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「きゃあ」
「うん!? え、リューネルシュタイン家のジョセフ、どうしたんだ! なぜ急に倒れた!? ミサキ!」
「ジョセフ様、大丈夫ですか!? ジョセフ様!」
さすが看護師の美咲ちゃん!
急に俺が倒れ、嫁は悲鳴を上げたが、美咲ちゃんはすぐに俺に呼びかけ、意識の有無を確認し、呼吸しているかもチェックし始めている。
「失礼しました! 大丈夫です!」
薄目で様子を見ていた俺はそこでようやく声をあげる。
「急に倒れて、大丈夫なわけがないだろう!」
心底心配顔になる王太子を見ると、俺の嫁に好意を持っているが「コイツ、悪い奴じゃないんだよな」と思ってしまう。
いや、今はそれよりもこれ!
「実は急に主が降臨しまして」
「な、何!? またもリューネルシュタイン家のジョセフは主の啓示を受けたというのか!?」
「さようでございます、王太子殿下」
俺は王太子殿下に支えられながら、ソファへと座る。
「それで、一体どのような啓示が……?」
「主は『聖女アヤカは悪の手で操られている』と言っていました」
この言葉に王太子、美咲ちゃんだけではなく、嫁もハッとしている。
「第二王子の後ろ盾の貴族にエンリッヒ公爵がいますよね。殿下の政敵です。公爵は何とか第二王子を王太子にできないか画策するも失敗しています。そこで奴は王太子殿下を傀儡にできないかと考えたのです。聖女アヤカの故郷であるアルトの村。彼女が懇意にしていた牧夫の家族がいます。その一家の息子の少年を人質にとり、異なる世界からやって来たアヤカは聖女に違いないと、この宮殿に送り込んだのです。聖女アヤカが見事王太子の心を射止めたら、彼女を通じ、傀儡政権を作ることがエンリッヒ公爵の目的。つまり黒幕はエンリッヒ公爵です!」
「な、なんと……! そうなのか、聖女アヤカ!? それが事実なら、今すぐ、その人質にされた牧夫の一家の息子を助けなければならない」
嫁は俺が誰も知らないはずの情報を知っていることに驚愕していたが、今の一言で表情が変わる。
「……ショーンを助けてくださるのですか……?」
「当たり前です! 僕がすぐにアルトの村に向かいます。勿論、父上に報告し、エンリッヒ公爵の身柄も拘束させますよ!」
さすがこの世界の王太子! これなら少年も助かり、黒幕は潰される。嫁も脅されたと分かり――いや、待て。そうなると嫁は聖女と認められるが、王太子と……。
「殿下、私もアルトの村に連れて行ってください!」
嫁の言葉を聞いた俺は即反応する。
「俺も行きます、アルトの村に!」
すると美咲ちゃんまで「私もお供します!」となる。
「分かりました! 皆で向かいましょう」
王太子がビシッと応じた。
◇
こういう時、馬車に乗るかと思ったら、王太子は「男性陣は馬に乗り、女性陣は馬車に乗るように」と言うのだ!
俺は腕を怪我しているが「こうやって起きていられるなら、大したことはない」と王太子。これにはどす黒い感情が芽生えそうになるが、それよりも何よりも憂うべきことがある。
お、俺、馬なんて乗れるのか!?
そう思ったが、俺が覚醒していないだけで、この世界でちゃんと十九年間生きていただけある。
乗れた! 馬にちゃんと乗れた!
車の運転を体で覚えているように、馬の乗り方も体が覚えてくれていたのだ!
馬を走らせながら、王太子は俺に告げる。
「聖女アヤカは村暮らしをしていたので、馬には鞍なしでも乗れると言っていました。ですが聖女ミサキは馬に乗れませんし、女性陣は馬車でいいのです」
これに俺は「?」となるが、王太子はこう続ける。
「悪党と闘うのは自分らで十分です。馬車はどのみちアルトの村への到着が遅れます。その間に悪党を倒し、ショーンという少年を救い出しましょう!」
王太子はそんなこと言うが、俺は剣なんて扱え……。そこで記憶を辿る。
あっ、俺、剣術は得意なのか。
兄が何かと俺に絡む理由。それは俺がフラフラして軟派な男だからと思っていた。でもどうやら違うらしい。
俺は剣の腕が立つ。だからこそ騎士になり、騎士団へ入団することを周囲に勧められていたのに、それをのらりくらりとかわしている。本当は騎士団に入団したかった兄からしてみれば……見ていて歯痒かったのだろう。
この後、俺は嫁とハッピーエンドを迎える……つもりだ。そうすると生活力が問われる。
うん。俺、騎士になろう。
そう決意したところで、アルトの村に到着した。
◇
「うわぁっ」
「よし、これで最後だ」
王太子はキリッとした表情で言うが、俺としては……。
「なっ、こんなに敵がいるなら、近衛騎士や聖騎士の到着を待てばよかったんじゃないのか!」
「いや、こうなることは想定内。それに七人ぐらいなら、どうってことはない。現に二人で倒せたではないか」
そう言って王太子は白い歯を見せて笑うが……。俺は死ぬかと思った! それに――。
体は乗馬と同じで剣を手にした瞬間動くことが出来ている。敵の動きを捉え、どうするべきかが分かり、反応出来てしまうのだ!
しかし!
だからと言って心の部分は違う。
敵を倒すためとはいえ、剣を振るうなんて全く慣れていないことだ。剣の刃から伝わる感触にも俺の脳は悲鳴を上げている。
村外れの墓地に併設された墓守りの家にショーンは閉じ込められており、屈強な男たちがガードしていたのだ。
「扉の鍵は壊した。これで──」
王太子が扉を開けた瞬間、明かりのない室内だったが、キラリと光るものが見えた。
「危ない!」
咄嗟だったが脳より体が反応し、王太子を庇っていた。
俺の嫁に懸想するライバルとも言える存在。しかも勝手にグイグイ敵陣に向かい、俺はまさに巻き込まれ状態だった。
庇う必要なんて……。
「くっ」
「うわっ」
最後の敵が叫び声と共に王太子の手により、倒される。
「リューネルシュタイン家のジョセフ、大丈夫か!?」
「殿下、ジョセフでいいですよ。俺……僕のことは気にせず、ショーンをまずは助けてください!」
「それは……とりあえずこれで傷口を押さえるといい」
「ありがとうございます」
開いた扉にもたれかかった状態で座り込んでいた俺は、王太子の香水が匂うレースの高級そうなハンカチを受け取り、敵に刺された傷口を押さえる。
「すぐに戻る」
「はい、殿下」
その後ろ姿を見送った俺は「痛てぇよー!」と叫ぶ。
昨日は自分で腕を切った。当然、加減はしている。でもさっきの敵は容赦なく、ずぶり、だった。
と言うかあの殿下、猪突猛進過ぎるだろう! いくらヒーローは死なないというあるあるがあるからって俺を巻き込みやがって!
恨み言を口にすることで痛さを何とか誤魔化そうとするが、腕の比ではない激痛が脇腹を襲っているし、血がどんどん流れ出るのも感じる。
ああ、美咲ちゃん、早く到着してくれ! 元の世界の医療知識がある美咲ちゃんしか俺のこと、助けられないでしょう!
心の中でぼやきは続く。
せっかく転生して嫁に会えたんだ。しかも俺イケメン。嫁も惚れ直すだろう? だからここでくたばるわけにはいかない。俺は生きる!
「もう大丈夫。敵はみんな倒した」
「怖かったよぉ」
「ああ、分かっている。よくがんばった」
泣きじゃくる小学生ぐらいの男児を連れて王太子が戻って来た。
「おじさん、怪我したの?」
「いや、お兄さんだから」
男児はプイと俺から顔を逸らし、王太子を見る。
「お兄さんは怪我していないんだね。強いんだね!」
子どもというのは時に残酷! かなりイケメンの王太子のことは強いと絶賛し、俺は弱い認定だなんて!
いや、これは俺がモブで王太子がヒーローなんだから仕方ないこと。
「おっ、仲間が来たぞ!」
「あっ、すごい! 騎士様が沢山!」
男児が駆け出し、王太子は「あまり遠くへ行くな!」と声をかけた後、俺の方を振り返る。
「リュー……いや、ジョセフ、大丈夫か!? 顔色が悪い!」
お読みいただき、ありがとうございます!
猪突猛進なヒーローに振り回されるモブな俺
あちこち怪我をして踏んだり蹴ったり
続きは明日の夕方頃公開予定です!
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