深層域
二人組と別れた後、俺たちは切り立った岩壁に沿って進んでいた。マップによればこの方法が三層までの最短ルートだった。
既に依頼のドロップは手に入ったが、時間はまだ十分にある。後はゴーレムを狩って報酬の上乗せをしながら、適当な所で帰ればいい。
控えめに言ってもここまではかなり順調だった。だが、それがかえって先程の事を際立たせた。
「なあ凛。さっきの奴らは何だったんだろうな」
「さあ? 探索者のトラブルなんて幾らでもありますからね」
凛も何かしらの気配は感じたらしい。
ただ、だからといって首を突っ込むのも野暮だ。第一、人の心配をしてる場合じゃない。ダンジョンは三層からが本番、なんて言葉もあるくらいだ。
だからこの胃もたれはきっと、連日の疲れのせいだろう。
「……あいつらちゃんと帰れるかな?」
「神谷さん」
凛がため息をついた。
「心配しすぎです」
「折角カッコつけて置いてきたんだから、切り替えましょうよ」
「はあ? 別に格好付けてないし。心配もしてないけど」
「はいはい」
そんな調子で軽口を叩き合って、俺たちは三層に向かった。道中はストーンゴーレム等、何度か接敵したが全く苦にならず、気が付けば指輪とコアもそれぞれ四つになっていた。
そして俺たちは三層に着いた。
「ここまでは順調だな」
「この辺からモンスターも強くなってくるので、気を引き締めていきましょう」
俺は頷くと先に進んだ。
三層も二層と同じく整った岩壁だった。だが、先程の静謐な雰囲気は無くなり、代わりに黒曜石のような結晶が、岩肌から根を張るように、所々露出している。
何となく、禍々しい。
「ちょっと魔素が濃くなってきたな」
歩みを進めるごとに空気が重くなる。危険度が一段階増したことを否が応でも感じた。
「そうですか?階層的にはこの辺が折り返しなんで、そうかもですね」
凛は全く気にしていないようだった。俺は警戒を続けたまま、端末に目を落とす。
「ピックも持ってくるべきだったか?あの結晶売れるんだとさ。ミスリルナイフならいけるかな?」
「やっても良いですよ。神谷さんには向いてないと思いますけどね」
ギギギギッ…
その時、通路の奥で生物とも、機械ともつかない鳴き声が聞こえた。同時に、目の端で鑑定が捉える。
「じゃあ、こっちで稼ぐとするか」
手だけで合図をして、ナイフを抜く。
凛も短剣を構えた。
少しずつ対象がこちらに向かってくる中、息を潜めて通路の物陰に潜む。やがて辺りに照らされて輪郭がハッキリした。
「ギギ…」
全長は一メートル以上。燻んだ銀色の表皮は一目でストーンゴーレムより堅牢だと分かった。鋭く発達した爪と牙は、こいつが肉食である事を強く裏づけた。
「ギシャアアアアッ!」
威嚇と共に鎧のような表皮が少し膨張して継ぎ目から肉が顕になる。顎下の胸のコアが微かに赤く発光した。
《鑑定結果:メタルリザード》
「こっちに気づいてますね」
「トカゲってか、ワニだろ」
隠れる必要が無くなった。物陰から出て臨戦体制に入る。
その瞬間、メタルリザードが俺を目掛けて襲いかかって来た。
「面白かった!」
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