換金所
「お待たせしました」
呼び出しに応じてカウンターへ戻ると、受付員が二つのカードケースを差し出した。
「こちらが、神谷様のIDカードと登録者証になります」
ケースを受け取り、開く。
先に目に入ったのは、黒いカードだった。
「こちらがIDカードです。各フロアの端末や、スマホに連携することで、依頼の受注や履歴の確認が可能になります」
便利だな。
「なお、依頼達成履歴や討伐記録、報告した取得素材などはすべてこちらに記録されます」
「了解です」
次に、もう一つのケースを開く。
中に収まっていたのは、少し厚みのあるプレート。
表面にはギルドの紋章と名前、そして――
【E】
「こちらが登録者証になります。探索者としての身分証であり、ランクの証明です」
「ランク……」
「はい。EからSまでの区分があり、依頼の受注範囲やダンジョンの制限などに影響します」
横を見ると、凛の手元には色違いのプレート。
刻まれているのは【D】。
色も質感も俺のより上等そうだ。
「ランク上げると有利になるってことですか?」
「はい。実績に応じて昇格が可能です」
運転免許みたいなもんか。
「因みに、譲渡や売買は固く禁じられております」
「そりゃそうでしょうね」
「どちらも紛失された場合は再発行が可能ですが、IDカードは十万円、Eランクの登録証が二十万円となります」
「ちょっと高すぎません?」
「以上で説明は終了となります。ご不明点はございますか?」
「一つだけ。報告したアイテムは記録に残りますよね? スキルの関係で、あまり知られたくないんですが」
受付員が頷いた。
「記録は残りますが、ギルド内の運用範囲に限られます。外部に開示されることはありませんのでご安心ください」
ありきたりだが、これが落とし所だろう。
そもそも、正直に報告する義理もない。
カードとプレートをポケットにしまった。
「神谷さん、Eですね」
横から凛が言う。
「まあ普通だろ」
「私は今Dランクです」
「先輩面する気か?」
「敬ってください」
即答だったので、思わず笑ってしまった。
「頼りにしてるよ先輩」
「……任せてください」
凛はわずかに胸を張った。
……調子が戻ってきたな。
コホン、と受付嬢が小さく咳払いをする。
慌てて姿勢を正した。
「パーティ登録については、三階で受け付けております。詳細はそちらでご確認ください」
――次は三階、か。
「それでは、いってらっしゃいませ」
__________________________
三階に上がった瞬間、また空気が変わった。
「またスライムかよ」
「いや、ゴーレムはキツイって」
依頼が張り出された掲示板の前で、若い四人組が言い合っている。
いよいよ、らしくなってきた。
「ほら、神谷さんこっちこっち!」
凛の背中を尻目に辺りを見回す。
一階の喧騒とはまた違う、静かな圧。
ピカピカの胸当てを誇らしそうに自慢する青年。
職人のように慣れた手つきで紙束をめくる中年男。
ソファーを贅沢に使って眠りこけているOL風の女。
夢と現実のグラデーションに、微かな熱が混じる。
「神谷さーん! 全く…何してるんですか」
少し先で凛が手を振って、頬を膨らませた。
こうしてみると、年相応って感じだ。
「悪かったから、そう急かすなって」
パーティ登録のカウンターは簡素で、二階よりずっと雑だった。端末は少し黄ばんでいて、長く使い込まれているのが分かる。
「パーティの登録お願いします。私とこの人の二人です」
凛が声をかけると、係員が探索者証を確認してから、端末を操作した。
「では、お互いのIDカードをこちらのリーダーにかざしてください」
ピッ。軽い電子音。
「登録はこれで完了です」
「随分早いな」
「パーティは簡易登録になりますので。ただ、今後の依頼は解除の届出がない限り、パーティ単位での受注となりますのでご注意ください」
「どうも」
一瞬だったな。
「これで、もう組んだことになるんだよな?」
「……」
「凛?」
凛はIDカードに目を落としたまま黙っていた。
さっきと同じ無機質なプレートを、熱を帯びた目で見つめている。
「……改めて、よろしくお願いします」
「こっちこそ」
俺は肩をすくめて、カードを財布のポケットにしまい込んだ。
「……これで一応、用事は済んだけど、どうする? まだ時間あるけど」
「後は換金と…… 神谷さんがよければ、明日の依頼をとりませんか? 初日に取る方が記念になるし良いと思います」
確かにこれからは全部自分で用立てなくちゃいけない。そうなると金が要る。スキルの検証も必要だ。
「難しくないやつなら、まあ」
「決まりですね。じゃ、時間的に先に換金所です」
「じゃあ一階か?」
「あれは一般の窓口で、探索者用のはあそこです」
顎でくい、とやった。
__________________________
「今回は私の買取ですが、次からはパーティ単位の買取になるので神谷さんにも評価が付きますよ」
「そういうもんか」
「今の神谷さんのスキルなら、Cまでならすぐ上がれるんじゃないかと思います」
「スキル頼みかよ」
俺は苦笑した。
直ぐにピンポーン、という音と共に俺たちの番が来た。カウンターの女性は身綺麗だが、先程よりも現場の空気を纏っていた。
「凛ちゃん! いらっしゃい」
どうやら顔見知りらしい。
「茜さん、素材の買取お願いします」
「いつもありがとう。あら? 今日はお連れがいるのね。こんばんは」
「どうも、神谷です」頭を下げた。
「……あなた、真面目そうね。前の奴らより断然良さそうじゃない。 ……あ!今のナシ。一応、あいつらもお客さんだったわ」
茜がケラケラと笑う。
前の奴ら、ね……。
凛は苦笑したが、少しだけ耳が赤かった。
「今日は凄いのがあります」
そう言って凛は、自分のバッグからドロップを取り出した。ミスリルコアと、ミノタウロスの戦斧だ。
茜が目を丸くした。
両隣の職員と探索者の視線も、こちらに集まる。
「ちょっとこれ、どうしたの?」
「神谷さんと二人で、ミスリルスライムとミノタウロスをやっつけました」
凛が得意げに鼻を鳴らした。
殆ど凛がやったようなもんだけどな。
まあ、ここは甘えておくか。
「凛ちゃんは分かるけど、神谷さん…… も凄いのねぇ。状態も良いし、ミスリルは今不足してるからいい金額になると思うわよ。これ」
「後、このクラスの品だと四階の案件だから、ちょっと時間貰うけど大丈夫?」
口ぶりからして、なかなかの値段がつきそうだ。
「じゃあ、お願いします」
「……でもね、凛ちゃん」
茜が整理券を手渡したあと、ふと真面目な顔になる。
「凛ちゃんが凄いのは知ってるけど、あんまり危険な事しちゃダメよ。探索はこれからも出来るけど、人生は一度きり、なんだから。神谷さんも、この子の事ちゃんと見てあげてください」
「はあ」
スライムも牛もだいたい俺のせいで戦う羽目になったんだけどな。
視線を泳がせながら生返事をすると、凛が横目ににやりとした。
また後で、と軽く挨拶を交わしてその場を離れた。
「茜さん、良い人そうだな」
「私のスキルを知ってからか、色々気遣ってもらってます」
「美人だしな」
「神谷さん」
「何でもない」
……色々あったが、後一息だ。
次は依頼か。
軽く肩を回して、端末に向かった。
「面白かった!」
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