7
俺の顔色が悪いと、王太子が跪き、俺を見る。
「敵の野郎がずぶりと刺したから」
「聖女ミサキもアヤカもすぐに到着する」
「そうっすね……いえ、そうですね」
「ははは! ジョセフ。君と俺の仲だ。かしこまる必要はない! ラストネームで呼んでいいということは、わたしと友になりたいということだろう? それにお互いに聖女と結婚するのだ。義兄弟のようなものだ」
これに関しては盛大に「違う! 俺が綾香と結婚するんだ! 綾香は俺の嫁だ!」と言ってやりたいが、何だか力が入らない。
「おい、ジョセフ、しっかり押さえていろ。今、聖女ミサキを連れてくる」
そう言って王太子が俺の肩をポンと叩いたが、その瞬間、俺の体はぐにゃりと横に倒れる。
「おい、ジョセフ!」
「王太子殿下、大丈夫ですか!?」
あ、ようやく美咲ちゃんが来てくれた!
これで助かると思うと、完全に力が抜けてしまう。
瞼が落ちる直前、心配そうな顔の嫁の姿が見える。
そういえば俺がちょっとでも体調を崩すと、嫁は心配してよく雑炊を作ってくれた。刻んだ野菜がいっぱい入っていて、時々たまご入り。優しい味で、あれなら具合が悪くてもちゃんと食べられた。
「聖女ミサキ、ジョセフは助かるか!?」
「殿下……おそらく、彼は肝臓という場所を刺されたと思います。本来なら手術を行う必要があるのですが……。とにかく今は出血を押さえ、体を温め、水を与えるぐらいしか……。あとは祈るしかないかと」
「聖女ミサキ、ジョセフを助けられないのか!?」
「それは……」
俺は思う。
元の世界のドラマでは、病人の枕元で遺産を巡り、腹黒い親族が不吉な会話をして、当人は寝ているかと思いきや全部聞いているというアレ! 今の俺はまさにそれ!
肝臓がやられている。それって美咲ちゃんの言う通り、絶対に手術が必要なやつ!
この世界、そもそもまだ麻酔もないだろう? そんな手術なんて無理だ。
「奥にベッドがありました。そちらに運びましょう。井戸もあるので聖騎士に頼み、水も用意します。一度煮沸して冷ましたものを飲ませましょう」
嫁が俺のために動いていることに、感動を覚える。さらに誰かに抱き抱えられ、俺はベッドに運ばれた。
背中にかなり硬めのマットレスを感じ、少し安堵し、そして悟る。
俺、死ぬのか?
すでに元の世界で死んだばかり。転生してわずか数日でまた死ぬなんて……。
何より、せっかく嫁に再会できたのに!という無念さが募る。
俺は……やっぱり嫁が好きだった。死に別れてからも、ずっと嫁に会いたいと思っていた。そしてこうやって再会できたのに。まだ俺であることも伝えていないのに、このままでは……死に切れん!
「あっ」
「どうした、聖女ミサキ!」
「リューネルシュタイン家のジョセフ様が、何か言っています!」
「どうした、ジョセフ、何か欲しいものがあるか?」
そこで王太子が俺の口元に顔を近づけたと分かる。ふわりとあのハンカチと同じ香水の匂いがしたからだ。
いい匂いだけど、コイツに言うのは……。
でも血がどんどん体から抜けていくのが分かる。しのごの言ってはいられない。
「……たいです」
「なんだ、ジョセフ」
唇にイケメンな王太子の髪が触れている。
お前、近い!
そう言いたいがその気力はない。
「アヤカ……話したい……二人で」
「聖女アヤカと二人で話したい!? 未婚の聖女と……いや、この状態では悪さはできまい。いいだろう。聖女アヤカを呼んでくる。今、水を用意してくれているから」
美咲ちゃんは俺の傷口を押さえて必死に止血してくれている。嫁は水の用意。『王太子、お前は何をしとるんじゃ!?』と言いたくなるが、それは呑み込む。
「私と話したい……?」
「そうだ。見ての通り、ジョセフの容態は芳しくない。何かされる心配はない。聖女ミサキ、傷口を押さえる方法を聖女アヤカに教えて欲しい」
「分かりました」
そこで短く美咲ちゃんと嫁が話し、バタバタと人が動き回る音や物音がして、やがてシンとなる。
「……リューネルシュタイン家のジョセフ様、私に話とはなんでしょうか?」
「……ワー」
「はい?」
嫁が俺の口元に顔を近づけたのだろう。香水ではない清潔感を覚える石鹸の香りがする。
「レモン……サワー」
「!」
「ビタ……ミン……シー」
「なっ……」
「待ち……じ……かん……鬼」
「どうしてそれを!?」
「ミナ……ト、陽菜、けっ……こん……した」
「……! えっ、信じられない! 涼ちゃん、涼ちゃんなの!?」
「そうだよ、綾香」って言いたい。けど、もう唇すら動かせない。
元の世界ではまさにぽっくり逝ってしまった。でも嫁もきっとこんな感じだったのか。生命力というのか。それが体からじわじわと流れ出て、何も出来なくなる。
悔しいな。ようやく嫁に、俺だと認識してもらえたのに。これからもう一度嫁と結ばれて、俺は騎士になって末長く二人は幸せに暮らしました――となるはずだったのにさ。
最期の気力で、俺はもう動きたくないという体を動かし、手を伸ばす。
「涼ちゃん、ダメ! 生きて」
嫁が俺の手をぎゅっと握りしめる。
その瞬間。
嫁に看取られ、俺は第二の人生を終えた──。
◇
カチャ、カチャと食器の音が聞こえる。
瞼に柔らかい陽射しを感じ、目を開けると――。
これは……天蓋付きのベッド……?
これまで目にした天蓋付きのベッドとは明らかに違う高級感。
「リューネルシュタイン家のジョセフ様が目覚めました!」
見知らぬ女性の声がして、急に騒がしくなる。
えっと、俺は今度こそもう一度死んで、今は──。
腕や脇腹に痛みはない。
何だよ、もう転生したのか!?
そう思ったが、さっきの女性は“リューネルシュタイン家のジョセフ”と言わなかったか?
言っていた。
でもベッドのグレードが上がっている。これはどういうことだ?
「ジョセフ、目覚めたか!」
いきなり目の前にかなりイケメンの王太子の顔が現れ、「げっ」と言いそうになるのを堪える。
「……殿下」
「聖女アヤカもすぐに来る。水でも飲むか?」
「……はい」
掠れた声で返事をして起きあがろうとすると、美人な二人の侍女らしき女性が上半身を起こすのを手伝ってくれる。
「ほら、飲むといい」
王太子自らがグラスに入った水を手渡してくれる。
「ありがとうございます」
受け取った水を飲むと、何だかシャキッとしてくる。
「しかし聖女アヤカはすごい! 聖女ミサキも素晴らしいが、アヤカはまさに奇跡を起こした!」
「殿下、それはどういうことですか」
尋ねる俺が手にするグラスが空と気づいた侍女が、水を足してくれる。
「ジョセフの傷は聖女アヤカが治してくれた」
「!?」
「やはりアヤカは聖女で間違いない!」
「傷を治した!? どうやって……?」
「それは聖女の力で、だ。聖女は聖なる力を持つ」
かなりイケメンな王太子がドヤ顔で答える。
「聖なる力!? そんなチートな力が嫁に!?」
思わず元の世界の言葉で話してしまったし、嫁と言ってしまい、俺は「しまった!」と思うが、王太子は「チート? いや、あれはイカサマなどではない。正真正銘の聖なる力だ」と応じる。
これには「本当に??」と思うが、白い寝巻きの袖をめくっても包帯はなく、切り傷もない。
本当に俺の嫁は聖女なのか!?
そう思った時、勢いよくノックの音が聞こえ、「失礼します! アヤカです!」の声。「聖女アヤカが来たようだ」と王太子は言い、嫁が部屋に飛び込んで来る。
白いギリシャ神話のような女神の衣装。片側を覆うような落ち着きのあるブルーのマントを羽織り、髪は編み込みを後ろで纏めており、本当に神話の女神みたいに見える。
「涼ちゃん!」
嫁は元の世界のノリでダッシュでこちらにやって来ると、ガバッと俺に抱きついた。
お読みいただき、ありがとうございます!
うるっからの笑顔の展開
お楽しみいただけたら
ぜひ評価の☆☆☆☆☆→★★★★★
続きは明日の夕方頃公開です!
ブックマーク登録でお待ちくださいませ~




















