↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の騎士  作者: 波崎ひかる
第二章
36/39

岩の橋 3



 岩橋の中ほどまで進んだ百手百足の邪神はタークの眼前に迫る。よく見れば枝の合間から捉えた人々の引き伸ばされた顔の皮が何十何百と貼り付けられている!歪み切った人々の瞳はなく暗く闇のような粘質の液体がそこから溢れ出していた!


 タークはエボルスを両手で強く握り込み上段に構える。この邪神の肉の鎧を唐竹(かち)割り神の御前に引き摺(ず)り出して臓物を引き裂くのだ。タークは思い切り地面を踏みしめて黒い疾風の如く肉塊に猛進し魔剣は縦に空間が歪むような大きな軌道を描いて魔を一閃した!


 ぱたたたたん!


 タークは己の腕を過信せず両断する気で剣を見舞ったはずであったが邪神は予想を超えた反応を見せた!忌々しいことにエボルスの剣を白刃取りしたのだ!


 「ヴィエトル(剛風)ッ!!!」


 これには剣の達人であるタークも戦慄した。この魔物には剣は通じないのだ。咄嗟に風の上位魔法で互いの間に爆発的な風圧を生み出し組みつかれる寸前で間合いを取る。


 「だめだめだめだめ…ごぼっ…コココココ!!」


 ただの邪悪な風体の魔獣如きではない。タークを嘲笑(あざわら)いながらその無数の手足を風に揺らすようにぞぞぞと振ると多種多様の中位魔法が炸裂した!いよいよその力を見せて騎士を呪殺しようとしているのだ。濃密な魔法の弾幕が殺到する…


 「貴様はどこか勘違いしている…」


 依然、魔剣を構えたまま魔物を睨みつけていた騎士であったが口角を悪魔のように吊り上げて笑った。エボルスとタークにおそらく全ての中位相当の魔法が命中したかに見えたが実際はそうではなかった。パリエース(障壁)が防いだ訳でもない。この瞬間起きたのはエボルスが超高速回転し、夥(おびただ)しい数の棘でその魔法をひとつづつ絡め取っただけの単純で奇妙な剣技であった。


 おそらく上位魔法を放ち消耗する事態を避けるために中位の魔法を展開したつもりの邪神の目論見はかえって裏目に出たのだ。上位魔法であればタークでさえ即死していた可能性も拭えないがそれを放つ魔力は邪神といえども残されていない。


 この魔法を奪い去る妙技は先日、カランコエ村でルビーが見せたものでスキル描写によってその技を模倣したものではあったがタークの曇りない神技によって対魔法戦に最適化されたのであった。今や悪魔に愛されたエボルスは多属性の魔力を虹のようにし断罪の切先を邪神に向けている。

 

 「命乞いをしてみせろ」


 「た…すけたすけてたすけててて!!」


 「いいだろうその身に囚われた者達を解放する!」


 タークの黒い姿に隠された穢(けが)れなき神性の騎士道が宙に虹の鮮やかな祝福と虹彩の次元の歪みとを発生させる。アルバに伝授した五芒星の剣戟(けんげき)を超えた爆発的な閃光の神技は、もはや掴みとろうと迫る操り人形の手足では掴みきれないほどの速度で肉塊を切り刻む!!!


 ずるずると纏った腐肉のベールが崩れ光速で剥ぎ取られ邪神の醜く朽ちた本性を暴いた。タークには海にいる雲丹(うに)のように見える小さな小さな魔であったがその棘が剣山のように人間の手足を刺し止めていたのだろうとわかった時、思わず吐き気がするほどの邪悪を感じた。もう少しの魔力も感じないがこの邪神は確実に消滅させねばならない。


 「貴様、リトープスは知っているか?」


 「ししってている!たすけけて!!」


 「…どこにいる?」


 「ぶーふぁん!ぶーふぁん!!!たけて!!」


 「それがわかれば貴様に用はない。命乞いをして泣き叫んだ人々を惨たらしく繋ぎ止めた罰をその身で味わえ邪神」


 「だめだめだめだだだだだだ!!!!」


 ぱしゃっ


 突き入れられたエボルスの無数の棘から発生する溶解液を流し込まれ邪神は弾けて絶命した。エボルスは黒く撒き散らした穢れた体液を吸い尽くしたあと満足そうに振動をやめたがタークは自身の魔剣が意志をもっているような動きを見せたことに不愉快な気分になった。


 「あんた!騎士じゃったのか!しかもその魔剣は…」


 「それ以上は口にしてはいけないですよご老人」


 王国に属さないものにとってはタークも邪神に違いないのだ。呪われた魔剣の名を口にされて老人に苛立ちたくもなかったのでそこで口止めをしておき、ガリカへの歩みを再開する前に囚われた人間の残骸を埋葬するため老人と共に肉を拾い集める。驚いたような表情を崩さない老人は幾度か質問しようとタークに向き直ったがやがて諦めたように埋葬を再開した。


 タークの心中は複雑であった。思いもせずリトープスへの足掛かりができたことは素直に受け取れば安堵してよいのだが、あのような邪神を目の当たりにした今となっては人という種族の繁栄がいよいよ終わってしまったのかという絶望感が暗雲を立ち込めて心を包んでいるように思えるのだ。


 ガリカについたあとデルにもルビーにも話さなくてはならないだろう。アルウェンシスに残してきた公爵家の居所も明らかにせねばならない。タークは腰を軋ませるように亡骸を抱え上げて積み上げると火を放ち祈った。


 (人をお守りください慈悲の神達よ…)


 舞い上がった火の粉は遥か遠くまで飛びやがて消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。