救助
「シャアアアッ!」
リザードが吠えた。
次の瞬間、小刻みに揺れながら、勢いよく突進してくる。見た目よりも断然早い。
刹那に、鑑定で思考を上げる。
「うおっ!」
これでやっと、かわすのが精一杯だ。
ダンッ! という鋭い踏み込みの音と共に、凛が突進の隙をついてリザードに飛びかかった。
着地と同時に短剣を振り下ろす。
だが短剣は空を斬った。
リザードは減速せずにそのまま壁を駆け上ったのだ。直線的な動きだが、ああも立体的に動かれるとやりづらい。
「神谷さん!」
凛が叫ぶと同時に、リザードの姿が消えて、代わりに一筋の影が走った。
次の瞬間、トカゲの顎が目の前にあった。
——来いっ!
噛みつきを屈んで躱す瞬間、赤く光る心臓のコア目掛けてナイフを突き出す。
ガァンッ、と鈍い音が響いた。
狙いは良かった。だが、思った以上に硬い。
衝撃が腕にきて、危うくナイフを落としそうになった。
こういう奴らって普通、腹は柔らかいんじゃないのかよ。こうなってくると、普通にやっても埒があかない。
地面に着いた手を軸にして向き直る。リザードもすぐに体勢を立て直した。どうやら徹底して俺から狩る気らしい。トカゲのくせに人を値踏みするとはいい根性だ。
トッ
凛がすかさず横につき、フォローに入った。俺狙いを察したらしい。
「神谷さん、コレ」
ポーチから、風付与札ふうふよふだを差し出した。……確かに、アイテムを出し惜しんでる状況じゃないな。
リザードの方も、予想以上に俺が粘るからか様子を見ている。
だが、その余裕が命取りだ。
札の糊を剥がし、柄に貼る。ナイフに加護が施され、ミスリルの刃に風の魔力が通った。
「二十万の力を食らえ」
ヒュン! と俺がナイフを振ると軌道上にかまいたちが走り、それがリザードの鼻先に傷をつけた。
「ギッ!」
浅い。だが、これで刃が通るようになった。
「ギシャアアアアッ!」
キレたリザードが、三度、襲いかかった。ジグザグに頭を揺らして前進するが、数メートル手前で、ピタ、と止まる。
止まるのか。
そう思った瞬間、その刹那。
牙を剥いて飛びかかった。
——今度はフェイントかよ!
すんでのところで身を捻って、上に跳ぶ。
今なら鱗は関係ない——落ちろ!
飛びかかってきた勢いを利用して、真上から真空を纏ったナイフを頭に突き立てた。
ズ…
一瞬、刃が頭蓋骨に食い込み、骨を割った感覚が手に残った。嫌な感じだ。
頭を割られたリザードは、勢いのまま、首の付け根まで大きく裂けた。
床に転がった後、すぐに体勢を立て直してリザードに向き直る。
——これでも浅いか?
頭が赤く裂けた状態で、リザードはまだやる気だった。
目は半分飛び出し、口から涎を撒き散らしながら息も絶え絶えに威嚇する。体は痙攣し、地面には血溜まりが出来ていた。モンスターとはいえ、やはり生き物を相手にするのは気持ちのいいもんじゃない。
すぐ、楽にしてやるからな。
そう思って踏み出した瞬間、凛が脇から滑り込んだ。最後の抵抗を許さぬよう、コアに短剣を突き立てる。
それで本当に終わりだった。
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メタルリザードが消え、ドロップが落ちるのを待つ。これでようやく、一息つける。
「札が無かったら、ヤバかったな」
ポーションを飲みながら、壁や天井を見渡した。
さっきのリザードが、警戒のレベルを一段引き上げていた。
このレベルが三層にはザラにいると思うとゾッとする。一匹なら何とかなるにしても、複数で来られたら流石に怪我じゃ済まなそうだ。
「神谷さんのスキルなら、もっとばんばんアイテムを使っても良さそうですね。このペースなら、お金に困ることも無さそうです」
短剣の血を布で拭きながら、凛が言った。
「確かに。下駄は履き放題ってわけか。それにしても、アイテム使いか……。《叡王》の三沢さんみたいで、ちょっと格好いいな」
魔法巻物や札を駆使して、格上の相手をバッタバッタとなぎ倒す。そんな自分を想像する。
「三沢さんのファンなんですか?」
「一応、ウチの先輩だからな」
コロン
ようやくドロップが落ちた。今回も期待通り複数ドロップだ。だが、これは――
【魔導伝達核】 市場価格 百万円
【金属適応因子(スキル結晶)】
「魔導伝達核はいつも通りの当たり枠として……スキル結晶? ……ドロップ情報には載ってないな」
手のひらサイズの水晶玉に、銀色の魔素の光が渦巻いている。ほのかな熱と、異様な力を感じた。
【金属適応因子(スキル結晶)】
効果:
・土属性耐性(小)
・状態異常耐性(小)
「……凄いな、コレ。スキルが二つ付いてる。どうやって使うんだ?」
「強い変異個体が、たまに落とすって聞いたことあります」
「今の奴、普通より強かったってこと? だよな。あんなのがウジャウジャいたら、たまったもんじゃない」
想像して、一人でぶるっとした。
「使っていいですよ。使い方は、手で割るだけです」
「いつも悪いな」
「先輩ですからね」
凛が笑った。
……不意打ちでそういうのはやめろよな。俺は顔を背けた。
「じゃ、遠慮なく」
パリン
ナイフの柄で叩き割る。瞬間、自分の周りにふわりと魔力が流れ、身体に吸い込まれていった。身体強化と違って、自覚できる変化はない。
「こんなんでいいのか? 全然実感ないな」
「大丈夫です。食らったら分かりますよ」
凛が見透かしたように、悪戯っぽく笑った。
「縁起でもないこと言うなよ」
つられて俺も笑う。こんな時間が続けばいいと、そう思った。
その時だった。
ジャリ……。
奥からまた、音が聞こえた。
すぐさま音のした方に向き直って、武器を構える。
ジャリ……ジャリ……。
だが、次の瞬間には武器を下ろしていた。
ダンジョンでは次から次に意外なことが起こる。いちいち驚いていたら身がもたない。
それでも、俺は思わず目を見開いた。
「助けて……助けて下さい……」
灯りの先には、たった一人、傷だらけの女がいた。
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