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役立たず鑑定士を追放した配信サークル、崩壊する 〜レアドロップ逆転の俺と黒髪の最強少女〜  作者: モコナッツ


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逆転

 ミスリルコアに指先が触れた、その瞬間だった。


 ——ぴたり、と周囲の音が消えた。


 水滴の音も凛の気配も、すべてが遠のいていく。代わりに耳鳴りにも似た微かな振動が頭の奥で響いた。


(……なんだ?)


 視界の奥が歪む。触れているはずのコアの感触が、急に“遠いもの”のように感じられた。まるで、自分の認識だけがどこか別の層に滑り込んだかのような違和感。


 次の瞬間。


 どこからともなく、声が“落ちてきた”。


 ——必要な経験を満たした為、スキル『鑑定』が進化しました。

 ——スキル『逆転鑑定』を習得しました。


 視界が戻る。


 もう声は一音とも聞こえない。洞窟の水滴が滴る音で、遅れて現実が戻ってくる。

 だが…何かが“変わった”感覚だけが、確かに残っていた。


「は?」


 思わず周囲を見渡す。周りには俺と凛しかいない。


「どうしたんですか?」


 凛が怪訝な顔で問いかける。さっきの声は凛には聞こえなかったらしい。


「いや、今何か声が聞こえなかったか?」


「声?」

 凛が訝しがる。


「スキルがどうとかこうとか、鑑定が進化してなんやかんやとか」


 自分で話してても思う。どうかしてる、と。


 だが、凛はしばらく俺の説明を聞いていた。

 その内、額に手を当てて首を傾げた。


「私には何も……いや、待ってください…」


「そんな…いや、まさか……」


 考え込んだままだ。


 しばらく沈黙が続いた。

 俺はその間、一言も口を挟まなかった。


「神谷さん。それってもしかしたら…『スキルの声』なんじゃないですか?」


「スキルの声?」

 間抜けな声だった。


「スキルの声……って呼ばれてる現象があります」


「大したことないと思われてたスキルが、ある日急に英雄クラスまで跳ね上がる、みたいな……前例は一応あるそうです」


「眉唾だな。本人の努力じゃないのか」


 聞いたことのない話だ。

 凛は首を振った。


「勿論、鍛錬でも伸ばせますが、共通しているのは先程神谷さんの言った声です。共通するのは、皆、口を揃えて『声が聞こえた』と——」


「疑うわけじゃないが、随分と突飛な話だな」


「私も実際に見たことがないので、真実は分かりません。ただ、そう考えると今の声の話と、先程の異常なドロップの説明がつくとは思いませんか?」


 俺は顎に手をやった。


 あのドロップは運が良いとか悪いとかのレベルを遥かに超えている。実際にそういった事があるなら、今それが自分に起こったと思う方が自然な気もする。


 だが、今日追放されて、凛に出会って、レアモンスターに絡まれて、その上でスキルの覚醒?


「コミックだな」


 思わず苦笑した。


 だが、凛の目は真っ直ぐだった。

 何も冗談で、こんなおとぎ噺をしたのではないだろう。


「…悪い、よくなかった」


 凛を信じない理由は、どこにもなかった。


「まあ、もう少し試してみるか」


「ところで…」


「さっきので荷物が全部無くなったんだが、よかったら、それ貰ってもいいか?」


 俺は凛が手に持っているミスリルナイフと腕輪を指差した。


 —————————————


 そこから二人で、ダンジョンの奥へ進んだ。


 このダンジョンは探索者にはよく知られていて、攻略手順も出現モンスターも、ほとんど解析が進んでいる。


 凛と相談した結果、今日は中層ボスの手前までで切り上げることにした。


 回復薬や霊薬も、手持ちは凛の分が少しあるだけだ。あと二、三匹倒したら引き返して、カフェで今後の打ち合わせをする予定だった。


 その筈だったが、こんな時に限ってモンスターが出て来ない。


「どうですか?神谷さん」


 ——鑑定。


 反応はない。


 先行しているひなの達が、狩り尽くしてしまったのかもしれない。

 下手すると、このままボスまで全く出会わない可能性もあり得る。


 そう思った時だった。


 鑑定で見ている視界の先で、ピコっとモンスターが表示される。


 《デスハムスター》


 物騒な名前だが、どう見てもただのハムスターだ。

 丸い耳。ふさふさの毛並み。短い手足。


 ジャンガリアンよりも一回り大きい、ゴールデンサイズのハムスターだ。

 クリクリの目。短い尻尾。緩んだ口元。


 凛はすかさず短剣を抜く。


「待て!」


 俺は思わず叫んだ。凛とハムスターの間に立つ。


「ダメだ!」


「何がダメなんですか…」


 …完全に呆れられたな。

 だが、ここで引く訳にはいかない。


「だってほら…まだ何にもしてないだろ。デスハムスターっていう種類のハムスターかも知れない」


「は?」


 俺は短剣を構えたままの凛を説得した。


 こんなモンスターを見たのは初めてだ。


 いや、本当に違うのかもしれない。

 ハムスターがダンジョンに迷い込んだ可能性だってある。

 いや、むしろそうに違いない。


「…はぁ。神谷さん」


「さっさとどいて下さい」


 凛の眼光が光った。

 ハムスターに向けられたものではなかった。

 冷や汗が背中を伝う。


 俺は振り向いて、ハムスターに逃げるよう、仕草で伝えた。



「ほら、あっちいけ。逃げ——」


「ジジッ!」


 瞬間、ハムスターが飛びかかって来た。


 俺の目を狙っている。すんでの所でかわしたが、代わりにハムスターの鋭い歯が頬にザックリ食い込んだ。


「え?」


 一瞬、何が起こったのか、分からなかった。


「ギャッ!」


 ミチミチッ、っと肉が裂けて、自分の頬から剥がれる感触がした。

 理解が遅れてやってきて、吹き出した血で我に返る。


「ぎゃあああああっ!」


 身体をくの字に折り曲げて、のたうち回る。

 油断した。やはり見た目はハムスターでも、モンスターだった。


 最早取り繕う余裕など、1ミリも無かった。


「神谷さん!」


 凛の短剣が閃き、着地する前のハムスターを掬い上げるように掠めた。その瞬間、ハムスターは真っ二つに両断され、グチャ、という後味の悪い音が耳に落ちた。


「ぐうううぅ…」


 思わず傷口を抑える。当然だが、血は止まらなかった。両手はべったりと赤く染まり、眩暈がした。


「神谷さん…ハムスター、好きなんですね…」


 憐れみか蔑みか、或いはどちらとも取れる声色だった。顔を確認したかったが、痛みのせいで余裕がない。


「傷を見せてください、治療します」


 凛が屈んで俺の顔を掴み、ぐいっと自分の正面で固定した。首からゴキッ、という嫌な音がしたが、頬の痛みで気にならなかったのが救いだった。


「骨はやられてないみたいです。それならこれで治せます」


 凛はポーチからハイポーションを取り出すと、俺に飲むように勧めた。


「すみません…。ありがとうございます…」


 一息に飲み干すと、血管の内側から傷口が修復していく。

 まだ表面がジンジンとするものの、先程までの骨に響くような痛みはかなり引いていった。


「ちょっと、消毒するので動かないでください」


 凛は起きあがろうとした俺を押し付けて、両手でくい、と横に向ける。

 慣れた手つきで消毒薬とガーゼを取り出した。ガーゼを傷口の大きさに切り、消毒薬を染み込ませて貼り付けた。


「ちょ、痛い痛い!」


「痕が残らないようにするためです。我慢してください」


 ものの数分で、治療は終わった。

 今までどれくらいの修羅場を潜ってきたのか。

 動きに迷いがない。


 覚悟はさっきしたつもりだったが、甘かった。

 やはりダンジョンは侮れない。


「神谷さん」


「…何だ?」


「反省してください」


 冷たい声だった。


「はい…」


「本当に、すみませんでした…」


 俺は正座したまま俯いた。

 ハムスターの餌にされる所だった。

 これ以上想像するのはグロいから、やめた。


 ひなのが見ていたら、明日から俺のあだ名は「ハムスター未満」だっただろう。


「全く…気をつけてくださいよ」


 軽くため息をついて、ポン、と俺の肩を叩いた。

 どうやら、これで手打ちらしい。


「助かった、ありがとう」


 コロッ


 その時、微かにドロップが落ちる音がした。


 ハムスターでも、落とし所は弁えているらしい。


 …やっぱり見た目は、可愛かったな。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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