レオン視点(3)
このままコールとジルベールが決闘をしたら、結果なんて火を見るよりも明らかだった。なんとか救えないかと思っていたところで、弟のジョセフが代理人になると言い出したのだ。
「……ジョセフ、お前、本当にあのジルベールに勝つ自信があるのか……?」
「ある。あるからこうやって兄上に申し出ているんだ。これでも俺、七歳からこの年齢まで、みっちり訓練を受けている。勝てるよ、奴に」
「向こうの方が二歳上なんだぞ」
「関係ないよ。……他に、いないのだろう、代わりに戦ってくれる代理人」
「……くっ、それは……」
迷っている暇などなかった。何せ決闘は明日なのだから。
「分かった。ジョセフ。お前に頼むしかなさそうだ。コールには僕から連絡をしておく」
「大丈夫ですよ、兄上、そんな深刻な表情をしなくても。ちゃんと俺、勝つから!」
その時の僕はまだ半信半疑だった。でもコールに連絡すると……。コールはわざわざ屋敷までやって来てくれた。そしてこう言うのだ。
「本当に!? レオンの弟のジョセフくんが協力してくれるの!? それは……願ったり叶ったりだよ!」
「でも……本当にジョセフで勝てると保証はできないぞ」
「いや、ジョセフくんなら勝てると思う。……というかレオンはまさか知らないのか?」
「え……」
「ジョセフくんは剣術大会に三度出場して、騎士ではない一般部門で、三年連続で優勝している。新聞にも出ていたよ」
「そうなのか……?」
新聞は毎朝目を通しているのに、なぜ知らないのか。それに食事の席でもジョセフが剣術大会で優勝したなんて話、聞いたことがなかった。そもそも剣術大会に出場していたことさえ、僕は認識していない。
そんなこと、あるのだろうか……? 本当にジョセフは剣術大会に出場し、一般部門で優勝しているのか。
そこで僕は執事長を呼び出し、この件について尋ねると……。
「実はジョセフ坊ちゃまから頼まれ、新聞の該当するページは外してお持ちするようにしていました。食事の席でも話題にしないで欲しいと当主様に頼んでいたのです」
「……なぜそんなことを……?」
「ジョセフ坊ちゃまなりの気遣いかと」
「気遣い……?」
「レオン坊ちゃまが騎士になりたいと思っていたこと。騎士団に入団したいと考えていたことは……ジョセフ坊ちゃまも気づいていたのではないかと」
そんな風に気遣われるのは……心外だった。
「余計なことを」
「そうおっしゃらないでください、レオン坊ちゃま」
執事長はそう言って僕を宥めようとするが、そうされるとますます自分が惨めに感じられてしまう。
僕は子爵家の次期当主なのだ。そんな騎士なんて……。騎士団なんて、どうってことないのに。変に気を遣って……。
これまでジョセフに対して羨ましいという気持ちはあった。だが今回の一件で苛立ちが募っている。
だが僕の苛立ちなんてどうでもいい。今、集中すべきは明日だ。
明日は決闘の日なのだから!
◇
決闘は認められているが、未成年同士の決闘は本来、禁じられている。行う場合はこっそりやるべきだった。それに武器は木剣、観客は少なめでひっそり行うべき……なのだが、ジルベールのせいでこの決闘が行われると広く知られてしまい、場所も場所である。貴族から平民まで大勢が詰めかける事態になっていた。
しかも――。
「俺はヴェンダール侯爵令息が勝つ方に3000ゴールド賭ける」
「わしはリューネルシュタイン子爵令息に5000ゴールド!」
平民は禁止されている賭け事を始める始末。
飲み物や食べ物を売り歩く輩まで登場し、もはや見世物の様相を呈している。
禁じられている未成年の決闘なのに王都警備隊が駆けつけることもないのは、ジルベールが父親に手を回してもらったからに違いない。
さらに驚いたことがある。この場に詰めかけている貴族の中に令嬢が多いことに気づいてしまったのだ。
ジルベールの奴、そんなに人気があったのか!?
だが先日の舞踏会ではデビュタントの令嬢たちに囲まれ、ジルベールは鼻の下を伸ばしていた。どんなに性格が悪くても、侯爵家の嫡男であることは……大きなアドバンテージになるのだろう。
それにしても、と思うのは、ワイアット男爵令嬢がこの場にいるのは分かる。自分のためにコールが決闘を申し出てくれたのだから。勝利を願い、白のドレスを着て、この決闘を見守ろうとする心意気が感じられる。
だがフォーン子爵令嬢やエーゼルシュタイン伯爵令嬢まで観覧していることには、ビックリしてしまう。
エーゼルシュタイン伯爵令嬢は、やはりジルベールと婚約を希望しているのだろうか。
まさに貴婦人のようなアイボリーのドレス姿のエーゼルシュタイン伯爵令嬢の横顔を見て、僕はため息をつくが――。
ゴーン、ゴーンと鐘が鳴り、決闘開始の十時を迎える。
「私は今回の決闘の立会人に選ばれた、王立騎士団の副団長のローゼンバイムです。それでは決闘の当事者であるヴェンダール侯爵家のジルベール、そしてノートリオル男爵令息の代理人であるリューネルシュタイン子爵家のジョセフ、こちらへどうぞ」
僕の憧れる王立騎士団の隊服を着たローゼンバイム卿の言葉と共に、二人が広場の左右に姿を見せる。
白シャツに革製の胴鎧と籠手、そして黒のズボンには脛当てをつけたジルベールとジョセフが広場の中央に登場すると……。
「きゃあ!」と歓声が起きる。
ジルベールは満更でもない顔で、ジョセフは表情を変えることがない。
「よお、ジョセフ。こんな形でお前と対戦できること、嬉しく思うぞ」
「こちらこそ、騎士団長のご子息と木剣であれ、勝負させていただけるのは光栄です」
「ふん。剣術大会で俺は五年連続騎士部門で優勝している。そしてジョセフ、お前は三年連続一般部門で優勝。俺は騎士だが、お前は騎士ではない。お前が騎士にならない限り、戦うことはできないと思ったが……。代理人がジョセフ、お前でなければ受けなかったぞ」
「それはそれは。恐悦至極でございます、ヴェンダール侯爵家のジルベール卿」
ジョセフは大仰なまでに恭しく挨拶を行う。その様子を見た僕は驚きを隠せない。
ジルベールはジョセフだから代理人として認めたのか!? もしもジョセフではなかったら、断っていた……。
まさかジョセフがジルベールから一目置かれていたなんて!
ジルベールは僕のことを鼻で笑っていた。だがジョセフのことは……。
それもこれもジョセフの剣の腕が立つからだ。
またも僕の中で苛立ちが芽生えた時、「では、両者構えて」と声がかかった。
広場がシンと静まり返る。
「始め!」とローゼンバイム卿が合図を出す。
「はーっ!」
ジルベールはその体格の良さを生かした大剣を両手に持ち、勢いよく踏み込む。対するジョセフは長剣を手に素早く大剣を避け、攻撃を行う。だがジルベールは余裕でジョセフの剣を受け流す。しかし受け流されたジョセフはそこで終わらず、すぐに次の攻撃に移る。
なんだ、ジョセフのあの素早い動きは!
長身だがジルベールと違い、引き締まった体躯で贅肉がない。その分、筋肉がついているだろうが、ジルベールに比べると身軽。その身軽さを生かし、連続で攻撃と防御を行うので、息つく間もない攻防戦が繰り広げられている。
ジョセフの奴、いつの間にこんなに上達していたんだ……!
しかも脚のステップが軽やかで、まるで優雅にダンスをしているようにさえ見える。だが実際は腕を激しく動かし、突き、斬る、打つを繰り返し、ジルベールに迫っていた。
「なんだかコバエみたいな動きだな!」
ジルベールはそう言うと、さらに勢いをつけ大剣を思いっきりジョセフに振り下ろす。通常の大剣は重量があり、受け流されるとすぐには動けない。だが木剣は大剣より軽かった。そしてジルベールは真剣の重さに慣れている。だからこそ軽い木剣の大剣で、想像よりも速く動き、重い一撃を連続で打ち下ろした。
こうなるとジョセフは防御一辺倒になり、後退を余儀なくされてしまう。しかも――。
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ジョセフとジルベール、勝敗の行方は明日お昼頃の更新で明らかに!
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