離別感
ゴーレムを倒した後、俺は耳を澄まして辺りを見回していた。油断した途端にガン! なんてのは避けたい。
周囲に敵の気配がない事を確認してから、俺は眼前の男をゆっくりと見上げた。油断してガン! は、他の探索者に対しても例外じゃない。ダンジョンの中では良くある話だ。
自分の命を相手の良心に委ねるのは、趣味じゃない。大事なものはいつも、ポケットに入れておくのが俺の主義だ。
「怪我はないか?」
距離を保ったまま、話しかけた。
「そう警戒するなよ。……助かったぜ」
男は少し不敵そうに笑いながら、武器を俺の足元に投げ捨てた。やけに芝居がかった態度だった。
男はタッパが大きく、顔も整っていた。少しだけ坂城を彷彿とさせたが、あいつほど純朴そうでも、真面目そうでもない。まあ、どこにでもいる探索者だ。
剣を見ると、ところどころ刃こぼれしており、ボロボロだった。
なんだこれ? 石どころじゃない、何か余程固いものとやり合ったのか。これじゃあさっきのゴーレムに手こずるのは仕方ない。
男が腰を下ろした。座る瞬間の膝が笑っていて、強がってはいるが実際はかなり際どかったみたいだ。
「見かけによらず、やるな」
男が言った。感謝とプライドを天秤に掛けた言い方だった。こいつも一言多いタイプらしい。
俺はナイフを突き付けたまま言った。
「運が悪いな。ゴーレムのドロップは俺達が貰ってくぜ。……まあ、代わりにポーションをやるよ。たくさん運動して喉が渇いただろ?」
男は一瞬、目を細めて俺を見た。だがすぐに笑った。
「ドロップは持ってけ。変な奴だな、アンタ」
「よく言われる」
俺はナイフを下ろしてベルトに差した。
「恒一!」
声の方に視線を向けると、女が目の前の男に向かって駆け寄ってきた。なんだ、良い仲間がいるじゃないか。
一瞬でも、そう思った自分がバカだった。女は止まらず、いきなり男の胸の中に飛び込んだ。
右の薬指にはお揃いの指輪が嵌めてあった。
そういうことか。
俺は助けた事をほんの少しだけ後悔すると同時に、無意識に自分の左手をポケットにしまっていた。少しケチがついた気分だ。
「彩乃……無事で良かった……!」
まあ、良かったじゃないか。……邪魔みたいだし、ドロップでも見に行くか。
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振り返って、先程のゴーレムが崩れた場所を見る。ドロップは二つ。
【ストーンゴーレムコア】
【石精の指輪】
防御力+5
……また指輪か。
しかも、クレイゴーレムのやつより性能がいい。ポケットから手を出して、人差し指に嵌めた指輪を眺める。指輪の効果は重複しないので、二つ付ける意味はない。
『私も欲しいです』
ふと、さっきの凛の言葉が頭をチラついた。
……まあ、これは初勝利の記念だからな。思い出補正だ。別にこのままでもいいか。
「神谷さん」
急に後ろから凛に声を掛けられて、俺は思わず跳ね上がった。ゴーレムのコアを拾って立ち上がる。
「凛。丁度良かった。コアドロップしたぞ」
「私もドロップしましたよ。それも二個。これで依頼達成ですね」
凛が笑顔で両手に持った二つのコアを胸の前で差し出した。だが、俺が気になったのはゴーレムのコアより何より、凛の指に嵌った指輪だった。さっき俺があげたのとは違う。
「その指輪って……」
「ああ、コレさっき一緒に落ちたんですよ。こっちの方が性能良かったんで」
そういうと、凛が指輪を見せびらかすようにピースサインを作った。普通に嬉しそうだ。
「そっか……よかったな」
俺はつられて笑ったが、何となく肩の力が抜けた気がした。まあ……そんなもんだよな。
凛が離れた後、俺は地面に落ちたもう一つのドロップを拾って、自分の指輪と付け替えた。
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アイテムを拾って戻ってくると、どうやら二人共少し落ち着いたようだった。俺が離れる際に置いてあったポーションを何本か飲んで、傷を癒していた。
男は20代半ば、女は俺と同じか少し上ってとこか。
「じゃあ、お互いに一息つけたところで、自己紹介といこうぜ」
探索者証を見せる。身分証を見せるのはこの業界のマナーだ。
「俺は神谷透だ。こっちは凛。ただの通りすがりだ」
二人は一瞬、顔を見合わせた。何かを確認するような仕草だったが、こちらを警戒しているのかもしれない。せっかく助けてやったのに、それはないんじゃないか。
しばらく何も言わず待っていると、やがて男の方が口を開いた。
「……俺は相沢 恒一だ。こっちは早見 彩乃。パーティを組んでいる。ランクはC」
男も探索者証を見せた。俺よりかなり先輩か。まあ、敬う気はこれっぽっちもないが。
だが、その続きがなかった。
「え? それで終わりなのか? なんかこう、もっとあるだろ。例えば、なんでそうなったかとか」
俺が言うと彩乃の目が泳いだ。数度の瞬き。それで何となくピンときた。こいつら訳ありか。
「まあ、言いたくないなら無理に言う必要もないか。だけど、無口な奴らの面倒を見るほどこっちも暇じゃないんでね」
俺は二人の名前をメモに書いて、ポケットにしまった。指を立てて、一つずつ折り曲げる。
「あんたらの事はギルドに報告する」
「そして、ここに置いていく」
「次に会っても助けない」
「……それでもいいか?」
「良いんじゃないですか」
俺の言葉に被せるように凛が言った。今のは凛に言ったんじゃなくて、この二人に言ったんだが……まあ、いいか。
「……まあじゃあ、気をつけて帰れよ」
それ以上、言うこともなかった。
俺たちは二人を置いて、先へ向かった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
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