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寝苦しい夜のインキュバス及びサキュバス

寝苦しい夜には夢魔がやって来る。治癒師のスーズは腹の大きくなった少女を診ていた。

「夢に現れたんです。素敵な男性が。私を好きだと言っていました。」

そういい、大事そうに腹をさする少女。

「インキュバスの仕業だろう。」

魔物調査員の第一人者スコラ先生は言った。

「インキュバス。夢魔とされダンジョンから出てきては、夜な夜な女性の精を集めている。黒い翼に角、スペード型の尻尾を持ち、その人にとって美しい姿で現れるとされる。女性を知らぬ間に孕ませることもしばしば。普段はダンジョンに住んでいるが満月の夜、悪魔の力が高まる時、外に飛び出し女性を襲いに来る。夢の中に現れ、甘美な夢を見せる。その間に精を奪っていく。酷い時だと殺される者もいる。精を奪うことで力をつける。歴戦のインキュバスは手ごわい。ヒーラーの浄化魔法が有効だが強い者になると受け付けない。魔力が高く、様々な魔法を使う。魅了や麻痺が得意だ。夢の中で魅了をかけ、インキュバスに夢中になっている間に事に及ぶ。その性質はずる賢い。厄介な相手だ。」

「浄化魔法をかけてみてもいいですか?」

「ダメ!私と彼の子なのよ。何かあったらどうするの!」

「でも・・・。」

「とにかくこの子が安全に生まれてきてくれるかを見てくれればいいの!」

透視魔法を使う。

「フルオロスコピー。」

うん、逆子でもないし順調に育っています。

「よかった。」

少女は嬉しそうに帰っていった。

「困ったものです。」

スーズはつぶやく。

「なぜだ?」

「夢魔のいたずらが増えているんです。妊娠まで行った子はさっきの子ぐらいですが・・・いたずらされる夢を見た子はかなり多いのです。」

「それは困るのか?」

「やはり皆さん心配されます。取り殺されるんじゃないかって。」

「まれな例だろうに。」

「それでも不安なものです。各家庭に加護の呪文を張るのに大忙しです。」

「セイントバリアーか。完全に防げるのか?」

「今のところは防げているようです。」

「ダンジョンに行ってみるか?」

「え?」

「夢魔のいる近くのダンジョンと言えば、闇子のゆりかごか。」

闇子のゆりかご。レベルが高めのダンジョンだ。夢魔のほかにインプなどの小型悪魔がいる。

「二人では足りませんね。」

「誰か雇うか。」

冒険者ギルドに行く。受付に言って、依頼を張り出してもらう。

急募 闇子のゆりかごで夢魔調査

「来てくれるといいのですが。」

「待つしか無かろう。」

待っている間、スコラ先生と冒険に行く準備をする。

「ポーションは持った。杖に防具は一番いいやつ。」

着替えて冒険者ギルドに戻る。依頼にチェックがついていた。受けてくれた人がいるらしい。受付に持っていく。

「猫好き集まれが受けています。」

「ふざけたパーティー名だな。」

「腕は確かですよ。闇子のゆりかごくらいなら大丈夫でしょう。」

「受付さんがそういうなら。」

「皆さん、依頼者さんが来ましたよ。」

猫好き集まれを呼びに行く受付。

「俺がリーダーの猫魔法使いだ。」

「猫魔法使い?」

「俺オリジナルの流派でな。」

少し不安がよぎるが、闇子のゆりかごに出発した。

「どうして受けていただけたんでしょうか?」

道すがら聞く。

「ちょうどインキュバスのドロップ品が欲しかったんだ。」

「インキュバス。ドロップ品は魅了の薬に、インキュバスの尻尾だな。」

「インキュバスの尻尾を使って、新薬を発明したいんだ。」

「なるほど。」

入口だ。闇子のゆりかごに着いた。

「戦士頼んだ。」

猫好き集まれの戦士が松明を持って、中へと入っていく。後に続く。中には他のモンスターの方が多かった。夢魔たちは見当たらない。

「出払っている?」

「そのようだな。む、あれはサキュバス。」

スコラ先生の指さす先を見る。確かにサキュバスがいた。インキュバスの女版。

「捕えて話が聞きたいな。」

「可能なんですか?」

「意思の疎通ができるからな。頼んだ諸君ら。」

「わかりました。」

猫好き集まれのハンターが弓をつがえる。サキュバスにヒット。気づいたサキュバスがこちらに飛んでくる。プリーストが浄化呪文を唱える。サキュバスに大ダメージ。怯んだ隙に戦士が縄を投げる。縛り上げられたサキュバスにスコラ先生が近づいていく。

「聞きたいことがあるんだが?」

「なによ。」

「最近君たちが活発なのはどうしてだい?」

「女神さまが降りる時が近いからよ。精を献上するの。」

「女神?」

「スーズ君、聞かせてやろう。サキュバス。インキュバスの女版。男性から精を奪う。黒い翼に角、スペード型の尻尾はインキュバスと共通するな。サキュバスたちには女神がいる。ヘカーテ。魔術と冥府の女神だ。一部の魔術師たちの間でも信奉される。月の女神、狂気をつかさどる女神でもあるからな。夢魔たちに信仰されるのも納得だ。確かある特別な晩に集めた精を報告する会があったな。話に聞いたことがある。」

「そうよ。一番多く精を集めた者には女神さまから祝福があるのよ。」

「そのせいでしたか。」

「もうすぐその夜が来る。夢魔たちはダンジョンに戻って来るわ。」

「あまり心配はいらないようだな。」

「もう少し手加減してもらえるといいのですが。」

「無理ね。皆必死だもの。」

「もうよさそうか?」

「はい。」

戦士が縄を解く。サキュバスはあっという間に去っていった。猫好き集まれと地上に戻る。

「インキュバスの尻尾は手に入らなかったな。」

「申し訳ありません。わざわざ手伝ってもらったのに。」

「いいんだ。謝ることはない。またそのうち集めに行くさ。」

猫好き集まれとパーティーを解散する。教会に戻りながらスコラ先生と話をする。

「夢魔たちは強いんですか?」

「魔術的な強さはある。魔術師としては上位の者もいるからな。半面力は弱い。物理攻撃は好まない。奇襲が好きだ。ずる賢いところだな。バックアタックはパーティーを崩す。夢魔にパーティーを崩されて壊滅というのもよく聞く話だ。」

教会にたどり着くと一人の人がいた。

「どうかされましたか?」

声をかける。

「いや、教会の司祭殿に会いに来た。」

その人は見た目にはあまりいい容姿をしているとは言えない。

「むむ。」

スコラ先生が唸る。

「どうかしましたか?」

「いや、もしや大魔術師のアーサー様では?」

「いやはやばれてしまったか。」

「やはり。なにかあったのですか?」

「何、最近夢魔どもが暴れていると聞いて、少し様子を見に来たまでよ。ヘカーテが降りる時が近いから夢魔たちが暴れているのだと思うがね。」

「おお、サキュバスに聞いた通りです。ヘカーテに精を捧げるそうです。」

「やはりそうだろう。」

司祭様が表れる。

「大魔術師殿、お待たせしました。おお、スーズ。失礼はなかったか?」

「大丈夫だよ司祭殿。それより話なんだが・・・。」

二人は教会の中へと行ってしまった。

「スーズ君。」

「はい。」

「金の稲穂亭で少し話さないか?」

「構いませんけど。」

酒場。金の稲穂亭。今日も人であふれている。二人でポリッジを頼んだ。

「大魔術師先生には噂があるのだよ。」

「噂ですか?」

「カンビオン。聞いたことあるかね?」

「わかりません。」

「サキュバスとインキュバスの間に生まれる子だよ。今日来ていた少女の腹にあるのもカンビオンと言っていい。人の子より重く、長くは生きられないとされる。長く生きた者には特別な魔力が授かるともいわれるんだ。」

「それがあのアーサー様?」

「そう聞く。」

「不思議なものですね。」

ポリッジを口に入れながら言う。

「本当かどうかは置いておいても大魔術師先生はすごいお方だ。勇者を選定する目を持つといわれている。」

勇者。しばらく表れてないとは聞く。

「悪しき邪竜を魔法の言葉一つで打倒したとも。」

「すごい方なのですね。」

「ああ、魔術界では知らない者はいない。」

大魔術師の醜い顔を思い出す。人は見かけによらないものだ。スーズは思った。食事を済ませ、金の稲穂亭の前でスコラ先生と別れる。教会に向かう。大魔術師は去った後で、上司に呼び止められる。

「スーズ。」

「はい。」

「夢魔に襲われた人のお宅に行くよ。」

「はい。」

しばらく忙しさは続きそうだ。スーズは思った。


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