。
『それと、そんな直ぐに終わらせようとしないでくれませんか?貴方の戦闘能力を完璧に調べ上げなければ、せっかく彼の方様から頂いたチャンスが水の泡になりますので』
そんな自分勝手な理由で居場所をばらされたことに腹がたつ。
『さあ続きをお願いします』
その瞬間、目の焦点が定まっていないナーグは魔剣を此方に向けて振り下ろす。
「ガルルルル!」
「‼︎」
その攻撃を受けてしまったらヤバイのでシルフィアから共有している『威嚇』を使い一瞬だけ動きを止めさせ、その間に後退。
「『風矢』‼︎」
後退した後、間を置かず詠唱して上空に形成した風の矢を計十五本全てをナーグにめがけて放つ。
風の矢は十五本中十本は威嚇の効果が消えて動けるようになったナーグにより斬り伏せられたものの、そのうちの五本は俺の狙い通り両腕を射抜いた。
「ギィヤ○×$|¥×*☆#|々*‼︎‼︎‼︎」
両腕を射抜かれたナーグは叫び声を上げ、それと同時に通常の痛みに加え呪いのマジックアイテムの副作用が滑車を掛けて遂には魔剣を手から落としてしまった。
それを好機に自分は更に畳み掛ける。
「『タロットマジック』小アルカナ、聖杯。『水鎖』‼︎」
異空間から『水の聖杯』を取り出し、俺の今ある魔力の殆どを使い水の鎖を腕の痛みで苦しむナーグに放つ。
放たれた水の鎖はナーグをキツく縛り上げる。
鎖に縛り上げられたナーグは解こうと身体全体に力を入れるも魔力を多く注いだ水の鎖は頑丈であり簡単には解けそうになかった。
「何とかなった…。<ガクン>」
それを見て安心した俺も多くの魔力を消費してしまったので、今まで纏っていた風の鎧が解け、その場に膝をつくも『風の剣』を支えにし、気を失いそうな俺は倒れないよう必死に耐えていた。
『貴方は先程『威嚇』を使いましたか?』
そう、まだ敵が一人だけ残っていたのだから。
「…それがどうした?」
俺は声の主に問い返しながらもう一度『気配察知』を使ってみるも、やはり反応はなかった。
『『威嚇』は獣人族のみが使える特有スキルの筈ですが貴方はそれを使っていました。それはどうしてでしょうか?』
「その質問にはお答えできませんね」
声の主の質問に対して、さっきのお返しの意味を込めてそう答える。
『ふふふ、まあ良いでしょう。それよりも早く続きをしましょうか?』
「⁉︎」
声の主が少し笑った後に続けた言葉に俺は驚き、更には嫌な予感がした。
『もしかしてこれで終わりと思われていましたか?まだまだこれからですよ』
声の主がそう言った途端、今までに感じたことのない悪寒が俺を襲い。そして次の瞬間、ある光景を捉えてしまった。
「グゥおおおおおおおおー‼︎‼︎‼︎」
縛られていたナーグの身体を薄い光の膜が全体を覆い、ナーグは叫びながら再び身体全体に力を入れた。
<ブチン>
その瞬間、先程までは全く解けそうになかった水の鎖がまるで紙切れのようにアッサリと引き千切られてしまった。
その光景に俺は絶望してしまった。
そして、鎖から自力で抜け出したナーグは地面を勢いよく蹴り、その勢いのまま俺の方に猛スピードで近づいてきた。
「『タロットマジック』大アルk<ブオン>ガハッ‼︎」
慌てて詠唱を唱えるも、途中でナーグが目の前で止まり腹に強力なパンチを叩き込まれ、詠唱を力づくで中断されてしまった。
そこからは一方的なものになってしまった。
腹に強力な一撃を喰らった俺は余りの痛みに『風の剣』と『水の聖杯』を地面に落としてしまう。
そして無防備になった俺にナーグの右アッパーが顎にクリーンヒットし上空に打ち上げられ、ある程度の高さまで上がると今度は重力に従うようにして地面に向かって頭から落ちていく。
落ちていく先にはナーグが構えており、地面に落ちるまであと少しのところで脇腹に回し蹴りを喰らわされ、10メートル先の木に背中から強く叩きつけられるように蹴飛ばされる。
「ガハッ…」
木に叩きつけられた俺は今までに喰らったナーグの攻撃で全身の骨は折れ、口からは血を吐き出し、身体中には打撲痕や痣をつけられ、痛みを通り越し何も感じれなかった。
(俺はここで死ぬのか?)
そう脳裏に浮かんだ疑問に答えるかのようにナーグが近づいてきて、右手で首を掴み身体ごと持ち上げた。
首を絞められている俺は苦しむも、両腕を持ち上げることすらできず、抵抗すらもできなかった。
(俺が油断してなければ此処には来ることは無かった。俺が早く家族を呼び出していれば勝てていたかもしれない。俺がもっと強かったらこんな事にはなっていなかった…)
俺の頭の中を後悔が埋め尽くす。
(ゴメンなみんな…。俺は…もう…ダメだ…)
意識が薄くなっていく俺はフールやシルフィア、他の大アルカナ達に謝る。
(本当に…ゴメン…)
そうして俺は最後を告げ……
「『風球』‼︎」
る、直前に聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、俺の首を掴み上げていたナーグの腕に風の球が撃ち込まれる。
「グワァアアア‼︎」
腕に攻撃を喰らったナーグは手を離す。
「レイジ様‼︎」
ナーグから解放された俺は地面に落ちそうになるも、直前で俺の名前を叫びながら近づいてきた人物に受け止められた。
その人物は俺を抱えながらその場を直ぐに離れナーグと距離を置く。
ナーグは腕の痛みに悶えながらも、此方に向かって来ようとする。しかし、目の前に二人の人物が現れナーグの進路を塞ぐ。
「『試練の世界』”氷の床”‼︎」
一人が詠唱を終えるとナーグの足下の地面が氷の床に変貌し。
「『死神の大鎌』‼︎」
そこにもう一人がナーグ目掛け、大きな鎌を横向きに振るう。
ナーグはその攻撃を両腕でガードするも、足下が氷で覆われている為に上手く踏ん張れずに吹き飛ばされた。
そこで俺が抱いていた絶望が希望に変わった。
「大丈夫ですかレイジ様‼︎」
「遅れてゴメンなレイジー」
「レイジ殿、気をしっかり持て!器から魂を離してはならんぞ‼︎」
「近くにいながら礼治様を御守り出来ず本当に申し訳ございません!…しかし、間に合って良かった。本当に良かった…」
シルフィアにハングにルビー、そしてフール。
俺の頼れる家族達が助けに来てくれたのだから。




