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役立たず鑑定士を追放した配信サークル、崩壊する 〜レアドロップ逆転の俺と黒髪の最強少女〜  作者: モコナッツ


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17/22

単独戦

 一歩踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 外の冷たい風とは違う。湿っていて、少し重い。息を吸うたびにはっきり分かる。


 中は思ったより広かった。人が作った採掘場だけあって、通路の幅も高さもそれなりにある。

 壁面は削られた跡が当時のまま残っていて、やけに生々しさを感じた。


「足元に気をつけろよ」


 地面のそこかしこに、崩れた木箱や、朽ちた支柱の残骸が転がっている。


 踏み込むたびにジャリ、と乾いた音が響く。その音が妙に反響して、思ったより遠くまで届いている気がした。


「不思議な感じだな」


 思わず、呟いていた。


 廃坑にしては妙に整いすぎている。

 崩れている割に通路は塞がれていない。障害物もそれなりにあるが、大きなものは不思議と脇道に積まれている。

 そこに、道なりに青白いダンジョンの苔がぼんやりと光を放って、こちらを奥に手招きしているようだ。


 不思議な光景だった。


「原型が残ってる分、そう感じるのかな」


 俺は周囲を見回す。


 凛が頷いた。


「完全な人工物と違って、元採掘場ですからね。ダンジョン化しても構造は大きく変わってないみたいです」


 つま先で転がっていた石を蹴ると、石はトロッコのレールにぶつかって、静かに反響した。


 何にせよ、この広さは俺たちには都合がいい。今日は狭い通路で挟まれる心配はしなくてよさそうだ。


 そう思っていると、少し先に気配がした。先程の音の主か、何かがいる。早速、俺の仕事がきたようだ。


 ——《鑑定》


「…なるほど」

 今回の相手は、こういう感じか。


「凛、ちょっと待て」


「どうしました?」


 俺は通路の奥を指さした。


「ゴーレムだ」


 俺の声に応じるように、影から、ズズ……と人型の土塊がゆっくりと動いた。


 身長は一メートル半ほど。全身が土と泥で出来ている。崩れかけているのか、濡れた泥が床に滴っていて、あまり気持ちのいい見た目じゃない。


「クレイゴーレムですね」


 凛が言った。


「ちょうどいい相手です」


 確かに、ウォーミングアップには丁度良い。

 俺は頷いて、一歩下がる。

 バトンタッチだ。


「じゃあ私はここで見てるので、神谷さん倒してください」


 耳を疑った。


「……は?」


「ちょっと待て、俺がやるの?」


 だが、クレイゴーレムはすでにこちらに気付いていた。


 のそのそと腕を振り上げながら、こちらに向かってくる。


「わっ! ちょっとタンマ!」


 次の瞬間、振り上げた手の先に、体の泥がネトネトと纏わりついて、ダマになった。

 クレイゴーレムはそれを、勢いよく俺に投げつける。


「うおっ!」


 反射的に体を横へ流した。


 泥の弾は肩の横をかすめ、そのまま後ろの岩壁に叩きつけられて弾けた。


 見たところそこまで威力はなさそうだが、かといって当たりたいかと聞かれれば、答えはノーだ。


 避けた事に気を悪くしたのかゴーレムが腕を振り回しながら、次々と泥の塊を投げてくる。


 必死で投げるその様子は、さながら駄々っ子のようで滑稽だったが、それを楽しむ余裕はなかった。


「だから」

 2発目。しゃがむ。


「やめろって」

 3発目。右に半歩。


 クレイゴーレムの体勢が左へ流れる。


 4発目。

 首を少しだけ傾ける。


 避けるたびに、泥の弾が足元や背後で弾けていく。


「神谷さーん」


 背後から凛の声がした。耳だけ傾ける。


「避けてばっかりじゃ勝てませんよー」


 呑気な声だ。寝てるんじゃないのか。


 あまりの気の抜けた声に視線を向けると、凛は横たわったトロッコに膝を抱えて腰掛けていた。

 どうやら本当に俺一人にやらせる気らしい。


「それっ、ファイトっ♪ ファイトっ♪」


 …完全にギャラリーだ。


 こっちは今日、割と覚悟してきたのに。

 段々、腹が立ってきた。


「ふざけないで助けろよ!」


「神谷さん!」


 死角からまた、泥が飛んでくる。


 ……五月蝿い。今、大事な話をしてるんだ。邪魔するな。


 飛んできた泥を、ナイフの腹で受けた。泥で服を汚さないように、刀身を後ろ逸らして、飛び散らないように床に払った。


 それを見た凛が、目を細めた。そして——


 ——行け。


 小さく、そう言われた気がした。声は聞こえなかったが、口の動きで分かった。



 カチッ、と頭の中でスイッチが入った。



 頭の中に初めての選択肢が生まれて、攻めに意識が転じる。驚くほどに視界はクリアだ。


 反射的に、ゴーレムに踏み込んだ。


 ゴーレムは俺の突然の攻勢を見て驚いたのか、身を切る攻撃に疲れたのか、静止して見える。


 ようやくノロノロと突き出したパンチを見て、ニヤリとした。


 おめでたいやつだ。当たると思ってるのか。


 すれ違いざまに、腕の脆そうな所を三回切りつけてやった。


 身を翻すと同時に、ボトッという音と共に土塊の腕が地面に落ちた。


 落ちた腕を見下ろし、感触を確かめるように、土の腕とナイフを交互に見る。

 なんだこれ…。今、イメージ通りに体が動いた。控えめにいって、滅茶苦茶面白い。


 既にコアの位置は分かっていが、終わらせるのは勿体無い。

 今の感覚をもう一度確かめてから、ついでに力の差を分からせてやる。


 俺は挑発するように、ズイ、と距離を詰めて顎を突き出した。

 ほら。ここに当てればまだお前にもチャンスがあるぞ。


 土くれが、今度は左を突き出した。今度は避けない。必要がない。

 当たるすんでの所で、一番脆い部分をナイフの柄で叩きつけた。左腕も砕けて、地面に転がった。


「ハハっ」


 両腕を失って、今場を支配しているのが誰か、ようやく分かったらしい。ゴーレムがじりじりと後退りを始めた。

 

 悪いな。泥遊びはもう十分楽しんだ。もう土に還んな。


 及び腰で重心が下がった瞬間を狙って、コアごと首を刎ねた。


 振り切った方向に、土くれが力なく倒れた。


 そして最初からそこに何もなかったように、泥と土だけがそこに残った。



 ……静寂。洞窟の奥から風が吹き、遠くの方でからりと石ころが崩れる音がした。

 床に落ちた泥を見て、戦闘が終わった事を確認する。


「倒した……のか?」


 右手を見る。ミスリルの刃は相変わらず淡い輝きを放っているが、刀身には、少しだけ泥が付いていた。

 間違いなく今、俺が戦った事の証だ。


「おぉ……」


 静かな情動が湧き上がってくる。戦ってる最中はアドレナリンが吹き出して、動きも、思考も、別人のようだった。


 まさか俺にこんなポテンシャルがあったとは。ブルッ、と身震いした。


 余韻に浸っていると、目の前からパチパチパチ、と音がした。

 凛が腰掛けたままで笑っている。


「初討伐、おめでとうございます」


「凛」


「神谷さんらしい、性格の悪い戦い方でした」


「お前な」


 だが、言葉とは裏腹に嬉しそうだ。きっと凛は、俺一人でもやれると最初から分かっていたのだろう。

 それは良いとして、そうならそうと最初から言ってくれ。


 ……まぁ、ちょっと楽しかったが。


「今の感じでやれば、二層も普通に戦えそうですね」


「買い被りすぎだ」


 そう言いながら、口元が緩む。今なら少しだけ、凛が笑う理由が分かる。これは癖になるな。


「じゃあこの調子で、もう何匹か行ってみましょう」


「スパルタだな」


 俺は苦笑した。


 その時、クレイゴーレムの崩れた泥の中で、小さな光が転がった。


 記念すべき、俺の初めてのドロップだ。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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