ギルド
自動ドアが開いた瞬間、音が押し寄せてきた。
外の喧騒とは違う、臭いのある熱気。
人の声が、四方八方から降り注いでくる。
「整理券お持ちの方はこちらでー!」
「本日の素材買取、ミスリル系は相場上がってます!」
「次の配信、十五分後スタートでーす!」
怒号にも似た、呼び込みと歓声。
巨大なロビーは、まるで競り場のようだった。
天井近くの巨大モニターには、有名パーティの配信が映し出されている。
モニター前にはテーブル付きのソファー。
売り子が席を回ってビールを注いでいる。
その後ろには、鮨詰めの観客達。
SNSでお馴染みのインフルエンサーが、モンスターを仕留めると、どよめきが起きた。
「…まるで現代のコロッセオだな」
「一階は一般開放されてるので、休みはいつもこんな感じです」
騒がしさとは対照的に、その目は静かだった。
モニターから視線を流す。
新品の装備を誇らしげに見せ合う若い探索者。
素材の査定額に食い下がる男。
壁際でぐったりと座り込んでいる、包帯のままの誰か。
「なるほど、夢がある」
「……で、どこ行けばいいんだ?」
凛はエントランス横のエスカレーターを指差した。
“探索者手続き 2F”と、無機質なフォントで書かれている。
「二階はテーマパークじゃないのか?」
凛が苦笑した。
その時、背後で歓声がまた一段大きくなった。
俺は振り返らなかった。
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エスカレーターに足を乗せた瞬間、音が遠のいた。
喧騒が、ゆっくりと下へ沈んでいく。
二階に着く頃には、エレベーターの稼働音だけが耳に残った。
壁が白い。いや、壁だけではない。床も天井も、照明から職員の制服にいたるまで、全てが真っ白だ。
知っていなければ、一階とは別の建物に迷い込んだと思うだろう。
「目がチカチカする」
「すぐに慣れますよ」
正面には長い受付カウンターが並び、その上に番号が振られている。
上部の電光掲示板には、淡々と番号が表示され、無機質な電子音が一定のリズムで鳴っていた。
ピッ。
『A-132番の方、3番窓口へお越しください』
感情のないアナウンスが、均一に広がる。
待合スペースには、一定の距離を保って椅子が並べられていた。
無言で書類を確認している者。
スマホで何かを入力している者。
そして、書類不備で止められているのか、窓口で淡々と説明を受けている男。
「一階と同じ建物とは思えないな」
「むしろ、こっちがメインですけどね」
俺はポケットからスマホを取り出し、軽く操作する。
「ほら、登録申請は事前入力済みだ」
「準備いいですね」
「レディを待たせるわけにはいかないからな」
受付近くの端末にスマホをかざす。
軽い電子音と共に、整理番号が発行された。
『B-087』
小さく表示された番号を見て、椅子に腰を下ろす。凛も隣に座った。
少しだけ、近い。
俺はスマホを取り出した。
「緊張しなくても大丈夫ですよ」
「え?」
「心配しなくても神谷さんなら普通に通ります」
そう言うと、凛は足をぶらぶらさせた。
俺はまたスマホに目を落とした。
ピッ。
『B-087番の方、5番窓口へお越しください』
呼び出し音が鳴る。
「行ってくる」
「私もいきます」
カウンターの向こうにいる受付員は清潔で、きっちりとした制服に身を包んでいる。
業務用の笑顔だった。
「本日は、探索者登録の手続きでお間違いないでしょうか」
柔らかい声だった。
「はい。新規登録です」
受付員は手元の端末を操作しながら、視線をこちらに向ける。
「事前申請の確認が取れております。神谷透様ご本人ですね」
「新規登録ですが、一定の活動実績が必要になります。本日は身分証明証はお持ちでしょうか?」
「はい」学生証を見せる。
「拝見いたします。あら……統央大学ですね。活動歴を確認します……はい、実績は申し分ないですね。」
あいつらとの経験も、役に立つもんだな。
「かなり難易度の高いダンジョンにも挑戦されておりますが、現在、どこかのパーティに所属してますか?」
「シーカーズに登録されてると思います」
「シーカーズですか……」
受付員の目が、ほんのわずかに見開かれた。
わずかに間が空く。
「本登録が承認された場合——」
「大学所属の探索者資格は、自動的に失効します」
声色が、少しだけ俺に向いた。
どうやら、完全に事務的って訳でもないみたいだ。
「それに伴い、大学からの支援——装備貸与、奨学金、医療優先措置等はすべて停止されます」
続けて、補足するように言う。
「また、今後の探索活動は全て自己責任となります。救助・治療費用は原則個人負担となりますので、ご了承ください」
覚悟の上だ。
後戻りするつもりは、最初からない。
だが実際に言葉にされると、一般の探索者と比べていかに自分が守られてきたかを実感した。
ふと、一階の光景がちらついた。
「神谷様」
受付員が確認するように名前を呼ぶ。
「後悔される方も多いですよ。よくお考えください」
「以上を踏まえた上で、ギルド探索者としての登録を希望されますか」
坂城やひなの。実家の両親。他の連中。頭の中をいくつかの顔がよぎった。
ちらりと凛を見る。
視線が一瞬だけ泳いだ。
だが、すぐに真っ直ぐ顔を上げた。
……小さく唾を飲み込む。
「お願いします」
受付員は一つ頷く。
「確認いたしました。それでは、正式登録を進めさせていただきます」
その言葉と同時に、音が少し遠くなった。
坂城や……ひなのともうまくやれてた時もあった。
だが、もう戻れない。
まぁ、何とかなるさ。……多分な。
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