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役立たず鑑定士を追放した配信サークル、崩壊する 〜レアドロップ逆転の俺と黒髪の最強少女〜  作者: モコナッツ


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16/22

採掘場

 電車の窓の外に、田んぼが広がっていた。

 都心から一時間半。高い建物はもう見えない。遠くに低い山並みが続いているだけだ。


 のどかな風景だった。


 ガタゴト、という規則的な揺れに体を預け、ぼんやり外を眺めていた。


 気づくと、少しうとうとしていた。

 ……ぐっすり寝たはずなんだが。


 昨日は換金が終わった後、凛と連絡先を交換して、そのまま解散となった。


 流石に色々ありすぎたし、その上、今日もまたこんな田舎まで来ている。


 欠伸をしたまま背中を伸ばした。


 窓を開けられるタイプの古い電車だ。他の乗客の迷惑にならないよう、窓を少しだけ開ける。


 窓の隙間から、田んぼの匂いが流れ込んできた。


 日曜の朝から、田舎行きのローカル線だというのに、なかなかの人入りだった。俺も含めて目的は一つ。この電車の終点、ダンジョンだ。


 連日、自ら危険な場所に赴こうとしている。しかし、身体は疲れているはずなのに足取りはやけに軽かった。

 結局、俺も根っからの探索者か。


 やがて電車が減速し、小さな駅に滑り込んだ。


『採掘場前駅』


「さむっ」


 ホームに降りるなり、冷たい風が吹きつけてきた。大きく上体を逸らし、凝った体をほぐしながら深呼吸をする。

 澄みきった冷たい空気。山の空気だ。


 終点の改札を出る。


「おはようございます」


 振り向くと、凛が立っていた。


「早いな」


 時計を見る。まだ集合時間の三十分前だ。


「楽しみで早く来ちゃいました」


 凛は少し笑った。なんだ、俺と同じか。


「昨日はちゃんと眠れましたか?」


「寝た寝た」


「ならよかったです」

 満足そうに笑った。


 凛も少し眠そうだったが、顔色は悪くない。お互いちゃんと休めたらしい。


「じゃあ、買い出し行きましょう」


 小さく頷いて、俺はバッグを持ち上げた。


 昨日は結局、連絡先を交換した後から寝落ちするまで、ずっと凛とメールしていた。もちろん、今日の探索のことでだ。


 そこで幾つか決めたことの一つが、失ったアイテムの補充である。


 幸い、駅前からダンジョンに向かうまでの道に商店街があり、品揃えには困らなさそうだった。


 商店街をしばらく歩くと、ある店が目に留まった。


 小石が嵌め込まれた模様のようなガラスのドアに、剥げかかったペンキで「武器/道具屋」とだけ記してある。


 海外のレトロ建築を思わせる雰囲気の、落ち着いた店だ。嫌いじゃない。


「門構えがいいな。ここにしよう」


「あー……好きそうですよね、こういう店」


 凛が肩をすくめた。

 どうやら、順調に距離は縮まっているらしい。


「いらっしゃい」


 ドアを潜ると、口髭を蓄えた、恰幅のいい店主が出迎えた。木製のカウンターに、現金以外はお断りと言わんばかりの昔ながらのレジスター。


 それでいて、ショーケースには玄人好みの質実剛健な装備品。最高かよ。


「どうも」

 会釈をしながら封筒を取り出す。


「このリストに書いてあるものが一通り欲しいんですが、ありますか?」


 店主はリストを一瞥した後、奥の棚を指差したが、その後で顎に手をやり、付け加えた。


「……リストの回収袋、本当にこの型番ので良いのかい?」


 お願いします、とだけ言って、奥へ向かった。無駄なことを聞いてこないのも好印象だ。


 店主がショーケースから袋を用意する間に、手早く見繕うことにした。


 棚の前に着くと、凛が確かめるように言った。


「昨日話した通り、お金は全て活動資金に充てます。これは、二人で稼いだお金ですから」


 俺は苦笑した。昨日、散々取り分を押し付けたが、結局俺が折れる形になった。本当に面倒なやつだ。


「了解」


「まずは荷物袋」


「リュック式だな。これ、丈夫で軽くて良いな。十万もするが」


「じゃあそれで」


 凛が即決する。


「次」


 凛がメモを読み上げるたび、俺がカゴに入れる。


「簡易転送石、三個。二十七万円」


「はい」


「ポーション、十本。五万円」


「はいよ」


「ハイポーション、三本。十五万円」


「はいはい」


「魔素霊薬、一本。十万円」


「よしきた」


風付与札(ふうふよふだ)、二枚。二十万円」


「結構するよな」


「風属性中級魔法巻物(スクロール)、二枚。二十四万円」


「え? 高くない? 使い捨てだろ」


「必要です」


 凛はきっぱり言った。


 どんぶり勘定だが、これ百万円超えてないか?


 その上さらに――


「兄さん方。回収袋、用意できたよ」


魔法袋(マジックバッグ)、百九十八万円」


 消えた。三百万以上あった現金が。

 一瞬で溶けた。


「あの、すいません……領収書もください」


 ———————————————


「全部無くなった……」


 ある程度予想していたとはいえ、百万は残ると思ってたのに。


 ……まあ、良い買い物はできた。相棒のチョイスだ。疑いはない。


 ただ、入った時の富豪気分はすっかり消沈してしまった。明日からまた極貧だ。財布にはもう、帰りの電車賃くらいしかない。


「必要経費です。今後のためです。ケチって死ぬよりはマシです」


 凛は平然としていた。昨日の、『換金の取り分は要らないんで、アイテムは任せてください』って、こういうことか。


「正論すぎて夢がないな」


 俺が言うと、凛は呆れたように肩をすくめた。


「夢を見たいなら、生きて帰ってからにしてください」


「はいはい。現実派は強いね」


「だから神谷さんには私がついてるんです」


 きっぱり言われて、少しだけ言葉に詰まった。


「分かってるよ。昨日の今日で必要なアイテムまで考えてくれたんだ。むしろ申し訳ないくらいだ」


 ……にしても魔法袋か。見た目の十倍くらい入るやつだ。これはもう投げられないな。


 魔法袋に、ミスリルのナイフ、身体強化の腕輪。装備だけ見れば一流の探索者だ。馬子にも衣装ってやつだ。


「見えてきましたよ」


 採掘場ダンジョン。


 山道を抜けた先、木々の切れ間にそれは見えた。


 ぽっかりと開いた、採掘場の入口。岩肌は不自然に削られていて、いかにも人の手で掘られた跡がそのまま残っていた。


 生活を豊かにするために掘られ、大勢の人が行き交ったその場所が、今はモンスターの巣だ。


 幸か不幸か、採掘場の鉱物資源が変質して出来たダンジョンの方が、本来の役割よりも遥かに大きな経済効果を生んでいた。


 俺は入り口の壁に手をついて、跡を確かめるように撫でた。


 ギルドパーティとしての初めての依頼。

 俺がとちれば、せっかく上がった凛の評価まで台無しになる。失敗はできない。


「どうかしましたか?」


「いや。今日はどんな活躍をしようか、と考えてただけだ」


「……ちゃんと期待してますよ」


 ――オオオォ


 ふと、ダンジョンから吹く風に乗って、音がした。


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