レオン視点(4)
重い大剣を手にしながら、化け物みたいなスタミナでジルベールは動き、ジョセフを追い詰めている。しかも「これは腕にくるな」とジョセフが呟いているのだ。
それはそうだろう! あんなに何度も勢いのある大剣を受け流しては、手も痺れる!
ジルベールはジョセフの腕に疲労が蓄積されていると分かり、ニヤリと笑う。そしてさらに攻撃の手を強める。
大剣はリーチも長い。ジョセフは間合いをつめる必要があるが、押されている。
やはり騎士団長の息子には勝てないのか。
そう思った時だった。
最初と変わらない勢いで大剣をジルベールが振り下ろした瞬間、ジョセフがフェイントをかけたのだ! だがジルベールもフェイントにすぐ気づき、体勢を整えようとしたが……。
決闘が行われているのは石畳の広場であり、踏みならされた石はつるつるのものもある。ジルベールはそのつるつる石に足をとられ、まさかのバランスを崩す。そこをジョセフは見逃さず、まずは腕、続いて肩、そしてダメ押しで脇腹を軽く打つ。
この連続の攻撃にジルベールの手から大剣が落ちる。
「そこまで!」
ローゼンバイム卿が叫び、「わあっ!」と歓声が起きた。
◇
信じられなかった。
もちろん、コールのためにジョセフに勝利してもらわないと困る――そう思っていた。だがどこかであのジルベール相手では勝てない……そう考えてしまう自分もいたのだ。しかしそれは杞憂だった。
手が痺れているような素振りを見せ、ジルベールに「これは勝てる」と慢心させる瞬間をジョセフは作り出した。
人間、「もう、これで行ける!」と思った瞬間に気が緩む。ジルベールは最初と変わらぬ勢いで大剣を振り下ろしたが、どこかに隙があったのだろう。さらにジョセフはジルベールのことだけではなく、その足元もよく見ていた。ジルベールが滑るような場所に誘い込むフェイントをかけ、体勢を崩させ……。
後はもう、その状態に三段攻撃だ。腕、肩、脇腹、と連続で打たれては、さしものジルベールも剣から手を離すしかない。それにジョセフも腕が痺れていたが、ジルベールだって疲労はゼロではなかった。そこへジョセフが想いを込めた一撃を順に放ったのだから……。
こうして勝負はつき、拍手喝采となり、そこで僕は気づく。
この勝利に居合わせた人々は熱狂しているが、令嬢たちは特に目を輝かせている。
ワイアット男爵令嬢は感極まってコールと抱き合っているが、それ以外、フォーン子爵令嬢もエーゼルシュタイン伯爵令嬢もジョセフを見て、瞳をキラキラさせているのだ。
まさか今日、この決闘を観覧している令嬢は、ジルベールを応援するためではなく、ジョセフを見るために集まったのか……?
「ジョセフ様、素晴らしかったです!」
「ジョセフ様、お見事でしたわ!」
「ジョセフ様、最高です!」
僕の予想は正解のようだ。フォーン子爵令嬢もエーゼルシュタイン伯爵令嬢も、名を知らないいずれかの令嬢も、ジョセフに熱い声援を送っている。
「ジョセフくん、ありがとう! 君のおかげでワイアット男爵令嬢の汚名も返上することができた! 名誉は挽回されたんだ……!」
コールまで目をキラキラさせて、ジョセフに御礼の言葉を掛けている。
「ジョセフ様なら騎士になれると思います。なぜ、騎士にならないのですか!?」
ワイアット男爵令嬢がそう尋ねた時、ジルベールが顔を真っ赤にしてつかつかとジョセフの方へ歩み寄る。
これは負けたことへの腹いせで、ジルベールから雷が落ちるぞ……。
そう思ったのだが。
「ジョセフ! お前、なぜとっとと騎士になって、騎士団に入団しないんだ! 俺は剣術大会でお前のことを知ってから、何度も騎士になれと勧めているのに! お前だったら団長になれる。それに騎士になって、俺ともう一度勝負しろ! いつまでも一般部門であぐらをかくな! 女にモテていい気になっているんじゃない!」
ジルベールは真剣な表情でジョセフに詰め寄り、当のジョセフは……。
「あー、はい、はい。考えておきます」
まさにのらりくらりとかわしている。
ジルベール相手にこんな態度を取れるなんて……!
僕は強い衝撃を受け、ジョセフに対して激しい嫉妬を覚える。
騎士になれるだけの実力があるのに。騎士団への入団を勧められ、騎士団長にさえなれると言われているのに。あのジルベールから一目置かれているのに。令嬢からちやほやされていい気になっているのか、ジョセフは!
僕は騎士になり、騎士団に入りたいと思っていた。その夢を諦め、次期子爵家当主として懸命に頑張っていた。それなのにジョセフは……。
羨望や苛立ちを超え、僕はジョセフを恨むような気持ちになってしまう。
それから僕のジョセフに対する見方が変わる。そしてジョセフも……令嬢からモテるのをいいことに、ふらふらと浮ついた日々を送るようになるのだ。
可愛らしかった弟は過去のこと。今は僕がビシッと言わなければならない。
そして僕は今朝も呆れた発言をするジョセフに指摘する。
「ジョセフはまた父上の話を聞いていなかったのか?」と。
「どうせまた追っかけている令嬢のことでも考えていたのだろう」と。
「まさか……お前、今日、披露される聖女狙いか!?」と――。
◇
二人目の聖女がお披露目され、裁定の儀が行われることになった日。ジョセフの様子が変わった。
「お恥ずかしい限りです。金輪際、令嬢を追いかけるのを止め、父上の手伝いを頑張るようにします」
なんて言い出したと思ったら、「お待ちください、国王陛下!」と、まさかの国王陛下に待ったをかけた。その上で、とんでもないことを言い出し……。言い出しただけではない。その後の行動も父上や僕からしたら「ジョセフは何をやっているんだ!?」と大混乱する状態。
しかも剣術の訓練では大した怪我もしたことがないはずなのに、ここ数日で体のあちこちが傷つく事態になり……。
これは屋敷に戻ったら、強く注意しなければならないな。
そんな風に考えていると、アルトの村から戻って来たジョセフは僕にこんなことを告げた。
「兄上」
「なんなんだ、ジョセフ! これ以上、面倒は起こさないでくれ!」
「うん。本当にすまなかったです」
「!」
「俺、騎士になります」
「え」
「騎士になって、騎士団に入って、ちゃんと給金をもらい、生活できるよう頑張ります」
「な……、ジョセフ……!」
「それと俺、調べたんですよ。爵位持ちで当主で騎士団所属……これはかなりレアなんですね。領地経営をしながら、騎士団の騎士になるのは難しい。つまり両立は無理。でも名誉騎士団に所属することは領主でも可能です。名誉騎士団では日々訓練があるわけでも、任務があるわけでもないですからね。『ただのお飾り!』と言われたらそれまでです。でも兄上の夢は騎士の称号を得て、騎士団に所属することなのでしょう?」
ジョセフの指摘に僕は「そ、それは……」と口ごもる。
「いつか兄上も結婚して、子どもができて、その子に家督を継がせたら……。名誉騎士団の騎士として、夢を叶えればいいじゃないですか。みんな名誉職として所属しているのでしょうが、聖杯の探索をしてはいけないというルールはない。兄上が率先して動いたら、賛同する人もいるかもしれないのでは? 夢は……諦めたらそこでお終いです。叶えるか、叶えないかは本人次第じゃないですか」
その通りだった。夢を諦めるかどうか。それを決めるのも自分自身。
僕は……どうしてジョセフみたいな発想に至れなかったのか。
「ということで俺は騎士になって、結婚して、この家からは出て行くんで。あとは兄上、頑張ってください!」
「くっ、ジョセフ、お前……!」
弟なのに。血がつながった家族なのに。ジョセフのことをライバル視して、僕は……冷たい態度をあの決闘の日以来、取り続けていた。でもジョセフは……。
「……仕方ない。リューネルシュタイン子爵家は僕に任せろ。……そして名誉騎士団。お前が騎士になるなら、僕も負けていられない。問い合わせてみよう。……僕に遅れをとるなよ、ジョセフ」
「そうこなくっちゃ! お互いに頑張ろう、兄上!」
白い歯を見せてニッコリ笑うジョセフは……幼い頃と何も変わっていない。変な殻にこもり、弟と距離をとっていたのは……僕だけだった。
「……ジョセフ」
「何だい、兄上?」
「幸せになれよ」
「ありがとう、兄上!」
三年ぶりに弟と心から笑い合うことができた。
お読みいただき、ありがとうございます!
兄弟の間の長い確執も遂に雪解けを迎えました~
次は読者様からリクエストのあったアヤカ視点の物語です!
物語の余韻のため、後書きはありませぬ~
さらにおススメのBGMはコブクロの『桜』ですっ!
明日、夕方~夜公開予定なので、ブックマーク登録でお待ちくださいませ☆彡




















