結成
「パーティ?」
突然の誘いに俺は目を丸くした。
「誘ってくれるのは嬉しいけど、何で俺なんか」
この実力ならどう考えても俺はお荷物だろう。
…ドロップ要因の荷物持ち、という意味なら分からなくもないが。
「実は私と神谷さん、相性が良いかもしれません」
「相性?」
声が上擦った。意味深な言い方だ。
…まさか、これが吊り橋効果というやつなのだろうか。
「スキルの話です」
……だろうな。
顔に出ていたのか、凛はわずかに眉をひそめた。
「《戦禍の加護》というスキルを知っていますか?」
首を横に振る。聞いたことがない。少なくとも、一般的なスキルではないはずだ。
「私の固有スキルです。戦闘系のスキルで主には身体能力が上がります。筋力と瞬発力が普通のスキルと比べても、かなり伸びます」
先程の戦闘を思い出す。確かに鍛錬という言葉では片付けられない動きだった。スライムの核を叩き割った筋力も納得だ。
だが、凛の言葉はそこで一度止まった。
ほんのわずかに視線を落とす。
「ただ……デメリットがあって」
数巡の間。
ダンジョンの鍾乳洞から、水の滴り落ちる音が聞こえた。
「これはあまり人に言わないで欲しいんですが…モンスターのドロップ率が半分になります」
「半分?」
思わず聞き返した。ドロップが上がるならまだしも、下がるのは聞いたことがなかった。強力すぎるスキルの代償、といったところか。
凛は小さく頷いた。
そして、自嘲気味に続ける。
「戦闘は出来ます。でも探索としては効率が悪いので、パーティを組むのを嫌がられることが多いです。スキルの事を話した時に、先程の…追放、みたいな事も何度かありました」
それで一人か。
それにしても酷い奴らだ。ドロップなんかの為に平気で仲間を裏切るとは。…特にあの女。
「…なので、今はギルドの依頼と配信をメインでやってます。カツカツですが、なんとかやれてます」
「ただ、これから先、大きなダンジョンに潜ろうとすると、資金も入り用になるので…。やっぱりドロップの収入も欲しいと思ってた所なんです」
「なるほどな」
もう、その先は分かっていた。
凛が顔を上げる。
「俺のスキルが上乗せされれば、君のスキルのデメリットは打ち消せる可能性がある」
俺が言うと、凛の目がわずかに見開かれた。
ほんの一瞬だけ、期待が顔に出る。
「…そう思ったんです」
小さく、頷く。
そして、少し息を整えた。
「だから勝手なのは承知で、私と一緒に…いや、パーティを組んでくれませんか?」
そう言って凛が手を差し出した。
…少しだけ、手が震えている。
通路に静寂が落ちる。水滴が落ちる音だけが、やけに大きく聞こえた。
俺は震えを見ないように、少しだけ目を逸らした。
…正直。
ここを抜けて帰れたら、大学を辞めつるもりだった。
このまま戻っても、ひなのに目をつけられている俺とパーティを組む奴はいないだろう。
大学自体、鑑定スキルありきの推薦だ。だが、俺には向いてなかった。探索者は嫌いじゃないが、俺の力じゃソロでやるのは無理だ。
奨学金も無くなるし、適当に働いて一人生きていく。
まぁ、それでいいと思っていた。
…この手が差し出されるまでは。
「ありがとう」
差し出された手を見る。依然として震えている。
きっと凛は勇気を出して誘ってくれた。
買い被りだとしても、こんな俺を。
一瞬、想像した。目の前の女と一緒に探索に出て、ダンジョンで沢山のレアアイテムを見つける自分を。二人で困難を乗り越えて一緒に笑い合う。…悪くない。
「…誘ってくれて、ありがとう」
「でも、俺はさっき元いたパーティをクビになったばかりだ。気持ちの切り替えも出来てないし、君の事も何も知らない」
「悪いな」
「……」
今までの言動を見れば分かる。変わった奴だが、悪い奴じゃない。一緒に冒険するのは、悪くない。
だが、今回はたまたまレアなドロップが出たが、こんな事はもうないだろう。ここでもし凛の手をとっても、遠くないうちに俺のスキルが役に立たないと気づく。
そしたらまたお互い、面倒な事になる。惰性で付き合うより、その内、彼女にはもっと似合いの仲間が出来るはずだ。
凛はしばらく手を引っ込めなかった。
だが、ようやく、手を下ろして頭を掻いた。
「…ですよね」
「舞い上がっちゃって、すみません」
凛は取り繕ったような笑いを浮かべた。誰がどう見ても、強がりだった。
「気にしてない。…代わりといっちゃなんだが、ドロップは貰ってくれ。エスコートもいい」
「…さっき」
「一緒に戦ってて、思ったんです。今度こそ…やっと、ちゃんとした仲間に出会えたかもしれないって」
「一人は…最近、ちょっと疲れちゃって」
凛はしゃがみ込み、床に落ちたドロップをじっくりと覗き込んだ。
どこかでまた、水滴が落ちた。
「でも…振られちゃいましたね」
屈んで表情は見えない。
少しだけ、肩が震えていた。
…俺と同じか。
誰かに選ばれなかった者同士。
だけど、凛はまだ諦めてない。まだ足掻いてる。
……嫌いじゃない。
「凛」
凛は顔を上げた。少しだけ、目が赤かった。
「最初に言っておくが、俺は雑魚だ」
「君なら多分、そのうちいい仲間が見つかる。だから、それまでの繋ぎでいい」
いつの間にか、俺も少し声が掠れていた。
「まあ、やれるだけのことはする。それでいいなら」
「この手を取ってくれるか」
自分の右手を見て、それから凛に向けて差し出した。今なら凛が震えた理由が分かる。
誰かに自分を委ねるのは、いつだって不安だ。
本気の時は、尚更。
「俺でよければ一緒にパーティを組んでくれ。」
凛の返事を待つ。
…1秒、2秒。
返事がない。まぁ一回断ったしな。ダメか。
恐る恐る、顔をあげた。
凛が目を丸くしたまま固まっていた。
これは、いいのか、悪いのか。
だが、その内みるみる顔が赤くなった。
「…はい」
消え入りそうな声だった。
真っ赤なまま、握手の代わりに差し出した手の人差し指を、右手でちょこんと握った。
思いの外、力強い。
「痛っ!ちょっ、力強っ」
慌てて人差し指を振り解く。コイツ、やっぱり変わってるな。
でも、まぁ…OKって事で良いよな。
「じゃあまぁ…今後ともよろしくな」
「何ですか、それ」
凛も笑っていた。さっきとは違い、遠慮のない笑顔だった。まだ不安な気持ちはあるが、今はこの笑顔を見れただけで良しとするか。
「でも神谷さん」
凛が続ける。そしてさっきより少し真面目な顔になった。その瞳は静かに熱を帯びている。
「あんな誘い方したんですから、ちゃんと責任は取ってもらいますからね」
どんな誘い方だよ。普通だろ。
「すぐには無理かもしれないけど、凛の隣に立てるよう、精一杯頑張るよ。」
凛がまた目を丸くした。顔を赤くして、ごにょごにょと何か呟く。
そして、俺を見返してこう言った。
「…絶対ですよ」
何故かその言葉は、念を押されたような、異様な圧があった。
少しだけ寒気がしたが、ドロップを拾う素振りで誤魔化した。
「じゃあ、もうちょっと探検するか」
だが、その時。
ミスリルコアに触れた瞬間。視界が弾けた。
——必要な経験を満たした為、スキル『鑑定』が進化しました。スキル『逆転鑑定』を習得しました。
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