始まり
ダンジョン入口の広場には、人が溢れていた。
話し声、呼び込み、配信の歓声。
それらが混ざり合って、ひとつの熱を帯びた空気になっていた。
入口脇の案内所では、大きなモニターに探索中のパーティ配信が、リアルタイムで映し出されている。
歓声が上がるたび、誰かの命のやり取りが娯楽として消費されていく。
通りを一つ過ぎれば、そこはもう小さな街だった。
簡易診療所、道具屋、香ばしい匂いを漂わせる屋台。油と香辛料の匂いが、血と土の記憶を上書きする。
つい先ほどまでの死闘が、ひどく遠い出来事のように感じられた。
「相変わらず、凄いな」
思わず漏れた声に、隣で凛が小さく笑う。
「ほとんど観光名所ですからね」
言葉は軽いのに、声色は静かだった。
歓声が少し、遠のいた。
歩きながらモニターを見る。
配信といっても、大多数は上層まで。命の危険がある中層以降は、シーカーズや凛レベルじゃないとキツい。
「配信、途中で止めて良かったのか?ソロ配信で途中でいきなり切ったらリスナーは心配するだろ」
「大丈夫ですよ。私のは自分も映しませんし、声も入れません。ほとんどダンジョンのPVみたいなもんです」
それ、配信する意味あるのかよ、と言いたくなったがやめておいた。
人には人の考え方がある。シーカーズでも、それで揉めたようなもんだ。
「私はそんなに配信は見ないですが、シーカーズも名前くらいは知ってましたよ」
「光栄だな」
「…シーカーズと言えば、ちゃんと自己紹介してなかったな」
「改めて、神谷透だ。歳は21。統央大三年。前のパーティでは鑑定、索敵、ルート選定、作戦立案、後荷係と整備を担当してた」
「まあ……雑用係だ。腕っぷしはさっき見た通り。まあ、よろしくな」
一通り言って、肩をすくめた。
「神谷さん、統央だったんですね」
「意外か?まぁ鑑定ありきで入ったようなもんだしな」
「それにしても、裏方ほぼ全部一人でやってたんですか? それで追い出されるのって、相当嫌われてたんじゃないですか?」
「…まあ、私としては良かったですけど」
はっきり言う。こちらもその方が楽でいい。
「じゃあ改めて。黒瀬凛です。18歳で通信制の高校通ってます。趣味はダンジョン探索です。」
小ざっぱりした自己紹介だった。
異様な強さの理由とか、色々聞きたかったが、あまり詮索するのはやめておこう。
言いたくない事は、聞かなくていい。
そうこうするうち、人通りを抜けて、目的地が見えてきた。
入口の上には、
【探索者ギルド 東都中央本部】
と大きな看板が掲げられている。
天を仰ぐようにビルを見上げた。
ギルドといっても、ゲームや物語に出てくるそれとは違い、近代的な摩天楼だ。ガラス張りの窓が西陽を反射して、ソーラーパネルのように輝いている。
探索者らしき人が頻繁に出入りするのが見える。
自動ドアが開くと、さざめきが聞こえた。
外見と違って、内側は活気に溢れているようだ。
「中学の時以来か…」
確か、社会科見学で行った記憶がある。
ただ、その時はこんなに大きなビルじゃなかった気がするが。
ダンジョンが発見されて、二十年以上。
ドロップの存在が、世の中を一変させたらしい。
ダンジョンは国営化され、大きな産業として成り立っている。
シーカーズを抜けた今、これからは俺も頻繁に通う事になるだろう。
奨学金もおじゃんだ。今後はここが俺の生命線。
「ここからが本当のスタートですね」
凛が振り返って、目を細めた。
風になびいた髪が、小さく揺れた。
「だな」
ドアが開く。
新たなパーティの第一歩を踏み出した。




