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国王陛下が口にしたのは予想外の一言。
「聖女アヤカが『自分は聖女ではない』と言い出している」
「え」
「自分はただの村娘に過ぎず、剣が抜けたのはおぬしの力であると。おぬしこそが……二人目の聖女ならぬ聖人であると」
「待ってください、国王陛下! お……僕はただの子爵家の次男に過ぎません! 二人目の聖女は間違いなくアヤカです!」
「ふむ。そうなのか」
「僕はただ剣を抜いただけです。聖女アヤカの祈りがなければ剣は抜けませんでした!」
「……そうか。では再度、聖女であることを確認せねばならないな」
「!」
これには大いに焦る。
だって裁定の儀の件は嫁から聞いていたし、俺が理系出身だから何とかできた。だが俺は元の世界で平凡なおっさんで、この世界に転生してハンサムにはなれたが、チートな力があるわけではない!
もし次で失敗したら嫁が火あぶりになってしまう……!
「こ、国王陛下、お願いがあります!」
「なんであるか」
「一度、聖女アヤカと話させていただけないでしょうか」
「何?」
「なぜ自分が聖女であることを否定するのか。その理由を聞き出そうと思います」
「なるほど。よかろう」
「父上!」
ここでかなりイケメンな王太子が声を上げる。
「どうした、セドリック?」
「聖女アヤカとリューネルシュタイン家のジョセフが対面するのであれば、自分が立ち合います」
「はっ? 何をでしゃばるこの王太子! 顔がいいからって俺と嫁の感動の再会を邪魔する気か!?」と言いたくなるのを堪える。
「うむ。よかろう。聖女は未婚。二人きりで会話など許せぬからな」
「げっ」
「……うん? リューネルシュタイン家のジョセフよ、何か異論が?」
「ございません……」
こうして王太子同席で聖女アヤカ……嫁と会うことになった。
◇
嫁と会い、いろいろ事情を話したい場面になぜ王太子が同席するのか。非常に納得がいかない。しかも国王陛下は「聖女アヤカがいる宮殿の客間は聖騎士が護衛している。侍女もおるが男ばかり。そこへ王太子と子爵令息が訪ねたら、アヤカもビックリするであろう。同じ聖女であるミサキも同席させよう」と言い出したのだ!
かくして王太子と美咲ちゃん、そして彼らを守る近衛騎士と聖騎士を後ろにずらずらと連れ、嫁に会いに行くことになった。
「リューネルシュタイン家のジョセフ。君は王太子が聖女と結婚するということを知っているであろう?」
「……知っています」
「自分は……」
「あ!」
そこで俺は気づいてしまう。嫁が自分は聖女ではないと言い出した理由を。
そうか。綾香は気づいてくれたんだ! 体を張った俺が自分の夫であると! 聖女は王太子と結婚する。それを回避するために……!
そう思ったがまたも閃いてしまう。
いやいや、待て、待て、俺。聖女ならもう一人いる。小説の世界の正しいヒロイン、聖女美咲ちゃんがいるじゃないか! そして王太子はこの世界のヒーロー。ヒーローはヒロインと結ばれる。これ、定石ですから!
「リューネルシュタイン家のジョセフ」
この呼び方、まどろっこしいな。ジョセフでいいのにと思いながら「はい、何でしょうか、殿下」と応じる。
「今回、聖女は二人いる。そして君は剣を抜いたから、聖女と結ばれる権利があると思う」
「!」
嫁の再会の場に同行する王太子を糞と思ったが、訂正する必要がありそうだ。
「自分は聖女アヤカと結婚しようと思う。君はこちらの聖女ミサキと結婚すればいいと思うが、どうだろうか?」
前言撤回。この間抜けな王太子は海に沈めるしかないのでは!? ヒーローのくせに何をのたまっている!
「聖女ミサキもそれが希望だろう?」
問われた美咲ちゃんがこくりと頷くので、俺は心の中で「Oh my gosh!」だ。ヒーローのみならず、ヒロインまで何を寝惚けたことを!? 俺はこの世界のモブなんだ! ヒロインはモブとは結ばれない。ヒロインとヒーローが結ばれる。これが正解なのに!
「お二人の考え、僕は――」
そこで客間に到着してしまい、俺は口を結ぶことになった。扉の前には彫像のように聖騎士が直立不動で待機しており、有無を言わせぬ圧がある。
「聖女アヤカ、失礼します」
王太子が声がけをして、扉をノックする。するとキィ……と音がして扉が開き、赤毛にそばかすの侍女が顔を見せる。
「王太子殿下、聖女ミサキ様、リューネルシュタイン家のジョセフ様、お待ちしていました。どうぞ中へ」
ウエルカムで侍女は迎えてくれたが、嫁は不機嫌そうな顔で王太子、俺を見て、そして――
な、なんでだ!? 美咲ちゃんのことだけ目を輝かせて見ているじゃないか!
「聖女アヤカ、こんにちは。こちらでの滞在、何か不自由はありませんか?」
王太子はデレデレで嫁を見ている。それを見た俺は鷹のような厳しい目つきで王太子を睨むが、奴は全く意に介していない!
「何も不自由はありません。……むしろ村娘の私にとってこのような部屋に滞在することは、身に余ることです」
なんて俺の嫁は謙虚なんだ……! 聖女と認められたのだから、鼻高々になって贅沢三昧をしても許されるだろうに。……いや、違う。俺の嫁は清貧だった。俺の稼ぎはそこまでいいわけでもないことを踏まえ、いつも限られた生活費でやりくりしてくれていた。自分の欲しい物は自分で買うからと、仕事と子育てと家事を頑張ってくれていたんだ。
そこでふと思う。
俺、嫁さんにちゃんと「ありがとう」と言えていただろうか? いろいろやってくれていたこと、当たり前として受け止めていなかったか? 仕事しながら俺の弁当を毎日用意するの、本当は大変だったはずだよな。
嫁への感謝の気持ちが高まり、瞳をうるうるさせ、嫁を見ると……。
思いっきりドン引きされている。
それはそうだ。俺がまさか自分の夫だとは……嫁が分かるはずもないのだから!
「聖女アヤカ、あなたはただの村娘ではありません。聖女なのです! そして未来の王太子妃なんですよ!」
そう言うと大馬鹿野郎王太子が嫁の手を自身の両手で握りしめるので、どつきたくなる衝動に必死で耐える。
「王太子殿下、おやめください! 私はただの村娘でモブに過ぎません! 本物の聖女はそちらのミサキ様です! あなたが結ばれる相手は私ではありません! そんなこの世界の理に反逆するような行動をとってはなりません!」
嫁のこの言葉を聞いた俺は「うん?」と思う。
もしかして嫁は……小説の世界の正しい流れを尊重しているのか……?
嫁は“モブ”なんていうこの世界にないはずの言葉をうっかり口にしていることから、元の世界の記憶がある。そして自分が何者であるかを理解しているんだ。二人目の聖女は悪女。この世界から王太子の政敵と共に火あぶりにされ、消える運命であることを知っている。それが自分の役目だと分かっているんだ。
まさか嫁は悪女としてこの世界から退場することを願っているのか……!
嫁は元の世界で約二年間、辛い闘病生活を送った。あれだけ苦しんだ末にこの世界に転生したのだ。生きたい――とは思わないのか!? 自分が悪女として転生していると知り、何とか生きる道を模索したいと思わなかったのか!? 今、自身が聖女として生きる道が拓けているのに、それを棒に振るなんて……。
そんなこと……ダメだ。嫁は十分苦しんだ。そして俺は元の世界では無力だった。嫁を病から助けることが出来なかったんだ。でもここでは違う。俺は……今度こそ、嫁を守る!
そう決意した俺は……。
お読みいただき、ありがとうございます!
嫁を守る!
清々しく言い切り、そして……?
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