依頼
「混んでるな」
俺と凛は、依頼受注のコーナーに向かった。
受注のフロアには使い込まれた端末が一定の間隔で並んでいた。時計は既に十八時を回っていたが、皆一様に熱心に画面を見ている。
「まるで自習室だな」
「掲示板に張り出されてるやつもありますよ。そっちから見てみますか?」
「いや、時間もないし端末で絞った方が早そうだ」
適当に空いている所に腰掛け、IDカードを翳すと、端末に俺の名前が浮かび上がる。大学で使ってるパソコンとはフォーマットが違う。
「操作、分かりますか」
「全然分からん」
「代わってください」
端末を凛に戻す。手慣れた手つきでモニターを進めていく。
「依頼はよく受けるのか?」
感心しながら俺が言った。
「採取ならたまに。後は配信ついでのマッピングですね」
「マッピング?」
「未踏破エリアの地形記録です。地味ですがそこそこ需要はあります」
淡々としている。
「変わり種だと、『新人探索者の指導・付き添い』なんて依頼もありますが……まあ、あれは効率が悪いので」
その括りでいくなら俺はまだ手のかからない部類なのかもしれない。
……まぁ実質三年目なんだが。
「少ない納品で、パパッと片付くのがいいな」
そう言いながら、画面に目を落とす。
ギルドの依頼はどんなもんか一つずつ確認したい気持ちもあるが、今回は時間もないので絞り込んだ方が早い。文明の利器ってやつだ。
「ドロップ率1%とか、その辺」
「欲張りですね」
「現実主義リアリストと言ってくれ」
条件を打ち込む。
――討伐、レア。
――エリア、東都中央周辺。
――検索。
画面が更新され、候補がずらりと並んだ。
「……結構ありますね」
思ったより多い。中には希少レアと呼べないようなものまでズラリだ。
まあ俺が言うのもなんだが、何を希少と思うかなんて人それぞれか。
「一個か二個のに絞れるか?明日行くならサクッとやれるのが良いんだが」
「出来ます」
凛が横から操作して、さらに条件を重ねる。
表示されたリストが、一気に三件まで減った。
ビンゴ。画面を覗き込む。
「D 跳鳥の舌 最低納品数 二」
「D ストーンゴーレムのコア 最低納品数 二」
「D 緑牛の角 最低納品数 二」
どれも“少数・高単価”と書いてある。
だが――
「……牛はしばらく見たくないな」
ついさっきまで相手にしていた巨体と、振り下ろされる斧の記憶が蘇る。
あれは効率とか以前に精神衛生に悪い。
「では削除します」
凛が迷いなく牛を弾く。
「鳥の舌か……」
「ちょっと可哀想じゃないか?」
「跳鳥は普通に人を食べますけどね」
「え?そうなの?」
「……はい、削除で」
「……」
結果、残るのは一つ。
ランクD ストーンゴーレムのコア、二個。
「一個二十万円。最低でも四十万円か」
画面に表示された依頼を見つめる。
岩の塊。重量級。
ナイフと短剣で相手取るには、どう考えても分が悪い。
「俺たちの武器と相性悪くないか?」
「問題ありません」
凛は短く言い切った。
「ストーンゴーレムは核が見えるので、そこさえ突けば武器は何でもいいです」
先刻のミスリルスライムのコアを思い出す。確かに、あれより硬いって事はないか。
ミスリルゴーレムなんてやつがいるなら話は別だが。
まあ、凛ならどうにでもなるか。
「ここで補足が見れますよ」
右側の補足情報、の文字をタップした。周辺場所の地図やダンジョンの大まかなマップ、階層毎のモンスターの分布等、細かい情報が映し出される。
「全部見なくても良いですが、神谷さんが参考にするならここですかね」
ドロップ率。今までの探索者が狩った数から統計を出しているらしい。
「23.7%……」
「四分の一と考えて…… 普通なら、だいたい十体は倒さなくちゃいけないから結構大変ですね」
「石の化け物と十回か…。”少数・高単価”か? これ。誇大広告だろ」
「でも…… 神谷さんのスキルなら、三回くらいでいけるんじゃないですか?」
「通常の三倍…… か」
……とんでもないな。仮にこれが世間に知られたら、その内やっかんだ誰かに刺されそうだ。
「マスクでも被るか」
「はい?」
「……何でもない」
まあ知られなければどうという事はない。
「これで行こう」
――ピコン。
電子音がなると、受付完了の画面が表示された。それと同時に端末から感熱紙が発券される。
「エコだな」
俺は感熱紙を千切って指で弾いた。このレシートが依頼書の代わりらしい。
「命を乗せるにはちょうど良いサイズだ」
凛が肩をすくめた。
俺はレシートを小さく折りたたんで、財布にしまった。
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程なくして、査定完了のアナウンスがなった。
先程のカウンターに戻ると、茜嬢が出迎えてくれた。
「お待たせしました!」
「こちらが査定の結果になります。ご確認ください」
茜が査定結果の用紙を差し出した。
・ミスリルコア 状態◎ 買取金額 百三十五万円
・ミノタウロスの戦斧 状態◎ 買取金額 百八十万円
「おぉ……」
……正直なところ、事前に相場は調べていたので二百は超えるだろうと予想していた。
まさか、三百万とは。嬉しい誤算だった。
「今回の査定の評価ですが、状態が非常に良かったです。単一の武器で手早く、的確に倒さないと中々この状態ではドロップしません」
「凛ちゃんと神谷さんの手際がよっぽど良かった、って事かしら」
茜に褒められて、凛が頬を染めた。
まるで姉に褒められている妹のようだ。
あなたは凄腕のハンターですよ、って言われてこのリアクションは側から見てると少し複雑な気分になる。
「このまま換金でよろしいですか?」
「はい」
二人同時に返事をする。
「じゃ、ちょっと待っててね」
「あー、それと今回のドロップだけど。二つとも、単品査定額、Dランクの月間と週間でランクインしてるわよ。別に特典とかはないけど、上に行くなら名前は売っといた方がいいし。凛ちゃん、名前載せてもいい?」
凛の耳がますます赤くなった。
「え? え? えーと。いやその」
「是非、載せてください」
俺は即答した。
「神谷さん」
凛が声を潜めた。
「何?」
「よくないですよ。配信とか、その……スキルの事がバレたらどうするんですか」
「心配しすぎだって」
「もしかして、名前が売れるの嫌なのか?」
「そういう訳じゃないですけど……」
「なら、決まりだな。いいじゃんか。ちょっとは俺の売名にもなりそうだしな」
「でも……」
全く頑固なやつだ。
すかさず、見かねた茜が凛を遮ってフォローを入れた。
パンパンと手を叩く。
「はいはい。後も支えてるんで、そういうのは家でやってくださーい」
「茜さん! ち、違います」
「神谷さんは凛ちゃんを自慢したいのよ。そうでしょ?」
「違います」
俺はそっぽを向いた。
……ただ、さっきの奴らに吠え面をかかせてやりたいだけだ。
「そうなんですか? 神谷さん」
「別に」
「じゃあ、載せとくわね。明日の九時には更新されてるから、確認しておいて。じゃ、換金に行ってきまーす」
ホホホ、と笑いながら茜がカウンターの奥に消えていった。賑やかな人だ。
茜を見送ってから、椅子に戻ろうとすると後ろから凛に呼び止められた。
「神谷さん」
「ありがとうございます」
聞き漏らしそうな、小さな声だった。
背を向けたまま、片手を上げた。
振り返る理由は特になかった。
「面白かった!」
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