薬草とスライム
プルプルびちゃびちゃスライム。
治癒師のスーズはとあるダンジョンに来ていた。精霊の住処。そこには貴重な薬草が生えている。戦士リーガーが供として付いてきていた。戦士リーガーはスーズの元パーティーである。この時期はパーティーを作らず、配達員をしていたが、スーズの頼みとあって一緒にダンジョンに潜っていた。
「頭上に気を付けろ。この辺のスライムは厄介だからな。」
「わかりました。」
頭上を見る。確かに粘液のようなものがいくつも天井に張り付いていた。避けながら進んでいく。ここ、精霊の住処は最奥に精霊が住んでおり、その道中は様々なスライムたちの楽園でもあった。正面を見る。目の端に固形のスライムが見えた。
「でも、どうしてそんな貴重な薬草が必要になったんだ?」
リーガは理由をほとんど聞かずに、今回の依頼を引き受けてくれていた。
「えっとね、重い呪いにかかった子がいて、呪いは解けたのはいいんだけど症状が重かったせいで、普通の薬草じゃ体力が回復しきらなくて、それがあって貴重な薬草だったら回復してあげられるかもだから必要なんです。」
「大変だな。治癒師も。」
「そうですね。でも、リーガーみたいな人が手伝ってくれるから。」
「俺もお人よしかもな。」
「そうですね。」
進んでいくと、目の前に天井のスライムに取り付かれた人が表れた。
「まずい。スライムに取り付かれている。」
「火炎瓶投げます。」
パリンと音を立てて割れ、火がスライムを焼く。スライムは突然の火に縮み上がり、そして逃げていく。
「大丈夫か?」
リーガーが声をかける。
「なんてことをしてくれたんだ!」
突然の大声に驚く。
「スコラさん!?」
意外な人の登場に驚く。
「もう少し耐えられるところだったのに・・・。」
ぶつぶつと文句をつぶやく。
「どうしてこんなところに?」
「ああ、スーズ君か。君もなぜこんな辺ぴな場所に?」
「薬草を取りに来たんです。」
「僕はスライムの調査に来たんだよ。今は耐久がどれだけの頻度で削られるかのテストをしていた。」
「危険すぎますよ!」
「この身で確かめたかったのだから仕方あるまい。」
「スーズ、この変人の知り合いか?」
「この人は魔物調査の第一人者のスコラさんです。スコラさん、この人はリーガーです。私の元パーティーなんです。」
「そうか、それはどうも。」
「こちらこそどうも。我々が来なかったらどうやって抜け出すつもりで?」
「氷の小瓶を持っていたからそれで抜け出すつもりだった。」
「なるほど。ところでスライムの話を聞いていかないか?」
「え?」
「ぜひ。」
困惑するリーガーを差し置いて話し始める。
「スライム。基本不定形の半液状のモンスター。ダンジョンに住むオーソドックスなモンスターの一体。天井などに張り付き、捕食できるものが表れるのを待っている。一度捕食すると体内の酸で溶かしつつ、窒息ダメージを与えてくる。いろいろな属性のものがおり、与えてくるダメージも属性による。氷や雷属性のスライムもいる。溶岩でできたものも。攻撃の基本は頭などにへばりつくことだから、それさえ避けてしまえば簡単に倒せる。とはいえ、酸持ちな上に不定形なため剣などの物理攻撃は効かない。魔法で対処するのが一般的。魔法がない場合は属性瓶を使うといい。戦士だけのパーティーの場合はそう言った対処がよく見られるな。酸攻撃を持つため、武器や防具に酸耐性は必須。でなければ強化値を減らされてしまう。体力耐久は並。ただし、物理無効。攻撃力は、属性タイプかで魔力との振り分けが違う。ドロップ品は色ごとの粘液、未消化の武具。それから半固体のスライムもいる。こちらは酸を持たず、体当たりで攻撃してくる。耐久が高いのが特徴で攻撃を弾かれやすい。柔らかいタイプもいる。低レベルダンジョンにいるのがそのタイプだな。柔らかい上に弱いので初心者の最初の相手にもふさわしいな。高耐久の方にはやはり魔法が有効だ。ドロップ品は銅貨。両方の種類のスライムに言えることだが、知性は持たない。魔術は使わない。また、ダンジョンクリーナーでもある。最近になると人型のスライムもいる。こちらは知性を持ち、場合によっては魔法も使う。巷ではスライム娘と呼ばれ、愛好家がいる。冒険者のパーティーにペットとしてインすることもある。ちなみにさっきの酸と窒息ダメージの頻度だがほぼ同じくらいに来る。体当たりの方は打撲ができるくらいの力はあったな。」
「試したんですか?」
「ああ。」
「終わったか?」
「さて、最奥に行こうか。私も薬草には興味がある。」
最奥。妖精たちが住まうところ。
妖精が飛び交っている。
「きれいな光ですね。」
「妖精は光を発するからな。力の大きさによって光り方が違うらしい。」
「そうなんですね。あ、薬草です。」
黄色い薬草。淡く光っている。中央に生えていた。薬草の上の方を切る。そうすることで次も生えてくるのだ。
「ミッションコンプリートだな。」
「戻りましょう。」
戻っている途中、気になったことを聞いてみる。
「どうしてスライムを選んだんですか?」
「それはだな。」
突如頭上にスライムが降って来る。スーズは全身を飲み込まれる。
「デカいなこいつ!」
「ほお、興味深い。」
「そんなこと言ってる場合か!」
スーズの口に何かを流し込まれる。
「んぐ。」
「火炎瓶投げてんのに全然効かねえ。」
「仕方あるまい。フレイム!」
スライムは粘る。
「こうも頑固とはな。」
スコラ先生が持っていた氷の小瓶を投げる。スライムが霜状態になる。
「ライトニング。」
電撃を浴びせる。霜状態と相まって、電気の通りがよくなる。
「むぐー。」
スライムがやっと逃げていった。スーズが口から何かの塊を吐く。
「げぇ。」
「卵か。やはりこの時期がスライムの産卵期。」
「なんすかそれ?スーズ大丈夫か?」
リーガーに支えられながら産み付けられた卵を吐く。喉の奥まで植え付けられたらしく気持ち悪い。一部は飲みこんでしまった。
「とりあえず教会に連れて行こう。」
「スライムが腹を食い破るかもしれん。」
二人に支えられながら、何とか教会にたどり着く。
「きぼち悪いです。」
「もう少しだ。スーズ頑張れ!」
「出産まであとちょっとだ。」
「別に出産ではないだろ。」
教会。先輩が驚いた顔をする。
「どうしたの?」
「見てやってくれ。体内にスライムの卵を植え付けられたんだ。」
上司がやって来る。
「ここに寝かせて。」
来客用のソファに寝かせられる。上司が浄化魔法をかける。
「ピューリファイ。」
気持ち悪さがなくなっていく。
「私は・・・。」
「寄生状態になっていたよ。今浄化したからいなくなったはずさ。」
スコラ先生はなんだか不服そうだ。
「命の誕生を目にしたかった・・・。」
「何を言いますか!危ないところだったんすよ。」
「ありがとうございます。スコラさんにリーガー。」
「この時期になると、産卵を理由に人を襲うこともあるんだな。メモメモ。」
「お役に立てたようでよかったです。」
「薬草は?」
「取ってきました。」
黄色い薬草を見せる。
「すぐに治療に行こう。」
上司は出て行ってしまった。
「スライムも産卵するのですね。」
「そのようだ。あまり確認されたケースはないのだよ。スライムの誕生は謎に包まれている。だが今回、その一端がわかった。産卵管を口の中に入れて産み付けるのだな。他の動物に対してもやっているのかもしれん。人間相手などさすがに希少だろうからな。」
「スライムは酸に強いから胃酸とか平気そうですもんね。」
「のんきだな二人とも。」
リーガーが言う。
「命の危機だったんだぞ。」
「心配をかけてしまいましたね。」
「ああ。」
「ごめんなさい。」
「次からは気を付けろよ。」
教会で二人を見送る。先輩が近寄って来る。
「もう大丈夫なの?」
「はい。」
「んじゃあこれ、手伝って。」
書類の山がどさりと置かれる。
「これは?」
「カルテ。病気のチェックをしてるの。統計を出して冒険者ギルドに提出するのよ。注意喚起用ね。」
「なるほど。」
書類とにらめっこする。先輩がコーヒーを入れてくれた。砂糖をたっぷり入れる。
「あんたよくそんな甘いの飲むね。」
「だって苦いんですもん。」
「それを楽しむんじゃない。」
先輩がブラックを飲む。
「私にはわかりません。」
コーヒーを飲む。甘い。書類作業は夜までかかりそうだ。
「今日は残業かー。」
「いいからやりな。」
今日の教会の窓は夜遅くまで明るかったそうな。




