湊視点(前編)
うちの両親は子どもの自分でも分かるぐらい仲が良かった。
ベタベタ、ラブラブしているわけではない。
でも仲の良さを感じるのは、お互いをさりげなく気遣う言動があるからだ。
そんな両親を見て育ったから、必然的に結婚したら両親のような夫婦になりたいと俺は考えていた。
ところが相思相愛で、お互いを思い合える相手というのは……簡単に見つからない。
そもそも俺自身が恋愛上手、というわけでもない。幼い頃は、割と美少年(?)だったが、成長すると凡庸な青年。決してヒーロータイプではなく、その他大勢、つまりはモブな大人だ。
モテモテなら選びたい放題だろうがそうではない。そして男子校から理系の学部に進学したので、周囲に女子の数が圧倒的に少ないのだ。
少ない出会いの中で両親みたいなおしどり夫婦になれるような相手を見つけるのは……なかなか難しい。
それでも大学三年生の時、研究室が一緒ということで、葵と知り合った。女性にしては長身で眼鏡が似合うスリムな凛とした美人だ。
結婚を急いでいたわけではないが、恋人もいないまま大学を卒業して、職場も企業の研究所で、出会いもなかったら……そのまま永遠に独身になってしまう気がしていた。だから葵と会った時は、我ながら滑稽なぐらいにがっついて、自分から出会ってわずか三日目で告白。
葵からは「あ、ありがとうございます。……でも出会ってまだ三日なので、好きとか嫌いとかもなくて……。少し考える時間をください」と言われる始末。
冷静になると本当に恥ずかしい!
それでも「僕にとってあなたは運命の人なんです! お願いします!」と頼み込む。さらに会う度に「少しずつあなたを知り、さらに想いが募っています!」と猛烈にアピールしてしまった。
今どきの男子は恋愛にがっつくことはない。自分の時間を大切にして、一昔前のように恋愛至上主義にはならない……というが俺は違った。
夫婦仲の良い両親を見て育ってきた。お互いを自然と支え合う二人を見て育ったのだ。自然と自分もそういう相手と出会いたいと思うようになるのは……ある意味、自然の摂理でもある。
とまあ俺は恋愛意識が高めだが、葵は……。
「いきなり彼女は難しいけど、まずは友達からスタートで。そこで自然とそういう気持ちになれたら……」
「うん、それでいいです。お願いします!」
こうして葵とはまずは友達として付き合うようになり、次第に距離が縮まり……。敬語からタメ語で会話できるようになり、さらにこんな話もできるようになった。
「湊くん、私、池袋のハロウィンコスに興味があるのだけど……」
「あ、ネットニュースで見たことがある。行ってみる?」
「うん。湊くん、コスプレとか興味ある?」
実は葵はゲームで推しキャラがいて、その推しの恋人にコスプレしてみたい……という願望があることを打ち明けてくれた。
「私、見た目はリア充だけど、実はオタク女子なの」
「そうなんだ! 俺、詳しくないからいろいろ教えて欲しいな」
「オタク女子とかキモっ!と思わないんだ」
「趣味を持つのは悪くないし、そこにお金を使うのは個人の自由だろう? 結婚しているわけでもないんだし、好きなようにすればいいと思う」
「それって結婚したらオタク女子禁止と考える派?」
「違う、違う。オタク女子は続けていいと思う。ただ給料全額そこにつぎ込みました!はさすがに厳しいかなと」
「それは当然だわ」
「オタクイベントも家族で参加できるならそうしてもいいだろうし。もちろん趣味友と参加したいならそれでもいいし。家族との時間、趣味の時間のバランスが取れれば問題ないだろう」
「家族で楽しむコスプレかぁ。最近、子連れキャラも人気だから、いいかも!」
俺としては点数稼ぎで言ったつもりはなかった。だが葵の中では自身の趣味を認めてくれた俺の評価は爆上がりだったようで――
「湊くん。こうやって友達として遊んで、半年が経ったよね」
二人で会社帰り、東京の丸の内でイルミネーションを見ている時のこと。葵がしみじみとそんなことを口にした。
「そうだな。なんかあっという間だった」
「私もそう思う。その間、私、湊くんのこと沢山知れたと思う」
「それは俺も同じ。葵のこといろいろ知れて嬉しい」
「私ね、湊くんのこと、知れば知る程……好きになっちゃった!」
「え」
「私のこと、友達から彼女に昇格してもらえる?」
「! 俺は最初から葵を彼女にしたいの一択だったよ!」
「今もその気持ち、変わらない?」
「変わらない!」
「じゃあ、私たち、付き合う? 恋人になる?」
「絶対になる!」
こうして知り合って九カ月で恋人になり、学生時代は一人暮らしをする葵の部屋で半同棲みたいな日々を送っていた。就職するとしばらくはお互いに忙しく、土日ぐらいしか会えない。それでも喧嘩もなく、順調に交際していたが――
「あれ。なんかおふくろが体調悪いらしい」
「え、そうなの? でも湊のお母さん、まだ五十代だよね?」
「うん」
「まだ若いのに……。お見舞い、行った方がいいよ」
「えー、でも次の休み、二人でキャンプ行く約束だろう?」
「キャンプはいつでも行けるから。お母さん優先で!」
「葵も一緒に行く?」
「行かないよ。初対面になるのに相手は病気。負担をかけるだけでしょう。後日、元気になったら会わせて」
「え、それって俺との結婚報告!?」
「湊、気が早い! プロポーズもしていないくせに、何を言っているんだか!」
葵とはそんな風に話していた。おふくろの体調が悪いと言っても、そこまで深刻なものではないだろう。そう高を括っていたら――
「え、乳がん!?」
「そう。いきなり手術ではなく、抗がん剤治療をするんだって、半年ぐらい。それで手術して、また抗がん剤治療」
地元の駅で妹の陽菜と待ち合わせて、おふくろの病気のことを教えてもらった。女同士ということもあり、おふくろは陽菜には乳がんであると既に打ち明けていたのだ。
「でも……がんって、治るんだよな? 動画サイトでがんから復活した!みたいな投稿を見たことあるし。芸能人も復帰しているよな」
「うん。調べたら仕事続けながら克服した人もいるって書いてあった」
「じゃあ、大丈夫なんだよな?」
「電話でお母さん、明るい感じだったよ」
不安ではあったが、本人に会うと――
「大丈夫よ。ちゃんと先生の指示を守って治療してもらうから。遊びに来るなら元気になってからでいいわよ」
あっけらかんとしている。
よかった。これだけ元気なら大丈夫そうだな。
俺自身、社会人になりたてで、慣れない仕事、慣れない人間関係、慣れない朝の通勤ラッシュに振り回されていた。おふくろの明るい笑顔と言葉を信じ、お見舞いでネット注文したお菓子や食べ物を贈ったりはしていたが、その次に訪ねたのは手術の時だった。
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湊編、始まりました!
湊と葵の出会い、そして……
続きは明日の夕方~夜公開予定です!
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